学士
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学士(がくし)とは、「学問を行う者」を原義とする語で、次のような多様な意味がある。
- 現在の学位の1つ。博士の学位、修士の学位および専門職学位に準ずる。この項目で解説する。学士の学位は「学士(専攻分野)」と表記される。通称して学士号といわれる。学士に準ずる学位として短期大学士、準ずる称号として準学士がある。
- 前項の「学士の学位」前身は、「学士の称号」であった。専攻分野ごとに定められた固有の学士の称号を付与した。(例)法学…法学士、経営学…経営学士。1991年の学校教育法および学位規則の改正により、学士に関する規定が改められ、現行の学位となる。なお、従前の制度において授与された学士の称号は1991年以降、学位と看做されることとなった。
- 学問を専門とする人のことを学士という。いわゆる学者。ただし、肩書きや称号を意味するものではない。
- 日本の律令制下において皇太子に経書の講義をした教官を東宮学士という。位階は従五位下に相当する。
- いわゆる、市民カレッジなどで、学位ではない称号として市民学士の称号が授与されるケースもある。
- 文部科学省におかれる特別の機関「日本学士院」の名称としても用いられる。また、日本学士院賞の名称にも使われている。
- 「社団法人学士会」の名称にも用いられている。同会は、旧帝国大学および帝国大学を前身とする国立大学出身者の博士・修士・専門職・学士の学位を有する者並びにそれらの大学の学長・教授・助教授からなる者によって構成され、以上の者は「学士会館」を利用する資格を有する。
[編集] 学士の学位の概要
日本における学士の学位は、学士号ともいい、学校教育法第68条の2第1項及び学位規則第2条の規定に基づき大学を卒業した者に授与される。また、特例として、学校教育法第68条の2第4項第1号及び学位規則第6条の規定に基づき短期大学若しくは高等専門学校を卒業した者(又は大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)第31条の規定による単位等大学における一定の単位の修得又は短期大学若しくは高等専門学校に置かれる専攻科のうち大学評価・学位授与機構が定める要件を満たすものにおける一定の学修その他文部科学大臣が別に定める学修を行った者)で、かつ、大学評価・学位授与機構が行う審査に合格した者に対し授与される旨が規定されている。1991年(平成3年)6月30日以前の学士号は学位でなく称号とされていたが、同年7月1日に施行された学校教育法及び学位規則の改正により、同日以降に付与される学士は博士・修士などと同様に「学位」の一つとして規定されるようになった。なお、学校教育法の一部を改正する法律(平成3年法律第23号)附則第4項の規定により、旧制度時代に称号として付与された学士についても、学位とみなすこととなっている。
従前の学士の称号は法学士、経済学士などのように「学士」の前に専攻名を冠したものであったのに対して、現行の学位制度では学士(法学)、学士(経済学)のように統一的に「学士」とした上で専攻分野を括弧書きで付記することされた。なお、前述のとおり旧制度時代の称号の学士も学位とみなされるが、当該制度改正に際して表記まで新制度方式に書き換える措置はとられなかったため、旧制度時代取得の学士はそのまま経済学士のように表記することとなっている。
英訳はBachelor。
すでに学士の学位を有する者が、大学に学士入学して卒業したり、科目等履修生として必要な単位を取得して大学評価・学位授与機構に申請することにより学位を取得することで、通算して2つ以上の学士の学位の授与されることをダブルディグリーという。
[編集] 学士号の意義
学士号は明治期においては、称号の扱いであったが、大学卒業人口が少なかった面もあり、その権威性は今日と比較にならないほど高かった。ただし「学士」は大正9年の「大学令」公布までは、帝国大学の卒業生に限られていた[1]。学士号を指して広く「学士様」と尊称された時期もある(明治時代には「学士様ならお嫁に上げよか」といわれた。しかし「大学は出たけれど」に象徴されるように大正初期以降の社会においては増加する高学歴者を受け入れる場所が、官界以外殆どなく、学士は常に過剰で就職も困難であった。そのあおりで財閥に学士が就職することが起こった)。未だ大学進学率の高くなかった戦前日本においては『娘やるなら学士様へ』という映画もつくられたのも、大学卒業生ないしそれに与えられる学士号の権威性の高さを如実に表すものであるといえる。特に戦前では、学士号保有者について記す場合、氏名の後に学士号を付記されていた。やがて、戦前から戦後にかけて大学の数と進学率が高まるにつれ次第に、そうした傾向もなくなった。 特に最近では1990年代に入り、学校教育法並びに学位規則が改正され、学士号を学位とするなどの変更があったものの、大学学部卒業者人口が拡大し、いわゆる大卒が一般化したことで、学士の学位自体が意識されることは少なくなった。 これまで、資格取得の要件や他大学並びに他学部への学士入学の機会や、大学院進学の要件として保有することが求められてきたことから、学士号は社会なり次のステップアップを図る上での基礎資格的性格を帯びてきたともいえる。但し、中卒、高卒或いは高専卒、短大卒など大学を卒業せず社会に出た人にとって、この生涯学習の時代にあっては学士号もひとつの目標としてとらえる人も多い。これは独立行政法人大学評価・学位授与機構などの機関が発足し、大卒者以外にも学位取得の門戸を広げた結果によるものであり、教育を受ける権利などを鑑みてもとても意義のある傾向である。また、既に学位を取得している人も複数の学位を取るべく同機構の審査を受ける人もおり、学ぶ意欲、そして目標において学位取得を志願している人口も増えつつあるというのが現状である。特に現在の教育事情はイジメの深刻化により不登校者の数も多い現状にある。フリースクールなどに通ったり通信教育や独学により大検を取る人も多い。たとえ様々な事情はあっても、能力と意欲のある人に学位取得の機会を広げることによって、社会における可能性の拡大や再チャレンジに対して大きな原動力としていくことが期待される。
但し、学士号を取得することは確かに大卒者と同じ学力を有する証明にはなるが、キャリアやリクルートの面で必ずしも大卒者として遇せられるかどうかは別の話である。学士号を取得する機会を広げると同時に、より学士の学位が社会においてキャリアプランのバックアップにつながることが重要である。
特に4年制大学学部卒業者以外にも学士号取得の道が開けたことで、大学院修士課程(博士前期課程)及び専門職学位課程に入学の門戸が広がったことで、今後、修士号や専門職学位取得を志す人口も増えてくるのではないかと思われる。