2010年宇宙の旅
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『2010年宇宙の旅』(2010ねん うちゅうの たび、原題 2010: Odyssey Two )は、アーサー・C・クラークが1982年1月に発表したSF小説。
クラークが小説版を執筆し、スタンリー・キューブリックが映画版を監督・脚本した『2001年宇宙の旅』(原題 2001: A Space Odyssey )の続編にあたる。前作のうち、少なくともディスカバリー号の目的地に関しては映画版に従っている。
この小説を原作とする映画は 2010: The Year We Make Contact (2010 とも表記される)のタイトルでピーター・ハイアムズが製作・監督・脚本し、1984年12月にアメリカで公開された。同映画は日本では『2010年』(2010ねん)のタイトルで翌1985年3月に公開された。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] あらすじ
前作で失敗に終わったディスカバリー号による木星探査から9年後の世界が舞台である。(映画版『2001年宇宙の旅』ではディスカバリー号の目的は木星探査であったが、小説版『2001年宇宙の旅』では木星ではなく土星が目的地であった。この矛盾点はクラーク自身が『2010年宇宙の旅』の序文において言及している)
前作では月のティコクレーターで発見されたモノリス (TMA-1) の調査を行い、デビッド・ボーマン船長の上司でもあったヘイウッド・フロイド博士が本作の主役である。フロイド博士を含むアメリカとソ連の共同チームは、木星系で連絡を絶ったディスカバリー号を調査するために、ソ連の宇宙船レオーノフ号に乗り込み、木星に出向く。
同じ頃、中国の宇宙船チェン号も木星を目指していた。チェン号はレオーノフ号よりも先に到着し、推進剤としての水を補給するために木星の衛星エウロパへの着陸を試みる。しかし、エウロパに生息していた生命体による妨害に遭い、失敗し全滅してしまう。
レオーノフ号はディスカバリー号との会合に成功し、人工知能HAL 9000の製作者であるチャンドラー博士がHAL 9000の復旧を行う。
その頃、前作で行方不明になったボーマン船長は、モノリスを制御している宇宙人のように、実体を持たないエネルギー生命体になっていた。小説版ではボーマン船長は宇宙人の指示により、エウロパの氷の下の調査などを行う。エウロパの氷の下には水棲生物が生息し、木星本星の雲の下では鳥類のような生物が生息していた。どちらもまだ原始的な生物であったが、宇宙人はエウロパの生物の方がより高等な生物に進化する可能性が高いと考えていた。ボーマン船長は遠く離れた地球へ移動し、人間のボーマンだった時の大切な人々を訪ねる。小説版、映画版ともに母親の髪をブラシで梳くシーンと、テレビ画面を通じて元恋人(映画版では元妻。小説版のボーマン船長は結婚していない)と会話するシーンが描かれる。
ボーマン船長は塵を集めてかつての自分の立体映像を作ってフロイド博士の前に姿を現し、博士に15日以内に木星から離れるよう警告する。フロイド博士は理由を尋ねるが、ボーマン船長は「素晴らしい何か」が起こるとだけ答える。フロイド博士は他の乗組員を説得しようと苦心するが、木星に突然黒点が現れ、それが急速に大きくなっていくことがわかり、皆が異状に気付く。HAL 9000の望遠鏡を用いた調査により、黒点の正体は多数のモノリスであり、個数が幾何級数的に増大していることが判明する。
レオーノフ号の乗組員は、ディスカバリー号をブースターロケットとして使用し、当初の予定よりも早く地球へ向けて帰還することが可能な計画を立てる。ディスカバリー号自身の燃料は不足してしまうため、ディスカバリー号とHAL 9000は木星の引力圏内に留まらざるを得ない。ディスカバリー号の制御にはHAL 9000の協力が必須である。しかし、HAL 9000にとっては自分を遺棄する計画であるため、前作同様にHAL 9000が精神的なストレスに耐え切れずに正常に動作しなくなってしまう惧れがあり、乗組員を緊張させる。チャンドラ博士はこのままでは乗組員が危険であるとしてHAL 9000の説得を行う。
自己犠牲を厭わなかったHAL 9000の協力もあり、モノリスの大群が木星を被い尽くしてしまう直前に、レオーノフ号は木星を出て地球へ向かう。小説版で部分的な説明がなされるだけだが、モノリスの個数を増やして木星の質量を増加させることで、遂に核融合が始まり、木星は小さな恒星(ルシファーと呼ばれることになる)として輝き始める。小説版ではモノリスはエウロパに生息する生物を優先し、木星本星に生息していた生物を犠牲にして木星を恒星化したとしている(映画版では木星本星の生命体は描かれていない)。
レオーノフ号が木星を去った後、遺棄されたHAL 9000は地球へ向けてモノリスからのメッセージ(全世界は人類のものである。ただしエウロパを除く)を繰り返し発信し続けるが、木星が恒星化した際にHAL 9000はディスカバリー号と一緒に破壊されてしまう。HAL 9000はボーマン船長と同様に実体を持たないエネルギー生命体となって、彼の仲間になる。
小説版では、終章として、約1万8千年後である西暦20,001年の世界が語られる。エウロパではある種が進化し、原始的な社会を構成するまでに至っている。彼らエウロパ人は、かつては木星だった恒星ルシファーを太陽と呼び、本当の太陽(太陽系の中心にある太陽)を冷たい太陽と呼んでいる。エウロパ人はエウロパのうち常にルシファーの側を向いている側の半球に生息している。木星の他の衛星イオ、ガニメデ、カリストは地球人により植民地化されていた。エウロパへの着陸や探査は何度も試みられたもののモノリスによって空中で破壊されてしまい、成功していなかった(ただし、この後に書かれた『2061年宇宙の旅』『3001年終局への旅』ではそれぞれ宇宙船が着陸し、ボーマンと接触している)。エウロパ人はモノリスを「地球人から自分たちを護るもの」として崇拝している。モノリスは、それ自身が適切であろうと考える期間は、地球人とエウロパ人の接触を拒み続けることになるだろう。
[編集] 映画版
[編集] キャスト
- ヘイウッド・フロイド博士:ロイ・シャイダー
- ウォルター・カーナウ博士:ジョン・リスゴー (en:John Lithgow)
- ターニャ・オルローワ船長:ヘレン・ミレン
- R. チャンドラ博士:ボブ・バラバン (en:Bob Balaban)
- デビッド・ボーマン船長:キア・デュリア (en:Keir Dullea)
- HAL9000声:ダグラス・レイン (en:Douglas Rain)
[編集] スタッフ
- 原作:アーサー・C・クラーク
- 監督・製作・脚本・撮影:ピーター・ハイアムズ
- SFX:リチャード・エドランド
- 音楽:デイヴィッド・シャイア
- 美術:アルバート・ブレナー
- 編集:ジェームズ・ミッチェル
[編集] 日本語吹替
[編集] 小説版と映画版の違い
- 映画版では、レオーノフ号以前にエウロパへ着陸した中国の宇宙船チェン号が描かれていない。代わりにレオーノフ号の無人探査機がエウロパを調査するシーンが登場する。
- 小説版ではレオーノフ号のクルーは協力的なムードの中で任務を行っているが、映画版ではキューバ危機の様な一触即発の政治状況が米ソのクルーの関係にも影響を及ぼし、サスペンス的な展開となっている。
- 小説版で描かれている木星本星の生命体が、映画版では全く描かれない。
- 小説版ではスリランカ人であるチャンドラ(シバスブラマニアン・チャンドラセガランピライ)博士が、映画版ではコーカソイド系アメリカ人俳優(ボブ・バラバン)によって演じられている。
- 映画版では木星の巨大モノリスを接近探査していたレオーノフ号の有人作業ポッド(小説版では「ニーナ」と呼称)が、地球へ向かうボーマンの意識体と接触して遭難している。
- 映画版『2001年』ではHAL9000の叛乱の原因が明らかにされておらず、『2010年』で明確に示されている。
- 小説版ではボーマン船長は15日以内に木星を離れるようにフロイド博士に警告するが、映画版では2日以内に離れるように警告する。またボーマンの出現プロセスも(当時の映像技術の限界からか)異なっている。
- レオーノフ号と別れた後、HAL 9000が地球に向けて繰り返し発信するメッセージが若干異なる。
[編集] 豆知識
- ホワイトハウス前の公園のシーンで、ベンチに座っている男性という役で原作者クラークがカメオ出演している。スタンダードサイズに編集された版では画面外になってしまって見ることができない。
- 看護婦が読んでいるシーンで使われる雑誌タイムの表紙には、アメリカ大統領としてクラークが、ソ連書記長として2001年宇宙の旅の監督であるスタンリー・キューブリックが、それぞれ描かれている。en:Image:Clarkekubrickcover.jpg
- フロイド博士がアップルコンピュータのMacintosh、Apple IIcを使用するシーンがあり、アップルコンピュータによる映画におけるプロダクト・プレースメント(商品を映画作品などに登場させることで商品を認知させ、商品ブランドを構築する広告手法)の初期の例とされる。
- フロイド博士が海辺で雑誌Omni (en:Omni) を読むシーンがあるが、Omniは1998年に廃刊されている。
- 前作で撮影に使われたディスカバリー号の模型は設計図と共に失われていた為、映像を基に新たに製作されている。ちなみにレオーノフ号関係のデザインはシド・ミードが手掛けている。
[編集] 参考文献
- 英語版Wikipedia en:2010: The Year We Make Contact
カテゴリ: アメリカ合衆国の小説 | アメリカ合衆国の映画作品 | 1984年の映画 | SF小説 | SF映画 | 宇宙の旅シリーズ