網野善彦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
網野 善彦(あみの よしひこ、1928年1月22日 - 2004年2月27日)は、山梨県生まれで東京都育ちの歴史家である。専攻は日本中世史。中世の職人や芸能民など、農民以外の非定住の人々である漂泊民の世界を明らかにし、天皇を頂点とする農耕民の均質な国家とされてきたそれまでの日本像に疑問を投げかけ、日本中世史研究に大きな影響を与えた。また、中世から近世にかけての歴史的な百姓身分に属した者達が、決して農民だけではなく商業や手工業などの多様な生業の従事者であったことを実証したことでも知られている。その学説には批判が多いが、日本史学に民俗学からのアプローチを行い、日本史学に学際的な研究手法を導入した功績は広く認められている。
妻の父が生物学者・中沢毅一。妻の兄が民俗学者・中沢厚と、歴史学者・中沢護人。厚の息子が中沢新一。
目次 |
[編集] 経歴
山梨県東八代郡御坂町(現在の笛吹市)にて、江戸時代から続く地主の末男として誕生。曾祖父は山梨中央銀行の前身である網野銀行の創業者。
幼時に東京市麻布区桜田町(東京都港区西麻布)へ移住。白金小学校卒業後、1940年、旧制東京高等学校尋常科入学。このころの友人に氏家齊一郎や城塚登がいる。
旧制東京高等学校高等科文科卒業後、1947年、東京大学文学部国史学科入学。このころ日本共産党に入党。民主主義学生同盟副委員長兼組織部長となったが、のち運動から脱落。
1950年、東京大学文学部国史学科卒業。澁澤敬三主宰の日本常民文化研究所の分室に入り、ここで知り合った中沢真知子と1955年に結婚。エンゲージリングが買えないほど貧しかったため、代わりにカーテンリングを贈った。
1955年、同研究所を辞し、永原慶二の世話で東京都立北園高等学校の教師となり、1966年まで同校に勤務。同校では部落解放研究会顧問を務める傍ら、東京大学史料編纂室に通って古文書を筆写、1966年に『中世荘園の様相』を著す。
1967年、東京大学の先輩たちの世話で名古屋大学文学部助教授に就任。1980年、神奈川大学短期大学部教授。のち同大学経済学部特任教授となる。2004年、東京都内の病院にて肺癌で死去。享年76。
[編集] 著作
[編集] 単著
- 『中世荘園の様相』(塙書房、1966年)
- 『蒙古襲来(上・下)』(小学館『日本の歴史』第10巻所収、1974年/小学館文庫、1992年)
- 『中世東寺と東寺領荘園』(東京大学出版会、1978年)
- 『無縁・公界・楽――日本中世の自由と平和』(平凡社、1978年/増補版、1987年/平凡社ライブラリー版、1996年)
- 『日本中世の民衆像――平民と職人』(岩波書店[岩波新書]、1980年)
- 『東と西の語る日本の歴史』(そしえて、1982年/講談社[講談社学術文庫]、1998年)
- 『日本中世の非農業民と天皇』(岩波書店、1984年)
- 『中世再考――列島の地域と社会』(日本エディタースクール出版部、1986年/講談社[講談社学術文庫]、2000年)
- 『異形の王権』(平凡社、1986年/平凡社ライブラリー版、1993年)
- 『日本社会と天皇制』(岩波書店[岩波ブックレット]、1988年)
- 『日本論の視座――列島の社会と国家』(小学館、1990年/小学館ライブラリー版、1993年)
- 『日本の歴史をよみなおす』(筑摩書房、1991年)
- 『日本中世土地制度史の研究』(塙書房、1991年)
- 『海と列島の中世』(日本エディタースクール出版部、1992年/講談社[講談社学術文庫]、2003年)
- 『職人歌合』(岩波書店、1992年)
- 『海から見た日本史像――奥能登地域と時国家を中心として』(河合文化教育研究所、1994年)
- 『日本社会再考――海民と列島文化』(小学館、1994年)
- 『中世の非人と遊女』(明石書店、1994年/講談社[講談社学術文庫], 2005年)
- 『悪党と海賊――日本中世の社会と政治』(法政大学出版局、1995年)
- 『日本中世都市の世界』(筑摩書房、1996年/ちくま学芸文庫、2001年)
- 『日本中世史料学の課題――系図・偽文書・文書』(弘文堂、1996年)
- 『中世的世界とは何だろうか』(朝日新聞社[朝日選書]、1996年)
- 『日本中世に何が起きたか――都市と宗教と「資本主義」』(日本エディタスクール出版部、1997年/洋泉社[洋泉社MC新書], 2006年)
- 『海の国の中世』(平凡社[平凡社ライブラリー]、1997年)
- 『日本社会の歴史(上・中・下)』(岩波書店[岩波新書]、1997年)
- 『日本中世の百姓と職能民』(平凡社、1998年/平凡社ライブラリー版、2003年)
- 『海民と日本社会』(新人物往来社、1998年)
- 『古文書返却の旅――戦後史学史の一齣』(中央公論新社[中公新書]、1999年)
- 『「日本」とは何か』(講談社、2000年)
- 『歴史としての戦後史学』(日本エディタースクール出版部、2000年)
- 『歴史を考えるヒント』(新潮社[新潮選書]、2001年)
- 『中世民衆の生業と技術』(東京大学出版会、2001年)
- 『「忘れられた日本人」を読む』(岩波書店、2003年)
- 『里の国の中世――常陸・北下総の歴史世界』(平凡社[平凡社ライブラリー]、2004年)
- 『日本の歴史をよみなおす』(筑摩書房[ちくま学芸文庫], 2005年)
- 『列島の歴史を語る』(本の森, 2005年)
[編集] 共著
- (阿部謹也・石井進・樺山紘一)『中世の風景(上・下)』(中央公論社[中公新書]、1981年)
- (阿部謹也)『中世の再発見――対談 市・贈与・宴会』(平凡社、1982年/平凡社ライブラリー版、1994年)
- (上野千鶴子・宮田登)『日本王権論』(春秋社、1988年)
- (谷川道雄)『交感する中世――日本と中国』(ユニテ、1988年)
- (川村湊)『列島と半島の社会史――新しい歴史像を求めて』(作品社、1988年)
- (森浩一)『馬・船・常民――東西交流の日本列島史』(河合出版、1992年/講談社[講談社学術文庫], 1999年)
- (鶴見俊輔)『歴史の話』(朝日新聞社、1994年)
- (司馬遼太郎)『東と西――対談集』(朝日新聞社[朝日文芸文庫]、1995年)
- (宮田登)『歴史の中で語られてこなかったこと――おんな・子供・老人からの「日本史」』(洋泉社、1998年)
- (イマニュエル・ウォーラステイン・川勝平太・榊原英資・山内昌之)『『地中海』を読む』(藤原書店、1999年)
- (宮田登)『神と資本と女性――日本列島史の闇と光』(新書館、1999年)
- (笠松宏至)『中世の裁判を読み解く』(学生社、2000年)
- (伊藤雅俊・斎藤善之)『「商い」から見た日本史――市場経済の奔流をつかむ』(PHP研究所、2000年)
- (石井進)『米・百姓・天皇――日本史の虚像のゆくえ』(大和書房、2000年)
- (森浩一)『この国のすがたを歴史に読む』(大巧社, 2000年/改題『この国のすがたと歴史』朝日新聞社, 2005年)
- (田中優子・樺山紘一・成田龍一・三浦雅士・姜尚中・小熊英二)『「日本」をめぐって――網野善彦対談集』(講談社、2001年)
- (横井清)『都市と職能民の活動』(中央公論新社、2003年)
- (吉本隆明・川村湊)『歴史としての天皇制』(作品社, 2005年)
[編集] 編著
- 『職人と芸能』(吉川弘文館、1994年)
[編集] 共編著
- (石井進)『中世都市と商人職人』(名著出版、1992年)
- (木下忠・神野善治)『海・川・山の生産と信仰』(吉川弘文館、1993年)
- (川添昭二)『中世の海人と東アジア――宗像シンポジウム2』(海鳥社、1994年)
- (石井進)『信仰と自由に生きる』(新人物往来社、1995年)
- (石井進)『蝦夷の世界と北方交易』(新人物往来社、1995年)
- (石井進)『日本海交通の展開』(新人物往来社、1995年)
- (石井進)『内海を躍動する海の民』(新人物往来社、1995年)
- (後藤宗俊・飯沼賢司)『ヒトと環境と文化遺産――21世紀に何を伝えるか』(山川出版社、2000年)
- (石井進)『北から見直す日本史――上之国勝山館跡と夷王山墳墓群からみえるもの』(大和書房、2001年)
- (樺山紘一・宮田登・安丸良夫・山本幸司)『岩波講座天皇と王権を考える(全10巻)』(岩波書店、2002年-2003年)
[編集] 書評
- 網野善彦『日本の歴史をよみなおす』正続、1991 ちくまプリマーブックス 筑摩書房(『松岡正剛の千夜千冊』第八十七夜【0087】)