ステンレス鋼
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ステンレス鋼(stainless steel)は、耐食性を向上させる為に、クロムを含ませた合金鋼である。鉄に約10.5%以上のクロムを含ませた合金を指し、しばしばニッケルも含ませる(JIS G 0203「鉄鋼用語」の定義による)。ステンレススチールや不銹鋼(ふしゅうこう)ともいうが、一般的にはステンレスとか、略してステンなどと呼ばれる。略号はSUS。
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[編集] 概要
ステンレス鋼は、含有するクロムが空気中で酸素と結合して表面に不動態皮膜を作る為に銹び難い。この為、鍍や塗装をしなくても済み、屋外や湿気のある場所、化学薬品を扱う機械器具(13Cr)、厨房設備(13Cr)で用いられる。又、構造物や鉄道車両の外面、部品に用いられる(18Cr)。第二次大戦中には、銹び難さから軍刀(特に海軍)の刀身に用いられた事もあった。
近年は、誘導加熱(IH調理器)対応用の、ステンレス鋼でできた鍋ややかんが多く販売されている。
[編集] 取り扱い上の注意
ステンレス鋼の防銹性は、表面の不動態皮膜に依存するため、これが還元により破壊される要因に注意を要する。具体的には塩化物イオンなどが大量に存在すると、たとえステンレスといえども腐食が起こりうる。
また、ステンレス鋼は鉄に比べはるかに酸化されにくい(電位が高いという)ので、普通の鋼と接続すると電蝕を起こす。ステンレスの流しに空き缶やヘヤピンをおくと極端に銹びるのは、このせいである。電気温水器はステンレスであるから、鉄管で接続すると約10年で鉄管が破裂する。
ステンレス鋼においても他の金属と同様、銹は銹を呼ぶ。銹は不動態皮膜に比べて遥に不安定であるため、水道水などに含まれる鉄銹が定着することが要因となって、銹が進行する(もらい銹)。
又、ステンレス鋼は鋼鉄に比べて引張り強度が高く、また伸びが大きいためプレス曲げなど塑性加工性がよいが、構造用に用いるとクリープを起こすので、使用できない。
ステンレス鋼は全般的に切削性が悪く、旋盤やマシニングセンタなどで切削加工する場合、鉄や銅、アルミニウムと比べ、被削面の塑性変形による加工硬化が大きい。そのためセレンやリン、硫黄などを加えた快削材も利用される。
[編集] JISによる分類
JISによれば、ステンレス鋼は、その金属組織により次の5つに分類される。
- マルテンサイト系ステンレス鋼(martensitic stainless steels)
- フェライト系ステンレス鋼(ferritic stainless steels)
- オーステナイト系ステンレス鋼(austenitic stainless steels)
- オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(austenitic-ferritic stainless steels)
- 析出硬化系ステンレス鋼(precipitation hardening stainless steels)
この内、フェライト系およびマルテンサイト系のステンレス鋼は一般に鉄-クロム合金(クロム鋼)であり、オーステナイト系ステンレス鋼は鉄-クロム-ニッケル合金(クロム-ニッケル鋼)である。また、この他にオーステナイトとフェライトの二相組織を持つ二相ステンレス鋼や、析出硬化を利用して強度の向上を図った析出硬化系ステンレス鋼もある。ステンレス鋼として最も代表的なものは、オーステナイト系の18%クロム8%ニッケル(18-8)ステンレス鋼である。
JISで規定するステンレス鋼材料の規格票の例をいくつか示す。
- JIS G4303-1998 ステンレス鋼棒
- JIS G4304-1999 熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯
- JIS G4305-1999 冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯
また、代表的なステンレス材料の成分を上記から一部引用する。
- SUS201(オーステナイト系)Ni(3.5~5.5%)、Cr(16~18%)、Mn(5.5~7%)、N(0.25以下)
- SUS202(オーステナイト系)Ni(4~6%)、Cr(17~19%)、Mn(7.5~10%)、N(0.25以下)
- SUS301(オーステナイト系)Ni(6~8%)、Cr(16~18%)
- SUS302(オーステナイト系)Ni(8~10%)、Cr(17~19%)
- SUS303(オーステナイト系)Ni(8~10%)、Cr(17~19%)、Mo(0.60%以下の添加ができる)
- SUS304(オーステナイト系)Ni(8~10.5%)、Cr(18~20%)
- SUS305(オーステナイト系)Ni(10.5~13%)、Cr(17~19%)
- SUS316(オーステナイト系)Ni(10~14%)、Cr(16~18%)、Mo(2~3%)
- SUS317(オーステナイト系)Ni(11~15%)、Cr(18~20%)、Mo(3~4%)
- SUS329J1(オーステナイト・フェライト系)Ni(3~6%)、Cr(23~28%)、Mo(1~3%)
- SUS403(マルテンサイト系)Cr(11.5~13%)
- SUS405(フェライト系)Cr(11.5~14.5%)、Al(0.1~0.3%)
- SUS430(フェライト系)Cr(16~18%)
- SUS630(析出硬化系)Ni(3~5%)、Cr(15~17.5%)、Cu(3~5%)、Nb(0.15~0.45%)
オーステナイト系は非磁性体で、オーステナイト・フェライト系、フェライト系、マルテンサイト系、析出硬化系は磁性体(強磁性体)である。
表面処理の中で、意匠的に鏡面に磨いたもの、ヘアライン加工したものは建築物の中で用いられることがあり、素地での仕上げとなる場合は傷を保護するビニールなどの皮膜が貼り付けられていることが多い。
[編集] 表面仕上げ
ステンレス鋼は、主にその用途によって様々な表面仕上げを施して使用される。代表的なものは以下のとおり。
- No.1
- つや消しの白っぽい表面で、少しザラついた仕上がり。板材に熱をかけてロールで延ばす熱間圧延の後、表面を酸で洗い、汚れ等を取り除いたもの。
- 製造上1番目の工程で出来るため「No.1」と表す。
- 2D
- 光沢面が不要な場合に使用されるつや消し仕上げ。
- 2B
- 厨房のレンジフードなどに使われる、若干の光沢をもった仕上げ
- 製造上2番目の工程で出来、仕上げがブライト(光沢のある)状態のため「No.2B」と表す。
- BA
- 自動車部品や家電製品で使われる、光輝熱処理を行った光沢のある仕上げ
- ヘアライン (HL)
- 髪の毛状の細かい傷を連続してつけた仕上げ
- No.8
- 高い光沢を持つ鏡面仕上げ
[編集] 呼称
俗に、ステンレス鋼を「ステン」や「サス」と呼ぶことがある。前者はステンレスの略であるが、「ステンレス=汚れない、銹びない」から否定辞lessを省いて、その特性と正反対の「汚れ」「銹」と呼ぶ奇妙な慣習となっている。後者は品種番号のプリフィックス「SUS」を英語読みした呼び方([sΛs])である。数字のついた鋼は混同しない場合に限り、SUS304を「サス・さんまるよん」とか、単に「さんまるよん」と呼ぶことがある。