消火器
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消火器(しょうかき)とは、初期の火災を消すための小型で可搬式の消防用設備である。
使用する消火薬剤、薬剤の放射方式、形態などにより、いくつかに分類される。船舶用の消火器を除き、消防法による国家検定制度があり、これに合格した物でないと販売・陳列できない。最近見かけるエアゾール式の小型の消火具があるが、これは消防法上消火器と見なされず、簡易消火具として扱われる。
現在一般的に普及している消火器は加圧式ABC粉末消火器である。国家検定を受けた消火器は、特殊な消火器以外は1981年(昭和56年)に行われた規格改正により各社で操作法が規格統一されており「安全栓を抜き、ホースを火元に向け、レバーを握る」の三つの操作で誰でも使用できる。
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[編集] 対応する火災
対応する火災により以下の3種類が表示されている。
実際は表示されていても、実際的でなかったり、特例で適応が認められたりする場合も多い。しかし、高圧の変圧器の火災に泡消火器を用いる等の最悪の組み合わせは避けられる。
消火器には三種類の○型マークがあり、これにより消火器が適応する火災がわかるようになっている。
- A火災 - 白地に黒文字
- B火災 - 黄色地に黒文字
- C火災 - 青地に白文字(黒文字ではないのは見づらくなるため)
[編集] 消火原理
消火の原則の内の3つ、冷却作用、窒息作用、抑制作用の応用により消火する。
- 冷却作用 - 火を冷却する事により、発火点以下の温度にして消火する。
- 焚き火にバケツで水をかけて消す等がこれである。
- 窒息作用 - 酸素を遮断するか、濃度を薄くして消火する。
- 敷物、布等で覆って火を消す等がこの一例である。
- 抑制作用 - 燃焼の反応を抑えて消火する。負触媒効果ともいう。
- 粉末消火薬剤、ハロゲン化物消火薬剤が持つ特殊な作用である。
[編集] 能力単位
消火器の能力を示す数値。消火できた火災模型の種類・数によって表わされる。この実験により何れかの数値が1以上でないと消火器と認められない。Aは普通火災で、第一消火試験で1以上(大型消火器は10以上)、Bは油火災を言い第二・第三消火試験で1以上(大型消火器は20以上)の数値が能力単位を示す。Cは電気火災を表し数値はない。
[編集] 消火薬剤による分類
[編集] 水消火器
かなりの種類があるが、現在製造されているのは汚損を嫌う用途に蓄圧式で噴霧ノズルを持つ純水を用いた浸潤剤等入り水消火器があるのみである、これが対応する火災は普通火災と電気火災である。原理的には水バケツと同じであるが、水バケツは法令上簡易消火用具とされ、消火器ではない。消火の作用は冷却によるものである。
[編集] 酸アルカリ消火器
濃硫酸と炭酸水素ナトリウム(重曹)水溶液を反応させて、発生した二酸化炭素の圧力で薬剤を放出する。最も歴史の古い消火器の一つで、硫酸の入ったガラス瓶を消火器外から押し金具で割り、炭酸水素ナトリウム水溶液と反応させる「破瓶式」やハンドルを回して瓶を破る「硫酸瓶回転式」、外側のガラス瓶に粉末の重曹を詰めその内側に硫酸アンプルを入れた「二重瓶式」欧米では主流である化学泡消火器同様、転倒して反応させる「転倒式」などが製造されていた。消火作用の実質は水と殆ど変わりないが、当時としては強力に噴出する性質が好まれたようである。8Lのバケツの水は3個でA-1の能力しか持たないが、10L程度の酸アルカリ消火器はA-2乃至はA-3の能力を有していたようである。
しかしこれらは、アンプルの割れ方によって反応が一定でないことや、薬剤の詰め替え時にガラス破片の扱いに注意を要するなどの問題があるため、1951年の規格改正では硫酸アンプルを網篭に入れて破砕混合される方式の「破瓶式」に統一される。(二重瓶式は規格改正後も製造されていた模様である)これにより、安定した消火能力を示し、詰め替えも容易になった。しかし、適応火災が木材や紙・布などが燃える普通火災のみであり、詰め替え時には硫酸瓶を扱わねばならぬ上、使用時には遊離した硫酸で腐食の問題もあり1972年ごろに生産されなくなった。
- 対応する火災
- 普通火災
- 電気火災(噴霧ノズルを持つ物)
[編集] 水槽付きポンプ消火器
水槽に手押しポンプを付けた物、現在では製造されていない。戦後進駐軍の要求によって製造されたもののようである。4乃至2.5ガロン入りが多かったようである。米国では未だ2.5ガロン入りが製造されている。
- 対応する火災
- 普通火災
- 電気火災(噴霧ノズルを持つ物)
[編集] 加圧式水消火器
炭酸ガス加圧式のもので、大型消火器に用いられた。現在では製造されていない。
- 対応する火災
- 普通火災
- 電気火災(噴霧ノズルを持つ物)
[編集] 蓄圧式水(浸潤剤等入り)消火器
「水」に消火能力を高める為、植物から抽出した多糖類とリン酸塩等を添加した薬剤を使用していた。浸透性と再燃防止効果が優れており、従来の水消火器や酸アルカリ消火器と比べ、約3倍の消火効力を有する。メリヤス工場やデパート倉庫などで広く使用されてきた。近年では純水の溶剤に浸潤剤を配合し、精密機械や電子機器にかかった場合でも、乾燥後に不純物を残さないものが製造されている(ミヤタ「クリーンミスト」、ヤマト「アクアシューター」、ハツタ「ピュアウォーター」など)。米国では何も添加していない水道水を用いるものが多いが、現在日本では製造されていない。かつては油火災にも適応を持つ浸潤剤等入り水消火器(ヤマト「ウォータージェル」、ユージー(旧中央機器製作所)「ニュートラー」)があったが、この機種は現在製造されていない。
- 対応する火災
- 普通火災
- 油火災(浸潤剤等を添加し、かつ噴霧ノズルを持つ物の一部:現在は製造されていない)
- 電気火災(噴霧ノズルを持つ物)
[編集] 強化液消火器
炭酸カリウムの濃厚な水溶液を薬剤とする。pH約12の強アルカリ性。薬剤は無色透明だが、水と区別するために淡黄色に着色される場合もある。
嘗ては酸アルカリ消火器と同じ構造のものがあったが、現在の製品は噴霧ノズル付きの蓄圧式である。大型消火器(60リットル入り)は炭酸ガス加圧式であり、噴射を棒状と噴霧を選択できるノズルを持つ。手さげ式の物は放射時間は20~60秒前後、放射距離は3~8m程度である。
消火の作用は冷却と抑制によるものである。特に天ぷら油火災に対しては、主成分の炭酸カリウムと油脂が反応(鹸化)し高温の油を瞬時に不燃化するため、最も有効な消火器といえる。この為欧米では厨房用の消火器とされる場合が多い。ガソリン等の鉱物油火災にも適応するが、効果は期待できない。
木や紙等の普通火災に対しては冷却作用と脱水炭化作用により確実に消火し、再燃防止効果も期待できる。
これらの特徴から、住宅用消火器として粉末消火器に並んで良く用いられる。機械泡消火器や強化液消火器等の水系消火器とABC粉末消火器を併置するように指導する消防機関も多い。
薬剤は強アルカリであり、人体に対する刺激が比較的強いので、目等に入った際は水道水で充分洗い流す。皮膚にも長時間触れさせるべきでない。また電気火災にも使用できるが、一旦薬剤を浴びた電気機器は絶縁が悪くなったり錆びたりするので実際的ではない。
- 対応する火災
- 普通火災
- 油火災(噴霧ノズルを持つ物・現在の手さげ式は総て噴霧ノズルである)
- 電気火災(噴霧ノズルを持つ物)
木や紙、綿などの一般火災には最も適当である。また、鉄道用の消火器としても広く利用されている。電気製品や精密機械に薬剤が掛かった場合は腐食や絶縁劣化の危険があるので直ちに専門家に委託して清掃する。
[編集] 中性強化液消火器
現在販売されているものは、界面活性剤に多糖類やリン酸塩などを配合した「リン酸塩系」と、天ぷら油火災に適応した「カリ塩系」の二種ある。いずれも薬剤はpH約7の中性水溶液で、中性強化液と呼ぶ。各社とも全成分は公表していないが、強アルカリ性タイプの強化液(炭酸カリウム主剤)に比べて中性強化液は消火能力が大きい。
消火の作用は冷却と抑制、窒息(リン酸塩系のみ)によるものである。従来のアルカリ性強化液と異なり、リン酸塩系中性強化液は窒息作用により、ガソリン等の油火災にも効果を発揮する。しかし、天ぷら油火災に使用した場合、放射直後に炎が大きくなるので、天ぷら油火災の場合は成るべく遠くから放射するべきであろう。一方、カリ塩系中性強化液は、天ぷら油火災の消火には大変優れているが、ガソリン等の鉱物油の火災には、あまり効果が期待できない。
どちらの中性強化液も、木材や紙等の普通火災に対し、強力な浸透性と脱水炭化作用による確実な再燃防止効果があり、普通火災に最も優れた効力を発揮する。しかし、アルカリ性強化液と比してガソリン類の火災に強いが粉末消火器程ではない。
これらの特徴からアルカリ性強化液消火器同様、ABC粉末消火器と併置するように指導する消防機関も多い。
- 対応する火災
- 普通火災
- 油火災
- 電気火災
木や紙、綿などの一般火災には最も適当である。また、鉄道用の消火器としても広く利用されている。特に車体がアルミニウム製の車両を多数保有する鉄道会社はこの消火器を採用する傾向が強い(アルミニウムや銅を腐食させにくいため)。電気製品や精密機械に薬剤が掛かった場合は腐食や絶縁劣化の危険があるので直ちに専門家に委託して清掃する。
[編集] 化学泡消火器
A剤(炭酸水素ナトリウム)とタンパク泡消火剤(古くはムクロジや甘草根の煮出し液を用いた)や防腐剤、B剤(硫酸アルミニウム)を溶かした水溶液を薬剤とする。A剤とB剤は消火器内で別々の筒に入れられている。使用時に消火器をひっくり返して混合・反応させると二酸化炭素が発生し、薬剤が放射する。この時副生されるコロイド状の水酸化アルミニウムは泡になるが、安定性が低いので、A剤にはタンパク泡消火剤やムクロジ等からのサポニンが混合されている。
ABC粉末消火器普及以前は最も広く用いられた。薬剤は劣化しやすいため、1年毎に詰め替える。化学反応により噴射するので、設置場所の温度の下限は+5℃である、従って戸外での設置は冬季十分に発泡しない場合がある。また、凍り易いので室内に設置すべきであろう。
単にひっくり返すだけで噴射される「転倒式」と、使用時に内筒の封板を破ってひっくり返す「破蓋転倒式」(封板が鉛のため、破鉛転倒式という場合もある)、主に大型消火器に用いられるハンドルを回して内筒の蓋を開けてから転倒する物の三種がある。昭和50年代前半まで転倒式の需要が多かったが、転倒式は地震などで倒れたり、火災時横に担ぐだけで噴射してしまうため、現在は転倒式は製造されていない。(最後まで発売していたヤマトプロテックも、1994年をもって製造中止。)
破蓋転倒式は船舶用としても良く用いられる。消火薬剤が消火器中最も廉価で、詰替えも特殊な技術が必要なく、ポリバケツと攪拌用の棒があれば十分な為であろう。
放射時間は50から60秒と長く、放射距離も9m程度で長い。また、水系消火器の中ではA(普通)火災に対する制炎効果が高く、その鎮圧力は粉末消火器に匹敵する。これは不燃性の二酸化炭素を多く含んだ泡が、燃焼物上で気化するためと考えられる。(大阪市消防局による消火能力比較実験で実証済)
現在でも町内会、大手印刷工場や紡績工場、放送局スタジオなどで採用されている。
消火の作用は冷却と窒息によるものである。
- 対応する火災
- 普通火災
- 油火災
[編集] 化学泡消火器の使用法と注意
破蓋転倒式の場合(転倒式の場合は3からの操作で良い)
- 消火器上部中央の安全キャップを外す
- 安全キャップ内にある棒状の押し金具を押し込む(内筒の鉛板が破れる)
- ホースを外し、ノズルを親指で塞ぐ
- 消火器を横倒しにし、消火器底部の取っ手を持ち消火器をひっくり返す。
- 上下に二三度振り、親指に圧力を感じたなら親指を外して放射する。
化学泡は他の水系消火薬剤と比べて浸透性が低く、再燃の危険があるので、鎮火後には注意が必要である。特にふとんやゴミ箱などの火災に際しては、鎮火後さらにバケツなどで水をかけておくなどすると再燃を防げる。また、高圧の変圧器や遮断器、配電盤の電気火災には感電の危険があるので使用してはならない(C火災には、適応しない)。止むを得ず使用する場合は電源を遮断してから放射する。転倒式化学泡消火器は普段から堅固に壁などへ固定しなければならない、また転倒式化学泡消火器は消火器を倒さずに火災現場まで運搬する事。使用時に化学反応で急に圧力が発生するため、錆びたり、キャップに亀裂・緩みのあるような物は破裂の危険がある。化学泡消火器の薬剤、特にA剤は変質しやすいので、年に一度詰替える必要がある。この詰替えの時に訓練と合わせて放出すると良い。
使用後薬剤が掛かった物品は乾かぬ内に水洗い、水拭きする。一度乾くと水酸化アルミニウムがこびりついて中々汚れが落ちない。使用後の消火器もキャップを開けて、ホースやノズルを水洗いしてノズルやホースの詰りを防ぐ。
感電の危険があるので、高電圧の電気設備には使用してはならない。電気製品や精密機械に薬剤が掛かった場合は腐食や絶縁劣化の危険があるので専門家に委託して清掃する。
[編集] 機械泡消火器
発泡しやすい泡消火薬剤の水溶液を薬剤とする。水成膜泡消火薬剤(商品名:ライトウォーター等)と、リン酸塩や浸潤剤を配合した界面活性剤泡消火薬剤(商品名:ファイティングフォーム)の2種あるが、いずれも主成分はフッ素系界面活性剤である。空気を導入させる特殊な構造のノズルを用い、放射時に放射ノズルから空気を取り入れ、発泡して噴射する。
構造は蓄圧式で、ノズル以外は強化液消火器と同じ構造である。車載式には加圧式も見られる。
放射時間は20秒~40秒、放射距離は4~7m程度である。消火作用は冷却と窒息および抑制によるものである。浸潤性や消火能力は化学泡消火器より強力である。
油火災、特にガソリンや灯油の火災に対して優れた再燃防止効果で確実に消火できる。また、燃焼物に消火剤を注ぎ込むだけで消火できるので、消火器の操作に不慣れな人でも容易く消火できる。但し即効性の点で粉末消火器と比べて劣る(油の表面を覆って消火するため、消火に時間がかかる)ため、制炎力の優れた粉末消火器と併用することで、速く、確実な消火が期待できる。なお、天ぷら油などの動植物油の火災に使用した場合、放射直後に火炎が拡大して油が飛び散ることがあるので、燃焼物から放射距離程度離れて操作するとよい。
普通火災に対しては瞬時に火炎を抑え、優れた浸透性で再燃を防止する。このような特長から、紙や木材を多く扱う場所、デパート、地下街などに好適である。また、寺院や重要文化財などでもよく設置されている。
感電の危険があるので、高電圧の電気設備には使用してはならない。電気製品や精密機械に薬剤が掛かった場合は腐食や絶縁劣化の危険があるので専門家に委託して清掃する。
- 対応する火災
- 普通火災
- 油火災
[編集] 二酸化炭素消火器
二酸化炭素(炭酸ガス)を薬剤とし、窒息作用で消火する。汚損が無く、特に電気設備、電算機、電話交換機、可燃性インクを使う印刷工場や溶剤類を扱う実験室、レース場、空港等によく用いられる。
構造は高圧で圧縮した液化二酸化炭素を薬剤として使用、自身の圧力で放射する。独特のラッパ状のホーンを持つ。放射時、ドライアイスと霧が発生する。人間の酸欠事故防止のため、地下街などには設置できない。放射時にはホースや容器(消火器本体)は極めて低温となるのでレバーやホーンの握り部分以外には触れるべきでない。
建物に組み込まれた電気設備などを設置した区画の消火設備として使われることが多い。なお、二酸化炭素消火設備は作動する前に避難しないと酸欠の危険があるので、作動前に警告表示が点滅しアナウンスが流れるので、直ちに避難しなければならない。
この消火器は高圧ガス保安法の適用を受け、容器の1/2以上を緑色にするように定められている。高圧の状態である為に容器(消火器本体)は非常に重い。
放射時間は10数秒~20秒程度、放射距離は2~3m程度である。
消火の作用は窒息によるものである。冷却作用が少なく再燃の危険が非常に大きいので、鎮火後は完全に消火したがどうか、注意を要する。風上から放射し、使用後は直ちに換気を図る。
- 対応する火災
- 油火災
- 電気火災
消火により汚損の被害が懸念される場所に好適である。
[編集] ハロゲン化物消火器
ハロゲン化物を用いたもの。 前項の二酸化炭素同様に汚損が無い上に二酸化炭素より消火能力が優れているため、特に電気設備、電算機、博物館、電話交換機、溶剤類を扱う実験室によく用いられていた。
薬剤はハロン2402、ハロン1211、ハロン1301が用いられる。嘗ては四塩化炭素や一塩化一臭化メタン(ハロン1011)があったが、その毒性の為に早くから製造が禁止された。また、他のハロゲン化物消火器も1994年1月1日からハロン規制がおこなわれたため現在は製造されていないが、消防法上の失効を迎えていないため継続設置されている場合がある。
ハロン1301は二酸化炭素のような作動時の人体への被害が少ないため、電気機器の設置区画や駐車場、図書室などのような特定の区域に継続設置されている場合がある。(ハロンの取り扱い)そのため、新規生産されなくなったハロゲン化物については、古い設備からの回収と再生成によってまかなわれている。
ハロゲン化物消火器は消火時にホスゲンやフッ化水素等の有毒ガスが発生するおそれがあるため、ハロン1301以外の消火器は地階や無窓室等への設置が禁止され、消火時の注意事項が銘盤に記入されている。
ハロン1211、ハロン1301は高圧ガス保安法により容器の1/2をねずみ色に塗色するように義務付けられている。
消火の作用は窒息と抑制作用によるものである。冷却作用が少なく再燃の危険が非常に大きいので、鎮火後は完全に消火したがどうか、注意を要する。風上から放射し、使用後は直ちに換気を図る。
- 対応する火災
- 普通火災 (特例として比較的大きいの物のみ)
- 油火災
- 電気火災
消火により汚損の被害が懸念される場所に好適であるが、現在は製造されていない。
[編集] 粉末消火器
粉末の消火薬剤を用いたもの。現在最も普及しているのが、各種の粉末中、燐酸二水素アンモニウムを用いたABC粉末消火器である。
重曹等の粉末に消火の作用がある事は古くから知られており、重曹に防湿の為におが屑等と混ぜたものを消火砂の代わりに準備したり、長細い筒状の容器に入れて火災時に振り撒いて消火したりしていた。日本には戦前には既に輸入され知られていたが、当時は火薬を使い拳銃のように構え、火薬の爆発によって散布する物が多かったようである。この形態では発射時、的を外してしまったら取り返しがつかないので、姿を消したようである。他方、現今の姿に近い加圧式と思われる物も輸入されたようであるが、構造が煩瑣で国産化は遅れ漸く1952年に国産化した。
古くは消火の作用は炭酸水素ナトリウムが火炎により熱分解し二酸化炭素が発生し窒息消火するのではないかと考えられていたが、現今では殆ど否定されており、抑制作用こそが消火作用の実態であるとの認識が一般的である。
薬剤には以下の4種類があり、区別のために着色されている。
- Na(炭酸水素ナトリウム)白色~薄青色
- ABC(リン酸アンモニウム)淡紅色の着色義務がある。
- K(炭酸水素カリウム) 着色義務は無いが紫色へ着色されている場合が多い。
- KU(炭酸水素カリウムと尿素の反応生成物)ねずみ色である。
油火災への消火能力は下へ行くほど強力であるが、特殊な理由が無い限り消火器用としてはABC粉末が最も広く普及している。
構造としては使用時に容器に圧力が掛かるガス加圧式の物と、常時圧力が掛かっている蓄圧式の物がある。加圧式はその構造上、使用時に急激に容器に圧力が掛かる為、容器やキャップが腐食した物は破裂事故を招く。
消火の作用は主に抑制作用によるものである。抑制作用は他の消火薬剤より最も強力で、これを応用して可燃性ガスなどの爆発を事前に防ぐ装置・用途もある。
放射時間は10数秒から30秒程度でかなり短く、放射距離も3~7m程度である。
冷却作用が無く再燃の危険が非常に大きいので、鎮火後は完全に消火したがどうか、注意を要する。
消火方法は、放射された粉末が空中に舞っている状態で、火元を粉末で覆うようにすると消火しやすい。放射時間が短いのは短時間に大量の粉末を放射する方が効果的であるためでもある。
火炎を急激に減衰させる点では非常に効果的な消火器であり、最も普及しており、ガソリン・ガスの火災には非常に好適であるが、放射が止まると一部でも火種があればまた元通りに炎上してしまう。使う人により十分に能力を発揮できない場合も多い。また、屋内では視界が悪くなり、狙った火元以外にも薬剤が掛かるので汚損が甚だしい。一見能力単位が大きく軽量強力に見える消火器であるが、この様な制約も多い。その為、強化液消火器や泡消火器と併置するのが理想的で、消防機関でも併置を指導する場合が多い。
- 対応する火災
- 普通火災 (ABCのみ)
- 油火災
- 電気火災
ABC粉末は電気製品や精密機械に薬剤が掛かると、長時間の内に空気中の水分を含み、金属を錆びさせたり、絶縁劣化する場合があるので、専門家に委託して清掃する。消火後、直ちに粉末を吹き飛ばしたり掃除機で吸い取ったりすれば強化液や泡消火器より危険は少ない。 重曹や重炭酸カリウムを主剤とした粉末消火器は普通火災には適応しないが、金属への腐食性はABC粉末に比べて少ない為、比較的小容量の物が自動車用として採用されている。
[編集] 薬剤の放射方式による分類
[編集] 蓄圧式消火器
消火器内部に高圧の空気、窒素ガスを充填したもの。薬剤は常時加圧されていて、レバー操作により圧力を利用して放射する。内部圧力を示す指示圧力計の設置を義務付けられている。水消火器の一部、強化液消火器、機械泡消火器、粉末消火器の一部がこの方式を採用している。
二酸化炭素消火器など消火薬剤そのものが圧力を持つ場合もあり、こちらは「自圧式」とも呼ばれる。
[編集] ガス加圧式
手さげ式は、現在国内では粉末消火器のみに用いられる。普段内部は加圧されておらず、内部に加圧用のガスが封入された容器がある。使用時にレバーを操作するとカッターにより内容器が破れガスが噴出、薬剤が放射される。手さげ式粉末消火器にはレバーにバルブ機構を備え手を離すと噴出が止まる「開閉バルブ式」、一旦レバーを握ると全量が放出される「開放式」の2種類がある。
外観から使用済みかどうか判断するのが困難なため、使用済み表示装置の装着が義務付けられている。また外容器が腐食していると急激な加圧に耐えられず破裂するおそれがあるので、使用を避けるべきである。
[編集] 反応式
薬剤の化学反応を利用して放射する。化学泡消火器、酸アルカリ消火器など。
[編集] 形態による分類
火災時火元まで運ばなくてはならないので、総重量により規制がある。
- 手さげ式消火器 - 手に持って使用する消火器。建物内部に備え付けてあるのはこのタイプが多い。
- 据置式消火器 - あらかじめ据え置いてある消火器。ホースを伸ばして使用する。
- 背負式消火器 - 背負って使用する消火器。
- 車載式消火器 - 車輪のついた消火器。大型消火器は総てこの形態である。
[編集] 使用方法と注意
一般に普及している消火器の場合の使用方法。先に述べた通り、大型消火器、化学泡消火器はこの限りでない。また、小型の粉末消火器には押しボタンを叩いて加圧用ガス容器の封板を破る方式の物もある。
- 消火器上部の安全栓(黄色)を抜く。
- ホースを持って火元に向ける。距離は3m程度。余り近づいても効果は上がらず、却って炎が吹き返して危険である。
- 上下のレバーを握り薬剤を放射する。風上から炎の根本を手前から掃くように消火する。
屋内で粉末消火器を用いると視界が悪くなるので、避難路を背に向ける等の注意が必要である。泡消火器で油火災を消す場合は、油面を圧力で掻き回さないように泡を放射する。
一般に消火器で消火可能な火災は「天井を炎がなめる」以前の状態である。消火器で鎮圧困難であれば、消火栓設備等の備えがあれば直ぐその操作に切替え、或は避難し無闇に消火器に執着して時期を失する事の無いようにすべきである。
※1981年(昭和56年)度以前に製造された消火器は各社毎に安全栓がバラバラだった。
[編集] 設置基準
防火対象建築物には設置が義務付けられる。基準は建築物の種類、面積など。
階ごとに、階各部分から消火器への歩行距離が20mになるようにし(大型消火器の場合は30m)、「消火器」と表示した標識を設置する。
[編集] 大型消火器
A火災用で10以上、B火災で20以上の能力単位を持ち、下記の薬剤量を満足した消火器。主にガソリンスタンドなどのような危険物を取り扱う施設に設置される。
- 水消火器、化学泡消火器 80l以上
- 強化液消火器 60l以上
- 機械泡消火器 20l以上
- ハロゲン化物消火器 30kg以上
- 二酸化炭素消火器 50kg以上
- 粉末消火器 20kg以上
- ※大型消火器は総て車載式であるが、小型の中にも重量の点から車載式をとる物もある。
- (強化液消火器20l入り、二酸化炭素消火器20kg入り)
[編集] 住宅用消火器
住宅用としてのみ設計された物である。試験に使用される火災模型も小型で、能力単位も付与されない。また、普通の消火器のように赤色でなくとも良く、ホースも付けなくて良い。安全面から構造は蓄圧式のみで、ハロゲン化物消火薬剤、二酸化炭素消火薬剤は使用できない。原則として使用後再充填出来ない構造(使い切り)で、メーカーは住宅用消火器の耐用年数は5年としている。
[編集] 消火器の点検
防火対象物に設置されたものは常時使用し得る状態か、六ヶ月に一度の点検が義務付けられている。点検は資格者のみがおこなえる。適用資格は、消防設備点検資格者1種及び消防設備士乙種第六類。尚、消火薬剤の交換ほか整備については、消防設備士の資格が必要となる。
住宅には設置・点検義務は無いが、住宅用消火器は5年、普通の消火器であれば8年で交換すべきである。特に加圧式粉末消火器は容器やキャップに錆、変形をきたした物は絶対使用せずに買い換える必要がある(過去に死亡事故が相次いだため)。
[編集] 消火器詐欺
「消防署の方(方角)から来た」等と言い、消火器を販売し高額の現金を騙し取る犯罪。
- 一般的な粉末消火器の場合、購入に1個1万円以上もするのは稀である。
最近では、法人施設に出入りの業者を装い消防設備を点検し、高額請求をするケースが多い。撃退法としては販売許可証を持っているか問い合わせ、その連絡先が消防署に登録されているか問い合わせるとよい。
尚、問い合わせれば近くの消火器を取り扱う店を消防署が紹介するシステムをとっている場合が多い。そのほか、地方自治体が町内会や広報などで斡旋する場合もある。大型ホームセンターで販売されている場合もある。
[編集] 外国製エアゾール式簡易消火具の盲点
一部日本国内に輸入される消火器具には、日本の規格を満たしていないため、不具合が生じる機種があるので注意が必要である。国民生活センターのテストによれば、外国製のハロンや代替ハロンを使用したエアゾール式の簡易消火具の中には、天ぷら油の火災に使用すると炎があおられ拡大する恐れがあるものがあること、石油ストーブが消火できない機種が多いことが指摘されている。 これらの商品を販売しているホームページを見ると検定とか認証を受けていますなどともっともらしい事を謳っているがその殆どが消火具(簡易消火具)としての鑑定を受けていない(NSマーク)ので購入自体無意味である。 ハロンガスは一定の区画(密閉に近い状態)で所定のハロン濃度に達することで鎮火状態を持続させ消火させるが一般の消火器のような開放区画では必要量が莫大なものとなりエアゾール容器入りの量では到底消火は不可能である。
[編集] 関連項目
[編集] 主な消火器メーカー
- 宮田工業(miyata)
- 初田製作所(ハツタ)
- ヤマトプロテック(ヤマト)
- モリタ(モリタ)
- 日本ドライケミカル(NDC)
- 丸山製作所(マルヤマ)
- モリタユージー(旧・中央機器製作所→ユニチガード→ユージー)
- 三津浜工業(ミツハマ)
- 今枝製作所(イマエダ)