辰砂
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辰砂(しんしゃ、Cinnabar)は硫化水銀(II) (HgS) からなる鉱物である。赤色の辰砂と黒色の黒辰砂とが天然に存在するが、いずれも硫化水銀(II) である。別名に赤色硫化水銀、丹薬、朱砂などがある。日本では古来「丹(に)」と呼ばれた。また硫化水銀には、酸化数の異なる黒色の硫化水銀(I) (Hg2S) も存在するが不安定で、速やかに単体水銀と硫化水銀(II) に不均化する。
不透明な赤褐色の塊状、あるいは透明感のある深紅色の菱面体結晶として産出し、錬丹術などでの水銀の精製の他に、古来より赤色(朱色)の顔料や漢方薬(水銀を含むので摂取は危険であり、現在ではまず使わない)の原料として珍重されてきた。
中国の辰州(現在の湖南省近辺)で多く産出したことから、「辰砂」と呼ばれるようになった。日本では弥生時代から産出が知られ、いわゆる魏志倭人伝の邪馬台国にも「其山 丹有」と記述されている。古墳の内壁や石棺の彩色や壁画に使用されていた。奈良県、徳島県、大分県、熊本県などで産する。
辰砂を空気中で 400–600 ℃ に加熱すると、水銀蒸気と亜硫酸ガス(二酸化硫黄)が生じる。この水銀蒸気を冷却凝縮させることで水銀を精製する。
硫化水銀(II) + 酸素 → 水銀 + 二酸化硫黄
陶芸で用いられる辰砂釉は、この辰砂と同じく美しい赤色を発色する釉薬だが、水銀ではなく銅を含んだ釉薬を用い、還元焼成したものである。また、押印用朱肉の色素としても用いられる。
[編集] 黒辰砂
黒辰砂(くろしんしゃ、metacinnabar)の化学組成は同じ HgS だが、結晶構造が異なる。辰砂を 344 ℃に加熱すると黒辰砂が生成し、温度が下がると辰砂に戻る。