野望の王国
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『野望の王国』(やぼうのおうこく)は、雁屋哲原作、由起賢二画の劇画である。
1977年から1982年にかけて日本文芸社の漫画雑誌「週刊漫画ゴラク」に連載された。単行本はゴラクコミックスより全28巻が刊行。のちに愛蔵版(全14巻)も出た。単行本は長く絶版状態が続き、単行本は揃いで数万円のプレミア価格がつくほどのカルト的人気を持っていたが、2002年より、同社から全9巻の「完全版」として復刊された。なおコンビニ向けの廉価本として冒頭部分のみが出されている。
主人公は、ともに東大法学部で政治学を修める橘征五郎と片岡仁の二人組である。二人は学業でもスポーツでも非常に優秀な成績を出し、教授や同窓生から注目を浴びていた。だが、卒業後の進路を問われて、二人は研究室に入るのでなく、官公庁や一流企業に就職するのでもなく、「自分たちの野望を達成するため」に野に出ることを断言し、周囲を唖然とさせた。実は橘征五郎は有力な暴力団である橘組の組長の息子であった。父の亡き後、新たな組長となった征二郎の補佐として征五郎は様々な権謀術数を駆使し、片岡とともに暴力で日本を制覇するという野望実現のため奔走することとなる。そして川崎中央署署長の若手警察官僚・柿崎憲、宗教団体を率いる白川天星、という独自の野望と執念を持つ人物も登場して互いにぶつかり合い、混迷を極める展開となる。
征五郎と片岡が掌握しようとする裏の暴力機構であるヤクザと、柿崎が代表する表の暴力機構である警察との対決、および双方の内部での抗争を通じ、最終的に誰が日本の暴力機構を握り日本を支配するのかが物語の焦点となっている(雁屋の前作『男組』にあったような、対決の結果どのような理想社会を実現するかというようなテーマは完全に消えている)。このため登場人物のほとんどは暴力を手に入れようという悪人ばかりになっている。またヤクザや学生組織、軍隊、警察、宗教組織などの入り乱れる大規模な戦闘、凄惨な拷問シーンなど、過激なバイオレンス描写が頻出する。川崎市を中心に多数の死傷者がでるが、途中から麻痺してそれが当たり前になる劇画として有名。ほとんどの登場人物が殺された後、最終的に日本最大最高の権力を手にした征五郎と片岡の二人が、霞ヶ関の官庁街を眼下に「野望の王国」の達成を宣言し、征五郎の東大卒業によるラストを迎える。
雁屋の前作『男組』における池上遼一の画風を連想させるリアルなペンタッチながら、独特の非常に濃い絵柄でも有名で、『サルでも描けるまんが教室』の画風の元ネタにもなった。
[編集] 主な登場人物
- 橘征五郎
- 東京大学法学部4年で中本研究室在籍、頭脳の優秀さでは東大法学部で1、2を争う。
- 頭脳だけでなく、体力も抜群であり関東学生リーグで万年最下位だった東大アメフト部を日本一に導き、さらにはオールアメリカン大学選抜チームとの試合にも勝ち、東大アメフト部を文字通り世界最高にまで押し上げた。
- 母親は神奈川県下最大の暴力団・橘組組長である橘征蔵の2番目の愛人芳子。大侠客であった征蔵の方針で、妾腹ながら橘姓に入ったが、少年時代より本妻の子供たちからいじめられた過去がある。幼少期の辛い体験が、征五郎の暴力至上主義の原点となった。同じ妾腹同士であり、少年時代に可愛がってくれた異母兄征二郎を慕っているのだが、これが橘組の実権を握るためには兄征二郎を抹殺しなければならないという内面的な苦悩となっている。橘組内若獅子会会長。
- 片岡 仁
- 東大法学部4年で中本研究室在籍、知力、体力とも橘征五郎と互角、お互いの野望を知って協力することを誓った盟友。
- 父親は東大法学部を卒業後、国家公務員上級試験をパスして大蔵省に入ったエリートだったが、疑獄事件の罪を着せれた上、拘置所内で自殺に見せかけて殺された。この悲惨な体験が、裏世界の暴力で表の権力を支配するという野望をいだくきっかけとなった。
- 橘征五郎の異母妹である橘文子(18歳)とは相思相愛の仲。橘組内若獅子会副会長。
- 徳田栄治(徳田徳一)
- 通称トク。父親は橘組の鉄砲玉として死亡。その後は親戚中をたらい回しにされたあげく、橘征蔵の下に引き取られた。少年時代の征五郎とそこで知り合い、盟友となった。中学卒業後、ヤクザの世界に入って資金を貯め、徳田建設を設立。征五郎、片岡が計画した作戦を実行面で指揮する行動隊長。橘組内若獅子会幹部会頭取。(若獅子会の発足式典では、徳田栄治と紹介されていたが、少年時代は、自ら徳一と名乗っており、本作品の謎のひとつになっている)
- 橘征二郎
- 29歳、既婚。母親は故橘征蔵の愛人花森高子。自身が幼い頃から本家の兄弟にいじめられた経験から、同じ境遇の征五郎を可愛がっている。橘征蔵の死後、長男征一郎が死亡したことによって、橘組組長に就任。県下の国会議員、公安委員長、県警本部長をも影響下におく実力者。暴力団組長というより昔風のヤクザの親分といった性格であり、人望もあるが、いったん事を起こすと、情け容赦はしない。
- 弟の征四郎が反逆した時は、在日米軍ヤクザ部隊を使って征四郎邸を空爆。本人を捕獲したうえで、征四郎の家族、部下を焼殺し、最後に許しを請う征四郎を自らの手で銃殺したほどである。
- 征五郎の野望には薄々気付いている。
- 柿崎 憲
- 30歳、東大法学部卒。国家公務員上級試験をパスした後、警察庁に入ったエリート官僚。大蔵省に入らなかったのは、国家権力をより直接的に利用できると考えたためで、実際、物語中盤で、射撃の優秀な警察官を集めて柿崎親衛隊を組織している。射撃の腕は抜群であるが、橘征二郎邸で赴任挨拶代わりに肖像画を撃ちぬいたり、逮捕を妨害した右翼や赤寺の息子たちを銃で撃つなど、発砲回数も多い。自動車の運転も国際A級ライセンス保持者と互角以上。
- あくまでもエリートコースの腰掛として川崎中央署の署長に就任、単なる点数稼ぎで橘征二郎を逮捕したものの、橘征二郎の圧倒的な力の前に敗北。橘組の実権の握るという征五郎の野望に気付いて裏で手を握った。橘征二郎邸の家宅捜索で覚せい剤を発見(実は柿崎自身が覚せい剤を持ち込んだ)して逮捕するなど橘征二郎に対してさまざまな攻撃をしかけるものの、最後の土壇場で征五郎の仕掛けた罠にはまり、橘征二郎を公衆の面前で銃撃してしまう。エリート警察署長から一転して凶悪犯となってしまうが、重症の征二郎の息の根を止めるため銃撃事件をはじめとするさまざまな凶悪事件を引き起こした。
- 一旦は逮捕されるものの、警察病院から拘置所に移送中に起きた事故(実は、過去の関係を話されることを恐れた征五郎が実行した暗殺作戦)を利用して脱走。日本最大の黒幕大神楽了造に気に入られ、その側近となってからは、橘組壊滅に突き進む。本作品における最大最強(最狂?)のライバル。
- 「このクソバエどもっ!!なんだその目つき はっ!!きさまら卑しい身分の人間のくせにこの私をジロジロ見るとは無礼なっ!」
- 「あの安田講堂は東大のシムボルだ!明治以来百年も続く、立身出世主義のシムボルだ。 正に日本という国の愚劣さを象徴するものだっ」
- など名言多数。
- 疋矢 繁
- 関西を拠点とする日本最大の暴力団花岡組の若衆頭で、周囲からは花岡組の行動隊長と呼ばれて恐れられている。日本刀で相手の腕を部下にその場で切らせたり、追跡者を銃撃で撃退するなど戦闘力は抜群。趣味は名犬の収集であり、関西愛犬家協会の理事長を務めるほどの犬好き。征五郎が征二郎組長と偶然を装って面会させるために犬の散歩を利用したが、あっさりひっかかったほどで、これが唯一の弱点となっている。
- 後に征五郎、片岡の野望を知り、「あんた方は太閤秀吉になりなはれ、わては蜂須賀小六でよろしおま」と全面的な協力を申し出た。
- 物語中盤、花岡組組長花岡増吉が爆殺された後、自ら先頭に立って花岡組内の粛清を行い、花岡組組長となった。(この一連の内紛も日本最大の暴力組織である保神会から花岡組を離反させるために征五郎と片岡が行ったもの)
- 「ええ姿じゃ。気品がある。王侯貴族の気高さみたいなもんを体中から発散させとる……こんなアフガンハウンドが日本におったとはのう……」など犬に関した名言が多い。
- 白川天星
- 東京大学法学部の学生で、征五郎、片岡の後輩。母親は新興宗教団体である救国教団の教祖白川玉堂。その息子という事で、信者からは若神様と呼ばれ、崇拝されているが、本人自身は宗教を単なる人間支配の道具としか考えていない。全裸でベッドに横たわって鏡に魅入るなど、かなりのナルシスト。また、ひとりで橘組の警護員数人を倒すなど格闘技にも長じている。
- 登場した頃は、征五郎、片岡の協力者であったが、物語の最後半でその真の狙いが明らかとなる。
- なお、救国教団の教義は不明だが、教団独自の戦闘部隊を持っていたり、教祖が信者と麻薬乱交パーティを開くなど、かなり反社会的かつ狂信的らしい。
- 「ぼくは世界でいちばん美しい。美しい者が美しくない者どもを支配するのは当然なのだ」「ぼくは美しい・・・ほんとになんて美しいんだろう・・・生き神さまの息子でこんなに美しいぼくが悪魔の心を持っているなんて誰も知らない・・・」などナルシスト的な名言が多い。
- 赤寺十郎
- 橘征二郎組長の副官であり絶対的な忠誠を誓っている。かつて横浜の敵対組織の組長を征二郎とふたりで暗殺し、警察に尻尾をつかまれそうになった時、ひとりで自首して7年の刑期を勤め上げた。15歳で長男を生ませて以後子宝に恵まれ、六男四女の父親。どう見ても身長3メートル以上はありそうな大男で、朝食のメニューもキャベツを丸かじりするなど豪快。
- 狡猾、残忍な性格であり、柿崎署長に逮捕された征二郎組長を拘置所から救い出すために、工場地帯の爆破、鉄道の脱線事故、競馬場暴動と売上金強奪等の大事件を数時間のうちに同時発生させた。また、カンも鋭く、橘征五郎の野望にもうすうす感づいており、征二郎組長にしばしば警告を発していた。
- 征二郎組長評「俺にとって赤寺は、征五郎にとっての片岡、片岡にとっての征五郎と同じだ」
- 松山康一
- 東京大学教養学部経済学助教授、父親は神奈川県知事を務めたほどの名門の家系。本人はいたって地味存在だったが、ある日突然、Gパン、Tシャツ、スニーカー姿でアストンマーチンに乗って登校し、講義中にウィスキーの小瓶をあおるなど陽気で型破りな助教授として学生の人気を得るようになる。その後、テレビ関東のクイズ番組「クイズレース」でムチャクチャな司会ぶりを発揮し、広く世間に知られるようになった。
- 踏み切りで立ち往生し、しかもドアの故障で閉じ込められたバスから命がけで乗客を助け出した。愛車アストンマーチンはその時の電車事故で大破全損。テレビ取材が殺到した後、国会選挙に出馬し、トップ当選を果たし、衆議院議員となった。(もちろんすべて、征五郎と片岡の作戦であった)。その後、自分の候補をスキャンダルで潰された征二郎組長に取り込まれてしまう。本人は国会議員としてやる気満々であったが、実態は表向きは征二郎組長に従い、陰では征五郎たちに従うという操り人形的立場に追い込まれた。
- カースタントを指導したスタントマン評「あんな運動神経のニブい奴はいない」
[編集] 関連項目
- 川崎市(『野望の王国』の主な舞台・川崎競馬場壊滅・川崎駅壊滅など川崎という街がメチャクチャになる)