矛盾
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矛盾(むじゅん,矛楯, contradiction)とは、あることを一方では肯定し、同時に他方では否定するなど論理の辻褄(つじつま)が合わないこと。物事の筋道や道理が合わないこと。自家撞着(じかどうちゃく)。
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[編集] 語源
『韓非子』の一篇「難」に基づく故事成語。「どんな盾も突き抜く矛」と「どんな矛も防ぐ盾」を売っていた楚の男が、客に「その矛でその盾を突いたらどうなる」と問われ答えられなかったという話から。もし矛が盾をつき通すならば、「どんな矛も防ぐ盾」は誤り。もしつき通せなければ「どんな盾も突きとおす矛」は誤り。よってどちらを肯定してもおかしな事になってしまい、男の嘘が発覚した。
- 楚人有鬻盾与矛者。誉之曰、「吾盾之堅、莫能陥也。」又誉其矛曰、「吾矛之利、於物無不陥也。」或曰、「以子之矛、陥子之盾、何如。」其人弗能応也。(『韓非子』難編(一)より)
- 楚人に盾と矛とをひさぐ者あり。これをほめていはく、「わが盾の堅きこと、よくとほすものなきなり。」と。また、その矛をほめていはく、「わが矛の利なること、物においてとほさざることなきなり。」と。あるひといわく、「子の矛をもつて、子の盾をとほさばいかん。」と。その人こたふることあたはざりき。
[編集] 孔子批判
「矛盾」は、韓非が『韓非子』のなかで儒家(孔子と孟子がその代表、ここでは孔子)批判のためのたとえ話の中で、「矛盾」という言葉を使ったもの。儒家は伝説の時代の聖王の「堯」と「舜」の政治を最高で理想だとした。しかし、韓非は、「堯」が最高であるならば、それを受け継いだ(禅譲=優れた人物に王の位を譲ること)「舜」は「堯」よりも優れていると言えない。また、「舜」が最高であるならば、舜の前に政治を行った「堯」が最高であるとは言えない。したがって、両方の者が同じく最高の人物で、理想的な政治を行ったというのは話が合わず、あり得ないという意味を込めて批判的に矛盾のたとえ話をした。いわば、この話には、韓非が儒家(徳治主義)の思想を批判し、自説の法家(法治主義)の思想の正当性を主張しようという意図があった。
[編集] 論理学における矛盾
矛盾を積極的にを利用した論法に背理法がある。 この論法では、「Xである」を示す場合に、まず「Xでない」という架空の設定を考える。 そして「Xでない」という架空の設定のもと論理を進め、何らかの矛盾を導く。 矛盾が起こったのだからそれは「絶対にありえない事」だという事になるので、最初の「Xでない」がおかしかったのだという事になり、結論として「Xである」を得るのである。
(数学的な意味での)矛盾の興味深い性質として、矛盾を含む体系においてはどんな命題を導くこともできる、というものがある。背理法は、
命題φを仮定して矛盾が導けたら命題¬φを推論できる
と定式化できる。考えている体系において何らかの矛盾が成立していたとすると、形式的な仮定「¬B」をおいても(これは全く使わずに)矛盾を導けるということになる。従ってBの二重否定¬¬Bが推論できることになり、二重否定は無視できる(排中律)ことから結局Bが推論できたことになる。