黄信
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黄信(こうしん)は中国の小説で四大奇書の一つである『水滸伝』の登場人物。
梁山泊第三十八位の好漢。宿星は地煞星(ちさつせい)。渾名は鎮三山(ちんさんざん)という。鎮三山とは、青州兵馬都監だった彼が、清風山、二竜山、桃花山の山賊を一網打尽にしてやると豪語したことに由来する。喪門剣(そうもんけん)という、騎兵用の長剣を得物とする。元々は秦明(しんめい)の部下だったが、あることをきっかけに梁山泊入りすることになる。
七十二ある地煞星の上位に位置する好漢であり、林冲、孫立らとともに騎兵の先鋒としての出陣が多いが、敵の捕虜になる、矢に当たって負傷するなど、貧乏くじを引かされることも少なくない。決して弱い人物ではなくむしろ実力は地煞星でもかなり高い方(二つ下の席次にある宣賛と相打ちになった敵将と、黄信は互角の勝負を演じている。この事から察するに黄信の席次が不当に高いのではなく、すぐ下にいる孫立の席次が不当に低いと考えたほうが自然である)なのだが林冲、孫立らの強さを引き立たせるかませ犬的立場にあると思われる。
おかげで読者には「ヘタレ」「自信過剰」「不当に席次が高い」「名前負けしている」等と認識されてしまっているが、この事がかえって彼の知名度や人気を高めるのを手伝っている。後述するが横山光輝版『水滸伝』から入った読者にはまた違った印象を与える人物である。ちなみに独身。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 生涯
青州の高位軍官を務めていた黄信は、ある年の正月、青州の管轄下にある清風塞の長官劉高から、副長官の花栄が清風山の山賊の首領をかくまっていると報告を受けた。山賊嫌いの黄信は激怒、精兵五十人を引き連れて清風塞に赴くと、花栄を油断させて捕らえ、山賊の首領とされている人物と共に青州へ送還する事にした。しかし途中、清風山を通った時、燕順、王英、鄭天寿の三人の山賊とその手下たちの襲撃を受ける。黄信は喪門剣を抜き放って抵抗するが、相手の首領三人が一度に斬りかかってきたため、さすがに敵わず止む無く逃走、花栄と山賊の首領は奪われ、同行していた劉高も拉致された挙句惨殺されてしまった。さらに討伐に向かった上司秦明は山賊たちに散々打ち破られた挙句、彼等に降り、清風塞に残っていた黄信にも仲間入りを進めてきた。
ここで、黄信は初めて山賊の首領とされていた人物は、義人として有名な宋江と言う男で、全ては劉高のでっち上げだったと知る。黄信は自分があれ程嫌っていた山賊以下の役人に従っていたことを恥じ、仲間入りを承諾、花栄の家族を救出するため清風塞を襲撃した山賊たちのため城門を内側から開放、そのまま山賊に加わると、近く清風山に朝廷直属の討伐軍が派遣されることを報告した。この情報に従い一行は清風山から梁山泊へ合流、黄信も頭領の一人に名を連ねた。
その後は、故郷に戻って逮捕され江州に流罪となった宋江が、無実の罪で処刑されかけた時、黄信も救出に参加した。祝家荘との戦いでは、先鋒の一隊を率いるも緒戦で迷路に迷った挙句、罠にかかって捕虜となり、続く高唐州攻めでは留守居、呼延灼率いる討伐隊との戦いでは流れ矢に当たって負傷したため見せ場は無く、因縁の青州戦にも参加できなかった。百八星集結後は騎兵小彪将十六騎の筆頭となり、主に孫立とともに林冲の副将格として活躍する。
王慶討伐戦では最終決戦で敵将潘忠の首を挙げ、方臘討伐戦で味方、敵将それぞれが一騎討ちをすることになった時代表八人の一人に選出され、敵将郭世興と互角に立ち回り、歙州では強敵・王寅を倒すのに加わった。こうして無事都まで凱旋した黄信は官職と称号を授けられ、方臘討伐の中で死んだかつての秦明に代わって、青州の総司令官に任命された。
[編集] 補足
漫画家横山光輝の中国史シリーズの第一作である『水滸伝』に於いて、黄信は原作とは全く違う立場の人物になっている。
この作品中では劉高に騙されて花栄と宋江を捕らえ、清風山の盗賊に奪還される所までは同じだが、この後、原作とは違い黄信自身が清風山の討伐軍を率いる。一騎打ちでは花栄と互角に戦うが、計略にかかって大敗、山賊たちに捕縛される。宋江や花栄の勧誘を蹴って青州に戻るが、知事慕容彦達の邪推により妻と子供を惨殺されやむにやまれず梁山泊に入るという筋になり、梁山泊入山後も軍の主力としてかなり大活躍する。また謹厳で友情に厚い人物に描かれており、入山の経緯の悲劇性と相まって人気もかなり高い。
これは、この作品の黄信が、原作の黄信と秦明の役割両方を担っているため原作とはまるで別人になったのである。その理由は定かではないが、日本ではこの漫画から水滸伝を知る読者も多く、『水滸伝』を始め、横山作品の登場人物が多く登場するOVA『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』でも主人公を叱咤する大きな見せ場があるため、原作を読んで「なぜ秦明などというどこぞの馬の骨が黄信の出番を奪っているのだろう」と首をかしげたり、漫画と原作のギャップに愕然とするものも多い。
[編集] 関連項目