輻輳
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輻輳 (ふくそう) は、ものが1ヶ所に集中し混雑する様態を云い、情報の輻輳、車両の輻輳、輻輳地域などの用例がある。医学、生物学領域では「輻湊」と表記する例もある。輻は弓矢の矢から転じて車輪の輻(や)を指し、車輪の外周と車軸の間を支える放射状の棒状の部材。英語の「スポーク(spoke)」に相当する。輳または湊の字は、ともに「物が1ヶ所に集まる」という意味。輳(こしき)は前述の輻が集まる円形の部材を指し、中心に車軸が通る。英語の「ハブ(hub)」に相当する。湊は地名にもあるように船が集まることから、港の意味である。
- 輻輳眼球運動(両目が同時に内側を向く目の動き)の略として、眼科では「輻湊」と表記する。
- イベントや災害などの時などに、地域限定的もしくは広範囲に発生する電話のつながりにくい現象として知られる、通信分野における輻輳。
本稿では、一般性のある通信分野について詳述する。また、輻輳の発生を回避する技術や輻輳状態から速やかに回復させる技術のことを輻輳制御(congestion control)と呼び、輻輳の状態が悪化し、通信効率が非常に低くなる状態を輻輳崩壊と呼ぶ。
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[編集] 輻輳現象の詳細
電話などの通信は、道路交通に例える事ができる。道路のように通信にも許容量があり、それを超えると通信に支障が発生する。つまり通信の交通渋滞といえる。
一般的には、輻輳が限界に達する前に通信を制限して、通信システムのダウンを防ぐようになっており、輻輳が発生している場合に電話をかけた時には、「お客様のおかけになった電話は大変混みあってかかりにくくなっております」というような音声が流れ、回線が接続されない状態に置かれる。
[編集] 主な発生原因
基本的には、大量の電話(専門用語では「呼」(こ)という)が短時間に一時的に集中することで輻輳状態が発生する。主な原因としては、次のようなケースがある。
別の原因としては、いわゆる「ワン切り」、通信回線の故障(容量の低下)によるケースもある。
[編集] 災害発生時
大地震や風水害などの、大きな被害をもたらす自然災害が発生した場合、全国各地より、特定の地域(=被災地)に安否の確認が集中する。各地より観光客が集中するようなもので、目的地(=電話先)にたどり着くことが容易ではない。また、災害による通行止めのように、通信機器や通信回線自体も被災していることがあり、通常の通信許容量より減少していることもある。
これらは災害型輻輳とも呼ばれる。特に災害の規模が大きい場合には、輻輳状態を回避する目的で災害用伝言ダイヤルが設置されることがある。
なお、輻輳が発生し、通信網の停止という最悪の事態を回避する目的で、通信量の制限が設定されることがある。この設定時は、一般の回線からは接続が制限される。しかし、公衆電話など優先電話に指定されている電話からは制限は適用されない。
[編集] チケット予約など
コンサートやスポーツイベントなどの人気チケット予約などでは、予約開始時間到来とともに、受け付け窓口に大量の電話が集中する。さらに、つながらなかった場合は再度かけ直すため、さらに現象は悪化する傾向が強い。
このようなケースは企画型輻輳とも呼ばれる。現在はこれを回避する目的でコールセンターの全国分散が進み、企画型輻輳の発生は減少傾向にある。
なお、災害時と同様に輻輳による制限が設定される場合がある。しかし、災害と異なり優先電話からの電話も関係なく制限される。「チケットは公衆電話からの方がつながりやすい」と思われがちだが、これは誤りなので注意が必要。
[編集] 携帯電話・PHSの場合
災害やチケット予約よりも、次のようなケースで輻輳が発生することが多い。この場合、携帯電話機に「しばらくお待ちください」といった表示がされる。なおPHSは利用者が少ないため輻輳の頻度は低い。
- 年末年始(元日午前0~2時頃)の「おめでとうコール」。この場合、事前に網全体の通信量を絞ることが多い。
- 花火、成人式、コミックマーケットなど、多数の人の集まる大規模イベントの開催会場周辺での通話の急増。
- 乗降客の多い大都市ターミナル駅周辺の夜18~21時頃(俗に言う「アフターファイブ」)での通話の急増。
- 天候の急変(例えば電車が途中駅に足止めされた場合)などによる突発的な通話の急増。
[編集] インターネットにおける輻輳
インターネットにおける通信では、データがパケットという単位に分割され、端末からいくつもの中継ルーターを経由して相手の端末へ送られることで通信する。ネットワークに流入するデータが増え通信回線の許容量を超えた場合、パケットは中継ルーターにおいて待ち行列にいれられ処理待ちとなる。これが遅延の原因となる。また中継ルーターにおいて待ち行列には限りがあるため、パケットが入りきらない場合は転送待ちパケットのいくつかを廃棄しなければならなくなる。このパケットの配送の遅延や廃棄される状況がインターネットにおける輻輳である。
輻輳が発生すると、ネットワーク利用者はデータ転送がスムーズに行われないことに気づき、データ転送を中止してからから同じデータ転送を再び行ったり、複数のアプリケーションからデータ転送をおこなったりする。このような行為により輻輳は悪化する。
TCPなどの通信プロトコルでは、輻輳により再送を自動で行うような物があり、輻輳が悪化する。そのためTCPでは輻輳崩壊へ至らないための様々な輻輳回避アルゴリズムが考えられている。その核となっているのが、スロースタートと輻輳回避という二つの通信段階である。
1986年10月頃 初期のARPAネット(アーパネット)において輻輳崩壊が観測されている。
参考文献
- 西成活裕、渋滞学、新潮社2006年
- 岩波講座インターネット3 トランスポートプロトコル、岩波書店2001年
- W.Richard Stevens、井上尚司、橘康夫、詳解TCP/IP、SOFTBANK BOOKS 1997年
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 電話網のふくそうについて(NTT東日本/NTT西日本)
- 3分間NetWorking 輻輳制御