論文
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論文(ろんぶん)とは、学問の研究成果などのあるテーマについて論理的な手法で書き記した文章。(漢文中の語句としては“文ヲ論ズ”=“文学について論ずる”の意味でも使われた。)
他人の研究成果を報告する「紹介論文」と自分の研究成果を発表する「研究論文」がある。また、特定の研究成果についての記述ではなく、あるテーマについて論述する論文の一つの形式として小論文がある。
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[編集] 種類
[編集] 学位請求論文(学位取得のための論文)
卒業や修了において、論文の提出が必須とされる場合がある。特に学位取得を修了要件とする大学及び学位課程はその主たる存在である。学位論文提出後に発表会や公聴会が開かれ、執筆者による口頭発表の後に、合否の判定が行われる。研究の内容や価値を重視するよりも、研究論文の書式に従って成果をまとめる訓練として認識されることが多い。
- 卒業論文(略して卒論): 学部卒業(学士を取得)のための論文
- 修士論文(略して修論、マスター論文、マス論など): 大学院で修士を取得するための論文。一部の専門職大学院においても修士論文を課すところがある(取得する学位はあくまで専門職学位である)。
- 博士論文(略して博論、ドクター論文、ドク論、D論など): 大学院で博士を取得するための論文
[編集] 学術論文
学術論文には、次のような種類がある。
- 原著論文:著者のオリジナルである内容を著したもの。
- 解説論文:他の原著論文などの内容を要約したり、分かりやすく解説したりしたもの。
- 紀要:研究活動の成果を記録するものとして、主として研究機関の内部向けに定期的に発行する論文集。
その他、学会における発表の予稿(アブストラクト)も論文に含むことがある。
[編集] 小論文
入学試験、入社試験などで合格者の判定に用いるため、受験者があるテーマについて論理的に文章を作成するものは小論文と呼ばれる。ただし、一般の学術論文のような章の構成を持つことは少なく、作文に近い体裁である。
[編集] 体裁
論文は次のような章の構成を取ることが多い。
- 題名
- アブストラクト、サマリー(本文の内容を要約した文章)
- 序文
- 背景
- 研究の動機、問題設定、既存研究の問題点
- 成果の骨子、位置づけ、重要性
- 先行研究や類似研究との関連
- 準備(既知の定義や定理など論文を読むための基礎知識)や研究の方法(調査の方法、実験、材料、など)
- 結果
- 考察
- 結論
- 謝辞や参考文献
- 付録(証明や実験の詳細など)
論文の書き方については、参考となる多数の文献がある。その概要は次のようなものである。
- 文章の論理的構造を明確にする。複数の意味に解釈できる表現は使わない。
- 客観的に判定が可能な事柄について、根拠を明確に示して書く。
- 不必要な接続詞や、修辞表現は避ける。
- 実験などの結果についての記述と、考察についての記述は明確に区別する。
- 引用のスタイルを決められている通りに正しくする。
[編集] 査読制度
学術雑誌に掲載される論文の多くは、査読制度によって内容の判断が行われる。研究者の業績評価においては、査読のある論文と、査読の無い論文を区別することが通例である。
査読制度とは、著者にはその名前を伏せておく査読者(レフェリー)によって論文の内容について審査を行い、掲載(アクセプト)、修正後に掲載、掲載拒否(リジェクト)などの判定を行うものである。何度かの修正を経て学術雑誌に掲載される場合は、初版の投稿から掲載まで数ヶ月から数年を要することが多い。
査読制度は投稿された論文の中から一定水準のものを抽出するに当たっては有効であるが、論文の優劣に絶対的な基準は無いため、一定水準の論文が選定された後は査読者と論文の相性によって採択の可否が左右される場合もある。したがって、ひとつの論文がある雑誌に掲載拒否されても、別の学術雑誌では掲載されるという場合もある。このため、稀に同一論文を同時に複数雑誌に投稿することが起こるが、当然モラルに反する行為であり、判明すれば有形無形に相応のペナルティが課される。一方、一度掲載拒否された論文を改訂した後に別の学術雑誌に投稿することはモラル違反ではない。
また、従来の学問に全く無かったような画期的な発見について、査読者がその価値を理解できずに掲載が拒否され、後にその価値が判明する場合が稀にある。
[編集] 論文作成法
論文執筆の基本
論文を執筆するにあたって、独創的な理論展開をする上では、執筆者自身の主張と明らかにしたい課題が不可欠である。その上では執筆者本人による研究分析、実験、実地調査、アンケート調査などによって主張の正当性を検証するとともに、客観的な視点や反対意見への洞察もまた重要となる。 ただ、その手法は分野・執筆者により様々であり、論文作成において絶対的な統一ルールがあるわけではなく、執筆の上ではその分野の慣習が重視される。
執筆段階
論文の執筆手法は様々である。しかし、模範的な手法があるとすれば以下のような例があげられる。
テーマの選択→論文提出までのスケジュール→文献資料収集→先行研究→独自の主張を検討→論文の骨組みと素案づくり→執筆、全体の見直し・調整など
論文は教科書や解説書ではない。よって、論文を読む側が当人の分析や主張のみですべてが理解できるとは限らない。そうした意味では本文中には言及しなかった背景などを脚注として記すことが重要となる。また、執筆者が用いた資料や他者の理論などを引用した場合の出典を明らかにする上でも、脚注によって自己の主張と他者の主張の区別がなされている必要がある。脚注にも、分野や執筆者により様々であり、ページの最後につける場合や論文の最後に後注としてつける場合がある。
文献の引用の場合は、著者名 著名 頁(ページ) 出版社 年度 が明らかにされる必要がある。順序は欧米の場合、または分野により様々である。同じ文献を複数回用いる場合は、著者名を記し前掲書と書いた上でページ数を記しておく。
論文執筆にあたって、参照した文献は論文の最後に一覧として明記されている必要がある。引用した場合は脚注の覧にページ数まで記すが、参照文献の場合は必ずしも要求されない。脚注に引用・参照した文献をすべて明記することで、参照文献の一覧を設けない場合もあるが、脚注に執筆に用いた文献が明記されている場合でも、参照文献リストがついていた方が親切である。
[編集] 執筆手段
旧来は原稿用紙にて自筆(手書き)で書かれた。昨今は専ら、パソコンの文書作成ソフトが一般的である。Microsoft Wordまたは一太郎シリーズが主流だが、論文作成ソフトとしては、フリーソフトのLaTeXが高い地位を得つつある。