永久機関
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永久機関(えいきゅうきかん、Perpetual motion)とは外部からエネルギーを受け取ることなく、仕事を行い続ける装置である。
古くは単純に外部からエネルギーを供給しなくても永久に運動を続ける装置と考えられていた。しかし慣性の法則によれば外力が働かない限り物体は等速直線運動を続けるし、惑星は角運動量保存の法則により自転を続ける。そのため、単純に運動を続けるのではなく、外に対して仕事を行い続ける装置が永久機関と呼ばれる。
これが実現すれば石炭も石油も不要となり、エネルギー問題など発生しない。18世紀の科学者、技術者はこれを実現すべく精力的に研究を行った。しかし18世紀の終わりには純粋力学的な方法ではこれを実現不可能だということが明らかになり、さらに19世紀には熱を使った方法でも不可能であることが明らかになった。永久機関は実現できなかったが、これにより熱力学と呼ばれる物理学の1分野が大いに発展した。
目次 |
[編集] 第一種永久機関
第一種永久機関とは、外部から何も受け取ることなく、仕事を外部に取り出すことができる機関である。科学者、技術者の精力的な研究にも関わらず、このような機関を作りだすことはできなかった。機関が仕事をするためには「外部から熱を受け取る」、「外部から仕事をなされる」のどちらかが必要で、それを望む形の仕事に変換するしかないのである。これを定式化したのが熱力学第一法則(エネルギー保存の法則と等価)である。
[編集] 第二種永久機関
熱力学第一法則(エネルギー保存の法則)を破らずに実現しようとしたのが第二種永久機関である。 仕事を外部に取り出すとエネルギーを外部から供給する必要ができてしまう。 そこで仕事を行う部分を装置内に組み込んでしまい、ある熱源から熱エネルギーを取り出しこれを仕事に変換し、仕事によって発生した熱を熱源に回収する装置が考えられた。 このような装置があればエネルギー保存の法則を破らない永久機関となる。
熱エネルギーの回収を行うので熱源や周囲の温度は維持される。そのため空気や海水塊自体の持っている熱を取り出して仕事をし、他に熱的な影響を与えない機械ともいえる。例として海水の熱により推進する仮想的な船の例で説明する。この船では、エネルギー保存の法則により、取り出した運動エネルギー分温度の下がった海水の排水が出る。これを船の近傍に捨てるとする。一方では、船の推進の摩擦による熱が発生し、船の周りに温水ができる。スクリューで海の水をかき回すと、その冷水と温水が混じり周囲の温度と均一になり、他に(熱という意味での)影響を与えないように見える。ただし、加速時には船の近傍の海水は周りより冷たくなり、減速時には船の近傍の海水は周りより熱くはなる。
仮に第二種永久機関が可能としても、定義よりエネルギー保存は破らないため、その機械自体の持っているエネルギーを外部に取り出してしまえば、いずれその機械は停止する。本機械は「熱効率100%の熱機関」であって、その機械自体をエネルギー源として使用できるわけではない。
第二種永久機関を肯定する実験結果は得られておらず、実現は否定されている。第二種永久機関の否定により、「熱は温度の高い方から低い方に流れる」という熱力学第二法則(エントロピー増大の原理)が確立した。
第二種永久機関に関する思考実験としては以下のパラドックスが提案された。 これらの思考実験について検討することは、熱力学の法則をよりよく理解するものとなる。
- マクスウェルの悪魔
- ある2つの小さな小部屋があり、その間は小さな小窓で仕切られている。部屋の片方には分子レベルの小さな悪魔がおり、悪魔はその窓を開閉できる。悪魔は、自分の部屋に速度の速い分子が飛び込んで来たときと速度の遅い分子が出るときに窓を開け、それ以外の場合には窓を閉めるものとする。その結果、片方の部屋では速度の遅い分子のみ、もう片方の部屋は速度の速い分子に分けられ、自動的に2つの温度差が作られる。 悪魔自体は情報処理を行っており、その処理にエントロピーの増大が必要であるとされ、このパラドックスは否定されている。
- ファインマンの「ブラウン・ラチェット」
- この装置は、周囲の個々の分子のランダムな運動より、選択的にある方向の分子の運動量のみの流れを取り出し推進する。 実はこの装置は、周囲の温度より低い場合にのみブラウン運動からエネルギーを引き出すことができる。生物の分子モーターの原理でもある。
[編集] 永久機関のように見える装置・現象
実際に動作しており、一見して永久機関のようにみえる装置や現象がある。 しかし、詳しく検討すればこれらは永久機関では無いことがわかる。
- 平和鳥
- 日本で開発された鳥の形を模したおもちゃ。頭部に相当する部分から蒸発する水が熱を奪い、鳥の上下の温度差を維持する。鳥は頭部と胴体部をガラス管で接続した構造で、内部に揮発性の液体が入っている。鳥はシーソーのように中心付近を支点として固定されている。通常時は頭が起き上がっている。頭部にある吸水性のフエルトを水で濡らすと、蒸発する水が気化熱を奪うため温度が下がり、液体がガラス管の内部を上昇する。液体が上まで届くとバランスが崩れ、頭部が重くなって頭を垂れる。このとき頭部が浸かる位置に水を入れたコップを置いておき、頭を垂れた時に頭部へ入った液体が流れ落ちるように調整しておくと、再び頭が起き上がる。水がなくなるか室内の空気の湿度が100%になるまで、この運動が半永久的に続く。
- スイングバイを行う宇宙船
- 宇宙船が適切な方向から惑星に接近すると、エネルギーを消費することなく宇宙船の速度を変化させることができる。 この方法は実際の惑星探査機によって用いられておりスイングバイとよばれる。 このときには、宇宙船と惑星とを含めた系の運動量は保存しなければならない。 しかし惑星の質量が宇宙船の質量よりもはるかに大きいため、太陽系全体の運動としてみたとき、惑星の速度変化はほとんど目立たず、惑星から奪った運動量によって宇宙船の速度だけが変化したように見える。
[編集] 永久機関と疑似科学
[編集] 永久機関を作る試み
第二法則が確立する以前には、永久機関を作る試みが何度もなされた。 こうした歴史的永久機関には図に示したものの他に以下のようなものがあった。
- アルキメデスの無限螺旋
- アルキメデスが発明したとされる螺旋状の揚水装置を利用した永久機関。まずこの螺旋の回転によって上方に運び上げた水を落とし、水車を回転させ、それを動力として螺旋を回すというアイデアである。
そのほか、
- オルフィレウスの自動輪
- 永久磁石回転装置
などがある。
[編集] 疑似科学的永久機関
熱力学の法則の確立以後も疑似科学者や詐欺師によって、永久機関が「発明」され続けている。現在でも、永久機関を「発明」したとして日本の特許庁に年間数件の特許申請があるという。アメリカの特許庁では、あまりにも多くの永久機関の特許請求があったため、永久機関を利用した発明を拒絶理由にするに至った(例外的に、いくつか特許審査を通過したものもあった)。
一般的に疑似科学者達には複雑な科学理論を理解する素養が無いので、「永久機関は存在しない」といった彼らにも理解しやすい法則は攻撃対象になりやすいのである。特に「第二種永久機関が実現不可能」ということは厳密にいえば依然経験則であるため、付け込まれる隙があるといえる。
また詐欺として確信犯的に永久機関が「発明」される事も多い。永久機関という(仮に実在するとすれば)世界最大級の発明を武器にして、科学的知識が乏しい投資家達をカモにするのである。
こうした近現代の似非永久機関の例として以下のものがある。
[編集] 熱力学の法則を回避した「永久機関もどき」
上述したように、熱力学の法則があるゆえ永久機関を作ることはできない。しかし第一法則、第二法則とも、外部から何のエネルギーも貰っていないという仮定のもとでのみ成立している。したがって外部からエネルギーが貰えるという状況下では、「永久機関もどき」を作ることができる。太陽電池がその一例である。さらに言えば、水車も同じことである。もちろん、外部から永遠にエネルギーを貰い続けることはできないので、これらの装置は実際は「半永久機関」になる。
真の意味での永久機関は実現不能なので、永久機関で特許を取得するのは困難である。このため以上のような抜け穴を利用して「永久機関もどき」を実現したと主張する疑似科学的発明が後を絶たない。
こうした似非「永久機関もどき」の一例として、ドクター中松によるドクター中松エンジン(エネレックス)が挙げられる。ドクター中松の主張によれば、この装置は外部から「宇宙エネルギー」を摂取することによって動くので、 この装置の存在は熱力学の法則と矛盾しない。しかし「宇宙エネルギー」に関する説明がない以上、この装置は単なる疑似科学的発明に過ぎないと言える。
[編集] 熱力学の第二法則と創造科学
創造科学とは、キリスト教神学の一つで、神が世界を作ったことを「科学的」に証明する学問である。学問の性質上、創造科学者は進化論のような聖書と矛盾する学説には批判的である。
創造科学者の中には、生物進化が熱力学の第二法則に反し、したがって進化論は間違いであると主張するものがいる。第二法則は「世界は乱雑な方向へと動く」という趣旨であるので、彼らの主張によれば、生物が進化によって高度で調和の取れた「非乱雑な」ものへと変化していくのは第二法則に反する。
しかし彼らの主張は多くの意味において間違っている。まず第二法則は外部から何のエネルギーも貰っていないという仮定のもとでのみ成立しているのだが、地球は外部からエネルギー(太陽の光)を貰っているので、地球上の生物に限定して第二法則を適応するのはそもそも意味がない。
また仮に外部からエネルギーを貰っていないとしても彼らの主張はおかしい。なぜなら第二法則は全体として乱雑が増すと主張しているだけで、部分的には乱雑さが減少するかもしれないからである。つまり、生物が「非乱雑な」方向へと変化したとしても、その分他のものが「乱雑な」方向へと動いていれば、全体としては第二法則が成立するのである。
さらに、進化が高度で調和の取れたものへの変化であるという考えはそもそも間違いである。進化とは多様化・乱雑化であり、決して「優れた生物」への定向的な改良などではあり得ないからである。詳細は進化論や退化を参照。
[編集] 外部リンク
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