四方田犬彦
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四方田 犬彦(よもた いぬひこ、1953年2月20日 - )は、兵庫県西宮市出身の比較文学者、映画史家である。専攻は比較文学、映画史、漫画論、記号学。本人は「映画評論家ではない」と言っているが、その肩書が用いられることがある。蓮實重彦門下と見られがちだが、当初は由良君美に師事、大学院では芳賀徹の門下。本名は、四方田 剛己(- ごうき)。妻は台湾日本文学研究者の垂水千恵。
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[編集] 人物・経歴
本来は「四方田 丈彦」との筆名を用いるつもりだったが、出版社に「四方田 "犬"彦」と誤植され、そのまま筆名にした。本名のローマ字表記では好んで「Gorki Yomota」と自署する。「ゴウキ」のこの綴り方は、マクシム・ゴーリキーの名字の「Gorki」にあやかったものらしい。旧姓小林で両親の離婚後、母方の姓「四方田」を名乗るようになる。母方の祖父は関西では高名な弁護士であり、大阪の箕面に敷地三千坪の大豪邸を構えていたという。
大学在学中に映画同人誌「シネマグラ」(1977年-)の同人として映画批評を始める。 1984年-1985年、雑誌『GS-たのしい知識』(冬樹社)の編集委員(3号まで)として、浅田彰、伊藤俊治らと同誌の編集に関わる。
漫画研究では、最も愛する漫画家であるつげ義春と白土三平の2人に特に力を注ぐ。1994年に発表した大著『漫画原論』では、20世紀の初頭から世紀末に至るまでのほぼ全方位の日本漫画を、吹き出し・コマ割り・ベタ塗りなど画面の構成や描写の技法などの観点から、徹底して分析した。漫画を形成する重要な要素でありながらそれまでほとんど注目されて来なかった、漫画特有の文法や法則や表現方法を実に緻密に読み解き、高い評価を獲得した。
映画研究では、北野武、押井守、黒沢清、原節子、李香蘭等、日本映画を重点的に研究。日本映画とアジア各国との重要な関係性にも注目している。 明治学院大学では、映画史、映画理論を講じ、門下には平沢剛などがいる。
建国大学校に勤務した経験があり、韓国文化、韓国文学、韓国映画にも大変に造詣が深い。1979年、朴正煕独裁下の韓国に留学し、対日協力詩人とされる金素雲に会っており、長らく保守と見られていたが、1990年代から左派的な言動が増えてきた。
2006年6月、『女優山口百恵』を編著として刊行する。
[編集] 学歴
- 東京教育大学附属駒場中学校・高等学校(現在の筑波大学附属駒場中学校・高等学校)卒業。
- 東京大学文学部宗教学科卒業。
- 同大学院比較文学比較文化専攻修士課程修了。修士論文はスウィフト論で、のち『空想旅行の修辞学』として刊行される。
[編集] 職歴
[編集] 受賞歴
- 『月島物語』で第1回斎藤緑雨賞。
- 1998年 - 『映画史への招待』で第20回サントリー学芸賞社会・風俗部門。
- 2000年 - 『モロッコ流滴』で第11回伊藤整文学賞評論部門、第16回講談社エッセイ賞。
- 2002年 - 『ソウルの風景――記憶と変貌』で第50回日本エッセイスト・クラブ賞。
[編集] 著書
[編集] 単独での著書
- 『リュミエールの閾』(朝日出版社、1980年)
- 『映像の招喚 -- エッセ・シネマトグラフィック』(青土社, 1983年)
- 『人それを映画と呼ぶ』(フィルムアート社,1984年)
- 『クリティック』(冬樹社,1984年)
- 『映像要理』(朝日出版社、1984年)
- 『映画はもうすぐ百歳になる』(筑摩書房, 1986年)
- 『われらが「他者」なる韓国』(PARCO出版局, 1987年/平凡社[平凡社ライブラリー], 2000年)
- 『叙事詩の権能』(哲学書房, 1988年)
- 『映画のウフフッ』(フィルムアート社,1984年)
- 『魯迅 -- めざめて人はどこへ行くか』(ブロンズ新社, 1992年)
- 『越境のレッスン -- 東アジアの現在・五つの対話』(丸善, 1992年)
- 『月島物語』(集英社, 1992年/集英社文庫, 1999年)
- 『電影風雲』(白水社, 1993年)
- 『ドルズ・ハウスの映画館』(悠思社 , 1993年)
- 『文学的記憶』(五柳書院, 1993年)
- 『読むことのアニマ』([筑摩書房],1993年)
- 『回避と拘泥』(立風書房, 1994年)
- 『漫画原論』(筑摩書房, 1994年/ちくま学芸文庫, 1999年)
- 『空想旅行の修辞学 -- 「ガリヴァー旅行記」論』(七月堂, 1996年)
- 『オデュッセウスの帰還』(自由国民社, 1996年)
- 『貴種と転生・中上健次』(新潮社, 1996年/筑摩書房[ちくま学芸文庫], 2001年)
- 『映画史への招待』(岩波書店, 1998年)
- 『日本映画のラディカルな意志』(岩波書店, 1999年)
- 『狼が来るぞ!』(平凡社, 1999年)
- 『マルコ・ポーロと書物』(枻出版社, 2000年)
- 『日本映画史100年』(集英社[集英社新書], 2000年)
- 『日本の女優』(岩波書店, 2000年)
- 『モロッコ流滴』(新潮社, 2000年)
- 『ハイスクール・ブッキッシュライフ』([講談社],2001年)
- 『アジアのなかの日本映画』(岩波書店, 2001年)
- 『ソウルの風景 -- 記憶と変貌』(岩波書店[岩波新書], 2001年)
- 『アジア映画の大衆的想像力』(青土社, 2003年)
- 『映画と表象不可能性』(産業図書, 2003年)
- 『摩滅の賦』(筑摩書房, 2003年)
- 『大好きな韓国』(ポプラ社, 2003年)
- 『心は転がる石のように -- Papers 2003-2004』(ランダムハウス講談社, 2004年)
- 『ハイスクール1968』(新潮社、2004年)
- 『見ることの塩 -- パレスチナ・ボスニア紀行』(作品社, 2005年)
- 『ブルース・リー -- 李小龍の栄光と孤独』(晶文社, 2005年)
- 『「かわいい」論』(筑摩書房[ちくま新書], 2006年)
[編集] 共同での著書
- (平岡正明) 『電撃フランク・チキンズ』(朝日出版社,1985年)
- (金光英実) 『ためぐち韓国語』(平凡社[平凡社新書], 2005年)
[編集] 編書
- 『映画監督溝口健二』(新曜社, 1999年)
- 『李香蘭と東アジア』(東京大学出版会, 2001年)
- 『思想読本(9)アジア映画』(作品社, 2003年)
- 『吉田喜重の全体像』(作品社, 2004年)
- 『女優山口百恵』(ワイズ出版,2006年)
[編集] 共同での編書
- (堀潤之) 『ゴダール・映像・歴史 -- 「映画史」を読む』(産業図書, 2001年)
- (青木保・姜尚中・小杉泰・坂元ひろ子・莫邦富・山室信一・吉見俊哉) 『アジア新世紀(全8巻)』(岩波書店, 2002年-2003年)
- (斉藤綾子) 『映画女優若尾文子』(みすず書房, 2003年)
- (斉藤綾子) 『男たちの絆、アジア映画 -- ホモソーシャルな欲望』(平凡社, 2004年)
[編集] 訳書
- ポール・ボウルズ 『蜘蛛の家』(白水社, 1995年)
- コリン・ウィルソン 『至高体験 -- 自己実現のための心理学』(河出書房新社, 1998年)
- エドワード・サイード 『パレスチナへ帰る』(作品社, 1999年)
- ピーター・ブルックス 『メロドラマ的想像力』(共訳、産業図書, 2002年)