電子レンジ
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電子レンジ(でんしレンジ、microwave oven)は、電磁波(電波)により、水分を含んだ食品などを加熱する調理機器である。
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[編集] 概説
マイクロ波が照射されると、極性をもつ水分子を繋ぐ振動子が振動エネルギーを吸収して振動をし始め、エネルギー準位を上げていく。すると、所謂、結合の手(振動子)を放して蒸発することになる。電子レンジはこの性質を利用している(マイクロ波加熱)。
電磁波の発生源としては、マグネトロンという、電子管の一種が使われている。
利用する電磁波は、周波数2.45GHzのマイクロ波で、出力は家庭用で500~1000W(100V、10A)程度、コンビニエンスストアなどにある業務用では1500~2000W(200V、10A)程度ある。この周波数はISMバンドと呼ばれ、無線LANなどでも利用されている特別の周波数であり、電子レンジを動作させると、無線LAN、更にはアマチュア無線にも(発振周波数の直下がアマチュア無線の2.4GHzバンド)影響を与える場合が多い。
初期のものや、安い価格帯の単機能電子レンジにおける、完了を知らせる音(発条式タイマーと打ち子式ベルの組み合わせによる)から、電子レンジで調理することを俗にチンすると表現することも多く、これを載せている国語辞典もある。中国語では、類似の擬音語による表現もあるが、「回す」を意味する「轉 ジュアン zhuǎn」という動詞が電子レンジで加熱するという意味にも使われている。
[編集] 歴史
マイクロ波は通信などで用いられてきたが、これを加熱に使用するという着想はまったくの偶然から生まれた。
発明者はアメリカ合衆国のレイセオン社 (Raytheon) で働いていたレーダー設備設置技師パーシー・スペンサー (Percy Spencer) で、ポケットの中の食べかけのピーナッツ・クラスター・バーが溶けていたことから調理に使用可能であることが判明したとされる。
最初に電子レンジで調理した食物は、慎重に選ばれた結果、ポップコーンであった。2番目は鶏卵だったが、これは爆発により失敗した。
レイセオン社はマイクロ波による調理について1946年に特許をとり、1947年に最初の製品を発売した。高さ180cm、重量340kg。消費電力は3000Wだった。この製品は大変に売れ行きがよく、他社も相次いで参入した。
日本での商品化は、1962年にシャープが業務用に出したものが第一号といわれ、1964年開通の東海道新幹線のビュッフェ車にも備え付けられた。[1]
一般家庭向けに発売されたのは、1965年が最初といわれている。[2][3]
![1971年、ナショナルから発売された家庭用電子レンジ「エレック」NE-6100。温めのみの単機能でタイマーとon/offボタンしかついていない。価格は8万円台と、当時の電子レンジとしては「安価」だった。[1]](../../../upload/shared/thumb/b/bd/Electronic-range_National_NE6100_open.jpg/180px-Electronic-range_National_NE6100_open.jpg)
もっとも当初は消費者からすんなりと受け入れられたわけではなかった。冷めた料理を温めたり、冷凍食品を解凍させる程度の役にしか立たない調理器に、なぜ高い金を出して購入する必要があるのか、まったく理解されなかったからである。そのためメーカーは、電子レンジがあたかも「焼く」「煮る」「蒸す」「揚げる」「炒める」「茹でる」「漬ける」等ありとあらゆる機能をこなす万能調理器であるかのように宣伝して売ろうとし、それに対して『暮しの手帖』は1975年~1976年に特集を組む。当時『暮しの手帖』の商品テストは消費者から高い信頼を得ていたが、「電子レンジ この奇妙にして愚劣なる商品」と題されたその記事が、「メーカーはなにを売ってもよいのか」と徹底的な酷評を加えるものであったのも当然であった。
しかしその後、その「冷めた料理を温める程度の役にしか立たない調理器」は徐々に普及していくことになる。『暮しの手帖』は同じ号で、蒸し器を使って冷めた料理をおいしく温めるコツについての記事を掲載していたが、多少味が落ちようが、ボタン一つの手間で料理を温めることができる便利さは、多くの家庭にとって抗いがたい魅力に映ったのである。冷凍食品の普及と品質向上、冷凍食品を保存できる冷凍庫つきの冷蔵庫の普及が重なったことも幸いした。そしてさらには電子レンジで調理することを前提とした半調理済み食品までが販売されるようになったのである。
1970年の大阪万国博覧会の会場周辺には、電子レンジを組み込んだハンバーガーの自動販売機が登場して、話題になった。
近年は、温める機能のみの単機能な電子レンジであれば、1万円以下で購入できることもあり、広く使われている。このため、電子レンジで温めればそのまま食べられる食品も数多く店頭に並ぶようになった。
[編集] 種類
一方、電子レンジに高付加価値をつけた製品も多く登場してきている。その代表的な例がオーブン機能のついた電子レンジである。電子レンジには出来ない、焼く、という機能を、電熱線を使ったオーブン機能で行い、オーブンと電子レンジの双方の利点をミックスしている。
さらに、マイクロ波の吸収にむらがないように、ターンテーブルを用意したり、電波の拡散のためのファンを用意したり、スチームを利用して加熱したり、あるいは食品の温度を計測しながら自動的に加熱時間を調整するような電子レンジも登場している。
また、電子レンジは、その構造上商用電源周波数に依存するものが大多数であった。しかし、より効率的な加熱を行うために、インバータなどで、電力をコントロールする機能を有しているものもある。そのような製品は商用電源周波数に依存しないようになっているものもある(いわゆるヘルツフリー)。
[編集] 利用にあたっての注意
- 電子レンジはマイクロ波を使うため、金属箔(アルミ箔など)、金属粉を使った(装飾の金線・銀線など)陶器、沈金を施した漆器などは、火花を生じるので使用できない。
- 食品の加熱・解凍以外の用途に電子レンジを使用することは、原則的に各メーカーは禁止している。湿布や湯たんぽなど調理以外の用途に電子レンジを使う商品も出回っているが、扱いは慎重に行う方が望ましい。ドライフラワーを作るのに電子レンジを利用する方法もあるが同様である。
- 電子レンジ調理の際、食品から熱が伝達して容器が熱くなる場合があるので、容器の耐熱性や取り扱いには十分注意する。必要に応じて鍋掴みを用いたり、あら熱を取ってから食品を取り出すようにすることも火傷の事故を防ぐ手段となる。
- 耐熱性の無いプラスチック容器を用いると、高温により変形することもある。特に油物を入れた発泡スチロール製のトレーでは溶解する場合がある。また、容器の材質によっては高温により可塑剤などの人体に有害な成分が食品に溶出する恐れもあるので、極力電子レンジ用の容器を使用することが望ましい。具体的には白地の陶磁器、耐熱ガラス器(MICROWAVABLEの刻印あり)など。
- 同様に食品用ラップフィルムでも可塑剤などが溶出する製品も存在するので、慎重に選ぶことが望ましい。ほとんどの製品には「油分の強い食品を直接包んで電子レンジに入れないでください」という注意書きがある。
- 感電防止の観点からアースを取ることを推奨する。
- 1kW程度の電力を消費するので、電源系統の過負荷には注意する必要がある。
- 膜や殻で覆われているもの(鶏卵、銀杏、栗、ソーセージ、飴など)は破裂する危険があるので、これらの食品は極力電子レンジで調理しないこと。やむをえない場合は蒸気を逃がす穴や切れ目をつくる必要がある。おでんの卵・スコッチエッグなど特に注意。またトーストもうまく作れない(生地が乾燥しボール紙状になって噛み切れなくなる)。
- 密封された冷凍食品や透明袋入りのレトルト食品を加熱する場合は、指示に従って、一部を切るなど、蒸気の逃げ場を作ること。
- 縦長のコップなどの深い容器で液体を加熱すると、突沸(突然爆発したかのように沸騰)する危険性があるので注意が必要。基本的に、電子レンジで液体(飲み物)を沸騰させるようなことは避けた方が望ましい。湯を沸かすための広口の専用容器を附属している場合は、指定の容器を使うことが望ましい。
[編集] その他
- 「電子レンジ」という名前は、安全でスピーディーなこの装置を東海道本線の電車特急「こだま」(151系電車)に搭載する際、国鉄の担当者のひらめきによって命名されたのが最初とされる。その後市販品にも使われ、一般的な名称となっていった。
- 都市伝説として「飼い猫を電子レンジで乾燥」というものがあった。(俗称猫チン事件)内容としては、ある主婦が飼っている猫を洗った後、毛を乾燥させる為に電子レンジを使用したところその猫が死んでしまい、主婦は「電子レンジの取扱説明書に『ネコを乾燥させてはいけません』とは書かれていない」と主張、製造メーカーの落ち度であると裁判になり、企業側が敗訴し多額の賠償金を支払うことになり、結果として電子レンジの取扱説明書に「ペットを入れないで下さい。」という注意書きを書くに至ったという話。
- 電子レンジを electronic oven とするのは和製英語で、英語本来の語は microwave oven (マイクロ波オーブン)である。