突撃隊
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突撃隊(とつげきたい、独:Sturmabteilung, 略号:SA) とは、ナチスの準軍事的な組織である。
ムッソリーニの率いるファシスト党の黒シャツ隊を模して創設され、演説会等の党が主催する政治活動の警備と反対政党に対抗すること党幹部の身辺警護を目的とした。制服の色から褐色シャツと呼ばれた(ナチス初期から高かった農民層からの支持に応える意思を込め、「土」の色である褐色をイメージカラーにしていたという説がある。レームは好んで「褐色革命」という言葉を使用していた)。後に独立する親衛隊は黒色の制服を着用して区別される。
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[編集] 突撃隊の勢力伸張と危機
初期の突撃隊は幹部を義勇軍(フライコール)の指導者たちが占め、ナチ党中央に相対的に独立性を有した。突撃隊の褐色の制服は、ロスバッハ義勇軍の指導者のゲルハルト・ロスバッハ中尉が調達したものであり、突撃隊を強力な組織としたのは義勇軍エアハルト旅団のプフェッファー・フォン・ザロモン(フォン・プフェッファー)である。
ワイマール憲法の下、ドイツでは多くの政党が政治活動を行ったが、まだ民主主義政治に未成熟であったドイツでは政党の演説会等の政治活動を反対政党構成員やその支持者が暴力的に妨害する事件が多発していた。そのため、殆どの政党では自前で警備団を設立し、他政党の妨害を排除したり、時には対立政党の集会に殴り込みをかけるなどの行為を実行させていた。国家社会主義ドイツ労働者党の警備団として組織されたのが突撃隊の起源である。
ヒトラーは突撃隊を単なる警備組織としてだけではなく、隊列を組ませて行進させるなど示威行動も度々とらせている。
党勢の拡大とともに無制限に隊員の受け入れを行った為、失業者が殺到し、恐るべき速度で突撃隊は膨張した。最盛期には実に350 ~ 400万人に達していた。結果として隊員の質の低下は避けられず、しばしばゴロツキ同然の振る舞いを行う突撃隊員の評判は、ドイツ国民の間であまり芳しくなかった。
1933年ヒトラーがドイツ首相に就任すると、状況は変化する。社会民主党勢力の強いプロイセン州の内務大臣となったヘルマン・ゲーリングは、突撃隊を補助警察に採用し、反対派の弾圧に利用した。
巨大な組織に成長した突撃隊に深刻な問題が影を落とす。独立精神ばかり強い突撃隊の指導者のエルンスト・レームとヒトラーとの確執であった。レームはヒトラーの最も古くからの同志であったが、思想的には社会主義に近く、政権獲得後のヒトラーの既存勢力との融和的な政策に不満を唱えていた。また、レームは自らの率いる突撃隊が国防軍に取って代わる事を夢見ていたが、ヒトラーは頑としてこれを認めようとはしなかった。
突撃隊の幹部は、ヒトラーではなく、レーム個人に忠誠を誓っていた事もあり、突撃隊内部には反ヒトラー的な風潮も目立つようになる。
再三のヒトラーの説得にも関わらず、レームは突撃隊の組織を軍隊風に改変したり、軍事訓練を施すなど、強硬に突撃隊の国軍化を推進していく。こうした動きを懸念した国防軍の指導部は一致して突撃隊の国防軍編入阻止をヒトラーに訴えた。ヒトラーにとっても国防軍の支持なくして政権の維持は望めないという思惑があった。
一時はレームとの和解を模索したヒトラーであったが、一向に改善しない状況に業を煮やしてついにレームらの粛清を決断する。
[編集] 長いナイフの夜事件
1934年6月30日、ハインリヒ・ヒムラー率いる親衛隊がレームを始めとするSA幹部を殺害した。これは長いナイフの夜と呼ばれる。
[編集] 長いナイフの夜事件以降
長いナイフの夜にレームが殺害されると、新突撃隊隊長にはヒトラーに信頼されていたビクトール・ルッツェが選ばれた。
事件で高級幹部を失い、一部がヒムラーの親衛隊に組み入れられ、突撃隊は一挙に勢力を減退させた。だが、それでもヒトラー政権が終焉を迎えるまでナチ党の最大の組織として存続し、戦時中は国防軍を補助する任務を請け負っている。またビクトール・ルッツェをはじめ突撃隊幹部は、親衛隊への報復の感情を捨てることはなかった。
[編集] 突撃隊指導者
- エミール・モーリス Emil Maurice (1920年 - 1921年)
- ハンス・ウルリヒ・クリンチェ Hans Ulrich Klintzsche (1921年 - 1923年)
- ヘルマン・ゲーリング Hermann Göring (1923年)
- 空席 (1923-1925)
- フランツ・プェッファー・フォン・ザロモン Franz Pfeffer von Salomon (1926年 - 1930年)
- アドルフ・ヒトラー Adolf Hitler (1930年 - 1931年)
- エルンスト・レーム Ernst Röhm (1931年 - 1934年)
- ビクトール・ルッツェ Viktor Lutze (1934年 - 1943年)
- ヴィルヘルム・シェップマン Wilhelm Scheppmann (1943年 - 1945年)
[編集] 文献
- Nikolai Tolstoy: Night of the Long Knives, Ballantine Books Inc., 1972
[編集] 突撃隊を描いた作品
- 映画:地獄に堕ちた勇者ども(ルキノ・ヴィスコンティ監督)
- 映画:ヒットラー(クリスチャン・デュゲイ監督)2004年 ※ 二部構成(第一部「覚醒」)作品公式サイト(英語)
- 小説:わが友ヒトラー(三島由紀夫)
[編集] 関連項目
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