サバイバル
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サバイバルとは
- 遭難、災害などの生命の危機から、何とかして生き残ること。詳細は本記事で述べる。
- 数人で勝者を決するまで戦い続けること。サバイバルゲーム。『バトル・ロワイアル』、『サバイバー』を参照。
- 日本の人気ロックバンド、GLAYの代表曲。メジャーとしては初のビデオシングル。サバイバル (GLAY)を参照。
- さいとうたかをの漫画作品。サバイバル (漫画)を参照。
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[編集] サバイバル(生存)の概要
サバイバルは人間が文明や人間社会から隔絶された状態もしくは文明の恩恵を十分に享受し難い状態で、生存しつづける事である。この状態は、当人が死ぬか、文明社会に帰りつくまで続く。またこれらは、生存欲求という人間の本能に強く訴えかけるため、小説や映画・ドラマ等の題材としても人気がある。
軍事面では補給が完全に途絶え孤立した場合における生存を指してサバイバルといい、軍事活動の延長に挙げられるが、その一方で一般の人の場合は、交通機関の故障・異常により文明から隔離された場合や、または災害や紛争などにより社会生活の基盤が崩壊した際に行う活動である。
[編集] サバイバルに必要とされること
サバイバルにおいて、最も重要な事は、生存に必要な物資(水・食料・空気等)や、安全な場所を確保する事である。また長期に渡る場合は、精神的な健康を保つ上で、娯楽も必要であろう。
短期間の場合は、安全な場所まで退避・到達するまでが第一のサバイバルである。飲まず食わずでも3日間は生存可能な人間(幼児を除けば、老若男女の差はあまり無いらしい、ただし健康な場合)にあっては、第一に安全な場所・空間の確保が最重要課題となり、水と食料の確保がそれに続く。その際にはその場所に退避・到達するための手段や道具が必要となる。
遭難時などに、最も注意すべき事は、的確に状況を判断することである。そのためには、正しい知識が必要である。逆に、最もすべきではない事は、本能の赴くまま、直情的に行動する事である。
人間は知恵がある。これはひとえに知恵を使用して生存してきた証であり、逆説的に言えば、本能が当てにならなかったために、知恵を発達させざるを得なかったという事でもある。そのような人間の本能でも、役に立つ数少ないケースとして、「仲間と居ると安心できる」という事がある。複数人数で遭難した場合においては、仲間と一緒に居る事が、個体にとっての生存率を飛躍的に押し上げる要因となる。
過去のサバイバル事例は、非常に優れた情報や教訓を含んでいる。これらはノンフィクションの娯楽作品として、映画や小説・ドラマ等の題材としても好まれるが、貴重な情報を学ぶ、良い教材とする事も可能である。(フィクションの場合は、作家の思い込みや、ストーリー上の見せ場として、往々にして超現実的な現象を描いてしまう事もあるため、いくら実際の事件を題材にしていても、無闇に参考にするのは考え物だが)
[編集] 生存の予備知識
呼吸・水分・食物の順に重要性を説いた「3・3・3の法則(“3分・3日・3週間”の略)」というものがある。呼吸に必要な空気は絶たれればサバイバル以前であるため省くが、身体の健康を維持する上で以下に留意しなければ速やかに死に至る危険がある。
[編集] 水
水が補給できなければ、人間は3日で死亡するとされている。一般的には成人男子で一日1リットル以上(健康に活動するためには2リットル以上)の水を必要とする。
しかし海水を飲むと、塩分を尿として体外に排泄するために、飲んだ海水の量よりも更に多くの水を必要とするため、海水は飲んではならない。血液や尿も同様である。
また暑い環境ほど発汗によって大量の水を必要とし、日にあたることによって一層体液を消耗するため、日陰でおとなしくしていた方が良い。
一方、冬山遭難時に、水分を得ようとして、雪や氷をむやみに口にしてはいけない。体を冷やしてしまい、下痢によって脱水症状を起こす他、体を温めようとして、余計に体力を消耗し、死亡率が高くなる。燃料があれば弱火で暖めて、燃料が無ければ手足で暖めるなどして解かして飲む(ただし凍傷に注意)。やむなく口にする場合は極力少しずつにしないと危険である。
天候がよければ、黒いビニール等の上に置いて、雪や氷を溶かすことができることもある。また食物を取ると、消化のために水分を必要とするため、水が乏しい場合には食事の量を抑える。
[編集] 食料
人間はいくら水が豊富に飲めても、それ以外の食物を何も口にしていないと、概ね3週間~一ヶ月で死亡する。一般的には、男性よりも女性の方が、皮下脂肪が厚く基礎代謝が少ないため飢餓に強いとされる。
食事は寒い環境では体温を上げるために、糖質や脂質が多い方が望ましい。水が乏しい環境では、肉などのタンパク質を多く取ると、消化吸収により多くの水を必要とするため、注意が必要である。海の上で遭難した場合、釣具があれば食料である魚が手に入るが、水は貴重であるため、魚を食べるのは感心しない。
なお魚の脊髄周辺には、比較的塩分の少ない体液が蓄えられているので、丸ごと食べるか脊髄周辺の体液をすする事で水分を補給できる。動物などの脂身(脂質)はどんな環境であっても生存に必要なエネルギー源となり、また保存しやすいため、非常によい食料である。
塩は失われやすいミネラル分であるため、水が十分あり、暑い環境や脱水症状を起こしそうな場合には、意識して必ず取るようにする。
[編集] 体温
体温は動物の活動と密接な関係があり、恒温動物である人間にとって、体温異常は致命的な問題となる。体温を上げるためには食物が必要であり、糖質・脂質はエネルギー源に最適である。体温を下げるためには水が必要で、同時に発汗によって失われる塩分を始めとするミネラル分を補給しないと、体調を崩して体力を余計に消耗する。
低体温症は体の内側(直腸温度)が35度以下になると発生する。体温が26度以下では意識を失い、生命が危機的な状況である。目が醒めていて起きている場合には、自律神経の働きにより低体温症を起こしにくいが、極度の疲労や睡眠不足により熟睡してしまうと、日本国内の夏場の夜間・屋外であっても、低体温症に陥る危険がある。また風が吹いている場合は、風によって体温が奪われるため、気温が低く肌寒い環境では、防寒対策が必要である。応急処置は胴体を38~43度程の湯に漬けて暖める。気温が10度であっても風速10m/秒(時速36km 枝が揺れ、大きな旗がはためく程度)では、体感温度は0度に匹敵する。
熱中症は異常に体温が上がってしまった時などに起こる。重労働をしている時や湿度が高い時には特に注意が必要だが、締め切った車内等では日本の4月頃の陽気でも起こり得る。応急処置は衣服を緩めて楽な状態にして、冷水タオルなどを使って体を冷やし、意識がはっきりしている場合には、ゆっくり水分を補給させる。
[編集] サバイバルの道具
過去のサバイバル事例において、生死を別けた物品には様々な物がある。以下に挙げるのは、幾つかの事例において、その有効性が立証されたものである。
[編集] 長期・短期を問わず有効とされる物
- マッチ・ライター等の点火器具
- 火は熱と光を与えるため、夜の闇を照らし、冷えた体を温め、生のままでは食用に適さない動植物を食料に変え、汚水や海水などの飲用できない水を蒸留するために利用され、野生動物を避けさせて安全な寝床をもたらし、日中の煙や夜間の光で捜索隊から発見される確率を高めてくれる。その他、きちんと管理された火は見る者を安心させ、炎はささやかな娯楽を提供してくれる。長期のサバイバルにおいては、有限の点火器具を長持ちさせるため、火を絶やさないように、かまどを作って火を保護する必要がある。また、晴れの日には虫眼鏡ないし凹面鏡(もしくは大量の鏡)も有効であろう。
- ナイフ
- 刃物の類いは、基本的な道具であるため、様々な局面で役立つ。手や爪や歯が役立たないほど丈夫な物を壊して移動経路を作るのに使える他、様々な道具を作るのに役立つ。ただし、この道具の設計強度を無視して、あまり無理な使い方をするべきではない。後々になって「あの時、壊れていなければ」と悔やんでも遅いのである。ナイフを使用する際は、怪我をしない・させないために細心の注意が必要である。特に厳しいサバイバル状況下では、十分な治療を受けにくいことから、負傷は命取りになりかねない。また、国内では銃刀法・軽犯罪法により、刃物の所有・運搬・携帯には、厳しい制限があり、注意が必要である。
- 布
- 布は遭難初期の頃は衣服等の形で幾らでも手に入るが、時間が経つにつれて清潔な布が入手しにくくなる。布は様々に加工して利用する事が可能であるため、比較的早い段階で確保しておくのが望ましい。しかし衣服は、脆弱な人体を保護する役目があり、寒い所では保温、暑い所では断熱、直射日光や虫・植物のかぶれから皮膚を保護するのに必要であるため、着ている衣服を無闇に布地として切り裂いて用いるのは良くない。出来るだけ肌着などの柔らかい布を用いるようにして、上着などは服のまま使用すると良いとされている。負傷時の包帯や、止血の際には圧迫用のパッドとして、また骨折時には添え木を使って患部を固定するのに使用する。また体を衛生的に保って病気を防ぐのにも布は必要である。長期間の場合は不衛生な布は小さな傷の化膿を招くため、定期的に洗って干し清潔にしておくのも大事である。
- ポリタンク
- 非常時に水を運び、蓄えるのに役に立つ。同様の用途では、やや耐久性に劣るが、ビニール袋でも代用可能で、また防災用品の中には水運搬用のビニール袋も販売されている。その一方で長期では燃料の確保も重要であり、液体燃料の運搬や保管には、専用のタンクがあると便利である。しかし粗悪なポリタンクや水専用のタンクに燃料を入れるときわめて危険であり、注意を要する。日本では灯油用のポリタンクにはJIS規格をパスしたものに、日本ポリエチレンブロー製品工業会が灯油かん推奨認定ラベルを貼付しているので確認できる。なお灯油用タンクにガソリンを入れるのも危険で、ガソリンにはガソリン用の金属製タンクを用いる。燃料の入ったタンクは、火気を絶対に避け、遠ざけることが重要で、同様の理由により燃料タンク周辺での喫煙も危険である。特にガソリンタンクは揮発したガソリンがタンクを破裂させないよう、外部に放出するようになっているため、ガソリンタンク周辺での喫煙を含む火気の取り扱いは非常に危険である。
- 靴
- 地震発生時等にビジネスシューズは不利である。釘、ガラス等の踏み抜き事故に強い底の丈夫なものを選ぶ。くるぶし・アキレス腱を負傷・捻挫から守るためには深めのデザインが良い。サイズ合わせは慎重に、足が疲れるほどにキツイものは良くないが、逆にゆるい長靴などは中に水がたまったりすると移動を困難にさせるため、良くフィットした歩きやすい靴が必要である。屋内でも家具や食器の破片で怪我をする可能性がある事から、寝室に靴を用意することも防災の観点で勧められている。合成皮革・化学繊維は熱に弱いのが弱点。丈夫な皮革、キャンバス地のハイキング・シューズなどが適する。ゴア・テックスを使用したタイプは防水性に優れている。冠水するほどの水害の際には、長靴よりもむしろ長ズボンにスニーカーの方が行動しやすく安全である。漂流物で怪我をすることがあるため、足が露出した服装で冠水時に移動しない方が良い。
[編集] 短期のサバイバルに必要とされる物
- 懐中電灯・携帯電話 (またはトランシーバー)
- これらの器具は、都市部でテロや災害に巻き込まれた際に役立つ。都市部の場合、電力が失われ、突然暗闇になる危険があるためである。これは例え日中であっても同じ事であり、トンネルや地下鉄・ビル内において、照明が失われてパニックが発生する事もある。そのような時は、小さな明かりでも、精神的な支えになり、安全な脱出経路を探すのに役に立つ。マッチやライター等の点火器具は、都市災害の場合には、可燃性ガスやガソリンといった可燃物が漏れ出している際に使用すれば自殺行為になるため、使用が制限される場合が多い。近年ではLEDライトなどの小型・軽量で長時間点灯可能なポケットライトも販売されている。携帯電話も同様に、照明になり、通信にも利用でき(圏外になっていなければ・基地局と電話局との間の回線が途絶していなければ)、音を発する事もできる、一石三鳥の役割を果たす道具になる。この場合はどこでも使用できるトランシーバーが有利とも言える。
[編集] 長期のサバイバルに必要とされる物
- 紙
- 文明社会ではいくらでも手に入る紙も、文明から隔絶された場合には、非常に貴重で、また役立つ。木などの燃料に点火する場合に火口に使ったり、寝る際の寝具の代用品にしたり、風雨を避けるための簡易雨具に利用する。また清潔な紙は布の代用品として、傷口に当てるなどしても利用できる。その他、本は退屈を紛らわせるために有効である。トイレットペーパーが無い場合にも役に立つ。
- ビニールシート
- ビニールシートは防寒具に、雨具に、建具に、海水や泥水や草木や小便等から真水を得る際にも役立つ。また水を蓄える容器を作るのにも役立つ。嵩張らず携帯にも非常に便利でもある。蒸留水を作る際には、浅い穴を掘って、中央に水を蓄えるコップなどの小さな容器を置き、その周囲に海水や泥水等の飲用に適さない水を入れ、穴を光を通す薄いビニールで覆ってしまい、そのビニールシートの中心(コップの真上)に小石を置いて、中心部が最も低くなるようにしておく。穴の中は太陽熱などで水が蒸発して湿度が高くなり、ビニールの表面で大気によって冷やされ、水滴となってコップに溜まる。この方法で、草木の汁や朝露を蒸留する事も可能である。
- 「針」と「糸」
- 長期のサバイバルをしなければならない時は、衣服や靴が破損しても、自分自身で修繕しなくてはならないだろう。針と糸は、衣服や靴の修繕に必要不可欠な道具である。
[編集] サバイバル状況が発生した事件・事故
- タイタニック号の沈没(1912年4月14日)
- 豪華客船タイタニック号が氷山に衝突、2,200名以上の乗客が凍て付く北大西洋のニューファウンドランド沖の海に投げ出された。低い水温により、浮遊物にしがみ付いて助けを待っていた人の大半が低体温症によって意識を失い、溺死した。同事故では、ただでさえ少ない救命艇が、パニックに陥った船員の誤った判断により、定員に満たないまま降ろされるという不手際もあって、結果1,503名が死亡したとされる。当時の天候は気温と水温が低く、長時間濡れたままでは、いずれにしても低体温症による意識喪失が起こった訳だが、微風で在った事から、漂流物によじのぼっていた方がより長く救助を待てたようである。なお、衝突時こそパニックにより状況が混乱したものの、乗船していたオーケストラ団の勇敢な演奏により、乗客たちが平静を取り戻し、女性や子供の避難が、優先的かつ迅速に行われたのは、有名なエピソードである。
- ニューヨーク世界貿易センタービル崩落(2001年9月11日)
- この事件では、炎上中のビルで停電が発生し、初期の段階では非常階段を使って脱出できたという説もあるが、照明が失われて脱出経路が判り難く、ビルに取り残されたままになった人も多かったとされる。また航空機衝突の際に飛び散った破片や瓦礫が周辺地域に降り注ぎ、これらの落下物による負傷者も多数発生した。
[編集] 実際のサバイバル状況を扱った作品
- 「大西洋漂流76日間」(著:スティーブン・キャラハン 訳:長辻象平)ISBN 4-15-050230-7
- 「ドキュメント気象遭難」 (著:羽根田治) ISBN 4-635-14004-0
- 「生きてこそ」(映画 原題『Alive』)
[編集] サバイバルを題材としたフィクション
- 「ロビンソン・クルーソー」(著:ダニエル・デフォー)
- 「十五少年漂流記」(著:ジュール・ヴェルヌ)
- 「神秘の島」(著:ジュール・ヴェルヌ)
- 「スイスのロビンソン」 (著:ヨハン・ダビット・ウィース)
- 「家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ」 (アニメ)
- 「スイスファミリーロビンソン」 (映画、ケン・アナキン監督)
- 「蝿の王」(著:ウィリアム・ゴールディング)1983年ノーベル文学賞
- 「ホワイトアウト」 (著:真保裕一) ISBN 4-10-127021-X
- 「嵐の中の子どもたち」(著:アイバン・サウスオール 訳:小野章 評論社刊 ISBN 4566022641)
- 嵐の直撃を受け、孤立してしまった山奥の村ヒルズ・エンド。そこに、一人の教師と7人の子ども達が取り残されてしまった。水も食糧もない荒れ果てた村で、疲労や恐怖と闘う彼らの3日間の物語。劇団四季により舞台化。
- 「サバイバル」(著:さいとう・たかを)
- 大地震によって荒廃した世界を舞台に、少年サトルのサバイバルを描いた作品。
- 「無限のリヴァイアス」
- SFアニメーション物だが、集団劇の形で人間の心理が細密に描かれており、人間という生き物の知恵と愚かさ、そして強さと脆弱さを描いた作品。上記の「十五少年漂流記」・「蝿の王」などを下敷きにした作品であるが、SFアニメーション物の枠の中で宇宙科学や物理学の知識が散りばめられている。
- 「キャスト・アウェイ」
- 「LOST」(テレビドラマ)
- 「無人惑星サヴァイヴ」
- 地球に似た無人の惑星に7人の少年少女が遭難するSFアニメーション。SFアニメながら実際のサバイバルに通じる描写も多い。