自転車用タイヤ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
自転車用タイヤ(じてんしゃようタイヤ)とは、自転車の車輪に装着されることを目的として作られたタイヤのことである。基本的構造は自動車用、モーターサイクル用、各種産業用のタイヤと大きな差はない。ただ、自転車の動力源が人間であることに起因し、体型に合わせ効率のよい大きさという要因、各国まちまちの規格の乱立などから、サイズに関するバリエーションが非常に多い。
目次 |
[編集] 歴史
自転車の車輪は、その発生当時は鉄製でタイヤは固形のゴムが張り付いているものだった。乗り心地を高めるためには車輪の径を大きくする以外に手はなく、ペニー・ファージングのように前輪が巨大なものが発明されたりもした。安全型自転車の登場により車輪の径が小径になったのほぼ同時期の1888年、イギリスのダンロップによって空気入りタイヤが考案された。
[編集] 種類
自転車用のタイヤには、ホイールのリムの違いから、チューブラー、クリンチャーの2つに分かれる。
クリンチャータイプは、リムとのはめ合わせ方法の違いで、WO (Wired On) ,HE (Hocked Edge) ,BE(Beaded End、耳付きタイヤ)の3つに分類される。最近は、チューブを不要としたチューブレスタイヤや発泡ゴムを充填したランフラットタイヤなども存在する。
[編集] チューブラー
「チューブラータイヤ」はゴム製のインナーチューブを袋状の布(「カーカス」または「ケーシング」と呼ぶ)で縫い包み、接地面のトレッド部にゴムを張ったタイヤの事である。自転車チューブに更に、頑丈なゴムの円周状カバー(ケーシング)を被せたと考えればよい。
タイヤの最も古い形であり、初期の安全型自転車はこの形であったが、現在ではロードレースやトラックレースなどの競技用のものがほとんどである。カーカス部分は綿やケブラー繊維のような合成繊維、一部の高級品は絹が使用される。ホイールのリムには、リムセメントと呼ばれる接着剤や専用の両面テープを使用し貼り付けて使用する。
軽く、しなやかで高圧に耐えるため、走行抵抗が低く絶対性能に優れる。単純な構造ゆえにリム、タイヤ自体共に軽量で、乗り味がしなやかであり、またリムのタイヤ接触部に鋭い角を持たないためパンクの主原因のひとつであるスネークバイト(リム打ちパンク)が殆ど起こらず、したがってパンクし難い。また構造上断面の真円度が高いためコーナリング特性に優れるなどのメリットがある。また競技の話ではあるが、ホイールがダメになる覚悟さえあればパンクした状態でサポートカーが来るまでしばらく走る事もできるという利点もある。
もっとも初期のツール・ド・フランスではタイヤはチューブラーしか選択肢がなく、またルールも現在のチーム制と違いサポートカーもなく故障は自前で修理しなければならないという原則があったため、パンクしたら張り付いたチューブラータイヤに歯で噛み付いて無理矢理はがしていた。このようにチューブラーの欠点は、チューブをタイヤで包み縫い合わせた縫い目の上に更にフラップが貼り付けてある構造上、非常に修理や交換が手間がかかるという事が挙げられる。パンク修理に非常に手間がかかる為、その場で修理して継続使用する事は現実的に不可能で、新品と交換する他ない。またホイールへ専用の接着剤(リムセメント)で固定するため、タイヤ交換時には接着強度が上がるのを待たねばならない分時間がかかる(適当な接着のまま出走しようものならタイヤが外れて転倒する)。
この欠点を克服するために近年は接着剤ではなく専用の両面テープを用いることが多く、この方式を用いることによってタイヤ交換に要する時間は大幅に短縮され、また交換直後に本来の性能を出し切れることから、従来からの欠点は完全に解消されたといえる。
[編集] クリンチャー
ワイヤードオン (W/O) とも。チューブとタイヤが別体で、タイヤのビード(後述)をホイールのリムの内側にはめ込んで使用する。
チューブラーに対してクリンチャーはホイールからタイヤとチューブを取り出し、ゴムパッチでチューブの穴を塞ぐだけでパンク修理が可能である。これによりパンク修理の手間やタイヤ・チューブの再利用が容易でメンテナンス性に優れる。しかしタイヤビードを押さえつけるリムのサイドウォールと路面の段差などの間でタイヤとチューブが挟まれて圧縮されることで穴が開くリム打ちパンクが起こりやすい。このときにチューブに開く穴がちょうど蛇が噛んだように二つの穴が並んで開くため「スネークバイト」の別名がある(一般的なパンクの多くはこのスネークバイトである。また、タイヤの中でチューブが破裂(バースト)した拍子にタイヤがホイールから脱落する事故も発生しており、必ずしも信頼性が高いとはいえない。
クリンチャータイヤのビード :ビードとはタイヤの両端に埋め込まれた、タイヤをリムに固定するための盛り上がり(リムに引っ掛ける部分)のことである。このビードには、近年までは鉄線が埋め込まれていることが普通であったが、現在ではより軽量なケブラーが埋め込まれていることが多い。どちらが埋め込まれているかは、簡単に判別できる。折り畳めず、タイヤ単体でも円形を保っていれば鉄線、柔かく折り畳めるものはケブラーである。
リムとのはめ合わせ方法の違いで、WO (Wired On) ,HE (Hocked Edge) ,BE(Beaded End、耳付きタイヤ)の3つに分類される。パンク修理が簡単で、繰り返し使えるので経済的、タイヤも比較的安価である。
- WO(ワイヤードオン)
- WOはイギリス、フランス規格のもである。タイヤのビード部に鉄製、またはケブラー製のワイアがあり、これがリムにはまり込むことでリムにタイヤが保持される。狭義には英国規格のものをWOと呼び、フランス規格のものはクリンチャーと言う場合もある。英国規格のものはインチの分数表記(例:26インチ1 3/8など)されることが多い。フランス規格はミリ表記(例 700-23c)される。
- HE(フックドエッジ)
- HEは米国の規格である。マウンテンバイクに使用されているタイヤはこのタイプで、同じインチ数でもWOより一回り小さい。
- BE
- BEは引きかける部分より下側に耳が出ていて、タイヤを装着するとチューブをタイヤが包み込む形となる。
- チューブレス
- マウンテンバイク競技において、耐パンク性に優れるチューブレスタイヤが使用され始めている。特にダウンヒル競技においては使用率が高い。また、ロードバイク用のチューブレスタイヤも2005年頃から製品が現れている。
[編集] タイヤサイズ
自転車用のタイヤは、折り畳み自転車で使われる6インチサイズから28インチサイズまで40種類以上存在する。
タイヤサイズは外径とタイヤ幅で表記される。たとえば26インチ1 3/8と表記されたタイヤは英国規格の26インチサイズでタイヤ幅が1 3/8インチ(約35mm)となる。26インチサイズとはタイヤ外径が26インチということではなく、呼び径である。HEタイヤはタイヤ幅が小数点表記される。たとえば、26インチ1.75というタイヤは、HE規格の26インチサイズ(英国規格より外径で40mmほど小さい)でタイヤ幅が1.75インチということになる。
分数表記、小数表記での区別は日本国内で見かける主要な製品だけに適用される。欧州の一部(ドイツ、オランダ)では小数点表記が英国規格、分数表記が米国規格である。フランス規格はタイヤ外径をミリで、対応するタイヤの太さを示すa,b,c,dという文字をつけて表記する。a,b,cの表記はリムの外形を決めるものとなる。たとえば700c-23(700-23cと表記することもある)は700cサイズ(リムの勘合部径が622mm)で幅23mmということになる。a,b,c,dは、本来はaが細いタイヤ、b,c,dと順に太くなる。cは40mm幅のタイヤ用の規格(タイヤをはめた状態で外形が700mmとなる)である。
[編集] ETRTO
自転車用タイヤの規格は乱立しているため、どのタイヤがどのリムに適合するか、表記だけで判別することが難しくなった。そこでETRTO (European Tyre and Rim Technical Organisation) にそったサイズ表記が採用されるようになった。
ETRTO表記ではタイヤ幅を前に、タイヤのビード径(リムにはまり込む部分の直径)をハイフンで区切って表記する。前述のWO 26インチ1 3/8はETRTOでは37-590、26インチHE 26インチ1.75は47-559、700c-23は23-622となる。
自転車のタイヤを交換するとき、ETRTO表記が同じであれば交換することが可能である。製造メーカによっては、ビード径の表記が1mm程度異なる場合も(16インチHEでの305と306)装着可能である場合も多い。ただし、リムの形状がHEかWOかで引き掛け部の形状が異なるので注意は必要である。
[編集] チューブ
チューブはタイヤ内の空気を保持するためのドーナッツ状のゴム風船のようなものである。
チューブにはバルブがあり、弁機構により空気が充填できる。チューブはブチルゴム、ラテックス、ポリウレタンなどで作られる。チューブはタイヤ側とリム側に接しているが、リム側のスポークなどの突起物で穴が開きパンクを起こす場合がある。これを防ぐため、リム側にはリムテープ(「ふんどし」とも呼ばれる)を張りパンクを防止する。
あまり知られていないが、チューブは自転車の走行で磨り減る消耗品である。タイヤが転がると接地面でタイヤが変形し、内部のチューブとタイヤとがこすれあう。タイヤが転がるとタイヤ内面がチューブを削り、薄くなることで空気漏れを起こしたりパンクを起こすのである。これを防ぐために、タイヤ内面にタルカムパウダーを塗りすべりをよくすることもある。空気圧が低ければタイヤの変形量が大きくなりチューブの減りが早くなる。パンク防止には、リム打ちパンクを防ぐという意味でも、タイヤの空気圧を適正に保つことが重要である。
[編集] バルブ
バルブは空気を入れる部分の弁であるが、5つの種類がある。バルブ形状に適した空気入れを使わないと、適切な充填はできない。
- 英式バルブ(ウッズバルブ、ダンロップバルブ)
- 一番普通のバルブで、虫ゴムと呼ばれる細いゴムチューブの弁が付く。虫ゴムの劣化で空気漏れを起こす場合も多く、定期的に交換が必要。虫ゴムを使わないタイプの製品も売られている。
- 米式バルブ(シュレーダーバルブ)
- 自動車やモーターサイクル用のバルブと同じもの。マウンテンバイクやBMXなどで見かける。
- 仏式バルブ(プレスタバルブ)
- ロードレーサーやマウンテンバイクなどレース用の自転車でよく使われるタイプ。チューブラータイヤもほとんどこのタイプである。高圧の充填が可能。先端のねじを緩め、いったん押し込んで弁を開き充填する。
- 競輪バルブ
- 基本的な構造は英式と同じだが、細い。競輪用のチューブラータイヤで使用される。
- イタリアンバルブ(レヂナバルブ)
- 外観は仏式に似るが、ねじが外れるようになっている。ヨーロッパ(イタリア、ドイツなど)の一般車で見かけるが、日本国内ではまず見ない。
[編集] パンク修理(クリンチャー編)
パンク修理はそれほど難しい作業ではない。穴の開いている場所を探し、加硫材を使ってパッチを貼り付けるだけであり、こつさえつかめば誰にでも簡単にできる。
[編集] 用意するもの
- タイヤレバー 2本
- タイヤパッチ
- 荒い紙やすり
- パンク修理用ゴム糊(加硫材、バルカーンなど)
- 空気入れ
- ウエス
- 水
- マーカー(油性ペンなど)
[編集] 手順
- バルブとチューブを固定しているナットを外す。
- タイヤレバーをバルブの反対側の位置でリムとタイヤの間に挿入した後、レバーをスポークに引っかける。
- タイヤレバーをバルブの正反対側ではなく、少し左右にずれた位置でリムとタイヤの間に挿入すると作業がしやすい。
- これによりレバーを入れた部分がリムから外れることになる。
- ある程度の範囲を外したら、レバーや指などを外した部分に入れてタイヤを回し、タイヤ全体を外す。
- バルブがつく部分を押し、リムからチューブを外す。
- バルブを付けて空気を入れ、水につけて穴あき箇所を探す。マーカーで印を付けると良い。
- 穴の大きさや技術によっては水を使わず空気が抜ける音で穴を探すことも可能である。
- バルブを外して空気を抜く。
- 穴を探すために水を使った場合、この前後の段階でウエスを使い穴周囲の水を拭き取る。
- 紙やすりで穴の周囲をこする。
- ゴム糊を穴の周囲に塗り、数分おく。
- 穴が中心になるようにタイヤパッチを貼り付け、強く押さえる。
- パンクの原因となった物体(ガラス片、小石など)がタイヤに残ってないか探し、残っていたら除去する。
- バルブがつく部分をリムに装着し、そこから残りのチューブをタイヤの内側に入れる。この時、バルブの部分を軽くナットで留めると作業がしやすい。全てのチューブを内側に入れねじれていないのを確認したら、少しだけチューブに空気を入れる。この状態でリムを装着すると、チューブがタイヤとリムの間にはさまるのを防ぐことができる。
- バルブの部分から順にタイヤをリムに装着し、バルブの反対側でタイヤレバーを使い装着する。事前に空気を入れていた場合、レバーが必要な場所に来たら空気を抜いて手でチューブを奥に押し込み、タイヤレバーでチューブで傷つけないようにする。
- タイヤを外す時と同様に、最後にリムに入れる部分はバルブの正反対側ではなく、少し左右にずれた所とすると良い。
- チューブが、タイヤとリムにはさまれていないか確認しながら、少しずつ空気を入れる。
- はさまった状態で放置すると、そこからチューブがはみ出し風船が割れるように大きくパンクしてしまう。
- 異常がないことを確認後、適正な空気圧にする。