一太郎
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一太郎(いちたろう)は、ジャストシステムが販売する日本語ワープロソフトの名称であり、同社の看板製品である。また、同社の登録商標となっている。現在の最新バージョンは「一太郎2007」である。
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[編集] 名前の由来
浮川和宣社長が学生時代に家庭教師をしていて、後に病死した中学生「太朗」君の名にちなんでつけられた。「太郎」が日本の男の子の代表的な名前であることや、「太郎よ、日本一になれ」という思いを込めている。「新太郎」も候補になったが、「新バージョンが出たとき混乱する」という理由で却下されたという。
また偶然ではあるが、ジャストシステムの地元徳島県ではこれが開発された当時に徳島市立動物園で全国的にキリンの太郎と象の花子のラブロマンスが話題になっていた。その為か、ほとんど発売時期の同じ同社のグラフィックソフトの名前は「花子」となっている。
[編集] 概説
一太郎Ver.1の発売当時は、管理工学研究所の「松」がワープロソフトウェアのシェアで大きなシェアを占めていた。当時としてはいちはやくDOSベースで開発された一太郎は、PC-9801のアーキテクチャに依存していた松と差別化し、日本語入力フロントエンドプロセッサ(FEP)の採用、多機種への移植、松のほぼ半値という低価格ながら引けを取らない機能などで松の牙城を崩し、日本語ワープロソフトの代名詞的存在として圧倒的なシェアを占めていった。事務所などのパソコンでは一太郎のみを使用することが多く、パソコン自体が一太郎であると誤解している人さえ存在した。 現在は一般的な日本語入力の操作になっているスペースキーで変換、リターン(Enter)キーで確定というスタイルは、JS-WORDから引き継いだ一太郎(ATOK)独特の操作法が、実質標準化していったものである。
しかし完成度が高く独占的なシェアを得ていたVer.3から、ジャストウィンドウを採用し花子などファミリーソフトとの統合を図ったVer.4への切り替え戦略に失敗し、不評を買った。[要出典]Ver.4およびジャストウィンドウは、当時としては高価だったEMSメモリやハードディスクドライブをほぼ必須としており(Ver.4に合わせてジャストシステムは自社ブランドでEMSメモリボードなどを提供していた)、上記のように一太郎専用機として使われることの多かったパソコンシステムに対しては過剰な投資が必要だったためである。このときは「ATOK7はいいがVer.4は不要」との声に対してATOKの単体販売が始められ、またノートパソコンブームの影響もあって一太郎dashで事実上Ver.3を復活させることになった。理想を追うあまり過剰なスペックを要求し旧来のユーザに見放されるという失敗は、一太郎7のときにも繰り返されることになる。
OSがWindowsに移行していた過渡期にジャストシステムは、当時は単なるアプリケーションソフト・ランチャー色が強かった上に日本語フォントの扱いが弱かったWindows 3.xの普及を軽視し、アプリケーションソフトメーカーごとにウィンドウシステムを用意すべきだとの持論を展開した。その回答として、すでに実績を持ちWYSIWYG機能に優れたジャストウィンドウを前面に押し出したが、Windowsの爆発的な普及によりジャストウィンドウは立場を失い、一方でWindowsへの対応には遅れが生じてしまった。
その後、遅れてWindows版を完成させるも、MicrosoftによるWordとExcel抱き合わせ販売などの拡販工作により、次第にWordにシェアを奪われていく(抱き合わせ販売については[1]参照)。特に、Windows95に対応する新バージョンの開発に大幅な遅れが生じ、そして登場した「一太郎7」では、一般的にパソコンに搭載されていた容量以上のメモリを要求してきたことや、処理速度が大きく遅くなったことで信頼を失い、すでにWindows95と同時発売されていたマイクロソフトのWord95に大きくシェアを奪われることになった。
一太郎7では、今後の開発における効率化を図るため、プログラムのコンポーネント化を行っていたが、それがプログラム全体の肥大化や処理速度の低下を招いてしまった、数ヵ月後に登場した一太郎8では処理速度は改善されたが、失われた信頼を回復するまでには至らなかった。
また、外部のデータベースソフトなどから、一太郎を通して一太郎文書内のオブジェクトをDOMツリーをたどるかたちでアクセスできる仕様に未だなっていないため、帳票印字ソフトとしては使いづらく、オフィスなどで大量導入してもスケールメリットが出にくいことも、市場がMS-Officeに流れる原因となった。
結果、現在では一太郎の機能の一部であった漢字変換ソフトウェアATOKが一太郎を凌ぐジャストシステムの主力製品となってしまった。しかしながら、現在でも文部科学省・防衛省・法務省などの官公庁や一部企業では、一太郎を標準のワープロソフトとして指定している。
Windows版のほか、一部バージョンはMacintoshやOS/2、Linuxにも移植されている(Macintosh版はバージョン5のみで開発終了)。Java版の一太郎Arkも発売されている。ノートパソコン向けに軽量化した「一太郎dash」「一太郎lite」シリーズ、家庭用統合ソフト「ジャストホーム」に同梱される「一太郎Home」シリーズ、小学生向けの「一太郎スマイル」シリーズ、中学・高校生向けの「一太郎ジャンプ」シリーズ、文芸作品作成に最適化された「一太郎 文藝」、公文書作成用の「一太郎ガバメント」など、多くのバリエーションがある。
2007年2月9日にWindows版の最新バージョン一太郎2007が発売された。初のWindows Vista正式対応。
バージョンナンバーを名前の頭に付けて、バージョン4なら「四太郎」、5なら「五太郎」とユーザーの間で区別されていたこともあった。四太郎の発音が落語に登場する与太郎に通じることから、Ver.4の使えなさへの批判をこめて広まった言い回しである。より手なじむ道具として、手書きにこだわり開発を続けている。
[編集] 歴史
- 1983年 - PC-100用日本語ワープロソフト「JS-WORD」を開発。
- 1984年 - IBM JXシリーズ向けに「jX-WORD」を発売。
- 1985年2月 - PC-9801シリーズ向けに「jX-WORD太郎」を発売。ATOK3を付属ソフトとして同梱。
- 1985年5月 - 「jX-WORD太郎」の後継製品として「一太郎」を発売。日本語入力ソフト「ATOK4」をFEP化し、ATOKがMS-DOS上のどのソフトからも使えるようになった。
- 1986年5月 - 「一太郎Ver.2」を発売。「新一太郎」と呼ばれた。「ATOK5」を搭載。
- 1987年6月 - 「一太郎Ver.3」を発売。「三太郎」と呼ばれた。コピープロテクトをやめ、ユーザーが自由にバックアップをできるようになった。花子とも連動。
- 1989年4月 - 「一太郎Ver.4」を発売。「四太郎」と呼ばれた。ジャストウィンドウと呼ばれるウィンドウシステムを搭載し、「一太郎」と「花子」や他のソフトが同時に使えるようになった。
- 1992年4月 - 「一太郎Ver.4」FM TOWNS対応版を発売。
- 1993年4月 - 「一太郎Ver.5」を発売。「ATOK8」搭載。ハードディスクドライブへのインストールが必須となる。Windows版、Macintosh版、OS/2版も開発。WYSIWYGを実現した。
- 1995年1月 - 「一太郎Ver.6」を発売。
- 1995年7月 - 「一太郎Ver.5 for Macintosh」を発売。
- 1995年8月 - 「一太郎Ver.6.3」を発売。インターネット対応を図った。
- 1996年9月 - 「一太郎7」を発売。Windows95に初めて正式対応。
- 1997年2月 - 「一太郎8」を発売。
- これ以降拡張子が*.jtdに統一される。OfficeEdition版はUnicodeに対応し、約2万文字を収録した拡張漢字フォントが付属していた。
- 1998年9月 - 「一太郎9」を発売。
- 1999年9月 - 「一太郎10」を発売。ワークシートに対応。
- 2001年2月 - 「一太郎11」を発売。オンラインストレージサービス「インターネットディスク」と連携。
- 2002年2月 - 「一太郎12」を発売。ナレッジウィンドウを追加。
- 2003年2月 - 「一太郎13」を発売。
- 2004年2月 - 「一太郎2004」を発売。アウトライン編集機能を追加。
- 2005年2月 - 「一太郎2005」を発売。
- 2005年9月 - 「一太郎 文藝」を発売。
- 2006年2月 - 「一太郎2006」を発売。
- 2006年9月には、追加モジュールによりODF(Open Document Format)に対応した。
- 2007年2月 - 「一太郎2007」を発売。
- なお、発売予定日前日の8日に統合オフィスソフトJUST Suite 2007のインストーラに不具合が発見されたため、3月9日に発売延期が発表された(一太郎や花子など単体製品のインストーラには問題がないため予定通り発売)。
[編集] 累計出荷本数の推移
- 1991年11月7日 - 100万本
- 1994年6月 - 200万本
- 1995年3月 - 300万本
- 1995年12月 - 400万本
- 1996年4月19日 - 500万本
- 1996年10月11日 - 700万本
- 1997年1月 - 800万本
- 1997年9月19日 - 1000万本
- 1999年7月 - 1200万本
- 2002年12月 - 1600万本
- 2005年2月 - 1800万本
(「jX-WORD太郎」と「一太郎」の合計。ジャストシステム発表による)
[編集] 2005年以降の動向
- 2005年現在でも一部の医療機関静岡がんセンター・東京北社会保険病院・などや文部科学省(各地方の教育委員会・学校教職員含む)・防衛庁(主に陸上・航空自衛隊)・法務省などの官公庁や東洋経済新報社・野村證券・日本経済新聞社・ソフトバンク・共同通信社・JR各社などの一部の企業では一太郎を標準のワープロソフトとして指定している。また、法務省(裁判所)では過去に作成された裁判関連のツールが一太郎で作成されている関係上職員の大半が一太郎をインストールして使用していると関係者の話がある。実際に中央省庁を狙った一太郎の脆弱性を利用したウイルスも出現している[2](言うまでもないがアプリケーションのシェアに関係なくインターネットを利用したコンピュータの使用の際はウイルスチェックが必要と言える)。
- 「一太郎 文藝」の存在が示すように、一太郎およびATOKは、文筆業者などからは長年にわたり熱狂的ともいえる支持を受けている。現に有名な映画やドラマの脚本家の殆どは一太郎で執筆しているという。脚本執筆の際、ATOKの日本語変換能力や一太郎の編集能力は大変重要であると、とある脚本家が数年前に雑誌のインタビューで答えている。
- 2006年に4月~10月にかけて防衛庁に事務用PCが大量導入された。これまで私物のパソコンで業務を行っていたことから、ファイル共有ソフトWinnyをインストールしたPCからのデータ流出事件があり、推定5万6千台を導入することにより業務での私物PC使用を一掃するためである。しかし導入されたPCに一太郎はインストールされておらず、Microsoft Wordの使用が推奨されることとなった。市販のPC購入時にすでにMicrosoft Wordがプリインストールされており、今回導入した全てのPCに一太郎を導入するとさらに経費がかさむためである。ただし、2006年11月現在でも使い勝手の良さから一太郎を個人(部隊)で購入し、業務用として登録することにより使用している部隊及び隊員もいる。根強い人気と業務効率の良さが現在でもそういった状況を作っていると思われる。
- 個人でも一太郎の熱狂的なファンがまだいる。
[編集] MS-Wordとの主な違い
MS-Wordとの主な違いは以下の通り。
- 利点
- 罫線が書きやすい
- 日本人のために開発された日本語ワープロなので以下の特徴がある
- 原稿用紙など日本でよく利用される用紙の雛形が標準で用意されている
- 縦書きの機能が充実している
- 自由な位置から文章を書き出せる(MS-Wordではマウスによるダブルクリックのみ対応。キーボードでは未対応。)
- Wordなどのファイルも開け、他形式での保存も出来る
- 欠点
- 世界標準であるMS-Wordに比べて日本ローカルなので、国外でのファイルの運用などに支障がある(この点についてはジャストシステムが一太郎をODFに対応させたので今後解消されるみこみである)
- MS-Wordで一太郎形式のファイルが開けない(一応、MS-Word側の拡張機能で不完全ではあるが一太郎8くらいまでは対応)
- 一太郎でMS-Word形式のファイルを開いた際の互換性はバージョンアップの度に向上しているものの、どうしても(仕方ないこととはいえ)完全とはいえず場合によってはかなりレイアウトが崩れることもある
- (高機能なためか)多少重い
- 世界標準であるMS-Wordに比べて日本ローカルなので、国外でのファイルの運用などに支障がある(この点についてはジャストシステムが一太郎をODFに対応させたので今後解消されるみこみである)
[編集] 関連項目
- 松 : DOS時代のライバルソフトウェア
- Microsoft Word : Windows時代のライバルソフトウェア
- ATOK : 一太郎に付属するかな漢字変換ソフトウェア(日本語入力システム)
- 一太郎検定
- Justsystem Office/一太郎Office/JUST Suite
- アレアハングル : 韓国版一太郎といえる韓国の代表的ワープロソフト
[編集] 外部リンク
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