雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
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通称・略称 | 男女雇用機会均等法、均等法 |
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法令番号 | 昭和47年7月1日法律第113号 |
効力 | 現行法 |
種類 | 労働法 |
主な内容 | 男女の雇用機会の均等 |
関連法令 | 労働基準法、労働関係調整法、女子差別撤廃条約 |
条文リンク | 総務省法令データ提供システム |
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(こようのぶんやにおけるだんじょのきんとうなきかいおよびたいぐうのかくほとうにかんするほうりつ;昭和47年7月1日法律第113号)は男女の雇用の均等を目標とする法律。通称は「男女雇用機会均等法」(だんじょこようきかいきんとうほう)。
目次 |
[編集] 概説
元は昭和47年(1972年)に「勤労婦人福祉法」として制定・施行されたが、女子差別撤廃条約批准のため、昭和60年(1985年)の改正により「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」となり、その際に「男女雇用機会均等法」の通称が生まれたものと思われる。その後、女性に対する労働上の差別をなくすために改正が重ねられた。平成19年(2007年)4月にまた改正法が施行される予定。
本法の題名の変遷は以下の通りである(年月日は、施行日)。
- 1972年(昭和47年)7月1日-「勤労婦人福祉法」
- 1986年(昭和61年)4月1日-「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」
- 1997年(平成9年)10月1日-「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女性労働者の福祉の増進に関する法律」
- 1999年(平成11年)4月1日-「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」
最新の大きな改正は 1999年4月1日に行われたもので、募集・採用、配置・昇進、教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇において、男女差をつけることが禁止された。制定当初、募集・採用、配置・昇進については努力目標とするにとどまっていたが、この改正で禁止規定とした。
[編集] 禁止規定
以下のようなことができなくなった。
- 男性のみ、女性のみの求人募集。
- ただし特例として、その企業が過去に男性優先の慣例的な雇用制度よって男女間の従業員数や雇用管理に差が生じている場合、「ポジティブ・アクション(積極的差別是正措置)」としてその差の解消を目指し、女性を優先的に雇用する措置は法に違反しない。(第9条)
- 男性と女性で選考方法を異なるようにすること。(均等法第5条に違反)
- 男性、女性を問わず性別を表す職種で募集すること。
- 男女別の採用枠、定年年齢などの設定
ただし、業務を行う上で片方の性別でなければならない理由があれば、適用は除外される。
- 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から片方の性別に従事させることが必要である職業
- 俳優、モデル等
- 守衛、警備員等防犯上の要請から男性に従事させることが必要である職業
- 現金輸送車の輸送業務等
- 宗教上、風紀上、スポーツ競技の性質上その他の業務の性質上いずれか一方の性別に従事させることについて、上記2件と同程度の必要性があると認められる職業
また、労働基準法の改正(1997年)とも連動するが、女性に対する深夜労働・残業や休日労働の制限(女子保護規定)が撤廃されている。
[編集] 問題点
- 違反者に対する罰則規定が設けられていない。
- 募集及び採用(第5条)、配置、昇進及び教育訓練(第6条)、福利厚生(第7条)、定年、退職及び解雇(第8条)における差別的取扱い禁止項目に違反した事業者に対しては、厚生労働大臣は勧告を行い、勧告を受けた者がこれに従わなかった場合はその旨を公表することができる。ただし、第21条に規定されたセクシャルハラスメント防止規定違反については、罰則規定が設けられていないのみならず、公表も行われない。
- 性別にとらわれない機会均等を通り越して、男性よりも女性を優遇する形となっている。女性差別や男尊女卑的発想の解消とは逆に、男性差別や女尊男卑につながりかねないため、法の下の平等(日本国憲法第14条)に反しているとの指摘がなされている。
- 元々、女性保護の観点から制定された沿革があり、女性福祉法的性格を持っていることによると考えられる。「女性であることを理由とする差別」を禁止しているのに対し、「男性であることを理由とする差別」は黙認されている。
- ※2006年6月15日成立、2007年4月1日施行の改正・男女雇用機会均等法ではこの点が改められ、“女性に対する差別を禁止する法律”から“性別による差別を禁止する法律”へと大きく変わる。例えば、これまでは女性へのセクハラのみを禁じていたが、男性へのセクハラも禁止規定が設けられた。なお、欧米の多くでは、雇用での差別はすでに両性で禁止されている。
- 労働者派遣の男性登録スタッフの場合、女性就業者の多い事務職などは、男性であることを理由に採用を拒否される例が多い。2006年、拒否された男性が複数の派遣会社相手に損害賠償請求の訴訟を起こし、全面的に非を認めて満額支払った派遣会社と、一部非を認めて和解に応じた派遣会社とがある。
- 1999年の改正で「男性のみ」「女性のみ」の求人募集が禁止された。しかし、実際は差別意識からでなくとも、「男性のみ」「女性のみ」を採用したい企業は多い。そのため募集は男女関係無く行うが、面接を申し込んだ段階で男性(女性)のみしか募集していないと断ったり、実際に面接をしても男性(女性)を意図的に不採用にする企業がある。志願者側からしてみれば、「どうせ落とすなら、最初から募集しないでくれ(男女どちらが必要かいってくれ)」と思っている人も少なくなく、「建前だけ男女平等」を掲げる企業と法律がうまく噛み合ってない。
- 男女雇用機会均等法は立法措置である一方、その運用にあたる司法で、男女雇用機会均等法の精神を適切に反映した実務が行われていないという批判がある。
- そもそも、男女雇用機会均等法が積極的差別解消措置であるクォータ制などを設けず、概して企業の努力義務を述べるにとどまっているのは、雇用の分野において女性差別があるとしても、女性労働者の多様性を理由に、立法措置ではなく個別問題として必要ならば司法の場で是正すべきだという議論があるからである。しかしながら、裁判官のジェンダーバイアスの存在により、司法においての女性差別解消も有効に働いていないとされている。
- すなわち、日本の裁判所こそが男社会の最たるものであり、歴代の最高裁判所判事経験者には女性は2名しかおらず、しかも官僚出身ではなく裁判官・弁護士を含む法曹三者から最高裁判所判事になった女性はこれまで一人もいない。また、現在、東京高等裁判所は、民事部・刑事部合わせて36部を有するが、女性の部総括(裁判長裁判官)は一人もいない。
- 裁判所ですらこのような状況下では、とりわけ事実認定より価値判断が先行しがちな都市部の裁判所において、特に女性の労働事件(人事処遇や解雇)が適切に処理されているか疑問であり、男性管理職の視点からの価値判断に偏り、女性労働者の立場に対して十分な配慮がなされていないとする意見が弁護士会などからも指摘されている。いずれにせよ、立法と司法は表裏一体の関係にあるのだから、立法側からは具体的な差別解消は司法に委ねるべき、司法側からは雇用主には広範囲な裁量権があるから立法措置により改善をはかるべき、と責任を押し付けあうだけでは問題である。
- 憲法において法の下の平等がすでに保障されている国家において、このような法律が制定されることは少ない。なお、日本においては日本国憲法第14条一項によって「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とされている。
[編集] その他
男女雇用機会均等法では男女の雇用機会、待遇について規定しているが、他の法律で制限がかかっている場合もある。
労働基準法第64条の3第2項、女性労働基準規則第2条及び3条にあるとおり、妊娠又は出産に係る機能に有害であるとして、18歳以上の女性を断続作業で30キログラム以上、継続作業で20キログラム以上の重量物を取り扱う業務や、鉛、水銀等有毒物のガスを発散する場所における業務に従事させることを禁止している。
[編集] 関連項目
- 男女同権
- 男女共同参画社会
- 世界女性会議
- 国際女性デー
- 世界経済フォーラム
- 女性参政権
- 女性政治家
- 現職女性政治家の一覧
- 男女雇用機会均等法
- 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約
- 女性学
- キャリアウーマン
- フェミニズム
- ジェンダー
- ジェンダーフリー
- 女性差別
- 積極的差別是正措置
- 裁判官
- 最高裁判所判事
- 東京高等裁判所
- セクシャルハラスメント
- ドメスティックバイオレンス
- アンドレア・ドウォーキン