タランチュラ
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タランチュラ (tarantula) は、オオツチグモ科の別称としてすっかり有名になってしまったが、実際には俗称に過ぎない。本来は、ヨーロッパの伝説にある毒グモを指したものである。
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[編集] 伝説としてのタランチュラ
語源はイタリアの港町、タラントであるとされる。その地方には毒グモの伝説があり、それによると、恐ろしい毒グモがいて、それに噛まれると毒のために踊り出す、と言う。また、逆に、そのクモに噛まれたときに、死なないためにはある踊りを踊ればいい、との伝もある。いずれにせよ、この踊りの曲をタランテラと呼ぶ。
この伝説のクモは、この地方に産する大型のコモリグモの1種(タランチュラコモリグモ, Lycosa tarantula)であるとされたが、実際にはこのクモの毒はそれほど恐ろしいものではない。同じ地域に、人間にも危険である猛毒のジョウサンボシゴケグモ(Latrodectus tredecimguttatus)が生息しており、全長が約1cmのこのクモとは違い、大型のタランチュラが目に付きやすいため、誤解が広まったようである。ファーブルは近縁のナルボンヌコモリグモ(L. narbonensis Walckenaer)の毒の強さを調べるために、ひよこを噛ませたところ、死んでしまったと記録しているが、これも、直接に毒で死んだと言うより、足が動かなくなり、餌が食べられなくなったのが原因だろうと言われている。ちなみに、このクモの所属するコモリグモ科は、日本にも多数の種がある。かつては、この伝説の仲間であるからと、ドクグモ科の名で呼ばれていた。しかし、上記のように事実に反する上、この仲間のクモは、雌が幼虫を体の上で育てる習性があり、毒呼ばわりはどうか、と言うことから、コモリグモ科と名前が変わった経過がある。
[編集] 巨大グモとしてのタランチュラ
上記のように、伝説のタランチュラは迷信であるが、そのイメージは移民と共に新大陸にわたり、次第に恐ろしい姿の大きなクモをタランチュラと呼ぶようになった。当初はアシダカグモ類もその名で呼ばれることがあったようだが、次第にオオツチグモを対象にその名が使われるようになった。
オオツチグモ類は北米南西部から南アメリカ、熱帯アジア、地中海地方、熱帯アフリカ、ニューギニア島、オーストラリアなど、世界の温暖な地域に分布し、巨大で全身に毛が生えていて、いかにも恐ろしそうな様子をしている。南北アメリカのオオツチグモは腹部に毒毛を持ち、自己防衛のためにこれを脚で蹴って飛散させることがあり、目や皮膚につくとかぶれるので危険である。かつて、鳥の巣を襲い鳥を食べるという記事が美しいイラストとともに紹介され、トリトリグモ(鳥取り蜘蛛)、あるいはトリクイグモ(鳥喰い蜘蛛)の和名を使ったが、実際には鳥を常食にするわけではない。ただし、体格が大きいため、小型脊椎動物は餌の範囲に入り、鳥の雛やカエル、子ネズミなどは好んで捕食する。雄は成熟すると一切の捕食行動を停止して雌を探し求めるようになり、最後には餓死するが、雌は飼育下で数十年生きる種類もある。
バナナに卵や仔蜘蛛がついて、誤って輸入されてしまうことが稀にあり、日本でも昭和期に何度か大騒ぎになった。
また、サスペンス映画などで、殺人に巨大な毒蜘蛛が使われたりしたことで、知名度は世界的に広がった。現在では、(いかにも)危険(そう)なペットとしての愛好者も多い。ペットとしてはじっとしてあまり動かないことが多く、面白みに欠けると見る意見もあるが、チリアンコモン(Grammostola rosea (Walckenaer))などおとなしい種類は手に取ることもできる。餌は昆虫(コオロギなど)、マウスなど割と何でも食べ、水分と温度さえ十分であれば長期間の絶食にも耐えるなど、飼育にあまり手はかからない。
最大のクモはこの仲間に含まれており、強力な刺激毛を持ち13cmほどになる南米のゴライアスバードイーター(Theraphosa blondi)が世界最大といわれる。そのほかゴライアスピンクフットバードイーター(Theraphosa apophysis)やサントメジャイアントオリーブブラウンバブーンなども候補としてあがっている。
タランチュラは生活様式によって四つのタイプに分類される。
ツリースパイダー:南米およびアジアに生息。主に樹上で生活する仲間。色彩が美しいものが多い。ガイアナピンクトウタランチュラなどが大人しく飼い易い。インディアンオーナメンタルタランチュラはレッグスパン(足を広げた全長)30cmをこえるツリースパイダーの代表種。非常に素早く狂暴なので取り扱いには注意したい。
バードイーター:南北アメリカに生息。主に地面に穴をほり住んでいる。タランチュラの中で最も人気のあるグループで入門種のチリアンコモンや美しいメキシカンレッドニー(Brachypelma smithi)、最大のクモであるゴライアスバードイーターを含む。
バブーンタランチュラ:アフリカに生息。生活様式はバラエティにとんでいる。親が仔に餌を与える種類もいる。代表種は8cmになるキングバブーン(Citharischius crawshayi)。極めて成長が遅い。性格は狂暴。
アースタイガー:アジアに生息。地中または半樹上性。極めて狂暴な種が多く、美しいコバルトブルータランチュラ(Haplopelma lividum)も含まれる。
[編集] 分類
- トタテグモ下目
- Theraphosidae オオツチグモ科:タランチュラ(オオツチグモ・トリクイグモ)
- Acanthopelminae アカントペルマ亜科:樹上性の小型のタランチュラ。新世界に分布。
- Aviculariinae アヴィクラリア亜科:カリブ海地方と南米に分布する樹上性のタランチュラ。一般にピンクトウと呼ばれる。刺激毛を脚で蹴って飛ばすことはできない。
- Eumenophorinae エウメノフォルス亜科:アフリカとその周辺に分布。
- Harpactirinae ハルパクティラ亜科:アフリカに分布。この亜科に属するタランチュラは一般にバブーンと呼ばれる。
- Ischnocolinae イシュノコルス亜科:広く分布。
- Ornithoctoninae オルニトクトヌス亜科:東南アジア、中国南部、ボルネオに分布。獰猛。
- Poecilotheriinae ポエキロテリア亜科:インドとスリランカに分布。
- Selenocosmiinae セレノコスミア亜科:東アジアとオーストラリアに分布。強い毒を持つ。
- Selenogyrinae セレノギルス亜科:インドとアフリカに分布。
- Stromatopelminae ストロマトペルマ亜科:西アフリカに分布する樹上性のタランチュラ。
- Theraphosinae オオツチグモ亜科:新世界に分布。刺激毛を持つ。ペットとして流通しているタランチュラの多くはこの亜科に含まれる。
- Thrigmopoeinae トリグモポエウス亜科:インドに分布。
- クモ下目
- コモリグモ科
- コモリグモ属(Lycosa)
- タランチュラコモリグモ(L. tarantula)
- コモリグモ属(Lycosa)
[編集] 関連項目
- 日本タランチュラ協会
- ツチグモ
- クモ
カテゴリ: 動物関連のスタブ項目 | クモ