AT饋電方式
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AT饋電方式(エーティーきでんほうしき、AT-Feeding)は、正式にはAT交流饋電方式といい、電気鉄道で鉄道車両に電気を送る方式の1つである。常用漢字の制約で『ATき電方式』と表記されることもある。 誕生の背景はBT饋電方式を参照のこと。
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[編集] 原理
ATとはオートトランス(Auto Transformer、単巻変圧器と呼ばれることがある)の略で、それは一次巻線と二次巻線が共用される部分のある変圧器を云う。
この両端に交流電圧2Eをかけると、巻線の途中の交流電圧は両端からの巻数比に応じて「自動的に」固定される。巻線の中点をとればその交流電圧は端のどちらからみても全体の半分のEとなる。
この中点をレールに、巻線の一方の端を架線を通して単相交流電源の一方の端に、もう一方の端をAT帰線を通じて電源のもう一方の端に繋いでやると、1:1オートトランスの働きにより、
- 架線-レール間、レール-AT帰線間の交流電圧が常にE-電圧降下になり、
- 帰線側の電圧降下に見合う逆極性電流をAT帰線に流してレールの電流を吸い上げる。
すなわち、走行する車両からレールへと流れた電流は、オートトランスから電源寄りでAT帰線に吸い上げられる。
一部の複線区間では、帰線を設けず、上下線の給電位相を逆相とし、上下架線(饋電線)同士が互いの帰線を兼ねるため、帰線電流はレールを通じて近くを走る対向列車の走行電流となり変電所へ戻る。この場合は、上下線の架線にそれぞれ電気的に接続したAT饋電線を設け、この線間電圧が2Eとなる。 しかし、上下線別でのき電停止による保守作業や上下線別での事故復旧が出来なくなるため帰線を設ける線区もある
[編集] 特長
オートトランスはおよそ5km~10kmごとに設置される。
AT饋電線は架線の近くに配置され、また架線電流とAT饋電線の電流とは逆向きであるため、互いに影響を打ち消しあい、BT饋電法同様に電磁誘導現象による通信線への影響を小さくすることができる。
対地電圧はAT帰線が架線と逆極性であるため、絶縁離隔から見れば架線電圧のままで済むが、送電電圧としては実質2倍である。電圧が高いぶん電圧降下が軽減されるため、変電所の数を減らすことができる。
複線区間においては、上下線の給電位相を逆相とし、下り線のAT帰線を上り線のAT饋電線と兼ねる(その逆も)ことで、BT饋電法と比較し饋電線が半分で済む利点がある。また、帰線電流が対向列車の走行電流を兼ねるため、オートトランスを通過する電流が少なく、トランス容量を小さくできる利点がある。
それまでのBT饋電方式において架線を約4km毎に区切るブースターセクションが不要となり集電は安定し保守も楽になる、などの特長がある。
近年新設された日本国内の鉄道の交流電化は、ほぼ全てこの形式で行われている。
[編集] 新幹線「のぞみ」とAT饋電方式
1964年の東海道新幹線開業当初にはBT饋電方式が採用されたが、この方式ではパンタグラフがブースターセクションを通過するたびに過大なアークを引き起こし、架線を断線させる事故が度々発生していた。
また、走行する列車編成内のパンタグラフ同士が電気的に繋がれていると渡り線などの異相給電部を短絡してしまうため、0系車両は2両を1ユニットとする電動車の各ユニット毎に独立した、16両編成で合計8基のパンタグラフを備えていた。しかしこの方式は列車からみて、パンタグラフの架線からの離線率増加、走行抵抗の増大など更なる高速化の大きな妨げであった上、設備側においても高速走行時の騒音、電磁誘導による障害、トロリ線の摩耗、多数のパンタグラフによる架線の振動など問題が多かった。
高速で走る列車のパンタグラフが架線と常に接触していることは不可能である。しかし独立した1基のパンタグラフでは、離線した後も電流はアークによって継続する。そこで、複数のパンタグラフを特高圧引通線で電気的に繋いでおけば(ブス引き通し)、1つのパンタグラフが離線しても他のパンタグラフから電流が供給されるため(転流)、アークの発生を低減させることが可能となる。
こうしたことから1984年から渡り線部の同一給電化と、AT饋電方式への改良が始まり、1991年に完成をみた。ブースターセクションが撤去され、また同一給電化で電動車ユニットを編成内で全て電気的に繋いだ複数パンタグラフ並列接続で離線アークを大きく抑えることができるようになり、16両編成でもパンタグラフを2基にまで減らした300系を走らせることが可能となった。
時速270kmののぞみの運転は、こうした電気設備の改良もあって初めて可能になったものである。またこの後、100系にも順次特高圧引通線が設けられ、パンタグラフの数が削減されても複数並列接続のためアークの発生も大幅に低減した。
[編集] 関連項目
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