対格
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対格(たいかく、英 accusative case、羅 casus accusativus。第4の格とも呼ばれる。略号ACC)は、名詞がもつ格のひとつで、他動詞の直接目的語を標識するために用いられる。また、多くの言語において対格は特定の前置詞の目的語としても用いられる。フランス語では目的格の強勢形に相当する。ギリシャ語の対格は古典語にあった与格の意味も含まれていて、前置詞の後の名詞の多くが対格に変化する。エスペラントでは語尾に-nをつけることで名詞を対格として用いる(目的格化させる)。
対格はすべてのインド・ヨーロッパ語族の言語(ラテン語、サンスクリット語、ギリシャ語、ドイツ語、ロシア語など)、またセム語族の言語(アラビア語など)に存在していた。対格は現在でも大部分の言語に存在する。
フィン語、エストニア語のようなフィン語族の言語では、直接目的語を標識する場合に、対格だけでなく分格(partitive case)も用いられる。形態論では、いずれも対格としての働きを持つが、対格の名詞は動作的意味をもち、一方、分格の名詞は動作的な意味をもたないという相違がある。
目次 |
[編集] 英語における対格
現代英語は名詞の曲用を欠いているが、かつて古英語期には名詞の曲用があり、その対格の名残が代名詞の一部に認められる。"Whom"は"who"の対格形であり、"him"は"he"の対格形である(これらは"-m"で終わっているが、これは印欧祖語の対格語尾にさかのぼることができる)。また、"her"は"she"の対格形である。これらの人称代名詞は、英語の与格代名詞の機能も持っており、斜格に分類されてもよいと思われる。現代の英語文法家のほとんどは、いくつかの代名詞にで対格と与格が融合して残っている以外は曲用を失っているために、英語において対格と与格を区別することはもはや妥当ではないとし、かわりに目的格という用語を用いることがしばしばある(English declensionを参照のこと)。
[編集] 英語における実例
I see the carという文において、名詞句the car は動詞"see"の直接目的語である。英語では、格体系のほとんどを失っているため、定冠詞と名詞—"the car" — は、その文法上の役割に関わらず同一の形式のままである。この "the car" を "The car is parked here" のように、文の主語として使うこともできる。
[編集] ドイツ語の場合
語尾変化のある言語では、冠詞や名詞、あるいはその両方の形態論が、ある文中における文法上の役割に応じていくらか変化する。例えば、ドイツ語では "the car" を der Wagen と訳すことが可能であるが、これは主格という形式であり、文の主語に対して使われるものである。もしこの冠詞・名詞のペア(名詞句)が動詞の目的語である場合、(普通は)対格に変わり、ドイツ語では Ich sehe den Wagenのように冠詞が変わることになる。ドイツ語では男性名詞につく定冠詞は対格で der から den に変わる。
ドイツ語の前置詞には、目的語に対格を要求するものもある。例えば、 bis, durch, entlang, für, gegen, ohne, um などである。
Morphosyntactic alignmentを参照のこと。
[編集] ラテン語における格
対格 (Accusativus) の名詞は以下の用法をもつ。
- 直接目的語
- 継続的な時間を表す。例: multos annos 「長年」、ducentos annos 「200年間」。 これは継続時間の対格と呼ばれる。
- 対格で示された名詞への方向を表す。例: domum 「家へ」、Romam 「ローマへ」。この用法では、前置詞は不要である。これは 方向指示の対格と呼ばれる。
- 間接話法で。
対格変化については、ラテン語の格変化を参照されたい。
この格は比較的多くの言語にある。