ヒカゲノカズラ科
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![]() アスヒカズラ |
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ヒカゲノカズラ科(Lycopodiaceae)は、シダ植物のヒカゲノカズラ植物門に含まれる植物の分類群である。シダというより、むしろ巨大なコケのような姿の植物である。
「古事記」に記述がある日陰蔓はこの種か。
目次 |
[編集] 特徴
ヒカゲノカズラ科は熱帯を中心に世界中で二百種ほどが知られる植物群である。日本ではヒカゲノカズラやトウゲシバが普通に見られる他、約20種が知られる。
様々なものがあるが、基本的な特徴は以下の通り。
- 茎は細長くて硬く、周囲に葉を螺旋状につける。
- 葉は針状から楕円形の小葉で、葉脈は主脈のみ。
- 胞子のうは胞子葉の上面基部につく。
- 胞子葉は茎にまばらにつくか、先端にまとまってつく。
これらの特徴はイワヒバ科とも共通する部分が多いが、イワヒバ科では茎が腹背に分かれて、葉が側面と背面で形を変えるものが多い。また、ヒカゲノカズラ科にはない担根体を持っているのもイワヒバ科の特徴である。
ヒカゲノカズラなどでは胞子葉は特に分化した茎の先端部に集合し、外見上でもはっきり区別がつくが、ミズスギでは普通の茎の先端にやや見分けのつく穂ができる程度、トウゲシバでは胞子葉は他の葉と区別できず、見かけ上は茎の一部に胞子のうが単についているだけである。
[編集] 分類
ヒカゲノカズラ科の植物の大部分はヒカゲノカズラ属 Lycopodium に含める。この科には他には単一種を含むPhylloglossumがあるだけである。
ヒカゲノカズラ属のものの形には大ざっぱに見て三つの形がある。それぞれ日本産の代表的なものを挙げる。
- 茎は直立して短く、地上性。
- トウゲシバ L. serratum Thunb.
- コスギラン L. selago L.
- 茎はやや長く、ゆるやかに垂れ下がる。着生植物。
- ヨウラクヒバ L. phlegmaria L.
- ヒモラン L. sieboldii Miq.
- スギラン L. cryptomerium Maxim.
- ナンカクラン L. hamiltonii Spr.
- 茎は長く伸びて枝分かれする。地表をはい回るか、つる植物となる(一部に茎が短くて直立するものがある)。
- ヒカゲノカズラ L. clavatum L.
- スギカズラ L. annotinum L.
- マンネンスギ L. obscurum L.
- チシマヒカゲノカズラ L. alpinum L.
- アスヒカズラ L. complanatum L.
- ヤチスギラン L. inundatum L.
- ヒモヅル L. casuarinoides Spring
- ミズスギ L. cernum L.
なお、この類を細分する説もある。例えば属そのものを細分した上で、上の二群をコスギラン科に、後の群をヒカゲノカズラ科に分ける説などがある。
[編集] 利用
ヒカゲノカズラは長い茎を蔓として利用したり、緑の柔らかなふさふさした感触を装飾用としたりすることがある。また、金魚の産卵巣に使う例もある。
着生植物になるものは、観賞用に栽培されることがある。そのため、日本産のものは、そのほとんどが稀少である。
[編集] おまけ
この項を書きながら考えたことではあるが、学名の変更が少ない群である。シノニムもあんまりないし、何より命名者にL.がそのまま残っている種がこんなに多い分類群は日本では他になさそうな気がする。ちなみにL.はカール・リンネのことである。学名の記載者は学名の後ろにその名が残るのであるが、有名な学者の名は省略される伝統があり、中でも分類学の父であるリンネだけは一文字に省略することを唯一許されている。そのL.が()に入らずに残っているというのは、彼が記載した名が変更を受けずに今も使われていることを示す。
この理由は、多分二つあって、一つはヒカゲノカズラ植物門に含まれる群がそもそも少ない。恐らく、この類はかつて古生代に栄えた植物群の生き残りであり、この類そのものは結構栄えているのではあるが、ごくまとまった数少ない系統だけが生き残ったので、現生の他の植物との違いが大きく、見かけでまとめるのが容易だったからであろう。もっとも、そのためにこの群の内部の差が十分に評価されていないとの指摘もあり、これらをいくつかの科や属に分ける説もあるから、この点は見直しが行われれば随分変わることであろう。
もう一つは広域分布種が多いことで、日本産のものでは日本固有種は皆無である。寒地のものはヨーロッパや北アメリカと共通のものが多く、南方のものは東南アジアと共通のものや、熱帯に広く分布するものが多い。こういった場合、リンネの研究成果が残りやすいのであろう。