サイドカー
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サイドカー
- 側車付きのオートバイ。本稿で詳説。
- カクテルの一種→サイドカー (カクテル)
サイドカー(Sidecar)とは、オートバイや自転車などの二輪車の横にもう一輪の車輪を取り付けた、変則的な三輪車、あるいはその横に取り付ける部分のことを言う。側車とも呼ぶ。
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[編集] 歴史
四輪の自動車がまだ高価で一般化する前、オートバイや自転車は今よりももっと実用的で手軽な足として使われていたが、それらは大きな荷物を運ぶには適さず、また安全に複数名が搭乗することも困難だった。そこで、倒れることなく走れる乗り物として、オートバイや自転車の横にもう一輪の車輪を取り付けたサイドカーが考案された。日本語でサイドカーの事を「側車」オートバイのことを「単車」と呼び、この「単車」と呼称する風習は現在も生き残っているが、それは黎明期にはサイドカーは今よりももっと一般的であり、「サイドカーがついていないオートバイ」のことを区別して単車と呼んだことの名残である。そして第一次世界大戦~第二次世界大戦初期でサイドカーの性能は頂点に達し、特に旧ナチスドイツは、大型輸送車両の生産力不足を補うために当時の技術で四輪自動車を製造するよりはるかにコストが安く、ある程度の複数人数の兵員や、貨物を数で可搬出来る輸送手段として、積極的にサイドカーを採用し、偵察や火砲の牽引、兵員輸送任務に従事させた。そしてBMW-R71型やBMW-R75型という後生に名を残す名車を生むことになり、ソビエト連邦でも同様の移動手段の悩みを解消するために、先のBMWの車種をコピーしたIMZ-M72型を生産し多用した。このように自家用自動車黎明期の時代、サイドカーは荷物や人の輸送用・軍用などとして広く使われていたが、その後、軍用としてはジープ(アメリカ軍)・キューベルワーゲンやシュビムワーゲン(ドイツ軍)などのコストを重視した本格的大量生産型の四輪軍用車が登場し、それらの生産技術が民需転用され、当時の最新技術の自家用車が安価で一般市場に出回るようになったこと、そして輸送用としてはオート三輪を経て四輪のトラックや乗用車が広まったことによって、その実用性を失っていった。
日本においては、1937年に勃発した日中戦争時に中国戦線に投入された側車部隊がうまく運用できず、元々サイドカーに対しては冷遇するような土壌にあったが、第二次世界大戦終戦後、当時のGHQによる自動車生産規制により、1950年頃まで事実上の四輪自家用車の製造が規制されていたような状態にあったため、その時に比較的規制が緩やかであった三輪自動車やサイドカーが安価な国民の乗り物として一時期ながら一気に普及した時期があった。その時代、サイドカーは上記の通り日本でも非常にポピュラーな乗り物で、日本中にサイドカーを製造、カスタム化するメーカーがあったが、GHQの規制撤廃後、四輪自家用車製造、特に軽自動車製造の気運が一気に高まり、スバル360に代表される安価な軽自動車の登場によって、サイドカー市場は一気に縮小し現在に至っている。
今日、独特の操縦性やオープンエア感覚などもあり、実用性を失ったあとも根強いファンがいる。ただし、希少性が増すにつれて、非常に高価な乗り物となってしまい、趣味性の強化とあいまった悪循環におちいっている。
[編集] 形態および技術
一般に、オートバイの左右どちらかの横にもう一輪の車輪を置き、オートバイとその追加された車輪との間をフレームで結び、オートバイとその車輪との間のスペースに乗車用スペースあるいは荷物用スペースを設置するという形態をとる。乗車用スペースが置かれる場合、その乗車用設備の外装のことを、「舟」あるいは「カー」と呼び、対してオートバイを「本車」と呼ぶ。オートバイの右側に舟があるものを「右カー」と呼び、左側にあるものを「左カー」と呼ぶ。また、サイドカーが付いていない状態のオートバイを「ソロ」または「単車」と呼ぶこともある。
舟を取り付ける側は、一般に右側通行の国ではバイクの右、左側通行の国ではバイクの左である(四輪車の運転席と同じ側にオートバイが来るようにする)。パレードなどに使われる儀杖用のものの場合、左右のものを組み合わせてシンメトリーに並走することもある。
現在では、「オートバイの車体+サイドカーのフレーム」という構成にはせず、全体をサイドカー専用設計としたものもある。また、そういった設計のものの場合には、オートバイ本体とサイドカー側の舟は独立しておらず、一体のデザイン(クラウザー・ドマーニ等)とされる。
技術的には、サイドカーをつけている場合にはオートバイ単体のように、降りて引っ張って人力で後退させるということが困難であるため、バックギアあるいはバック走行用のモーターを持つものが多いという特徴を持つ。また、まれにサイドカー側の車輪をも駆動して走行性能の向上を目指したものがある(「陸王97式陸軍サイドカー」、カザフ(ロシア)製ウラル、ドニエプルなど)IMZ社のウラルサイドカーは日本代理店もあり2輪駆動モデルが現在も新車販売されている。
[編集] 特徴
サイドカーは、極端に左右が非対称の乗り物であるという特徴があり、そのため操縦性も他の乗り物と比べて非常に特殊なものとなっている。
一般に、乗り物は左右のどちらにコーナリングするにしてもおおむね似たような挙動をとるものが多い。しかしサイドカーの場合、左右の挙動が全く異なる。また、加速・減速の際にも、片側に大きな質量を抱えているため、まっすぐには走らない。具体的には、1輪駆動のサイドカーの場合、加速する際には側車側の車輪が駆動輪より必ず回転が遅れるという特性のため、サイドカーをつけている側を支点にハンドルを取られ、減速する際には逆にブレーキをかけた駆動輪よりも、質量保存の影響で、側車側の車輪が必ず遅れて減速するため、サイドカーをつけていない側を支点にハンドルを取られる(これらは、調整などによって多少は軽減できるが、全くそういう傾向をなくすことは困難である)。ロシア製ウラル・サイドカーのように側車側の車輪も駆動したり、側車側の車輪にもブレーキシステムを持つ2WDモデルでは上記のような車体の挙動変化が穏やかになる傾向がある。二輪駆動サイドカーの場合、側車側の車輪にも、駆動輪と同様の駆動力を伝えることができるので、上記のような特性が劇的に改善される。ただし、これにより運動特性がより四輪車に近いものになり、構造上単車単独での走行が不可能になるため、これが理由で、日本において二輪駆動サイドカーは自動二輪免許で運転できず、普通自動車免許が必要になるのである。
そして、サイドカーを通常の二輪車の感覚で乗ると、その運転感覚がまったく違うため注意が必要である。モノが二輪車がついているため、バイク感覚で乗って大変な目に合う人も多い。基本的にサイドカーは単車ではなく「四輪自動車」であるという認識で乗る必要がある。サイドカーは通常の二輪車のようにコーナリング時に体重移動で車体を斜めにして重力を逃がす事を利用して曲がることが出来ない。サイドカーのコーナリングは基本的に自動車のそれとほぼ同じで、左に曲がるときは、車体が右に傾こうとし、右に曲がるときは左に傾く。従ってバイクのような柔軟な体重移動で容易にコーナリングが出来ないため、ハンドルに依存して方向を変更する頻度が高く、この特性を知らずに乗ると、コーナリング時に体が旋回方向とは逆に投げ出されてしまう現象が起こる。
こういった特殊な操縦特性があるため、そういう意味でも、先進国では、現代の進んだ車両と比較して、日常生活での実用性という点で今日ではいまひとつであり、趣味性がクローズアップされる乗り物となっているが、国民の平均所得で自動車を買うにはまだ高価な一部の発展途上国などでは市民の重要な足として一般的な二輪車を改造した形の物が現在も多用されており、他、軍隊や警察組織などではその小回りの効く高い機動性と二輪車では不可能な運搬性能が重宝され、斥候用や、要人車両警護用など、そのような組織でも頻繁に使用されている。
なお、「オートバイ+α」と受け止められているため小さなものというイメージがあるが、実際には普通の乗用車などより幅が大きい物も多い、かなり大柄な乗り物である。
[編集] スポーツ
サイドカーは、オートバイの一種であり、当然のようにモータースポーツにも使われる。
ロードレースに該当するものとしては、ニーラーと呼ばれる非常に車高が低い特殊なサイドカーを使ったものがある。ニーラーは、オートバイとサイドカーが、フレームやカウリング(風除け)なども含めて一体でデザインされたものとなっている。通常のオートバイとは異なり、ドライバー(操縦者)およびパッセンジャー(同乗者)のいずれもがひざで体重を支えるような乗車姿勢を取る(ゆえに、ニー-膝-から、ニーラーと呼ばれる)。
- 注釈
- 一般にオートバイの操縦者は「ライダー」と呼ばれるが、サイドカーに関しては「ドライバー」と呼ばれることが多い。サイドカーが、オートバイと四輪車の中間に位置するものであり、操縦テクニックはどちらかというならば、やや四輪車に近いためであろう。
モトクロスに該当するものとしてサイドカーモトクロス、トライアルに該当するものとしてサイドカートライアルというものもある。これらは、ニーラーに比べるとだいぶオートバイの原型を残している。
これらのサイドカースポーツに共通しているのは、「ドライバーがひとりで操縦するものではない」ということである。コーナリングなどの際には、パッセンジャーの体重移動なども大きく影響するため、ドライバーとパッセンジャーのそれぞれが高い技術を持っていることだけでは足らず、ふたりの息がどのくらい合っているかによっても成績が左右される。これは、ラリーやパワーボートレースなどとも共通する要素であり、モータースポーツとしては独特の分野を築いている。
[編集] 日本における法律的要件
- 自動二輪車のサイドカー
- 自動二輪車にサイドカーを付けた場合には、道路交通法上は自動二輪車に準ずるものとして扱われ、運転免許には排気量相当の自動二輪車免許が必要となる。種々の二人乗り規制は全て適用除外となる。
- ただしサイドカーと車体を分離したとき、オートバイとして単独で運転できない車両については、トライク同様の扱いとなり普通自動車免許が必要となる(ウラル型2WDサイドカーはこれに該当。別名サイドトライクなどとも呼ばれる。現行法で非常に分かりやすく言えば、エンジンで2輪を駆動させるサイドカーは3輪トライク(免許は普通自動車)扱いとなり、1輪しか駆動させないサイドカーは、通常の自動二輪扱いとなると考えて差し支えない)
- 道路運送車両法上においては、側車付二輪自動車(側車付の二輪の自動車)として扱われ、排気量250ccを超える車両は二輪の小型自動車、50ccを超える場合は二輪の軽自動車としての扱いとなる。50cc超~250cc以下についても原付二種扱いとはならないため、高速道路の通行が一定の条件下で二人乗りも含めて可能となる。ただし、通常の原付二種バイクに単にサイドカーを付けただけでは、灯火や制動性能その他について、二輪の軽自動車としての道路運送車両の保安基準の要件を満たさない可能性が高い。
- その他のサイドカー
- 50cc以下の二輪の原動機付自転車にサイドカーを付けた場合には、道路交通法上は、直ちに原動機付自転車に準ずるものとして扱われる訳ではない。よって、三輪の車両として扱われるが、平成2年12月6日総理府告示第48号により、通常は輪距が〇・五〇メートルを超えるために、サイドカーを付けた場合には20cc以下でないと道路交通法上は原動機付自転車とは扱われない。
- すなわち20cc超~50cc以下の二輪の原動機付自転車にサイドカーを付けた場合には、三輪のミニカーとして扱われる。ミニカーの乗車定員は通常1人であるため、サイドカー側に乗車することは出来ない。普通免許(ミニカー限定を含め)も必要となる。また、通常の原付一種バイクに単にサイドカーを付けただけでは、灯火や制動性能その他について、ミニカーとしての道路運送車両の保安基準の要件を満たさない可能性が高い。
- 20cc以下の二輪の原動機付自転車にサイドカーを付けた場合には、一応、三輪の原動機付自転車扱いになるが、いずれにせよ原動機付自転車の乗車定員が1人と定められているため、やはりサイドカー側に乗車することは出来ない。原付免許で運転可能。
- いずれの場合も、サイドカーに貨物積載は、積載物重量制限の範囲内で可能である。
- さらに自転車にサイドカーを付けた場合も、法令の規制により乗車定員が1人と定められているため、原動機付自転車等の場合と同様になる。
- 50cc以下の二輪の原動機付自転車にサイドカーを付けた場合には、道路交通法上は、直ちに原動機付自転車に準ずるものとして扱われる訳ではない。よって、三輪の車両として扱われるが、平成2年12月6日総理府告示第48号により、通常は輪距が〇・五〇メートルを超えるために、サイドカーを付けた場合には20cc以下でないと道路交通法上は原動機付自転車とは扱われない。
[編集] サイドカー・メーカー
[編集] 新車で入手可能なメーカー
- MZ(ドイツ) [1]
- ハーレーダビッドソン(米国)
- Watsonian-Squire(英国) 創業1912年 [2]
- IMZ-URAL(ロシア) BMWレプリカ
- Izhmash(ロシア) BMWレプリカ
- Dnepr(ウクライナ) BMWレプリカ
- 長江 (サイドカー)(Chang Jiang Motorworks)(中国) BMWレプリカ
- クラウザー(ドイツ)
[編集] 歴史的なメーカー
[編集] サイドカーが登場する作品
上記にもあるように趣味性の高さ故に、軍事用・民生用を問わず映画やアニメ作品などに登場することがある。
- 人造人間キカイダー、* キカイダー01
- 秘密戦隊ゴレンジャー
- 北斗の拳 他にも多数のバイクが登場
- ああっ女神さまっ
- 仮面ライダー555
- メタルギアソリッド3
- 勇者指令ダグオン
- インディ・ジョーンズ / 最後の聖戦
[編集] 文献
- Janusz Piekaliewicz(第二次世界大戦のBMW R12とR75) : Die BMW Kräder R12/R75 im Zweiten Weltkrieg, Motorbuch Verlag, 1977, ISBN 3-87943-446-8