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核戦争

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

核弾頭の写真(MK6 TITAN II)
核弾頭の写真(MK6 TITAN II)

核戦争(かくせんそう)とは、核兵器を両勢力が主要な兵器として使用して戦われる戦争のこと。

目次

[編集] 概説

核戦争とは原子爆弾水素爆弾中性子爆弾などの核兵器、またそれらを運搬する各種のミサイル爆撃機潜水艦などを主要な兵器として両勢力が用いた戦争を指す。その規模については限定的なものから全面的なものまでさまざまな形態が考えられているが、いずれにしても甚大な被害が生じると考えられている。

2006年現在までに核兵器の実戦使用は第二次世界大戦におけるアメリカ日本への2発の原爆投下があるが、核戦争は発生したことがない。しかし、1962年キューバ危機など、核戦争を引き起こしかねない危機は発生している。

[編集] 核戦争の理論

核戦略の研究者の間では核戦争の発生や進行に関していくつかの派が存在する。

[編集] 核戦争を引き起こす要因

核戦争の勃発には基本的に二つの要因があると考えられている。危険性のエスカレートと、奇襲攻撃によるものである。ここでは主な要因について述べる。

  • 先制攻撃は核保有国が存在する限り常に存在する可能性である。相手国が核兵器で攻撃される危険性を感じれば、核戦争における初戦の優位を獲得するために先制攻撃を行う可能性がある。
  • 危険度のエスカレーションはそれぞれの国家軍隊が危機的状況において相互に自らの優位性を争奪する過程で軍事的な威嚇のレベルを上げる際に発生する。ゆえに冷戦末期の国際政治において超大国の重要な権益にかかわる地域の紛争にかかわってはいけないという不文律があった。
  • 優位性の喪失は相手国が軍事的優位性を確保した場合に、自国にとって不利な軍事力バランスの打破を期待して発生するものであり、優位性を完全に喪失する前に先制攻撃を実行しようという考え得る。冷戦期の米国戦略防衛構想はこの問題を取り扱っていた。
  • 技術的偶発は意思決定の考えとは無関係に核戦力が行使されて核戦争が勃発するものである。偶発事件には非常にさまざまな種類がある。大陸間弾道ミサイルに搭載される核兵器は作動解除リンクシステムで管理されているが、潜水艦発射弾道ミサイルの核弾頭は技術的制約上システムの管理下にない。ただ責任者全員の同意がなければ発射できない仕組みになっているが、収拾不可能な緊急事態において核兵器が使用される危険性がわずかに残っている。
  • 不合理な要素は、情緒不安定・精神疾患・過激な宗教イデオロギーなどの要素を持った非合理的な政策決定者によってもたらされる。彼らにとっては、多大な人命や財産の損失よりも、妄想によって産まれた敵の打倒や、信奉するの勝利の方が優先される可能性がある。すなわち国際社会に上記のような人物が統治する核保有国が存在する限り、不合理な要素によって核戦争が勃発する危険性は存在する。

[編集] 核攻撃の形態

核戦争が始まる核戦力を用いた攻撃にはいくつかの形態が考えられる。

  • 対都市攻撃:第二次世界大戦中の都市爆撃と同様、相手国の都市を破壊することで、国民戦意や継戦能力、インフラを破壊することを狙った核攻撃である。広島・長崎への核攻撃はこれに分類される。特に冷戦期間中、核保有国・非核国の区別なく各国でシミュレートされ、他の形態の核攻撃と比べて被害が際立って膨大なことから最も恐れられた攻撃である。主に民間人やその住居など、非軍事目標を狙うため非人道性は高いが、一旦大規模な核戦争が起きると、後述する対核戦力核攻撃によって、数時間から数日のうちに彼我の核戦力が沈黙し、以後選択の自由は失われてしまう為、保険的な目的で核戦争勃発時にこうした攻撃が発生する可能性は、今でも高いと考えられている。冷戦期間中は米ソ両国で検討されプラン化されていた。
  • 対核戦力先制攻撃:相手国の核戦力の基盤であるミサイルサイロ、潜水艦基地などに対する核戦力を用いた先制攻撃である。ただし、外洋をパトロールする潜水艦には核兵器が搭載されており、その破壊は難しいため、不完全なものとなる可能性が非常に高い。
  • 対通常戦力先制攻撃:相手国の通常戦力、陸軍海軍空軍駐屯地基地に対する核戦力を用いた先制攻撃である。この攻撃が行われる場合は、その後に相手国の戦力を完全に無力化するために通常戦力を用いた攻撃が計画されている可能性が高い。
  • 対産業攻撃:発電所、エネルギー施設、産業施設などの経済拠点に対する核戦力を用いた攻撃である。ただし、この攻撃を実施する場合は、目標地域に民間人がいるため、多大な死傷者が出る。
  • 対司令部攻撃:首都、統治機関、軍隊参謀本部などの司令部に対する核戦力を用いた攻撃である。この攻撃は理論上、相手国の報復攻撃を阻止することを目的としたものであるが、軍指導部は核兵器発射権限を各部隊に委譲できるため、実際に指揮系統を機能停止にし、反撃を封じ込めることは非常に難しい。
  • 報復攻撃:先制攻撃を受けた場合、相手国の核戦力(場合によっては産業・司令部に対して)を無力化するために核戦力を用いて報復のために攻撃を実施する。報復攻撃には主に二つの方法がある。
    • 警報時の発射(LOW):核兵器が爆発する前に報復攻撃を実行することである。基本的にこの攻撃は人工衛星レーダーを用いたミサイル警報システムが整備されている必要性がある。
    • 被爆下の発射(LUA):核兵器が爆発したことを確認してから報復攻撃を実施する。さまざまなセンサー人工衛星などで情報を確認し、攻撃を実行する。
  • 核テロ攻撃:スーツケースていどの小型の核兵器を用た攻撃を指す。軍事的な分類ではないが、都市で実施すれば高層ビルを崩壊させ、周囲の建築物に多大な被害を与えるという非常に大規模な攻撃が可能であり、非常に危険性が高い。(テロリズムを参照)

[編集] 核攻撃の影響

核戦争は予想されうる事態に過ぎず、歴史的な事例は存在しない。また戦争には多数の不確実性が生じ、その影響も攻撃方法、使用兵器、攻撃対象の位置、環境、人口などさまざまな要素が関連するため科学的な予測は難しい。しかし、「核攻撃」の影響に限定すればある程度は既存のデータや研究に基づいて考察することはできる。ここでは都市等の拠点に対する核攻撃の影響について述べる。

[編集] 爆風

核兵器の最も直接的な被害はその絶大な破壊力を持つ爆風によって引き起こされる。空中爆発させた場合、爆発地点から爆風が一気に周辺の空気を押し出し、地上のあらゆる建築物を押しつぶす気圧変化(静的加圧)と建築物をなぎ払う強風(動圧)を発生させる。さらに地上、地上付近の空中で起爆した場合、その爆風によって周辺の物体は破壊されて空中に巻き上がり放射性降下物となり、その他の物体は爆発で形成される巨大なクレーターの縁に集積する。人的被害については、この爆発の直接の圧力よりも副次的な関係によって殺傷される場合が多い。例えば爆破によって吹き飛んでくる物体が人間に落ちてきたり、体に突き刺さったり、吹き飛ばされたときに周辺の物体に叩きつけられるなどである。そのため、人的被害の数量的な予測は難しい。

[編集] 核放射線

核兵器は二つの手段によって生物に電離放射線を浴びせる。一つは爆発時に発生する放射線であり、もう一つは放射性降下物から発せられる放射線である。人間は短期間に600レムの線量を浴びれば致命的な病気を発生させ、数週間のうちに絶命すると考えられている。450レムであれば被爆者全体の半数が致命的な病気にかかり命を落とすが、半数が生き残り、300レムならば被爆者の10%が死亡し、50レム~200レムならば眩暈や抵抗力が低下するなどの症状が現れ、50レム以下ならば自覚症状はないが、何らかの損傷を負っている可能性が高い。また被爆者の一部からは深刻な遺伝的な影響が見られる [要出典] 。ただし、放射線と生体の影響については科学的な論争が存在する。(レムとは「生体実効線量」であり、生物学的な損傷に注目した線量の尺度である1000レントゲンが100ラド、100レムを生じさせる)

[編集] 熱放射

核兵器(熱核兵器)は爆発と共に非常に強い熱エネルギーを放出する。熱は光線とほぼ同じ速度で伝達(大気中ではやや遅くなるが)し、熱傷を引き起こす。人間は体の30%以上の表皮が熱傷になるとショック状態となり、致命傷となる。ただし、この被害については天候の影響を受けやすく、多湿であれば熱放射は吸収される。同時に発生する可視光線は爆発を目視していた人々を閃光盲目にし、その後数分間継続するが回復する(ただし眼鏡などを通じて目視した場合はこの限りではない)。

[編集] 火災

核兵器の熱放射はあらゆる可燃物を燃焼させる。特に家具類や可燃性の資源が発端となり、火災が発生する。この場合、同時多発的に発生した火災は融合して大規模火災に成長する危険性がある。大規模火災には風が流入することで高温を発生させる旋風火災と、火災が徐々に燃え広がっていくコンフラグレーション(大火)の二つがある。旋風火災である場合、その高熱と燃焼反応によって多くの人を熱傷・窒息死に至らしめる。コンフラグレーションの場合、比較的避難の時間があるが、核攻撃の負傷者は迅速に移動できず高確率で死亡する。

[編集] 電磁パルス

電磁パルスとは電磁波の一種であり、ガンマ線が大気中、地面に吸収されると発生する。電磁パルスは数千ボルトの磁場を形成し、通信システムや電力システムは機能停止となる。ただし、一般的なラジオ等は電磁パルスには感応しないと考えられる。

[編集] 放射性降下物

核爆発が地上の物体を巻き込めばそれらが放射性降下物となる。(空中爆発でも放射性降下物は発生する)一時間以内に、低空まで上った放射性降下物は地上に降りてくる。これによって放射線防護の要素が現れ、第一次の救難活動、ひいては長期的な復興計画にも影響する。一方でより上空まで舞い上がった放射性降下物は気象条件などによってその降下地点が変わる。これら放射性降下物は実際に熱や爆風で被害を受けなかった地域に放射線という目に見えない核兵器の被害を与える。放射性降下物はその物質が崩壊するとともにその放射線量は減少するが、そのプロセスの速度は物質による。しかし大半が短命に崩壊する物質であると考えられるので、49時間で100分の1、2週間後には1000分の1にまでその線量は低下すると考えられる。(放射性降下物が生体に与える影響は上記の核放射線の項を参照)

[編集] 相乗効果

今までの影響は相互作用することが考えられる。例えば、核放射線と熱放射の相乗効果を考慮した場合、放射線を大量に浴びた人間の循環系には大きな損害が与えられ、熱傷の回復力が大きく低下することが動物実験で示されている。すなわち、放射線さえ受けなければ回復する熱傷であるにもかかわらず、回復不能で死に至る場合が考えられる。

[編集] 核戦争の危機

[編集] 冷戦

敵方における核爆発はなかったものの、自らの勢力の武力を誇示する目的で、核兵器の開発、核実験が行われた。

大気圏内核実験は、実験に参加した兵士および核実験場近くに居住する米国市民を蝕み、放射線障害を訴える被災者が発生した。ネバダ砂漠には大規模な核実験場があり、当時、西部劇の野外撮影が行われていた。このため、西部劇関係者には白血病の患者が多いとされる。(参考文献:「ジョン・ウェインはなぜ死んだか」)

[編集] インドおよびパキスタン間の緊張

南アジアインドパキスタンは、三度の印パ戦争を行い、現在でも緊張状態にある。インドは1974年に初の核実験を行い、1998年5月に再度核実験を行った。これに呼応して、パキスタンも1998年5月に核実験を行い、核兵器開発能力をしめした。このため、再度、印パ戦争が勃発したときは、両国間の核戦争になる恐れが生じている。

[編集] アメリカの戦術核に対する懸念

アメリカのブッシュ政権は抑止力としての役割を果たす戦略核兵器の縮小に代わり、戦術核兵器の使用を公言している。これはより限定的な範囲を核兵器で攻撃するための兵器を指す。

[編集] 使用された核兵器

実験以外で使用された核兵器は、下記の2例である。

[編集] 第二次世界大戦

第二次世界大戦は核戦争ではないが、この戦争の終盤で人類史上初めて、核兵器が使用された。

[編集] フィクションにおける核戦争

2006年現在、現実には全面核戦争は起きていないが、フィクションの世界では、全面核戦争やその後の世界を舞台にした作品がある。以下はそのような世界を描いた代表的な作品である。

[編集] 参考文献

  • 米国技術評価局 西沢信正・高木仁三朗訳『米ソ核戦争が起こったら』岩波現代選書(1981年7月30日)
  • ジェイムズ・ダニガン、ウィリアム・マーテル 北詰洋一訳『戦争回避のテクノロジー』河出書房新社(1990年)

[編集] 関連項目

[編集] リンク

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