因果的閉鎖性
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物理領域の因果的閉鎖性(いんがてきへいさせい、英:Causal closure)または因果的閉包(いんがてきへいほう)とは、『どんな物理現象も物理現象のほかには一切の原因を持たない』という経験則。心の哲学という哲学の一分科で、心の因果作用(この世界において意識やクオリアが持つ因果的な能力、すなわちほかのものの原因となることが出来る能力、言い換えれば意識やクオリアが諸現象の因果連鎖の網の目の中でとるポジション)について議論するさいに登場する言葉。
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[編集] 因果的閉鎖性とは
物理領域の因果的閉鎖性は、物理現象の原因としては物理現象だけを考えれば十分で、それ以外の要素について考える必要がない、と言い換えることも出来る。 例えば物理領域の因果的閉鎖性が「明らかに破れているような世界」をひとつ紹介してみると、それは次のような世界である。
時々起こる「奇跡」はその原因として物理現象以外のもの(神さまの介入)を持つため、こうした世界では物理領域の因果的閉鎖性は成立していない。
物理的なものが、厳密な意味で因果的に閉じているのか、という点については、哲学上まだ多くの論点が存在する。量子力学における確率過程の問題から、因果(ヒュームの懐疑)や時間(マクダカート)といったものの実在性に対する問題に至るまで、その範囲は多岐にわたる。
とはいえ、現代の科学(特に物理学)では物理領域の因果的閉鎖性は基本的な前提とされており、あえてこうした閉鎖性の問題が議論されること自体が稀である。 そんな中、因果的閉鎖性の概念に注目しているのは、哲学の一分科である心の哲学である。この理由は、次のような問題、例えば「心的なものは物理的なものに対して影響を与えることができるのか」といった問題を論じようとすると、必らず物理領域の因果的閉鎖性の話が浮かび上がってくるためである。
[編集] 歴史
デカルトに代表される実体二元論においては、物的なものと心的なものという本質的に異なる二種類のものがこの世に存在すると考えた。そしてこの両者は何らかの形で相互作用するとした。 しかしながらニュートンに始まった機械論的な世界観は、多くの人々の間に物理現象は因果的に閉じているに違いない、という考えを広め、これが随伴現象説を生み出す土壌を形作った。
その後 機械論的な見方は惑星や落体といった一般的な物質だけに留まらず、自然現象一般に広くその適用範囲を広げていく。特に20世紀後半ごろから急速に発展した神経科学の莫大な発見の積み重ねから、脳に至ってもやはり、その振る舞いを原子や分子の機械的な挙動の結果として説明できることが明らかになった。これにより心的な性質として理解されていた様々な人間の行動(運動、発話、表情、判断など)も物理的な領域の現象として脳の物質的な要素から説明されることが一般的になり、人間を一種の自動機械(オートマトン)として捉える考え方が非常に根強いものとなる。これにより心的なものは全て物理的なものに還元できるに違いない、という考えが一時隆盛を極めることとなる。
しかしその後 心的な性質のうち、現象的意識、クオリアなどといわれる主観的な体験については、物理領域に単純に還元することが難しいのではないか、という問題が、心の哲学の研究者たちを中心に数多く提出されるようになる。因果的閉鎖性の概念は、こうした心の哲学の分野で、意識やクオリアの自然界での位置づけの議論、『物理現象はそれだけで因果的に閉じているように見えるが、そうすると意識やクオリアの居場所はどこにあるのか』、といった議論を行なう際に使用される概念である。
[編集] 心の因果的締め出し
物理現象の因果的閉鎖性を前提にした上で、意識やクオリアの位置づけを探った場合、最もシンプルな解答として随伴現象説が帰結する。実際、現在の神経科学者の多くも、「物質としての脳」と「主観的体験としてのクオリア」の間の関係を、随伴現象説的な立場から捉えている事が多い。
随伴現象説では意識やクオリアといった主観的体験は、物理現象に対して何の因果作用ももたないとする(すなわち主観的体験が物理現象の原因となることはない、ということ)。この立場から見ると主観的体験のポジションは、閉じた物理領域に対して、宙ぶらりんな格好になる。そのため随伴現象説における心的なものは、物理現象にぶら下がっているだけの付属物、という意味で因果的提灯(いんがてきちょうちん)と呼ばれることもある。
[編集] 参照文献
- Jaegwon Kim "Epiphenominal and Supervenient Causation" Midwest Studies in Philosophy 9 (1984)
- 邦訳 ジェグォン・キム 金杉武司 訳 「随伴的かつ付随的な因果」 『シリーズ心の哲学 3 翻訳篇』 第一章 17-49p 勁草書房 2004年 ISBN 4-326-19926-1
- 信原幸弘著 『意識の哲学 - クオリア序説』「第一章 意識のハードプロブレム」「2:二元論の困惑」 12-20頁 岩波書店 2002年 ISBN 4-00-026588-1
- ジョン・サール著 『MiND 心の哲学』「第一章 心の哲学が抱える十二の問題」「10:心的因果と随伴現象説」 朝日出版社 49-50頁 2006年 ISBN 4-225-00325-4
[編集] 外部リンク
- 論文 柴田正良著 『物理主義と心的因果の問題を理解するために』 - 2400年前のギリシャの哲学者ソクラテスと、現代哲学の知識を備えた不思議な猫(シュレーディンガーの猫がモチーフ)との対話形式で進む物語仕立ての論文。猫は可能世界論や付随性(スーパーヴィーニエンス)の概念について、ソクラテスに丁寧に説明していく。ソクラテスは現代哲学の思考方式に戸惑いつつも、いかにも彼らしい、と言える反論を繰り出しつつ、対話を進行させていく。心的因果の問題は論文の末尾で紹介される。 「思想」No.982(2003年2月号)pp.4-15 岩波書店
[編集] 関連項目
- 時空図、光円錐(特殊相対性理論) - ファインマンダイアグラム
心の哲学のトピックス | |
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概念 | 意識 - クオリア - 心身問題 - ハード・プロブレム - 付随性 - 因果的閉鎖性 - 自由意志 - 素朴心理学 - 消去主義 |
現行モデル | 同一説- 機能主義 - 相互作用説 - 随伴現象説 - 並行説 |
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人物(日本国外) | デイヴィッド・チャーマーズ - ジョン・サール - ダニエル・デネット - フランシス・クリック&クリストフ・コッホ -ジェラルド・イーデルマン&ジュリオ・トノーニ |
人物(日本) | 信原幸弘 - 柴田正良 - 河野哲也 - 西脇与作 / 前野隆司 - 茂木健一郎 - 郡司ペギオ幸夫 |
関連項目 | 理論物理学 - 脳 - 神経科学 - 認知科学 - 心理学 - 進化心理学 - 現象学 |