トリコテセン
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トリコテセン類 (trichothecenes) はマイコトキシンの1つで、セスキテルペンに属する約100種の化合物の総称である。
トリコテセンは主に Fusarium graminearum、F. sporotrichioides、F. poae、F. equiseti などのフザリウム属の菌によって生産される。また、キノコのカエンタケもトリコテセン類を生成するが、カエンタケの属するニクザキン属はフザリウム属と近縁である。
トリコテセンは、フザリウム属の菌が低温下に置かれたときに生産される。また、紫外線下で蛍光を発するのが特徴。
トリコテセンの生物活動を引き起こす最も重要な構造上の特徴は 12,13-エポキシ環、ヒドロキシ基、アセチル基である。一連の化合物はトリコテセン核に付く官能基により分類される。
トリコテセン類は、リボゾームの 60S サブユニットに結合することによる蛋白質および核酸の合成阻害による免疫阻害作用、セロトニン介在性ニューロンへの作用による食欲不振や嘔吐、免疫系細胞へのアポトーシス、炎症性サイトカインの産生などを引き起こす。このため、動物と人間に対し強い毒性を発揮する。主な症状としては、腹痛、下痢、嘔吐、脱力、発熱、悪寒、筋肉痛、顆粒球減少による二次性の敗血症、潰瘍や全身の出血などが起こる。また、植物に対しても葉の形態形成阻害(タイプA…下参照)、根の伸張阻害(タイプB)などを引き起こす。
トリコテセンは構造上の特徴から3つのグループに分けられるが、このうちタイプA(T-2トキシン、HT-2トキシン、ジアセトキシスカーペノール』およびタイプB (デオキシニバレノール、ニバレノール、3- および 15-アセチルデオキシニバレノール)が人や家畜に重篤な中毒を引き起こす。
かつては、貯蔵中の穀物にフザリウム属の菌が寄生したためにしばしば中毒が起こった。現在では、多くの国において輸入食品に対してトリコテセンなどのマイコトキシンの検査が行われている。
旧ソ連では化学兵器としてトリコテセンが研究され、1975年 – 1981年にラオス、1979年 – 1981年にカンボジア、1979年 – 1981年にアフガニスタンで、飛行機から爆弾やロケット弾により噴霧され、多数の死者を出した(「黄色い雨」事件)。この時にはT2-トキシンなどが使われたとされる。
[編集] 外部リンク
- Detailed information about mycotoxins
- Vendor's Product Website
- Structures of some of the Commoner Trichothecene Mycotoxins.
- カビ毒 - 財団法人食品産業センター
- トリコテセン-マイコトキシンについて - 横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課