ノブレス・オブリージュ
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ノブレス・オブリージュ (noblesse oblige) は、フランス語で文字通り「貴族の義務」あるいは「高貴な義務」を意味する。一般的に財産、権力、社会的地位には責任が伴う事を言う。慇懃無礼あるいは偽善的な社会的責任について蔑視的に使われる事もある。
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[編集] 起源
この言葉の意味する概念自体は聖書に由来している。「すべて多く与えられた者は、多く求められ、多く任された者は、更に多く要求される」(「ルカによる福音書」12章48節)(新共同訳)。
F.A.ケンブル(フランセス・アン・ケンブル。1809-93。イギリスの女優)が1837年に手紙に「…確かに『貴族が義務を負う(noblesse oblige)』のならば、王族はより多くの義務を負わねばならない」と書いたのが、この言葉が使われた最初である。「ノブレス・オブリージュ」の核心は貴族を無私の行動に無理矢理駆り立てる、社会的(そしておそらく法的な)圧力である。
ウィリアム・フォークナーはこの言葉を、有名な『響きと怒り』"The Sound and the Fury"や『エミリーへのバラ』"Rose for Emily"を含む小説や短編の中で度々用いた。
倫理的な議論では、特権は特権を持たない人々への義務によって釣り合いが保たれるべきだという「モラル・エコノミー」を要約する際にしばしば用いられる。最近では主に富裕者、有名人、権力者が社会の模範となる様に振る舞うべきだという社会的責任に関して用いられる。
[編集] 実例
ジェニファー・トルバート・ロバーツの著書"Athens on Trial"は古代アテネの公共奉仕におけるノブレス・オブリージュについて絶好の例を提供してくれる。古代アテネでは戦闘用船舶の供給や饗宴の開催、合唱団の訓練などを公的な義務として裕福な市民に割り当てていた。ロバーツによれば富裕者たちは非常に高価なこの種の特権に関し、明確に相反する感情を抱いていた。
貴族制度の残るイギリスではこの考えが浸透しており、第一次世界大戦では貴族の子弟に戦死者が多かった(皆志願して従軍した)他、フォークランド戦争にも王族が従軍している。2007年2月には、同年4月からのイラク戦争へのヘンリー王子の従軍の決定が報道された。
ただ、現代社会において世襲貴族が代々ノブレス・オブリージュを負わされることは、人権侵害だと考える人も多い。
[編集] その他
- 開高健:作家。この言葉を好んだ。
- 田坂広志:「義務を自覚する人の高貴さ」と定義し直し、今後そのような意味で使われる時代になるであろうとしている。
- 仮面ライダーカブト:神代剣(仮面ライダーサソード)が、天道や加賀美などの高貴な振る舞いを行ったものを讃えるときに、高貴な者の礼儀としてこの言葉に似合った行動(助太刀)を行う。
- 青森県立青森高等学校:進路指導で「あふれる才能と恵まれた環境にある青高生が将来果たすべき役割」として置き換えられている。