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原子力発電 - Wikipedia

原子力発電

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

原子力発電(げんしりょくはつでん)とは、原子核反応時に出るエネルギーを利用した発電、あるいはその方法

なお本項では、主に地球上の原子力発電に関して記述する。

目次

[編集] 概要

原子力とは核反応によりエネルギーを得る方法のことである。核反応には核分裂核融合との二種類の反応があるが、発電のための技術として実用化されているのは前者のみである。このため、単に「原子力発電」と言う場合には核分裂のエネルギーを用いた発電を指す。

陸上に設置された原子力発電所の場合、核反応で発生するを利用して主に沸騰させる。これは、水は地球上に豊富に存在するため運用コストを安くできることが多いからである。 蒸気を冷却するのにも水を利用することから、日本での原子力発電所は海水を取得できる海岸や、大きな河川のそばに設置される事が多い。 冷却には大きな冷却器を必要とする。内陸地では空冷式の施設もある。(→エントロピー

大雑把にいえば、火力発電所は石油やLNG、石炭といった化石燃料を燃やして熱を発生させているが、原子力発電所は核分裂反応で熱を発生させている。どちらも発生させた熱で水を沸騰させ、蒸気タービンを回して発電を行っている。したがってこのふたつの違いは、熱の発生のさせかたが違うだけと考えると解りやすい。

宇宙空間では恒星からの熱放射を受けない影の部分では平均3K程度であるため、宇宙探査機惑星無人探査機)では空間中に赤外線の形で熱放射する事で冷却できる。この様式はボイジャー1号2号の電源が良く知られている。これらの探査機は長期間を外部からの補給無しに稼動させる必要があり、また恒星から離れ過ぎると太陽光発電が利用できないため、このような発電方法が採用されている。(→放射性同位体熱電発電装置

しかし、核反応を利用する以上、運転に伴う放射線放射能放射性廃棄物の発生が避けられず、発生した放射線はその強度によっては人体に限らず生物にとって有害(→催奇性)であるため、その扱いに関しては技術的側面に困難さがある。現行技術では一定の安全性があるものの、一度問題が起きれば原子力事故として社会問題として扱われるなどの難しさもみられる。特に原子力発電に利用できるだけの熱量を発生させ得る核物質より発生する放射線は、致命的な影響を与えやすい。なお被曝程度によっては即死の危険性すらあると言う点だけではなく、その膨大な熱量も危険である。過去の原子力事故では、被曝による生命の危機以前に、熱死ないし焼死したケースも少なくない。事故のほかにも、使用済み核燃料などの放射性廃棄物の処理に関する問題を抱えている。(後述#運用の難しさ参照)

[編集] 核反応(核分裂)と原子炉

核分裂は重く大きい原子核が中性子を吸収することで、原子核が分裂し、中性子と熱を放出する素過程である。核燃料に中性子を放射して核分裂を起こすと、放出された中性子が次の核分裂を引き起こし、それが連鎖していき、外から中性子を供給しなくても核分裂が続く臨界状態となる。

核分裂反応が制御されず鼠算式に拡大するとメルトダウンが起こりえるので、原子炉では中性子の増加を制御し、中性子が不必要に増加しない設計になっている。また、遅い中性子の方が核分裂性物質が中性子を吸収する効率が高いので、減速材を用いて中性子の速度を抑える方式が一般的である。また、中性子が炉心から外へ飛び出して連鎖反応に寄与しなくなることを防ぐため、炉心は反射材等で囲まれている。

設備費のかからない、反応がそもそも低速なのを中性子の反射等によって加速させる、小型原子炉については一般的に知られておらず、SF等でしか表れない。

[編集] 原子力発電の経緯・現状

1951年、アメリカ高速増殖炉EBR-1で行われたものが史上初の原子力発電とされる。日本に初めて導入された原子炉は、商用発電炉としては世界最初に実用化された英国製のガス冷却炉であったが、経済性の点から現在の日本では軽水炉沸騰水型原子炉および加圧水型原子炉)が主流となっている。

日本の原子力発電はベースロード負荷への電力供給を専門としており、需要に合わせた電気出力の増減は原則的に行っていない。いくつかの国で研究は行われ、現在フランスでは商用原子炉で負荷追従運転が認可されている。

2004年現在、日本における定格最大出力電力の約30%、電力量の約50%を担っている。一次エネルギーとしての原子力エネルギーは電力事業のみであり、日本での一次エネルギーに対する割合は15%程度となっている。原子力エネルギーにおいて、世界で最も高いウェートを示している国はフランスであり、国の一次エネルギーとしては40%、発電電力量としては75%を超えている。このように、原子力エネルギーが高い割合を占める国では、原子力発電は発電出力の変更を行わないか極めて遅いため、調整力として揚水発電や電力輸出入を活用している事が多い。フランスの場合でも、ヨーロッパに張り巡らされた送電網、特に隣国ドイツとの電力輸出入が活用されている。

[編集] 運用の難しさ

原子力発電の燃料はウランであるが、ウラン濃縮を行えば必然的に劣化ウランが生じ、使用済み核燃料にはプルトニウムや核廃棄物が含まれる。プルトニウムは核分裂爆弾などに転用することが技術的に可能であり、劣化ウランは劣化ウラン弾として、また核廃棄物をそのまま汚い爆弾として軍事転用が可能である。また戦時下では攻撃目標になる。

原子力発電所では核分裂により高レベル放射性廃棄物が発生してしまう。これは生活の場から隔離する必要があり、多重の防護処理を施した上で地下水等の影響がない大深度地下に埋蔵するという深地層処分が策定されている。

また、原子炉老朽化により原子炉が使用出来なくなった場合、それ自体が放射性廃棄物となる原子炉を簡単に解体処分する訳にいかず、非常に長期(放射性物質の性格から発電所として利用出来た期間より長くなる)にわたり電力が生産出来なくなった後も維持管理しなければいけなくなる。

[編集] 利点

現行の原子力発電には以下の利点が挙げられる。

  • 安定した電力供給が可能
  • 発電時に酸素を必要としないため、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を排出しない
  • 使用する燃料が極端に少なくて済む
  • 燃料(石油液化天然ガス=LNG)の中東依存度を減らすことが出来る
  • 核燃料サイクル等によるウラン238の有効利用や海水からのウラン採取が実現すれば、燃料は非常に豊富
  • 経済性が高い(発電量当りの単価が安い)
  • 再処理により準国産エネルギーを実現できる
  • 技術力があることがアピールできる

[編集] 問題点

現行の原子力発電には以下の問題点が指摘されている。

  • 毒性が強く、放射性物質である核廃棄物を作り出す
    • このため、重大事故が発生すると周辺環境に多大な被害を与え、その影響は地球規模に及ぶ
    • また、高レベル放射性廃棄物の最終処分地が決定していない
    • 今後原子炉老朽化により現在運転中の原子炉が使用出来なくなった場合、それ自体が放射性廃棄物となる原子炉を簡単に解体処分する訳にはいかず、電力を生まなくなった原子炉を非常に長期に渡り放射能漏れが無いよう厳重に維持・管理しなければいけなくなるが、そのコストについての詳しいデータは算出されていない
    • 発電施設および核廃棄物へのテロの危険
  • ウラン資源の可採埋蔵量に由来する資源枯渇問題
    • 地殻中のウラン235のみの利用を考えた場合、資源がそれほど豊富なわけではない
  • 軍事転用の制約に関わる国際社会への配慮(例・北朝鮮に関連する諸問題)
  • 起動停止の所要時間が長い(通常停止)
    • 炉の特性上、通常は負荷追従運転を行わない
    • 運転停止による損失が非常に大きく、運転率を極めて高い水準に維持し続ける必要があるため、夜間電力の利用促進など、需要の増減の調整能力がきわめて弱い。
  • 火力発電所と比べ、施設建設に多大なコストがかかる
    • 地質学的側面から、立地場所が限定される
    • 電気利用者・電力会社と施設周辺に住む住民との利益・不利益が相応でない可能性がある
  • 原子力発電所の新規建設数が減少していることからメーカーの原子力部門における技術の継承が困難となってきている
    • 将来の原子力発電を担ってくれる若手技術者が減少傾向にある

特に日本では、広島長崎への原子爆弾投下や、第五福竜丸米軍水素爆弾実験で発生した放射性降下物(いわゆる「死の灰」)被爆の被害を受けたこともあり、放射能放射線に対して嫌悪感を抱く人は多く、建設時には地域住民の反対運動が頻発する。一方で、原子力発電所ができると、地元には一定の雇用が期待できるほか、電源立地地域対策交付金などの電源三法交付金、固定資産税法人税などの税収も確保できる。このことから、地域住民が賛否を巡って対立することも多い。

[編集] 公正な評価の難しさ

原子力発電に関する様々な評価をする場合、極めて高い専門性が必要となる。しかし、日本においては原子力発電の研究者はほぼ100%電力会社や機器メーカ、その関連機関で働くか、その助成を受けている(大学など)[要出典]。したがって、中立的な見解、特に批判的な発言をしたり、不利なデータを出すことがきわめて困難になっている。一方、原発反対側の意見も、専門性に欠けていたり、データ不足であったり、またあまりにもイデオロギー的であったり、情緒的議論に流れがちである。

[編集] 1kWhあたりの発電コスト

[編集] 経済産業省(旧通産省)による試算

平成11年に通商産業省資源エネルギー庁が発表した試算によれば、1kWhあたりの発電コストは以下の通り。

  • 原子力  5.9
  • LNG火力 6.4円
  • 石炭火力 6.5円
  • 石油火力10.2円
  • 水力  13.6円

出典:総合エネルギー調査会原子力部会(第70回)資料3:原子力発電の経済性について(平成11年12月)

なお、この試算は漁業補償金や原子力に特有な再処理、バックエンドコストを含んだもの(燃料費は1kWhあたり1円から2円と見積もられている。)だが、電源三法による地元交付金等は含まれていない。とされているが、これまでに、こうした事業で見込みよりも安く済んだことは無いので、このバックエンドコストは実際に行われていないので増える可能性が大きい。また、電源三法交付金は1kWhあたり44銭5厘であったものが37銭5厘程度まで下がっているが、電源構成比から考えれば、原子力のためだけに殆ど使われる費用ということでは3倍程度と考えるべきである。つまり、1.12円程度は原子力発電の発電原価に付加されねばならないということになる。よって原子力発電所の発電原価は7円程度と考えられるべきで、さらにプルサーマルを行った場合は燃料費の増大などを勘案すればもっと高価と考えられる。今後、幾らになるのかという試算も必要だろう。ただし、火力発電は現在の燃料価格の高騰により上記で示された値段から大幅に高騰していることは確実であり、その点も考慮する必要があると推測される。原子力発電コストは燃料費の割合が低いが故に、値段の高騰を招きにくい特性がある。また、コストが安いといえども、原子力発電の発電コストは運転率80%を前提とした数字であり、安定発電を続けないと発電コストが幾何級数的に跳ね上がる性質があることには注意するべき。


なお、チェルノブイリに見るように原子炉が使用出来なくなった場合、それ自体が放射性廃棄物となる原子炉を簡単に解体処分する訳にはいかず、今後原子炉老朽化により現在運転中の原子炉が使用出来なくなった場合、電力を生まなくなった原子炉を非常に長期に渡り放射能漏れが無いよう厳重に維持・管理しなければいけなくなるが、近い将来回ってくるそのコストについての詳しいデータは算出されていない点で、原子力発電のコストを考える上で現状不十分な点がある。


CO2を出さないということでは、水力や地熱、太陽、波力など再生可能エネルギーが多くの人たちの期待を集めているものの、政府や原発推進派からはコスト面での競争力が無い点を攻撃されるが、今後、投資や研究開発によってどれほど下がるのかという事も考慮に入れた上での試算が必要であろう。 参考:エコノミストの再生可能エネルギーに関する論評。 http://cruel.org/economist/economistnewenergy.html

[編集] 原子力資料情報室による試算

2005年6月に特定非営利活動法人原子力資料情報室が発表した試算によれば、運転年数40年の場合、1kWhあたりの発電コストは以下の通り。

  • 原子力  5.73円
  • LNG火力 4.88円
  • 石炭火力 4.93円
  • 石油火力8.76円
  • 水力  7.20円

出典:公益事業学会第55回全国大会:原子力発電の経済性に関する考察(2005年6月12日)

[編集] 1kWhあたりの二酸化炭素排出量

温室効果の原因となる二酸化炭素の排出量が少ないことは、原子力発電の利点の一つとされている。電力中央研究所が平成12年に発表した試算によれば、原子力をはじめとする各種発電方式について、発電所の建設から廃止までの発電量と二酸化炭素排出量を考慮した、1kWhあたりの二酸化炭素排出量は以下の通り。

  • 原子力 22グラム
  • 水力 11グラム
  • LNG火力 608グラム
  • 石油火力 742グラム
  • 石炭火力 975グラム

出典:(財)電力中央研究所「ライフサイクルCO2排出量による原子力発電技術の評価」研究報告:Y01006(平成13年8月)

原子力発電では核分裂反応に起因する二酸化炭素の排出は全くないが、発電所の建設・運用・廃止や燃料の生産・輸送、廃棄物の処分等に起因する二酸化炭素の排出も上記の試算には含まれているため、若干の排出が見られる。この点は水力発電も同様である。

[編集] 発電所建設費の例

  • 原子力 泊発電所3号機 約2900億円 91.2万kW(出力)平成20年10月運転開始
  • 水力(揚水型)  神流川発電所  5250億円 270万kW(最大出力)1997年5月工事開始、2011年7月工事完了予定
  • 天然ガス 市原発電所 約100億円 11万kW (出力)平成16年10月運転開始
  • 石炭 敦賀火力発電所2号機 1275億円 70万kW(出力) 平成12年9月運転開始

[編集] 世界の原子力発電所開発状況(2003)

数字(基数)は計画中の発電所を含む。()内は発電量、単位は万kW。

世界合計:498基(43549)

[編集] 構成要素

関係省庁をはじめ原子力産業界や電力業界では、原子力発電所に設置された具体的な発電設備一式をユニットまたはプラントと呼んでいる。プラントは電力生産に必要なさまざまな設備が建屋(たてや)と呼ばれるコンクリート製建物の内部や発電所敷地内に設置されユニット化されている。


汽力発電の一種である原子力発電もランキンサイクルが原理であるため、作動流体である冷却材サイクルを形成する4要素が中心となる。このほかプラントは4要素の補助的な役割を果たすサブシステムで構成される。これらは技術的あるいは経済的な理由から定期検査などの機会に更新される場合もある。またこれらの要素は設備容量が同じで機能的に同一のものでも、導入時期や製造メーカなどによって若干違うことが多い。


原子力発電のプラントで特徴的な設備は気体、液体、固体の放射性廃棄物処理設備や放射線を検出するための設備である。

[編集] プラントを構成する基本要素

[編集] 関連項目

[編集] 参考資料

JAIF資料。

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