工業高等学校
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
工業高等学校(こうぎょうこうとうがっこう)とは、主に工業や産業についての専門技術や知識を習得することを目的に、「工業に関する学科」(工業科)がおかれている高等学校のことである。一般的には、学校の名称に「工業高等学校」の語が含まれている。略して、工業高校(こうぎょうこうこう)と呼ばれる。職業高等学校の一種。
目次 |
[編集] 概要
- 工業高等学校は、地域の産業技術の次世代の担い手になる有為の人材を育成することを主眼にして、工業、産業の技術習得に関する教育課程を編成している。教育活動の対象となる専門分野には、さまざまなものがあり、教育課程は、各地域特有の産業分野の後継者の育成を念頭においたものも見られる。
- 資格取得や検定取得に熱心な高校が多いのが特徴で、取得した生徒は就職活動などにおいて大きな糧となる。
- 工業高等学校や工業科を置いている高等学校のほとんどが、社団法人「全国工業高等学校長協会」(全工協会、全工協)の会員校となっており、資格取得や各種検定において強い影響力を持っている。各種検定や全国製図コンクール・ロボット競技大会は全工協会が主催となっているものが多い。(※全工協会の項参照)
- 工業科は普通科に比べ、教える量が少なく易化していることが多いため、その分課外活動に力を入れている高校が多い。そのため部活動で全国的に名を馳せている高校の中に工業高校が含まれていることがよくあり、特に全国高等学校ラグビーフットボール大会の出場校には工業高校が目立つ。
- デザイン系や建築系の学科は女子が集まる場合もあるが、機械や電気分野では男子が多く集まることが特徴である。私立高校では男子校として募集している高校も多い。公立の高校では原則男女の制限はないが、実際は男子が多く集まることが多いようである。
- 一部の工業高等学校では、高等専門学校(高専)に不合格になった受験生が多く集まる場合もある。これは高専が工業を中心としたカリキュラムを組むことがほとんどなことから、高専を第一志望、工業高校を第二志望にしている受験生が多いことに起因し、その結果、レベルが比較的高い工業高校ではこのような事態が起こる。中には高専に不合格になった生徒が高専への編入を狙って入学する場合もある。
[編集] 学校数と生徒数の変遷
文部科学省学校基本調査によれば、工業科のある高校数、工業科で学ぶ生徒数および全高校生に占める割合は次のようになっている(『文部科学統計要覧』より引用)。
- 昭和30年度(1955年):394校、237,328人(9.2%)
- 昭和35年度(1960年):644校、323,520人(10.0%)
- 昭和40年度(1965年):925校、624,105人(12.3%)
- 昭和45年度(1970年):923校、565,508人(13.4%)
- 昭和50年度(1975年):918校、508,818人(11.8%)
- 昭和55年度(1980年):852校、474,515人(10.3%)
- 昭和60年度(1985年):838校、478,416人(9.3%)
- 平成 2年度(1990年):840校、486,132人(8.7%)
- 平成 7年度(1995年):841校、414,946人(8.8%)
- 平成12年度(2000年):797校、364,000人(8.8%)
- 平成13年度(2001年):790校、355,193人(8.8%)
- 平成14年度(2002年):783校、343,883人(8.8%)
- 平成15年度(2003年):778校、329,991人(8.7%)
- 平成16年度(2004年):776校、317,492人(8.6%)
- 平成17年度(2005年):766校、302,196人(8.4%);内男子273,164人、女子29,032人。全日制284,546人、定時制17,650人。
一学年当たりの生徒数は約10万人であり、大学理系(工学部および理学部の学生数は約8万人)とほぼ同数で、工業高専のほぼ10倍に当たる。また、工業科併設校を含めた学校当たりの平均規模は、学年当たり生徒数130人となる。
[編集] おもな設置学科
多くの工業高等学校で設置されている学科には、次のようなものがある。学科の分類は、現行の『高等学校学習指導要領解説(工業編)』の科目分類を参考にした。
- 機械分野
- 電気・電子・情報技術分野
- 建築・土木分野
- 化学・材料分野
- 化学・環境系
- 工業化学科(化学工業科)
- 環境化学科
- 環境工学科
- 材料系
- 材料技術科
- 材料工学科
- セラミック系
- セラミック科(旧 窯業科)
- 繊維・インテリア・デザイン分野
- 繊維系
- 繊維科・紡織科
- 色染科
- インテリア系
- インテリア科
- デザイン系
- デザイン科
このほかに次のような学科もある。
- 工業科(普通科高校・総合高等学校など)
- 科学・技術科(東京工業大学附属科学技術高等学校)
- 薬業科、薬学科、くすり・バイオ学科(奈良県立御所工業高等学校他)
- 造船科(機械系)
- 金属工業科・冶金科、採鉱科
- 塗装科
- 工芸科・木材工芸科・金属工芸科、印刷科
- 情報機械科
- 設備工業科
- クリーニング科、ほか多数
最近は、それらを組合わせて、総合技術コースといったものも設置されている。
[編集] 進路
- 職業教育を行う「専門学科」を主体とし、高等学校を卒業した段階で、専門的な企業への就職をめざす課程が多かったが、1990年代後半からは、大学の工学部などをはじめとする高等教育への進学も視野に入れられるようになりつつもある。
- 現在は半数以上の生徒が進学(大学・専門学校)している工業高校も多く存在する。
- ただし、実践的な専門教育が行われているため、就職希望の生徒も多い。また専門教科に属する科目の授業数が多いことから、普通科に比べて普通教科に属する科目の授業数が少ない。一般入試による大学受験は、不利である見方が強い一方、「工業に関する学科」(工業学科)などからの推薦入学枠を設けている大学もある。
- とは言え、全体の授業に占める一般教科の時間割合は50~65%程度あり、専門教科はわずか1/2~1/3程度である。中学卒業時点で技術者になりたいという希望が固まっていることは多いが、15歳で入学できる専修学校はそれほど多くは無い。工業高校ならば、入学後に状況が許せば、進学や進路の再選択は十分可能である。
[編集] 就職の現状
- 伝統のある工業高等学校では、地元企業や大手企業(電力会社や自動車関連企業など)との信用関係があり、高等学校から大企業に技術職として就職する場合も多い。また、中小企業では、普通科の卒業者より、「工業に関する学科」の卒業者を対象として求人を行う企業も多く、結果として学校が紹介する就職について、就職希望者の内定率については100%であると自負する工業高等学校も多い。
- そのため、各工業高等学校では、就職を昔から重視し、面接指導を多く行ったり、進路指導室を積極的に開放したり、マナーや履歴書の書き方講座、小論文対策や採用試験対策などを実施し、少しでも就職に有利に働くようにとさまざまな対策を行っている。
- しかし、就職してからの進路は千差万別ともいわれ、就職の後に英語力を求められたり、キャリアアップが思い通りに進まずに、生涯を通じて下級の技術職を勤める場合もありうるといわれている。また、就職内定率が良好であっても、離職率が低いということではなく、企業を退職してフリーターになる場合もある。また、企業を退職した後に大学へ進学するという場合も見られる。
- 工業高等学校の性質上から、家業を継ぐために特定の資格取得を目的として入学する生徒もいる。そのため、家業を継ぐ場合、あるいは家族・親戚が就職している会社や関連会社に生徒が就業する場合、就職・自営縁故という形でカウントしている場合が多い。
- 企業によっては、大学を卒業していない者を採用した場合に、大学の夜間課程などへの修学を支援することもある。また、就職後に、個人の判断によって、職業と学業の両立を選ぶ人もおり、在職中に大学で学ぶことも多い。
[編集] 大学への進学
- ほとんどの工業高等学校には、指定校推薦(工業推薦)の定員が用意されており、多くの生徒がこの制度を利用して大学に進学する。このため、高等学校は、大学が自校に対して定員を設けるよう、私立大学に依頼したり、私立大学との関係を強化したりするなどのことを行っている。
- 工業高等学校に用意される指定校推薦の定員は、主に私立の理工系大学や私立の総合大学の理学部・工学部・理工学部などが多い。(なお、国立大学と公立大学は、指定校推薦を原則として行っていないが、工業高校推薦枠は存在する。)それ以外の大学や、指定校推薦の定員が設けられていない大学への進学を希望する場合は、公募推薦やAO入試を受験したり、予備校に通って一般入試を受験したりすることで、大学に進学する。
- 工業高等学校では、面接試験対策の指導や小論文対策の指導を重視し、また志望理由書や履歴書の資格アピール欄などの添削を積極的に行っている高等学校が多く、教科学習で良好な成績を修めること、遅刻早退をしないこと、課外活動をはじめとする校内活動を積極的に取り組むこと、多くの難関資格の取得することなどを奨励し、大学へのアピールを1つでも増やすよう指導している。
- 工業高等学校においては、大学の理系分野では必修の英語、数学、化学、物理学の授業が普通科に比べて少ない場合もあり、工学系で重要な微積分、線形代数学、数列、行列などの知識は普通科の学生に比べて劣っているのが現状である(もっとも、学科によってはこれらの知識をその専門教科の授業内容でカバーしているため、必ずしもそうとは言い切れない)。そのため、推薦入学を希望する場合は、大学入学レベルまでの補完的な勉強を大学入学までに行わなくてはいけないとされている。実際に意欲や実力のある学生はついて行けるが、逆に高校時代に十分な勉強をしていなくて、その結果単位を落とすケースも目立っている。そのため、積極的に補習を実施する高校もある一方、予備校に通って勉強をすることを勧める高校も多い。実際に学習面で進学対応に熱心な工業高校は少ないのが現状である。
- 一般入試を希望する生徒を高等学校側が学習面で支援することはほとんど少ないと言って良い。その理由は、一般入試での進学対策に対するノウハウが備わってないことや、カリキュラムが進学対策に馴染んでいないことが挙げられる。そのため希望する生徒は、担任から口頭で進路を考え直させたりさせる場合がある。これでも一般入試を希望する場合、予備校への入学を勧めることが多いようである。
- 1990年代以降は、少子化の影響で指定校推薦の形態にも変化が生じており、文系大学や文系学部が、これまで対象としてこなかった工業高等学校全般に対しても、指定校推薦の定員を設けるようになってきている。しかし、大学が定員割れの危惧を受けて、一様に各高等学校を対象として定員を設けたものがほとんどであるともいわれている。いずれにせよ、生徒は、「工業に関する学科」を卒業した後に、これまでと異なる分野と大学で学ぶ場合も増えてきている。
- また、都道府県立の高等学校と各大学が連携して進学を支援する高大連携や、全国工業高等学校長協会による特別推薦という形で、工業高等学校の優秀な生徒を日本全国から募集するという進学方法もある。国立大学でも専門学科特別入試を実施している大学もある。いずれにせよ、制度が多様かつ複雑であるため、早めの進学対策が望ましいといわれている。
- 大学の中には、工業高等学校の卒業者を対象とした英語・数学の基礎コースを設けている大学や、日本工業大学やものつくり大学のように工業高等学校の出身者を積極的に入学時に評価し、工業高等学校の卒業者にも適合する特色ある教育課程を設けている大学も存在する。専門学科からの大学入学は1990年代以降は比較的よく見られるようになっており、大学が教育課程を改善し、新入学生に合わせることによって入学者を積極的に増やす事例も目立ってきている。
[編集] 専修学校の専門課程(専門学校)への進学
- 工業高等学校から、コンピュータや美容などが学べる専修学校の専門課程(専門学校)に進学する場合もある。また、自動車整備士を目指すために専修学校の専門課程に入学する場合もある。
- 医療系を除くほとんどの専修学校の専門課程は、推薦入学を実施しており、難易度もやさしめであるといわれている。そのため、高等学校は、面接試験対策の指導や小論文対策の指導を行っている。
[編集] 関連項目
- 日本の工業高等学校一覧
- Category:工業高等学校
- Category:日本の工業高等学校
- Category:日本の工業高等学校 (廃止)
- 総合制高等学校(総合学科)
- 実業高等学校
- 農工高等学校
- 商工高等学校
- 窯業高等学校(愛知県立瀬戸窯業高等学校1校)
- 全国工業高等学校長協会
- 国立高等専門学校機構(国立工業高等専門学校)
- 職業高等学校
- 資格
- 工業高校前駅(青森県十和田市、青森県立十和田工業高等学校の前)