エルキュール・ポアロ
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エルキュール・ポアロ(ポワロとも、Hercule Poirot)はアガサ・クリスティ作の推理小説に登場する架空の名探偵。シャーロック・ホームズに匹敵する、時代を越え現在にまで至る支持を得た名探偵のひとり。
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[編集] 人物設定
ベルギーワロン語(フランス語の諸方言)圏出身のワロン人。名前のエルキュールは、ギリシア神話に登場する怪力の英雄ヘラクレスのフランス語読み。アシル(アキレウスのフランス語読み)という双子の兄弟がいる。『ビッグ4』に登場するアシルは、実はエルキュールの扮装であった事を匂わせるように書かれており、実在しない人物であるかのように暈されているが、後に発表された短編集『ヘラクレスの冒険』では実在するかのようにも捉えうる設定になっている。
ベルギーでは警察官として活躍、署長にまで出世した後に退職していたが、第一次世界大戦の勃発により、ドイツ軍が侵攻したため、母国を離れてイギリスに亡命することを余儀なくされる。その後はイギリスで探偵として、親友のアーサー・ヘイスティングス大尉とともに活躍する。ヘイスティングス大尉は彼の「ワトスン」役を務める事が多く、『スタイルズ荘の怪事件』を始めとする、彼が語り手となる作品では、彼の何気ないひと言が大きなヒントとなって事件を解決に導くのがほとんど定番となっている。ヘイスティングス大尉のほかにも複数の作品に登場する人物としては、作者自身がモデルであると思われる友人の女流推理作家アリアドニ・オリヴァ夫人、有能な秘書ミス・レモン、ロンドン警視庁のジャップ主任警部などがいる。
外見的には、ヘラクレスの名前のイメージとは正反対の小男で緑の眼に卵型の頭、大きな口髭をたくわえる。晩年は頭頂部が完全に禿げ上がった。自信家で気障な言動の一方、物腰柔らかで、常に服装と口髭に注意を払う、おしゃれな紳士でもある。カボチャの栽培が趣味で、引退して悠々自適に生活しながらささやかにカボチャ(実際は冬瓜)を育てる事を夢見ている(『アクロイド殺し』などでこれはほぼ実現している)が、難事件・怪事件が彼に引退を許さず、また彼自身も実際には隠棲生活には適応できない様子である(『アクロイド殺し』では不意に癇癪を起こし、せっかくのカボチャを塀越しに投げ捨てるという暴挙に及んでいる)。
捜査に際しても彼一流の手法をとる。ホームズ流の地面にはいつくばって証拠品を集めるやり方を、「猟犬じゃあるまいし」と小ばかにし(とはいえ、そんな方法で証拠集めをしたりすることも、ごくまれにある)、容疑者たちとの会話、または尋問を主な手がかりに、「灰色の脳細胞」を駆使した思考と心理洞察により真犯人を言い当て、数々の難事件を解決している。フランス語圏出身のため英語の合間合間に時々フランス語を混ぜたり、事件の真相に近づくと、「私の灰色の脳細胞が活動を始めた」と口走るのが癖。また、いつも行動を共にするヘイスティングス大尉にも「あなたの灰色の脳細胞を使いなさい」とよく諭している。 その、時として滑稽とも見える言動に容疑者たちは油断し、事件解決の手がかりとなる言葉を洩らしてしまう事もしばしばである。
最後の登場作品である『カーテン』において、生涯で2度の殺人を犯したと告白し、他界している。
[編集] 登場作品など
初登場はクリスティの処女作『スタイルズ荘の怪事件』(1920)。以後『カーテン』(75)まで長編は33編、また50編以上の短編に登場(他にクリスティ自身がポアロ作品を数編戯曲化している)。代表的な作品は『アクロイド殺し』『オリエント急行の殺人』『ABC殺人事件』など。
『カーテン』はポアロ最後の作品だが、実際には1943年に書き上げられたポアロ22作目の長編である。彼女はこの作品を書き上げた後で金庫に封印し、自身の死後に刊行するよう出版社と契約した。しかし、1975年10月になって出版社にせき立てられる形で『カーテン』は発表され、奇しくもその数ヶ月後にクリスティは亡くなった。『カーテン』の舞台であるスタイルズ荘は、アガサのデビュー作にしてポアロが始めて登場した作品でもある『スタイルズ荘の怪事件』の舞台と同じ場所であり、『カーテン』というタイトルには、「ポアロという探偵の人生の幕を引く」という意味が込められている。
[編集] 映像作品
映像作品ではアルバート・フィニー、ピーター・ユスティノフ、デヴィッド・スーシェなどが演じ、映画、TVシリーズなどが作られた。中でもデヴィッド・スーシェが演じるTVシリーズ『名探偵ポワロ』は、「もしアガサが見たら最も気に入っただろう」と言われる程の人気作になり、現在ではスーシェ演じるポアロが一般的なポアロ像となっている。
[編集] 余談
ホームズ以来のそれまでの推理小説の主人公から一線を画した探偵像は、滑稽ともいえるほどの独特の魅力で高い人気を誇り、ミス・マープルシリーズと並んでクリスティが生涯書き継ぐ代表シリーズとなった。しかし、アガサ自身は自伝の中で、「初めの3、4作で彼を見捨て、もっと若い誰かで再出発すべきであった」とも述べている。
日本には第二次世界大戦前から紹介されており、現在でも日本語版でほぼ全てのポアロ作品を読める。
なお日本ではPoirotについて「ポアロ」と「ポワロ」の二つの表記が存在するが、フランス語でoiは「ォワ」という感じに発音するため、後者のほうが実際の発音に近い。昔はポワロ表記が常であったが、翻訳独占契約を結んだ早川書房がポアロ表記で出版し始めてから、ポアロ表記が広まった。そのため昔ながらのファンは、早川書房版をはじめとするポアロ表記に違和感を感じ、東京創元社版やTVドラマのポワロ表記に親近感を覚えていたりもする。
[編集] 関連事項
カテゴリ: エルキュール・ポアロ | 文学の登場人物 | 名探偵