学習塾
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学習塾 (がくしゅうじゅく) は、主に小中学校の放課の後に、有償で学力の補強や学習の補助などをする施設である。一般的には、単に塾(じゅく)と呼ぶことが多い。また特に受験対策を行う塾を進学塾ともいう。文部科学省の2005年の調査によると小学4年生~6年生の37%、中学生の51%が塾に通っており、塾に通う子供と通わない子供との学力格差が広がっている。
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[編集] 学習塾で教える教科
ほとんどの塾は主要5教科(国語、算数/数学、理科、社会 、英語)の学習に特化している。学校が総合的な人間形成を目指しているのに対して、学習塾は主要科目に関しての弱点補強や高度な学習などに力を入れている。保護者の要望に答え、通常の学習よりも中学入試、高校入試での合格を主な目的とする大手進学塾も多くその合格実績を競っている。また、ごく一部には理科実験など実技的なものを学ばせ注目度をあげる塾も存在する。学習塾の数だけでいえば個人塾が圧倒的に多く、それぞれ個性的な指導で実績を上げているところも多い。
多くの塾は模擬試験を実施しており、個人の学力レベルをある程度正確に知ることもできる。大手の塾では塾生が多いため塾内模試を、中小の塾では教材会社が主催する模試や塾団体が設立運営する模試を、個人の場合は大手塾の模試へ参加することもでき、生徒の学力レベルを判断することができる。
[編集] 学習塾の分類
[編集] 学力別
難関校進学系と補習系に分かれるが、大手進学塾では学力に応じてクラス分けしているためその両方を持つ場合が多い。中小の大半の塾では人数の都合上クラス分けをしていない。個別指導塾や自習式の塾は個人の実力に応じて対応できるためその区分がない。
- 難関校進学系
- 難関の学校に進学希望する生徒に、学校の授業より難しい内容を加え指導するもの。入塾試験で選抜するところがほとんど。難関校を目指す生徒のみの塾はほとんどなく、ほとんどが特進コースなどのクラスを作り補習系と区別した形を取っている。
- 補習系
- 学校の授業だけでは完全に理解できない生徒に、先行して授業を行ったり補習を行うもの。学習塾の多くがこの補習系に属する。
[編集] 人数別
- 集団授業の塾
- 1クラス概ね10人以上のクラス構成の塾。社員扱いの講師がハイレベルなクラスを担当し、アルバイト講師がそれ以外のほとんどのクラスを担当することが多い。社員とアルバイトの区別が明確でないので、習う側からは講師の質の判断が難しい。社員扱いの講師が多い塾は1クラスの人数が多くなり授業料も高額になる。集団授業塾でも全てアルバイト講師というところも多く、この場合は授業料が比較的安価である事が多い。よくできる生徒は人数が多くてもしっかり授業を聞いているので問題がないが、中レベル以下の生徒には成績アップをあまり期待できない[要出典]。もちろん授業中の個人指導はできない。
- 自習形式の塾
- 少人数制授業の塾
- 1クラス概ね5名~10名のクラス構成で個人経営の塾にこのタイプが多い。集団授業と違い個人指導もある程度できる。個人経営の塾の場合、授業料は比較的安価でキャリアのある講師も多いが、教育情報が少なく情報は学校頼りになることが多い。逆に個人経営以外の会社組織になっている塾では教育情報は多いが、生徒の人数を制限しているため講師は全員アルバイト、授業料もかなり高くなる。
- 個別指導の塾
* ここで言う社員とは、塾を専業として働き社会保険(厚生年金・健康保険・雇用保険)に加入した一般的な正社員を言う。アルバイト講師は、主に学生や主婦、他に仕事を持っている者や1年以内の短期契約又は短期契約の雇用期間自動更新などの契約社員を示す。社員とアルバイトの違いが明確でないため、1~2年で講師が入れ替わる実質アルバイトのような就労実態であっても正社員(常勤講師)などと表現している塾も多い。
大手塾では、社員に登用される可能性があることを示唆しアルバイト講師として働かせ、数年後に塾側がその指導力を評価した一部の講師を社員として登用する場合がある。個人塾以外の講師の場合、経営的な面からすぐに社員として登用されることは少なく、そのほとんどがアルバイトで成り立っている。これらの講師には元塾生が大学生アルバイト講師から始め社員を目指し教室管理者となることも多い。
[編集] 学習塾の発展と弊害
昭和40年代より急激にその数を伸ばし、現在ではなくてはならない存在になっており、学校側も大手学習塾の指導法に注目している。
塾に行くことが流行り始めた時期、塾に行っていない子供を「未塾児」と言っていたことがあった。「未熟児」と掛けて、まだ塾に行っていない子供という意味であるが、この語に対する批判もあった。
学生がもう一つ学校に行くことをダブルスクールというが、日本の小中高生のかなりの部分が学校と塾・予備校を掛け持ちしており、心身に悪影響を与えるのではないかという指摘もある。塾が流行っている一因に、公立学校のゆとり教育への不安感がある。このゆとり教育の結果、塾へ行かない子供との学力の格差がますます広がり、最近では文部科学省もこれを見直し、発展的学習を取り入れている。
かつて文部省(現文部科学省)は学習塾を好ましくない存在としていたが、文部大臣の諮問機関である生涯学習審議会が1999年に行った提言以来、学校教育と学習塾を共存させる方針に転換した(学習塾は文部科学省の所管だと思われがちだが、学習塾は利潤を第一に運営されるサービス産業の一業種なので経済産業省の所管である)。
海外でも海外在住日本人子女の間で学習塾に通う子供が増加している。背景には、現地での学習では、帰国後日本の学校への入学・編入に求められる学習内容やレベルに合わせらないことがあげられる。放課後のイベントなどで地元に貢献することを重視する現地の学校では、学習塾は悩みの種である。
1984年、香山健一は、中曽根康弘内閣の臨時教育審議会で、学習塾を学校として認知するよう主張した。
なお、一部の中高一貫の私立中学校では、公立中学校と塾の両方に通うよりも、私立中学校だけに通った方が総合的に得だと宣伝しているが、私立中学の生徒でも塾に通う生徒は多い。
[編集] 近年の塾の傾向
[編集] 塾の少人数化
少子化傾向に押され最近では個別指導や概ね10人以下の少人数制授業の塾が多くなってきている。それ以上の集団授業の塾は今でも多く残っているが、学力が中程度以上の生徒を集めた塾が多く、姉妹校として個別指導の塾を併設していることが多い。個別指導といっても家庭教師のように1対1で教えるとは限らない。一人の講師が学年や科目の違う生徒を一度に4人程度を巡回指導するものも個別指導という。つまり「個別授業」ではなく「個別指導」なのである。当然一人の講師に対して生徒の人数が少ない分授業料はかなり高額になる。それでも学力が中程度かそれ以下の生徒には、従来の集団授業に比べると格段に行き届いた指導が出来る。ある程度学力の高い生徒は自ら学ぶ姿勢があるので無理に個別指導や少人数制を選ばなくても大丈夫なのだが、いずれにせよ少人数で学べば更に身に付くことは言うまでもない。
[編集] 塾のフランチャイズ化
最近の一つの傾向は塾のフランチャイズ化である。塾のフランチャイズというものは過去には少なかったが、最近では独自のノウハウを提供し全国に拡大している。塾のフランチャイズは、経営者自身が指導する必要がないため誰でも塾を開くことができるが、生徒の指導は生徒の増減に応じ採用できるアルバイト講師まかせになる。一部の大手フランチャイズ塾本部は、加盟金やロイヤリティーを集める事を目的として、加盟者に大きな利益が出るよう見せかけて教室数を拡大するケースがあり、加盟者はほとんど利益が出ず多額の加盟金等の資金がなかなか回収できないことから裁判沙汰になるケースもある[要出典]。
こういった小規模フランチャイズ塾が増える背景には少子化があげられる。一昔前の様に子供が多かった頃は各学年毎に数十人の生徒を集めることができたが、最近では少子化によりこれが難しくなった。そこで考え出されたのが、全学年・全科目を同時に行える個別指導や自習形式の塾である。この形式ならば集団の生徒を指導できる専門の講師の必要もなく、集めやすいアルバイト講師による指導ができる。講師が全てアルバイトであれば煩雑な労務管理を避けることができ、経営者が素人であっても人事上でも特に問題がないからである。ここ十数年来の不景気により脱サラなどのフランチャイズ希望者はいくらでもいるため、フランチャイザー側からは本部の経営リスクがほとんどなく一気に事業を拡大できるチャンスと捉えられている。
※ 全学年・全科目を同時に行うことは言い換えると、一人の講師が様々な学年・科目の授業を同時に担当することでもある。そのため、授業中は巡回しながら様々な学年・科目の指導に耐えうる知識と、担当する生徒に並行して対応する要領が求められる。その際、講師自身が専門としない科目の指導を担当することもある。このような塾では知識より「学び方」の指導を優先するが、全体の流れを熟知し担当する生徒に応じたペース配分ができるようになるまで、たとえ少人数でも講師にかかる負荷は大きい。
[編集] 学習塾での禁忌
- 生徒との私的交際や体罰
- 同一地域内で、他社の塾講師を掛け持ちすること。
- 生徒や保護者に、講師のプライベート情報を明かすこと。
- 講師の引き抜きに繋がると同時に、講師の経歴次第では、生徒から軽く見られるだけでなく、保護者からも指導力に不安を持たれることもある。