超光速通信
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超光速通信(ちょうこうそくつうしん)は、光速より早く情報を伝える技術で、SFにしばしば登場する架空の通信技術である。
現実世界では、アルベルト・アインシュタインの相対性理論により、光速を超えて情報や物質を送ることは不可能とされているが、星々の世界を舞台とするSFでは、光年単位で離れている恒星間の交流の際に、こうした速度の限界によるタイムラグがあっては都合が悪いため、超光速航法や超光速通信が設定されている。
このような事情から、ハードSFからスペースオペラなど様々なSF作品では、光や電波による通常の通信のみならず、硬軟とりまぜ多種多様な超光速通信方法が編み出されている。
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[編集] さまざまな超光速通信
[編集] タキオン通信
ジェラルド・ファインバーグの提唱した、超光速の仮想粒子タキオンを用いた通信。正の質量を持つ通常物質(ターディオン)は常に光速より遅い速度で飛び、光速に達するためには無限大のエネルギーが必要なので、絶対に光速の壁を破ることはできないが、静止質量が虚数とされるタキオンは逆に常に光速より早く飛ぶことができるとされる。タキオンはエネルギーを加えられるにしたがって減速して光速に接近するが、決して光速より遅くはなれないという、通常物質とは逆の意味での「光速の壁」が存在する。
ただし、タキオンは未だ仮想上の存在であり、実際に検出されたという有力な報告はないため、まだ夢の通信技術である。また、たとえタキオンが実在したとしても、仮に通常物質とは一切干渉しないとしたら、観測すること、通信することは不可能なのではないかとも考えられる。
[編集] 先進波通信
マクスウェル方程式から導き出される先進波(先行波)を利用した通信。マクスウェル方程式からは、時間について対称的な、未来に向かって進む遅延波と過去に向かって進む先進波の二種類の解が導き出されるが、このうち我々が使用できるのは、発信してから時間を置いて受信する遅延波の電磁波のみである。時間をさかのぼって発信より前に受信する先進波は決して観測にかからない。そのため、実用面では先進波の存在は無視される。この非対称について、リチャード・P・ファインマンは、未来から過去へ来る先進波は過去から未来へ向かう遅延波によって相殺され、観測できなくなるという吸収理論を唱えた。仮にこの先進波を利用できるとすれば、過去へ向かって情報を送信することもできる。
[編集] EPR通信
二つの量子の相関関係が時を置かず即座に他方に伝わるという、アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックスを応用した超光速通信。実際には、この方法で情報を送ることはできないようであるが、量子力学のアクロバット解釈としてよく登場する。
[編集] 並行宇宙を介する通信
超光速航行に使用できる並行宇宙が存在する場合、その宇宙での光速はこちらの宇宙の光速を基準とするとそれより速いと推測される。(宇宙船が、光速より遥かに遅い速度で超光速移動という結果を得るのだから、電波はもちろんこちらの宇宙の基準で超光速で伝播する、という理屈である。)よって、通信電波を一度その宇宙を経由することで受信側に超光速で伝えるというわけである。同種のものに、ワームホールを介する通信もある。
[編集] 超光速船による通信
超光速航法が可能であれば、その船に手紙や記憶装置など送信すべき情報を記録したものを乗せ、目的地へ輸送させることで超光速で情報を伝えることも可能となる。いわば超光速の飛脚便である。
[編集] タイムマシンによる通信
同じく時間を遡るタイムマシンが可能であれば、たとえ光速より遅い速度で情報を運んでも、目的地へ到着する前に時間を遡れば、結果的に超光速で情報を運んだことになる。この方法だと過去へ向かって情報を送ることも可能となるので、因果律が崩壊する危険がある。
[編集] 棒による通信
どんなに力を加えても一切変形しない、極めて長い棒を星と星の間にわたして、その棒を押したり引いたりすることでモールス信号などの形で情報を送る。これは直感的には、たとえば一光年の長さの棒があれば、この棒を押すことで一光年先でも瞬時に情報を送ることができるように見える。
しかし、実際には固体物質の一端を押した場合でも、結局はある一端の原子・分子の運動が、原子・分子同士の固体結合力により波動として隣り合う原子・分子に伝達され、最終的に他の一端まで到達するのである。その波動の伝達速度は流体などを考慮すれば、どんなに硬度の高い固体であっても明らかに光の速度より遅い事は、物理学的には直感的に理解できるだろう。(地震も、波動として地殻表面の地面を伝わるのである。)
また、仮に一光年の長さの棒を作り、宇宙空間(真空)に設置できたとする。真空中であるため、超天体スケールの棒であっても空気抵抗や摩擦などの影響を受けず、一端を押すのに膨大なエネルギーは必要としないように見える。
しかし、そのようなスケールの棒が、他のさまざまな星などから受ける重力の影響はゼロではないことから、その棒がその全長に渡って数学的に直線であることは保証されない。すなわち、天文学的に長い棒においては、他の物質からの重力による極めて僅かな棒の歪みも、前述の固体移動による波動の伝達に対して波動の拡散、すなわち棒の屈曲や破壊を生じさせえるのである。結果、天体的スケールで見ると、ゴムや糸などの一端を押しているのと同等になり、他の一端には固体移動の波動は伝達されない事になる。
結局、現在の物理学において、現実的な固体により製造された棒によっては、超光速通信はできない。