魔法遣いに大切なこと
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『魔法遣いに大切なこと』(まほうつかいにたいせつなこと)は、日本の漫画、小説、およびアニメ作品である。
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[編集] 概要
魔法が幻想でなく当たり前に存在し、一種の特殊技能として認知されている世界の現代日本。岩手県遠野に住む魔法遣い(魔法使いではない)の主人公が魔法遣い免許(※)の研修を受けるため上京し、研修中に出会う人々と触れ合うことで成長する姿を描く。
- (※)本作では魔法能力保有者は国家により管理されており、規定の研修を受け、免許を所有しなければならない事になっている。また魔法の使用は通称“魔法局”なる公的機関の承認を得なければならないなど、厳しく制限されている。
この作品は、まず山田典枝による原作(もともとは実写映画の脚本として書かれた)を元に、よしづきくみちの作画による最初のシリーズ『Someday's dreamers』の漫画が、富士見書房『月刊コミックドラゴン』で、2002年12月号まで連載された。全7話。
次に漫画を元にアニメが作成され、またこのアニメを基にした小説が発表されている。
アニメは、2003年1月10日から3月28日にかけて、テレビ朝日及びファミリー劇場(CS)で放送された。全12話。CGアニメ制作会社・ヴューワークスによる3DCG映像は美麗ではあるものの、J.C.STAFFが制作した本編においては後半でビールジョッキと焼き鳥の止め絵が多用されたりするなど、いささか制作的に苦しい面も窺えた。とは言え、少女たちの成長を描くという本作の企画意図は一応達成されている。また、クライマックスにおける主人公の葛藤に焦点を当てた漫画に比べ、終盤の描写を簡素化する代わりにエピソードを多くして多面的に作品世界を描いている特色がある。
アニメでは女優の宮崎あおいが主役に抜擢されて声優に初挑戦し、東北弁のセリフに苦労しながらも初々しい演技を見せて好評を博した。音楽は羽毛田丈史が担当。ピアノを主とした美しい旋律は作品の雰囲気を高める事に貢献した。
当アニメはまた、角川大映(現・角川映画 (企業))名義では初のアニメ作品でもあるが、実際の制作はDVDの販売を担当したパイオニアLDC(現・ジェネオンエンタテインメント)が仕切っていた様である。
2004年に、舞台を長崎に移し、登場人物を一新した新シリーズ『太陽と風の坂道』の漫画が発表された。
[編集] 登場人物
ここではアニメに登場する人々を、アニメのキャストと共に紹介する。
- 菊池ユメ (声:宮崎あおい)
- 小山田雅美 (声:諏訪部順一)
- アンジェラ・シャロン・ブルックス (声:渡辺明乃)
- アニメオリジナルキャラ。イギリス魔法省より日本に研修に来ている魔法遣いの一人。ユメとは同い年。日本語はぺらぺら。父は有名な魔法遣い。無表情だが内に秘めた思いは熱く、時に先走って魔法を無断使用するため、古崎を悩ませている。個人紋は翼のあるケルト十字を使用している。
- ケラ (声:飯田浩志)
- アニメオリジナルキャラ。『PACHANGA』の従業員。ケラケラ笑うことからケラと呼ばれている。本名は加藤剛。自身で気づいていないが魔法能力の持ち主。
- 古崎力哉 (声:清川元夢)
- 内閣府魔法労務統括局(通称は魔法局)の高等参事官。ユメの上京以来、トラブル多発で血圧が上がりっぱなし。
- 遠藤耕三 (声:中博史)
- 魔法局世田谷出張所の事務官。ユメの研修を担当する何かと面倒見の良いおじさん。古崎参事官とは昔からの付き合いがある。アニメ版では実は彼自身も魔法遣いだったという設定である。
- 幸子さん (声:水谷優子)
- アニメオリジナルキャラ。朗らかな魔法局世田谷出張所の受付のお姉さん。元ヤンキーらしい。
- ギンプン (声:辻谷耕史)
- 魔法局局長。常にマスクで顔を覆っている謎の人物。自宅にアンジェラを寄宿させている。
- ミリンダ (声:平松晶子)
- 小山田の元同級生。夜は『PACHANGA』のDJ、昼はスーパーの野菜売場で呼びこみに忙しい。本名は岩下美由紀。
- 森川瑠奈 (声:石毛佐和)
- 近所の子供。ユメになついている。父親の影響で落語好きで、江戸っ子口調。母親との間にトラブルが絶えない時期があったが、ユメのお陰で母子関係は修復した。アニメでは重要度の高いキャラクター。
- 井上朔也 (声:飛田展男)
- 研修で知り合った魔法遣いの一人。公認魔法師を目指して研修を受けているが果せずにいる。個人紋は走る柴犬。第7話に登場するが、この回は全員の個人紋が登場する唯一の回でもある。
- 川原多佳子: (声:かかずゆみ)
- 小山田の今は亡き恋人。小山田の運転で海岸をドライブ中、対向してきたトラックと衝突して砂浜に転落、横転。助手席に乗っていて死亡した。原作ではアルファロメオ、アニメではフィアットパンダであり、何れも左ハンドルのイタリア車。助手席の彼女が死亡したのはそのためか。事故の最大の原因として小山田の脇見運転が挙げられ、それゆえ小山田の苦悩は深く大きかったが、原作ではセンターラインをオーバーしたのはトラックということになっている。
[編集] スタッフ
- 原案: 山田典枝
- 監督: 下田正美
- キャラクター原案: よしづきくみち
- キャラクターデザイン: 千葉道徳
- 総作画監督: 川嶋恵子
- 音楽: 羽毛田丈史
- アニメーション制作: ヴューワークス、J.C.STAFF
- コンセプトワークス: 横田“Shironagasu”耕三 幡池裕行
- 美術監督: 西川淳一郎
- 色彩設定: 石田美由紀
- 撮影監督: 秋元央
- 音響監督: 田中英行
- 編集: 西山茂
[編集] 主題歌
- オープニングテーマ 『風の花』
- 作詞・作曲: おのまきこ
- 編曲: 清水信之
- うた: 花*花
- エンディングテーマ 『UNDER THE BLUE SKY』
- 作詞: 田岡美樹
- 作曲: 市川裕一
- 編曲: 羽毛田丈史、市川裕一
- うた: the Indigo
[編集] 放映リスト
原案者の山田典枝は、本作の脚本を一人で全て書き上げた。
- 第1話『夕焼けと鉄骨(前編)』 2003年1月10日放送
- 第2話『夕焼けと鉄骨(後編)』 2003年1月17日放送
- 演出:岡本英樹、下田正美、絵コンテ:しまづ聡行、作画監督:杉本功、千葉道徳
- 第3話『最高のニュース』 2003年1月23日放送
- 演出:岡嶋国敏、絵コンテ:西本由起夫、作画監督:昆冨美子
- 第4話『夏の夜と魔法遣い』 2003年1月31日放送
- 演出:湖山禎崇、絵コンテ:しまづ聡行、作画監督:名和宗則
- 第5話『エプロンとシャンパン』 2003年2月7日放送
- 演出:雄谷将仁、絵コンテ:小滝礼、作画監督:寺沢伸介
- 第6話『魔法遣いになりたい』 2003年2月14日放送
- 演出:岡本英樹、絵コンテ:しまづ聡行、作画監督:橘秀樹
- 第7話『魔法遣いになれなかった魔法遣い』 2003年2月21日放送
- 演出:中山勝一、絵コンテ:中山勝一、作画監督:丸山隆
- 第8話『恋のバカヂカラ』 2003年2月28日放送
- 演出:湖山禎崇、絵コンテ:小滝礼、作画監督:杉本功
- 第9話『ユメと少女の夏の種』 2003年3月7日放送
- 演出:岡嶋国敏、絵コンテ:しまづ聡行、作画監督:田中誠輝
- 第10話『魔法の行方』 2003年3月14日放送
- 演出:雄谷将仁、絵コンテ:しまづ聡行、作画監督:中矢雅樹、枡田邦彰
- 第11話『折れてしまった虹』 2003年3月21日放送
- 演出:中山勝一、絵コンテ:中山勝一、作画監督:名和宗則、下谷智之
- 第12話『魔法遣いに大切なこと』 2003年3月28日放送
- 演出:岡本英樹、絵コンテ:しまづ聡行、作画監督:丸山隆
[編集] 小説
著者:枯野瑛 監修:山田典枝 イラスト:よしづきくみち 富士見書房 富士見ミステリー文庫刊
- 『魔法遣いに大切なこと(1) 夏と空と少女の思い出』2003年3月25日 ISBN 4829162023
- 『魔法遣いに大切なこと(2) 真冬の夢の静寂に』2003年8月 ISBN 482916218X
- 『魔法遣いに大切なこと(3) 夢色に染まる秋天の下で』2004年4月 ISBN 4829162473
[編集] 漫画
原作:山田典枝 作画:よしづきくみち 富士見書房 『月刊コミックドラゴン』連載 ドラゴンコミックス刊
- 『魔法遣いに大切なこと - Someday's dreamers』第一巻 2002年11月1日
- 『魔法遣いに大切なこと - Someday's dreamers』第二巻 2003年3月1日
- 『魔法遣いに大切なこと - 太陽と風の坂道』第一巻 2004年6月1日
- 『魔法遣いに大切なこと - 太陽と風の坂道』第二巻 2004年12月1日
- 『魔法遣いに大切なこと - 太陽と風の坂道』第三巻 2005年5月1日
- 『魔法遣いに大切なこと - 太陽と風の坂道』第四巻 2005年11月1日
- 『魔法遣いに大切なこと - 太陽と風の坂道』第五巻(END) 2006年3月29日
[編集] その他の本
新書 著者:山田典枝 イラスト:よしづきくみち 刊行:メディアファクトリー
- 『魔法遣いに大切なこと プライマル』2003年3月14日
- ムック 刊行:エムディエヌコーポレーション 発売:インプレスコミュニケーションズ
- 『魔法遣いに大切なこと Dreamers Book 2003年7月23日
[編集] CD
- 『コモリウタ』花*花 2003年2月13日
- 『UNDER THE BLUE SKY』the Indigo 2003年2月5日
- 『魔法遣いに大切なこと』 オリジナル・サウンドトラック 2003年3月7日
- 『魔法遣いに大切なこと TRICOLORE DREAM』ドラマCD 2003年4月2日
- 『魔法遣いに大切なこと あなたに会えて良かった』ドラマCD 2003年9月26日
- 『PRESENTS』羽毛田丈史 サントラに収録の「この空と大地の出会う場所」を新録音で収録 2003年7月2日
[編集] DVD
- 『魔法遣いに大切なこと・序章』 2002年12月28日 コミケット63での限定発売。
- 『魔法遣いに大切なこと Someday's dreamers』 第一巻 2003年3月7日
- 『魔法遣いに大切なこと Someday's dreamers』 第二巻 2003年4月2日
- 『魔法遣いに大切なこと Someday's dreamers』 第三巻 2003年5月9日
- 『魔法遣いに大切なこと Someday's dreamers』 第四巻 2003年6月6日
- 『魔法遣いに大切なこと Someday's dreamers』 第五巻 2003年7月2日
- 『魔法遣いに大切なこと Someday's dreamers』 第六巻 2003年8月8日
- 『魔法遣いに大切なこと DVD-BOX』 2006年2月24日
(アニメ全12話をDVD3枚組にして1パッケージ化。発売元はジェネオンエンタテインメント)
[編集] ヒロイン菊池ユメに関する余談
月刊コミックドラゴン誌上では、ユメの苗字「菊池」の「池」は土偏「地」であったが、コミックス及びアニメでは「池」になっている。実際に遠野市にはこの「さんずい」の菊池姓が非常に多く、その縁で1998年熊本県菊池市と友好都市宣言をなしている。
ところで、彼女の誕生日4月29日には実は深い意味が隠されているように思われる。この日は遠野市早峰池神社のざしきわらし祈願祭が行われる日に当たる。ただし、これは1980年代に新潟県の実業家がこの神社を訪れて以降、事業が軌道に乗ったことから、これをざしきわらしを連れ帰って運気が向いたこことみなして、この神社に寄進をしたことから創設された非常に新しい祭礼である。今なお一貫して瀬織津媛を祭神とするために村社(Wikipedia「社格」参照)に甘んじる同神社にとっては最重要行事の一つとなっている(戦前に祭神を姫大神としていた花巻市大迫町の早峰池神社とは異なる)。
瀬織津媛は早峰池山に座するとされる太陽の女神(太陽神に仕える巫女から転じたことを含めて天照大御神とまったく同じ属性である)、海の女神の属性を持つ女神である。なお、後者は早峰池山が三陸の民にとって陸の標識であったことに起因する。もとは三河周辺のエミシ達によって祭祀されていた女神であったが、持統天皇によりその祭祀を禁止され(持統天皇自身が回って命じたとされる;壬申の乱で戦勝を祈願し持統天皇と同一視されている天照大御神と同じ属性の神が征服されるべきエミシ側に存在することが政府にとって極めて不都合であるからだ)、またエミシ達が土地を奪われて東国に追われたため、8世紀末には東北地方で早峰池山の女神として信仰されるようになった。
遠野郷ではざしきわらしを瀬織津媛と同一視する視点もあり、本作品で菊池ユメの誕生日をざしきわらし祈願祭の日としたことにはざしきわらしを介してアラハバキ最高位の女神・瀬織津媛に彼女をなぞらえる視点が見え隠れする。
原作者が瀬織津媛の故郷である愛知県で仕事をしていた時期があることとも何らかの関係があるのかも知れない。