アガサ・クリスティ
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アガサ・クリスティ(Agatha Christie、1890年9月15日 - 1976年1月12日)は、イギリスの推理作家である。数多くのミステリ作品を世に送り出し、「ミステリの女王」と呼ばれる。本名はアガサ・メアリ・クラリッサ・クリスティ(Agatha Mary Clarissa Christie)。極度の人見知りで取材嫌いは有名。日本でも早くから紹介され、現在は早川書房からクリスティー文庫としてほぼ全ての作品が翻訳出版されている。代表作に『アクロイド殺し』『ABC殺人事件』『そして誰もいなくなった』等。ディテクションクラブ4代会長。薬剤師免許を所持していた。
目次 |
[編集] 業績
現在確認できるものだけでも、長編66作、中短編156作、戯曲15作、メアリ・ウェストマコット(Mary Westmacott)名義の普通小説6作、アガサ・クリスティ・マローワン名義の作品2作、その他3作という膨大な作品を執筆し、エルキュール・ポアロやミス・マープル、トミーとタペンスなど多くの名探偵を産み出した。彼女の作品は100語以上の言語に翻訳され、世界中で10億部、聖書とシェークスピアの次によく読まれているという。クリスティはギネスブックで「史上最高のベストセラー作家」に認定されている。
またそれでいて、トリックに対する大規模なフェア・アンフェア論争が巻き起こったり、本国イギリスではしばしば描写面で批判の的になるなど、当時から同業者を巻き込んで是非が論じられている点も特筆される。
[編集] 略歴
- 1890年9月15日 イギリスの保養地デヴォン州のトーキーにて、フレデリック・アルヴァ・ミラーと妻クララの次女、アガサ・メアリ・クラリッサ・ミラーとして生まれる。正規の学校教育は受けず母親から教育を受ける。
- 1901年 父が死去。この頃から詩や短編小説を投稿し始める。ちなみに、詩や小説を書くことになった理由は、インフルエンザにかかり、読む本がなかったからだという。
- 1909年 自身初の長編小説『砂漠の雪』を書き、作家イーデン・フィルポッツの指導を受ける。
- 1914年 アーチボルド・クリスティ大尉と結婚。第一次大戦中には薬剤師として勤務し、そこで毒薬の知識を得る。
- 1919年 娘ロザリンドが誕生。
- 1920年 数々の出版社で不採用にされたのち、ようやく『スタイルズ荘の怪事件』を出版、ミステリ作家としてデビューする。
- 1926年 『アクロイド殺し』を発表。大胆なトリックをめぐって、フェアかアンフェアかの大論争がミステリファンの間で起き、一躍有名に。また、母が死去する。この年アガサは謎の失踪事件を起こす。
- 1928年 アーチボルトと離婚。アーチボルドは愛人と再婚。
- 1930年 中東に旅行した折に、14歳年下の考古学者のマックス・マローワン(1904年5月6日-1978年8月19日)と出会い、9月11日再婚する。
- 1943年 『カーテン』及び『スリーピングマーダー』を執筆。死後出版の契約を結ぶ。
- 1956年 大英勲章第三位 (CBE) 叙勲。
- 1971年 大英勲章第二位 (DBE) 叙勲。
- 1973年 『運命の裏木戸』を発表。最後に執筆されたミステリ作品となる。
- 1975年 『カーテン』の発表を許可する。
- 1976年1月12日 高齢のため風邪をこじらせ静養先のイギリス・ウォリングフォードの自宅で死去。死後『スリーピングマーダー』が発表される。
[編集] 失踪事件
1926年12月3日アガサ・クリスティは自宅から失踪を遂げる。乗っていた車が沼のほとりで発見されるという自身のミステリ小説さながらの謎の失踪事件に世間は大騒ぎとなり、夫アーチボルド大尉が妻殺しの容疑をかけられるが、11日後にアガサは保養地ハロゲイトのホテルに夫の愛人の名前で投宿しているところを発見される。アーチボルドは妻は記憶喪失であり失踪期間のことは何も覚えていないと発表、アガサもこの事件に対して何も発言しなかったため、真相は謎のままだが、夫の浮気を知ったアガサがアーチボルドを懲らしめるために、わざと謎めいた失踪を遂げたのではないかと推測されていた。後年の診察結果ではやはり記憶喪失である可能性が高まった。
[編集] 登場する主な探偵
- エルキュール・ポアロ
- ミス・ジェーン・マープル
- パーカー・パイン
- ハーリ・クイン
- バトル警視
- トミーとタペンス
- ジョニー・レース大佐
[編集] 著作リスト
[編集] 長編
- 1920年 スタイルズ荘の怪事件 (The Mysterious Affair at Styles)
- 1922年 秘密機関 (The Secret Adversary)
- 1923年 ゴルフ場殺人事件 (Murder on the Links)
- 1924年 茶色の服の男 (The Man in the Brown Suit)
- 1925年 チムニーズ館の秘密 (The Secret of Chimneys)
- 1926年 アクロイド殺し (The Murder of Roger Ackroyd)
- 1927年 ビッグ4 (The Big Four)
- 1928年 青列車の秘密 (The Mystery of the Blue Train)
- 1929年 七つの時計 (The Seven Dials Mystery)
- 1930年 牧師館の殺人 (The murder at the Vicarag)
- 1931年 シタフォードの秘密 (The Sittaford Mystery、米題The Murder at Hazelmoor)
- 1932年 邪悪の家 (Peril at End House)
- 1933年 エッジウェア卿の死 (Lord Edgware Dies、米題Thirteen at Dinner)
- 1934年 オリエント急行の殺人 (Murder on the Orient Express、米題Murder in the Calais Coach)
- 1934年 なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? (Why didn't they ask Evans?、米題the Boomerang Clue)
- 1935年 三幕の殺人 (Three Act Tragedy、米題Murder in Three Acts)
- 1935年 雲をつかむ死 (Death in the Clouds、米題Death in the Air)
- 1936年 ABC殺人事件 (The ABC Murders、米改題The Alphabet Murders)
- 1936年 メソポタミヤの殺人 (Murder in Mesopotamia)
- 1936年 ひらいたトランプ (Cards on the Table)
- 1937年 物言えぬ証人 (Dumb Witness、米題Poirot Loses a Client、米改題Murder at Littlegreen House、Mystery at Little green House)
- 1937年 ナイルに死す (Death on the Nile)
- 1938年 死との約束 (Appointment with Death)
- 1939年 ポアロのクリスマス (Hercule Poirot's Christmas、米題Murder for Christmas、米改題A Holiday for Murder)
- 1939年 殺人は容易だ (Murder is Easy、米題Easy to Kill)
- 1939年 そして誰もいなくなった (Ten Little Niggers、米題および英改題And Then There Were None、米改題Ten Little Indians)
- 1940年 杉の柩 (Sad Cypress)
- 1940年 愛国殺人 (One, Two, Buckle My Shoe、米題The Patriotic Murders、米改題An Overdose of Death)
- 1941年 白昼の悪魔 (Evil under the Sun)
- 1941年 NかMか (N or M?)
- 1942年 書斎の死体 (The Body in the Library)
- 1943年 五匹の子豚 (Five Little Pigs、米題Murder in Retrospect)
- 1943年 動く指 (The Moving Finger、英版と米版の冒頭部分にかなりの違いあり、邦訳は英版に準拠)
- 1944年 ゼロ時間へ (Towards Zero)
- 1945年 死が最後にやってくる (Death comes as the End)
- 1945年 忘られぬ死 (Sparkling Cyanide、米題Remembered Death)
- 1946年 ホロー荘の殺人 (The Hollow、米改題Murder After Hours)
- 1948年 満潮に乗って (Taken at the Flood、米題There Is a Tide...)
- 1949年 ねじれた家 (Crooked House)
- 1950年 予告殺人 (A Murder is Announced)
- 1951年 バグダッドの秘密 (They came to Baghdad)
- 1952年 マギンティ夫人は死んだ (Mrs. McGinty's Dead、米改題Blood Will Tell)
- 1952年 魔術の殺人 (They Do It with Mirrors、米題Murder with Mirrors)
- 1953年 葬儀を終えて (After the Funeral、米題Funerals Are Fatal、英改題Murder at the Gallop)
- 1953年 ポケットにライ麦を (A Pocketful of Rye)
- 1954年 死への旅 (Destination Unknown、米題So Many Steps to Death)
- 1955年 ヒッコリー・ロードの殺人 (Hickory, Dickory, Dock、米題Hickory, Dickory, Death)
- 1956年 死者のあやまち (Dead Man's Folly)
- 1957年 パディントン発4時50分 (4.50 from Paddington、米題What Mrs. McGillicuddy Saw!、米改題Murder, She Said)
- 1957年 無実はさいなむ (Ordeal by Innocence)
- 1959年 鳩のなかの猫 (Cat among the Pigeons)
- 1961年 蒼ざめた馬 (The Pale Horse)
- 1962年 鏡は横にひび割れて (The Mirror Crack'd from Side to Side、米題The Mirror Crack'd)
- 1963年 複数の時計 (The Clocks)
- 1964年 カリブ海の秘密 (A Caribbean Mystery)
- 1965年 バートラム・ホテルにて (At Bertram's Hotel)
- 1966年 第三の女 (Third Girl)
- 1967年 終りなき夜に生れつく (Endless Night)
- 1968年 親指のうずき (By the Pricking of my Thumbs)
- 1969年 ハロウィーン・パーティ (Hallowe'en Party)
- 1970年 フランクフルトへの乗客 (Passenger to Frankfurt)
- 1971年 復讐の女神 (Nemesis)
- 1972年 象は忘れない (Elephants Can Remember)
- 1973年 運命の裏木戸 (Postern of Fate)
- 1975年 カーテン (Curtain)
- 1976年 スリーピング・マーダー (Sleeping Murder)
[編集] 短編集
編纂の違いによって膨大な出版数があるため、早川書房で翻訳出版されているもののみ掲載。
- 1924年 ポアロ登場 (Poirot Investigates、早川書房版は3編を加え翌年に出版された米版に準拠)
- 1929年 おしどり探偵 (Partners in Crime)
- 1930年 謎のクィン氏 (The Mysterious Mr.Quin)
- 1932年 火曜クラブ (The Thirteen Problems、米題The Tuesday Club Murders)
- 1933年 死の猟犬 (The Hound of Death)
- 1934年 リスタデール卿の謎 (The Listerdale mystery)
- 1934年 パーカー・パイン登場 (Parker Pyne Investigates、米題Mr. Parker Pyne, Detective)
- 1937年 死人の鏡 (Murder in the Mews、米題Dead Man's Mirror)
- 1939年 The Regatta Mystery (米版のみ、早川書房版は『黄色いアイリス (Yellow Iris)※注1』を表題に1編差し換え)
- 1947年 ヘラクレスの冒険 (The Labours of Hercules)
- 1950年 Three Blind Mice and Other Stories (改題The Mousetrap and Other Stories、米版のみ、早川書房版は『愛の探偵たち (The Love Detectives)※注2』を表題に1編削除)
- 1951年 The Under Dog and Other Stories (米版のみ、早川書房版は『教会で死んだ男 (Sanctuary and Other Stories)』として1編削除5編追加)
- 1960年 クリスマス・プディングの冒険 (The Adventure of the Christmas Pudding)
- 1997年 While the Light Last (拾遺集、早川書房版は『マン島の黄金 (Manx Gold)※注3』を表題に1編追加、クリスティー文庫になりさらに2編追加)
- ※注1 短編集のタイトルとして併記されている英語タイトルは『The Regatta Mystery and Other Stories』
- ※注2 同上『Three Blind Mice and Other Stories』
- ※注3 同上『While the Light Last and Other Stories』
短編集に収録されていない作品
- 1943年 ポワロとレガッタ (Poirot and the Regatta Mystery、短編『レガッタ・デーの事件 (The Regatta Mystery)』の初期バージョンでパーカー・パインの代わりにポアロが登場、光文社『EQ』1994年5月号掲載)
[編集] 推理小説以外の作品
メアリ・ウェストマコット名義のロマンス小説
- 1930年 愛の旋律 (Giant's Bread)
- 1934年 未完の肖像 (Unfinished Portrait)
- 1944年 春にして君を離れ (Absent in the Spring)
- 1947年 暗い抱擁 (The Rose and the Yew Tree)
- 1952年 娘は娘 (A Daughter's a Daughter)
- 1956年 愛の重さ (The Burden)
アガサ・クリスティ・マローワン名義の作品
- 1946年 さあ、あなたの暮らしぶりを話して (Come,Tell Me How You Live、旅行記、邦訳は1975年の改訂版に準拠)
- 1965年 ベツレヘムの星 (Star over Bethlehem、クリスマス・ストーリー集)
その他
- 1925年 The Road of Dreams (詩集、日本未発売)
- 1973年 Poems (詩集、日本未発売)
- 1977年 アガサ・クリスティー自伝 (An Autobiography)
[編集] 戯曲
クリスティ本人以外による戯曲化作品/小説化作品も併記
- 1929年 アリバイ (Alibi、1928年初演、マイケル・モートンによる『アクロイド殺し』の戯曲化、邦訳はクリスティー名義で出版)
- 1934年 ブラック・コーヒー (Black Coffee、1930年初演)
- 1937年 Love from a Stranger (1937年初演、フランク・ヴォスパーによる『ナイチンゲール荘』の戯曲化、日本未発売)
- 1945年 Peril at End House (1940年初演、アーノルド・リドレイによる『邪悪の家』の戯曲化、日本未発売)
- 1944年 そして誰もいなくなった (Ten Little Niggers、The Little Indians、And Then There Were None、1943年初演、同名長編の戯曲化、新水社より出版)
- 1945年 Appointment with Death (『死との約束』の戯曲化、日本未発売)
- 1946年 ナイル河上の殺人 (Murder on the Nile、『ナイルに死す』の戯曲化、岩谷書店『宝石』1955年6月増刊号収録)
- 1950年 Murder at the Vicarage (モイイー・チャールズおよびバーバラ・トイによる『牧師館の殺人』の戯曲化、日本未発売)
- 1952年 The Hollow (1951年初演、『ホロー荘の殺人』の戯曲化、日本未発売)
- 1954年 ねずみとり (The Mousetrap、 1952年初演、『三匹の盲ネズミ』の戯曲化)
- 1954年 検察側の証人 (Witness for the Prosecution、1953年初演、同名短編の戯曲化;1957年映画化、邦題「情婦」)
- 1957年 蜘蛛の巣 (Spider's Web、1954年初演)
- 1957年 Towards Zero (1956年初演、ジェラルド・ヴァーナーと共著、『ゼロ時間へ』の戯曲化、日本未発売)
- 1958年 評決 (Verdict、1958年初演、クリスティー文庫『ブラック・コーヒー』に収録)
- 1958年 招かれざる客 (The Unexpected Guest、1958年初演)
- 1960年 殺人をもう一度 (Go Back for Murder、長編『五匹の子豚』をポアロなしで戯曲化、光文社より出版)
- 1963年 Rule of Three (戯曲集、1962年初演、邦訳は『海浜の午後』として出版)
- 海浜の午後 (Afternoon at the Seaside)
- 患者 (The Patient)
- 鼠たち (The Rats)
- 1973年 アクナーテン (Akhnaton、執筆は1937年、未上演)
- 1978年 A Murder is Announced (1977年初演、レスリー・ダーボンによる長編『予告殺人』の戯曲化、日本未発売)
- 1978年 The Mousetrap and other Plays (日本未発売)
- 1981年 Cards on the Table (1981年初演、レスリー・ダーボンによる長編『ひらいたトランプ』の戯曲化、日本未発売)
- 1997年 ブラック・コーヒー(小説版) (Black Coffee、チャールズ・オズボーンによる同名戯曲の小説化)
- 1999年 招かれざる客 (The Unexpected Guest、チャールズ・オズボーンによる同名戯曲の小説化、講談社より出版)
- 2001年 Spider's Web (チャールズ・オズボーンによる戯曲『蜘蛛の巣』の小説化、日本未発売)
[編集] リレー小説
- 1931年 漂う提督 (The Floating Admiral、共著、クリスティは第4章を担当)
- 1983年 屏風のかげに (Behind the Screen、1930年初出、共著、クリスティは第2章を担当、中央公論社『ザ・スクープ』収録)
- 1983年 ザ・スクープ (The Scoop、1931年初出、共著、クリスティは第2章および第4章を担当、中央公論社より出版)
※出版年は原書のもの。邦題は特に出版社が明記されているもの以外は早川書房版による。
※著作リスト参考文献
- 『アガサ・クリスティー』モニカ・グリンペンベルク著/岩坂彰訳 (1997年、講談社)
- 『ミステリ・ハンドブック アガサ・クリスティー』ディック・ライリー、パム・マカリスター編/森英俊監訳 (1999年、原書房)
[編集] 外部リンク
- All About Agatha Christie A Comprehensive guide to the life and work of Agatha Christie
- アガサクリスティ日本オフィシャルサイト
- Agatha Christie: The Official Online Home
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