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孟子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

東洋哲学
中国・戦国時代
名前: 孟子
生年月日: 紀元前372年?
没年月日: 紀元前289年
学派: 儒教
研究分野: 政治哲学、倫理学、他多数
特記すべき概念: 仁義、性善、四端、王覇
影響を受けた人物: 孔子、曽子
影響を与えた人物: 儒者多数
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関連項目
三孔 孔子弟子
書院 国子監
科挙 諸子百家

孟子もうし 紀元前372年? - 紀元前289年)は戦国時代中国儒学者子輿。あるいはその言行をまとめた書。儒教では孔子に次いで重要な人物であり、そのため儒教は別名「孔孟の教え」とも呼ばれる。性善説を主張し、仁義による王道政治を目指した。

書名は『毛詩』と区別するため「もうじ」と発音し、人名は「もうし」と発音するのが日本での習慣だが、近年は書名の場合でも「もうし」と発音することが多い。なお現代中国語では、「孟子」は「Meng zi」、『毛詩』は「Mao shi」と発音する。

目次

[編集] 経歴

孟子は鄒(現在の山東省鄒城市)の人で、その母が孟子を育てた時の話が有名である。最初は墓地の近くに住んでいたが、やがて孟子が葬式の真似事を始めたので母は家を移した。移った所は市場の近くで、やがて孟子が商人の真似事を始めたので母は再び家を移した。次に移った所は学問所の近くで、やがて孟子が学問を志すようになったので母はやっと安心したという。この話は孟母三遷として知られ、史実ではないとされているが、子供の育成に対する環境の影響に関して良く引き合いに出される。他にも孟母断機の故事で知られている。

母の元を離れて孔子の孫の子思の門人の下で学んだ。子思に直接学んだという説もあるが、それだと年代に少し無理がある。後に、などで遊説して回ったが、その言説は君主には受け入れられず、郷里に戻り弟子の育成に努め、併せて著作活動に入った。

[編集] 孟子の思想

[編集] 性善

その名の通り、人間は生まれながらにして善であるという思想である。

当時墨家の告子は、人の性には善もなく不善もなく、そのため文王武王のような明君が現れると民は善を好むようになり、幽王や厲王のような暗君が現れると民は乱暴を好むようになると説き、またある人は、性が善である人もいれば不善である人もいると説いていた。これに対して孟子は、「人の性の善なるは、猶(なお)水の下(ひく)きに就くがごとし」(告子章句上)と述べ、人の性は善であり、どのような聖人も小人もその性は一様であると主張した。また性が善でありながら人が時として不善を行うことについては、この善なる性が外物によって失われてしまうからだとした。そのため孟子は、「大人(たいじん、大徳の人の意)とは、其の赤子の心を失わざる者なり」(離婁章句下)、「学問の道は他無し、其の放心(放失してしまった心)を求むるのみ」(告子章句上)とも述べている。

その後荀子性悪説を唱えたが、孟子の性善説は儒教主流派の中心概念となって多くの儒者に受け継がれた(詳しくは別項「性善説」を参照のこと)。

[編集] 四端

孟子は人の性が善であることを説き、続けて仁・義・礼・智の徳を誰もが持っている4つの心に根拠付けた。

その説くところによれば、人間には誰でも「四端」(したん)が存在する。「四端」とは「四つの端緒」という意味で、それは「惻隠」(他者を見ていたたまれなく思う心)・「羞悪」(不正や悪を憎む心)・「辞譲」(譲ってへりくだる心)・「是非」(正しいこととまちがっていることを判断する能力)と定義される。この四端を努力して拡充することによって、それぞれが仁・義・礼・智という人間の4つの徳に到達すると言うのである。だから人間は学んで努力することによって自分の中にある「四端」をどんどん伸ばすべきなのであり、また伸ばすだけで聖人のような偉大な人物にさえなれる可能性があると主張する。

[編集] 仁義

孔子はを説いたが、孟子はこれを発展させて仁義を説いた。仁とは「忠恕」(真心と思いやり)であり、「義とは宜なり」(『中庸』)というように、義とは事物に適切であることをいう。

[編集] 王覇

孟子は古今の君主を「王者」と「覇者」とに、そして政道を「王道」と「覇道」とに弁別し、前者が後者よりも優れていると説いた。

孟子によれば、覇者とは武力によって借り物の仁政を行う者であり、そのため大国の武力がなければ覇者となって人民や他国を服従させることはできない。対して王者とは、徳によって本当の仁政を行う者であり、そのため小国であっても人民や他国はその徳を慕って心服するようになる。故に孟子は、覇者を全否定はしないものの、「五覇は三王(夏の禹王と殷の湯王と周の文王または武王)の罪人なり。今の諸侯は五覇の罪人なり。今の大夫は今の諸侯の罪人なり」(告子章句下)と述べて5人の覇者や当時群雄割拠していた諸侯たちを痛烈に批判し、堯・舜や三王の「先王の道」(王道)を行うべきだと主張したのである。

[編集] 民本

孟子は領土や軍事力の拡大ではなく、人民の心を得ることによって天下を取ればよいと説いた。王道によって自国の人民だけでなく、他国の人民からも王者と仰がれるようになれば諸侯もこれを侵略することはできないという。

恵王から利益によって国を強くする方法について問われると、孟子は、君主は利益でなく仁義によって国を治めるべきであり、そうすれば小国であっても大国に負けることはないと説いた。孟子によれば、天下を得るためには民を得ればよく、民を得るためにはその心を得ればよい。では民の心を得るための方法は何かといえば、それは民の欲しがるものを集めてやり、民の嫌がるものを押し付けないことである。民は安心した暮らしを求め、人を殺したり殺されたりすることを嫌うため、もし王者が仁政を行えば天下の民は誰も敵対しようとせず、それどころか自分の父母のように仰ぎ慕うようになるという。故に孟子は「仁者敵無し」(梁恵王章句上)と言い、また「天下に敵無き者は天吏(天の使い)なり。然(かくのごと)くにして王たらざる者は、未だ之(これ)有らざるなり」(公孫丑章句上)と言ったのである。

孟子によれば、僅か百里四方の小国の君主でも天下の王者となることができる。覇者の事績について宣王から問われたときも、孟子は、君主は覇道でなく王道を行うべきであり、そうすれば天下の役人は皆王の朝廷に仕えたがり、農夫は皆王の田野を耕したがり、商人は皆王の市場で商売したがり、旅人は皆王の領内を通行したがり、自国の君主を憎む者は皆王のもとへ訴えたがるだろう。そうなれば誰も王を止めることはできない、と答えている。もちろん農夫からは農業税、商人からは商業税、旅人からは通行税を得て国は豊かになり、また人民も生活が保障されてはじめて孝悌忠信を教え込むことができるようになる。孟子の民本思想はその経済思想とも密接に関連しており、孟子が唱えた「井田制」もこのような文脈で捉えれるべきだろう。

しかし、これは当時としては非常に急進的な主張であり、当時の君主たちに孟子の思想が受け容れられない原因となった。孟子は「民を貴しと為し、社稷之(これ)に次ぎ、君を軽しと為す」(盡心章句下)、つまり政治にとって人民が最も大切で、次に社稷(国家の祭神)が来て、君主などは軽いと明言している。あくまで人民あっての君主であり、君主あっての人民ではないという。これは晩年弟子に語った言葉であると考えられているが、各国君主との問答でも、「君を軽しと為す」とは言わないまでも人民を重視する姿勢は孟子に一貫している。絶対の権力者であるはずの君主の地位を社会の一機能を果たす相対的な位置付けで考えるこのような言説は、自分達の地位を守りたい君主の耳に快いはずがなかったのである。

[編集] 革命

孟子自身は「革命」という言葉を用いていないものの、その天命説は明らかに後の革命説の原型をなしている。

孟子によれば、は天下を天から与えられて天子となったのであり、から与えられたのではない。天下を与えられるのは天だけであり、たとえ堯のような天子であっても天命に逆らって天下を遣り取りすることはできない。では、その天の意思、天命はどのように示されるのかといえば、それは直接にではなく、民の意思を通して示される。民がある人物を天子と認め、その治世に満足するかどうかによって天命は判断されるのである。

また、(商)の湯王桀王を追放し、武王が殷の紂王を征伐したことも、臣下による君主への弑逆には当たらないとした。なぜならば、いくら桀紂が天子の位にあったとはいえ、仁義のない「残賊」にすでに天命はなく、ただの民と同じだからである。

このように、孟子の天命説は武力による君主の放伐さえも容認するものであった。しかしながら、孟子は革命の首唱者であっても革命家ではなかった。その天命説も放伐を煽動するのではなく、むしろ規制するためのものであったといえるだろう。

天子の位は、かつては代々賢者から賢者へと禅譲されていたが、が崩ずると賢者のでなくその子が位を継ぎ、以後今日まで世襲が続いている。これは禹の時代になって徳が衰えたからなのではないか、という弟子の萬章の問いに対し、孟子は明確にこれを否定している。孟子によれば、位を賢者が継ぐか子が継ぐかはすべて天命によるものであり、両者に優劣の差はない。孟子は孔子の言を引いて「唐・虞は禅(ゆず)り、夏后・殷・周は継ぐも、其の義は一なり」(萬章章句上)と述べている。そのため、位を世襲しながら天によって廃されてしまうのは、必ず桀紂のような「残賊」だけだとされる。

孟子が湯武の放伐を正当化したのは、あくまでそれが天命によってなされたからであり、もし天命によっていなければ、つまり君主が不仁不義でなければただの簒奪となる。周王室の力が衰え、各地で君主が臣下に国を乗っ取られる乱世にあって、孟子はその下剋上に道徳性を求めたと見るべきだろう。

[編集] 孟子と荀子

孟子の対立思想として、荀子性悪説がよく挙げられる。しかし孟子は人間の本性として先の「四端」があると述べただけであって、それを努力して伸ばさない限り人間は禽獸(きんじゅう。ケダモノの意)同然の存在だと言う。決して人間は放っておいても仁・義・礼・智の徳を身に付けるとは言っていず、そのため学問をして努力する君子は禽獸同然の人民を指導する資格があるという主張となる。一方荀子は人間の本性とは欲望的存在であるが、学問や礼儀という「偽」(こしらえもの、人為の意)を後天的に身に付けることによって公共善に向うことができると主張する。すなわち、両者とも努力して学問することを通じて人間がよき徳を身に付けると説く点では、実は同じなのである。両者の違いは、孟子が人間の主体的な努力によって社会全体まで統治できるという楽観的な人間中心主義に終始したのに対して、荀子は君主がまず社会に制度を制定して型を作らなければ人間はよくならないという社会システム重視の考えに立ったところにある。前者は後世に朱子学のような主観中心主義への道を開き、後者は荀子の弟子たちによってそのまま法家思想となっていった。

[編集] 後世の評価

以下は、中国語版ウィキペディアからの引用。

孟子は儒家の最も主要な代表的人物の一人である。しかし、孟子の地位は宋代以前にはあまり高くなかった。中唐時代に韓愈が『原道』を著して、孟子を戦国時代の儒家の中で唯一孔子の“道統”を受け継いだという評価を開始し、こうして孟子の「昇格運動」が現れた。以降孟子とその著作の地位は次第に上昇していった。北宋時代、神宗熙寧4年(1071年)、『孟子』の書は初めて科挙の試験科目の中に入れられた。元豊6年(1083年)、孟子は初めて政府から“鄒国公”の地位を追贈され、翌年孔子廟に孔子の脇に並置して祭られることが許された。この後『孟子』は儒家の経典に昇格し、南宋時代の朱熹はまた『孟子』の語義を注釈し、『大学』、『中庸』と並んで「四書」と位置付け、さらにその実際的な地位を「五経」の上に置いた。代の至順元年(1330年)、孟子は加えて“亜聖公”に封じられ、以後“亜聖”と称されるようになり、その地位は孔子に次ぐとされたのである。

[編集] 書物としての孟子

書としての『孟子』は儒教教典の四書五経の1つで、孟子とその弟子達によって著されたとされている。七篇よりなる。

[編集] 日本における孟子

日本にも『孟子』は持ち込まれたが、「易姓革命」の概念が受け容れられず、あまり流布しなかった。これは、移り変わっていく中国の政権と異なり、日本の天皇家は政治体制の変動にもかかわらず(形式だけでも)頂点にあり続けたために、矛盾が発生してしまうためであると考えられる。俗に「『孟子』を乗せた船は、日本につく前に沈没する」とも言われていたと伝わる。

しかし江戸時代には朱子学が官学とされたことによって『孟子』の研究は盛んに行なわれ、伊藤仁斎などが優れた注釈を行なっている。幕末の志士の吉田松蔭は『孟子』を深く研究し、講義書として『講孟箚記(こうもうさっき)』を著した。ただし松蔭は、孟子の易姓革命論を否定したことはもちろんである。

なお赤穂浪士のひとり、武林唯七は孟子の子孫であると伝わる。豊臣秀吉朝鮮出兵の際にの従軍医であった孟二寛が日本に連行され、武林氏を名乗ったものである。

[編集] 外部リンク

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