パニック
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パニック(Panic)は突然起こる不安・恐怖(ストレス)による混乱。恐慌ともいう。最近では麻雀用語の「聴牌(テンパイ)」を引用してテンパるとも言う。パニックの語源は、ギリシャ神話の神、パンであるとされている。動物の同種行動に関しては暴発行動とも呼ばれる。
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[編集] 概要
個人だけでなく集団に影響を与えることがある。火災などの事件に遭遇した場合に発生することが多く、パニックになると理性的な行動を取ることが出来なくなり、被害を拡大させてしまう。パニック症状に襲われても脱出が容易であるようにシミュレーションを用いて建物や街を設計することが現在では主流になっているが、古い建物の中にはデザインや利便性を重視したため、パニックに陥りやすい建物が多数ある。逆に城や要塞、砦は侵入者がパニックを起こしやすいように錯覚や複雑な経路を用いて設計されている。
社会学では、集団が非論理的な行動を取ることをパニックと呼ぶ場合がある。(→集団ヒステリーとも)
[編集] 暴発行動
動物の場合、脳の処理能力を超える状況に陥った場合に、人間のパニック状態同様の、非論理的な行動が見られる。例を挙げれば、室内に閉じ込められた鳥が出口を求めて窓ガラスや壁などに体当たりをする行動や、罠に掛かった動物が傷付くのも厭わずに暴れ回る行動などがある。
これらは人間にしても強度の生命の危機に陥った際に、同種の行動を行う傾向があるが、これらの衝動的な行為では、偶発的にストレスの元となる対象から逃れ得る可能性が生まれるため、このような緊急的な行動様式が発達したと考えられている。
[編集] パニックの功罪
パニックによって引き起こされる衝動的な行動は、目の前の火災や頭上から崩れ落ちてくる岩石群といった危険物からいち早く逃れようとする場合には一定の効果が見られる訳だが、特に集団的なパニックが発生した場合や、本来は危険度が低い現象にも関わらず、強いストレスを受けてパニックを起こした結果、被害が拡大するケースも見られる。
火災によるパニック状態では、天ぷら油火災の際に鍋の中で火柱が立っている(まだ周囲への延焼は無い)状態にて、慌てて水を掛けてしまう人は少なくない。この場合、油が燃えながら飛び散るため、被害が拡大する事故が報じられている。
集団的なパニック現象が発生した場合、個々が先を争ってその場から逃れようとするのが一般的だが、そのような一定集団がパニックに陥り易いケースでは、危険状況の発生が広範囲に及んでいる場合が多い。このような場合、無理に移動しようとすると、他のパニック状態にある被災者同士で衝突したり踏まれたりする現象も起き易く、事実そのような事態によって死傷者が発生しているケースは多い。
また地震等の災害発生時には、屋内で家具や調度品等の倒壊を目の当たりにしてパニックに陥った際に、兎に角頭上に何も無い屋外に飛び出したいという衝動に駆られる事が知られているが、今日の都市部では高層ビルの窓ガラスや外壁に用いる建材などが、ビル周辺部に降り注ぐ現象が起き易いとされる。これを考慮に入れず、思わず屋外に飛び出して、それら落下物の犠牲となるケースも報告されており、特に補強の入った屋内にいる場合は、外に飛び出さなかった人のほうが安全な場合が多い。また日本家屋では瓦の落下や塀の倒壊に伴う事故が報告されている。
今日では、このような緊急事態に於ける適切な行動の情報が多く出回っており、またそのような緊急事態が発生しやすい環境(地域)では、一定の訓練を繰り返す所もある。このような場合では、緊急事態を模擬的に体験する事で、そのような事態への耐性を高め、パニックによる事故を未然に防ぐ効果があるとされている。事実、それにより被害を最小限に食い止めた事例は数多い。
[編集] パニックの起き難い環境
一般的に、パニックは閉鎖された危機的状況によって発生しやすいと思われているが、実際には完全に逃げ場が無い場合に於いては、然程パニック状態に陥り難い事が知られている。例を挙げれば落下中の航空機内等であるが、過去の大規模な航空機事故発生時には、乗客は強いストレスに晒されながらも、一定の理性を保っていたと言う報告が成されている。パニックに陥り、搭乗口をこじ開けて機外に飛び出した人の事例は極めて少ない。
これはパニックによる衝動的な行動が、僅かな生存の可能性がある場合に、他の如何なる障害をも排してそれに到達しようとする場合に巻き起こされる事を示唆している。絶望的な状況にあっては、僅かな希望に縋って邁進しようとする衝動が発生しないのであろう。しかしこの場合、既に関係者は全員、死を決意している状態であるため、助かるのは「奇跡的な偶然」の結果に過ぎない。
その一方で、充分に訓練された集団ではパニックが発生し難い。これは充分に訓練を受けた個人であっても同様だが、特に集団的に訓練されている場合は、自動的に役割分担が発生するため、全員が全員で同じ目的を果たそうと同じ行動に走り、非能率的な事態が防止される他、各々の役割を全うする事で、ストレスを分散させる事ができるためである。強度のストレスに晒された人間の脳は、より衝動的な考えが支配的になるが、このストレスを軽減できれば、結果として理性的な行動を行い易いという理屈である。
また集団中に一定の権力や威厳といったヒエラルキーが存在する場合も、パニック状態が抑制されやすい。この場合、集団はストレスの原因となる事象よりも、上位の存在の言動に注目するため、ストレスが緩和されるためとも考えられる。上位の存在が真っ先にパニックを起こしている集団ではパニックが増幅され、悲劇的な結果に陥り易いが、この上位存在が一定のリーダーシップを発揮している間は、多少間違っていても一定の安全性が保持され信頼されている限りに於いて、その集団の被害は軽減されやすいと言えよう。特にリーダーが適切な判断を下す能力があれば、その集団が危険を脱する可能性は格段に向上する。
この他、視認性の高い安全経路情報の提示や、他者からの誘導がある場合も、パニックが起こりにくい。これも前出のリーダーシップによるストレス軽減効果の一種であろうと推察される。