格
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文法カテゴリー |
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性 / 名詞クラス |
数 |
格 |
定性 |
法 / 法性 |
態 |
時制 |
人称 |
相(体) |
格(かく)とは、名詞、名詞句、あるいはそれらに相当する句が、文の中でどのような関係を持つかを示す標識である。名詞自体が格の違いによって格変化をしたり、名詞に伴う形容詞、限定詞が格変化をすることによって表示する言語と、日本語のように格助詞によって格を表示する言語がある。生成文法などでは、語形変化などがなく語順だけで名詞句の関係を示す場合も格と呼ぶ。
格は、主語や目的語といった文法関係と混同されることもあるが、格と文法関係とは必ずしも対応しない。同様に、情報構造(話題など)や意味役割(動作者など)とも異なる。
例:
- 太郎が次郎を殴った。
- 太郎が: 主格、主語、動作者
- 次郎を: 対格、目的語、被動者
- 次郎が太郎に殴られた。
- 次郎が: 主格、主語、被動者
- 太郎に: 与格、補語、動作者
- 太郎には弟がいる。
- 太郎には: 与格、主語、所有者、主題
- 弟が: 主格、目的語、所有物
同じような格でも、言語によって名前が異なることがある。「太郎が犬に水を与える」という文では、一般に「太郎が」は主格、「犬に」は与格、「水を」は対格と呼ばれるが、それぞれ「が格」、「に格」、「を格」と呼ばれることもある。格とは意味ではなく標識なのでこの呼び方は明確だが、他の言語との比較はできない。
目次 |
[編集] 印欧祖語の八格
格 |
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主格 |
呼格 |
属格(所有格、生格) |
与格 |
対格(目的格) |
奪格(離格) |
具格(造格) |
処格(地格、前置格) |
斜格 |
能格 |
絶対格 |
分格 |
様格 |
変格 |
内格 |
出格 |
入格 |
接格(所格) |
向格 |
欠格 |
共格 |
印欧祖語には以下の八格があった。
- 主格(nominative case、ドイツ語では「1格」とも)
- 呼格 (vocative case)
- 属格(genitive case、ドイツ語では「2格」とも、スラヴ語では「生格」とも)
- 与格(dative case、ドイツ語では「3格」とも)
- 対格(accusative case、ドイツ語では「4格」とも)
- 奪格(ablative case、「従格」とも)
- 具格(instrumental case/instructive case、スラヴ語では「造格」とも)
- 処格(locative case、「所格」「地格」「位格」とも、スラヴ語では「前置格」)
印欧語の格という用語は、古代ギリシアの文法家が使った「プトーシス」(πτῶσις) という用語に由来する。 彼らは、主格を「まっすぐな形」ととらえ、他の格を主格からの「傾き」と考えて、これをプトーシス(傾き)と呼んだ(つまり元々は主格を含まなかった)。このプトーシスを直訳したものがラテン語のcasus(英 case、独 Kasus、仏 cas)であり、それをさらに訳したのが日本語の「格」である。
前記のような経緯から、主格と呼格以外の格を総称して斜格 (oblique case) という(対格を斜格に含めないこともある)。
[編集] その他の格
- 能格 (ergative case)
- 絶対格 (absolutive case)
- 入格 (illative case)
- 出格 (elative case)
- 着格
- 接格 (adessive case)
- 向格 (allative case)
- 分格 (partitive case)
- 様格 (esseive case)
- 変格 (translative case)
- 内格 (inessive case)
- 欠格 (abessive case)
- 共格 (comitative case)
[編集] 格の標示
古いインド・ヨーロッパ語では格変化によって格が明示されるため、語順はかなり自由であった。現代の言語では語順が定まる傾向があり、特に英語やロマンス語(フランス語、スペイン語、イタリア語など)では代名詞を除いて格変化が消失したため、格の表示はほぼ完全に語順および前置詞に頼っている。
特殊なものとして例えばスペイン語では、間接目的語がある場合にそれに相当する代名詞を動詞の前に置く構文(接語重複)が見られる。抱合語と呼ばれる言語でもこれに似て、動詞に目的語の人称などを表示するものが多い。他の言語でも部分的に類似の構文が現れる。例えば日本語で、法律や規則に限られる言い回しではあるが、「…はこれを認めない」というものがある。「…は」は対格を示す「を」を話題標識の「は」が覆い隠したものだが、主格と紛らわしいため、「これを」を加えている(元来は漢文訓読に由来)。
中国語では本来語順によって格が定まるが、現代語ではそれ以外に格を表示する方法が発達し、例えば目的語(対格)を介詞(前置詞)「把」で示して動詞の前に置く構文がよく用いられる。
フィンランド語、ハンガリー語などのウラル語族は、場所や移動に関する格が発達している。
[編集] 格の用法と言語類型論
格の使い分けは言語によって異なる。特に重要な違いとして、行為の主語と目的語に関わるものがあり、言語類型論で重視される。日本語、英語など、最もよく知られているのが主格言語であり、基本的には自動詞と他動詞の主語を同じ格(主格)で、他動詞の目的語を別の対格で表示する。
それに対し自動詞の主語と他動詞の目的語を同じ格(絶対格)で、他動詞の主語を別の能格で表示するものがあり、能格言語と呼ばれる。バスク語、グルジア語などの例がある。
さらに自動詞の主語に対し、意志的かどうかで格を使い分ける言語もあり、活格言語と呼ばれる。