原子力
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原子力(げんしりょく)とは原子核反応により得られるエネルギー(核エネルギー)のこと、またはそのエネルギーを得る方法のこと。日本語では「原子力」と「核」という2つの類似の概念を動力用、兵器用といった文脈で使い分けることがある。英語では、「原子力」を「atomic energy」、「核」を「nuclear power」と呼ぶが、動力用・兵器用という区別ではない。
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[編集] 説明
物質を構成する天然の元素を原子番号順に水素からウランまで並べると、中央の鉄付近の元素の原子核が最も安定しており、これから離れるほど不安定になる。従って原子番号が特に小さい元素の原子核を合体させたり、原子番号が特に大きい元素の原子核を分割したりすると、この安定性の差に相当するポテンシャルエネルギーを熱エネルギーとして取り出すことができる。これらの2種類の核反応をそれぞれ核融合および核分裂と呼び、これらの核反応から得られるエネルギーが原子力である。核融合については原子番号が最も小さい水素の核融合が原子力として利用されている。核分裂については原子番号が最も大きいウランの核分裂が原子力として利用されている。さらにウランよりも原子番号が大きい人工元素プルトニウムを製造して利用することもある。核反応はガソリンの燃焼などの化学反応に比べて桁違いの大きさのエネルギーを発生する点が特徴である。
原子力は、核融合と核分裂という原理の違いのほかに、平和利用および軍事利用という利用目的の違いからも分類できる。水素の核融合は現在までに軍事利用として核兵器「水素爆弾」に利用されている。ウランやプルトニウムの核分裂は平和利用として原子力発電に利用され、また軍事利用として原子爆弾などの核兵器に利用されている。水素の核融合を平和利用として発電に利用するためには制御核融合と呼ばれる技術が必要であり、現在研究開発が進められている。(ITERを参照)
核反応は、通常は放射線、またはこれを持続的に発する能力(放射能)を持った放射性物質の発生を伴うが、放射線は生物に対して毒性を持つため、原子力は放射線の危険の問題と切り離せない。
[編集] 歴史など
1895年にレントゲンが謎のビームX線を発見し、ベクレルはウランが発する同様の謎のビームを発見して、これらは放射線と名づけられた。更に3年後にピエール・キュリー・マリー・キュリー夫妻がラジウムを発見してここから放射線の研究が始まった。
原子力は第二次世界大戦中に軍事利用のために研究が始められた。米国のマンハッタン計画によって核分裂反応を利用した最初の原子爆弾が製造され、これが日本に対して1945年に使用されて、人類による最初の原子力の実用化となった。第二次世界大戦以後約10年間は原子力はいずれの国でも軍事機密となり、1952年に米国は初めて水爆と呼ばれる核融合反応を利用した原子爆弾の実験に成功した。
米国が1951年に原子炉で発電実験を行い、英国が1954年に最初の商用の原子力発電を開始して原子力の平和利用が始まった。日本は1966年に東海発電所において原子力発電を開始した。
1986年に旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所で原発事故が起こり、確認されているだけで47人が放射線の急性障害で亡くなった。2006年のIAEAの報告では、晩発障害を含む死者の推計数は約9000人とされている。
1999年には茨城県のJCOにおける原子力事故(東海村JCO臨界事故)で日本で初めて2名の死者を出した。
2004年8月9日に美浜原子力発電所で蒸気漏れ事故が発生し、5名が高温の水蒸気を浴びて亡くなる労働災害に発展した。
現在、国内での原子力事故による死者は7名が認知されている。このうち放射線の被爆による死者はJCOの2名である。
1999年には世界の発電所で425基の原子炉が稼動し、年間で35,943万kW年の電力が発電された。この他にも原子力空母と原子力潜水艦で動力用原子炉が使用されている。2003年には日本の発電所では52基の原子炉が稼動し、年間で3,357万kW年の電力が発電された。これまでの原子爆弾の使用実績は2発であるが、2003年の世界の原子爆弾保有数は約3万発である。
核融合発電の実用化は100年後とされている。
[編集] 原子力発電の社会的側面
原子力の技術には長所と短所が数多くあり、人によりどの点を重要視するかによって肯定的な立場や否定的な立場をとる。2000年前後の時点で日本人は肯定する人と反対する人の割合に大きな偏りはないとされるが、しかし圧倒的に大多数の人が無関心である。関心を持つ人の間ではしばしば、原子力技術の将来の発展性、大事故の可能性、など科学的な評価の難しい論点が取り上げられて想像に基づく議論が展開される。
原子力に対する肯定、否定の態度は最初に原子力の情報に触れた時に得た印象で方向付けられる傾向があるとされる。しかし原子力に関するほとんどの情報はいずれかの立場で活動する原子力の受益者から発信されているので初学者は注意が必要である。
国家レベルの政策決定の問題としては、多くの先進国で推進派と撤退派の対立が激化している。原子力政策の議論では原子力産業という経済的な側面や安全性に関する技術的な側面だけではなく、エネルギー保障、軍事保障といった政治的な側面も同時に勘案する必要があり、国によって事情が異なる。近年ではさらに環境問題や資源問題といった新しい論点も加わり、これらが混乱を深めている。いずれにしても政策決定は様々な側面のトレードオフ問題なので万人が納得できる結論はないと考えられる。また不確実性の下での意思決定問題なので失策の可能性は常に存在する。
日本の場合、原子力発電所の立地地域と電力の消費地域が地方と都市部に分極しているので、原子力災害のリスクに曝露される人と原子力の受益者が一致していない。この差を是正するために電源三法交付金制度のような行政上の措置がとられているが、公平性の不十分さと制度整備の不十分さが社会的なひずみを生じさせている。一方で原子力は産業としてそれ自体が地域経済を活性化する効果もある。
[編集] 雑学
不安定な原子核である不安定核種の、核壊変と呼ばれる長期持続的で小規模な核反応による発熱から電力を得る原子力電池というデバイスが人工衛星や離島の灯台などに用いられており、これも原子力の一種である。不安定核種はすなわち放射性物質であり、打ち上げの途中で失敗すると上空から放射性物質をばら撒くことになるので人工衛星への搭載は積極的には行われない。
発電以外の利用では原子力推進が研究されている。
これはまず、アメリカ合衆国空軍で原子力飛行機という技術が考案されていた。原子力飛行機NB-36Hによる原子力搭載前飛行実験が行なわれたが開発は見送られた。
平和利用としてはNASAで核分裂反応を利用するNERVA(Nuclear Engine for Rocket Vehicle Application)計画でロケット飛翔体応用原子力エンジン(原子力ロケット)という技術が考案されていた。原子力ロケットは燃焼実験(核反応でも燃焼と言う)も行われていた。原子力ロケットの発展系である核融合ロケットを用いた場合、試算では太陽系の隣の恒星であるアルファ・ケンタウリまで37年で行けるらしい。SFレベルでは核融合反応を利用した核融合ロケットも考案されており、アーサー・C・クラークの小説『2001年宇宙の旅』に登場する。
地球が誕生してから46億年が経過した現在でも地球内部が高温であるのは、地球を構成する物質に含まれる不安定核種が核壊変による発熱を続けているからである。地球にある水素以外の物質は、地球誕生以前にこの周辺に存在した恒星の核反応の後の燃えカスである。美しく言えば原子力の利用は星くずを集めて残り火にあたる営みである。汚く言えば地球は大きな放射性廃棄物である。
鉄腕アトムはその名の通り原子力(後に核融合)で動いている。あのボディに小型の原子炉を搭載している。ガンダムも小型核融合炉を搭載している。ドラえもんは食べた物を体内の原子炉で分解してエネルギーとしている。
[編集] 関連項目