界 (生物学)
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生物学における界(かい、英:kingdom, 羅:regnum)とは、生物の分類におけるトップレベル(あるいはそれに準ずるレベル)のタクソンの階級である。一般の人には今でも動物と植物で分ける二界説が通りがよいが、最近になってから、さまざまな界が創設されてきており、妥当な界の分類数とその構成についてはまだ定説はない。
[編集] 分類の単位としての認証
もともとは、界は分類上の単位としては考えられていなかった(なお古い時代において、鉱物界を認める著述者も存在した)。しかしながら、当然のように生物には二つのものがあると考えられていた。つまり、動物と植物である。それらがいずれも生物という点で共通であり、その分類における最高の分類単位であると考えられるようになったことから、それぞれに付いた名が動物界と植物界である。それぞれの界は、以前はclass(類)に分けられていたが、のちに門(動物についてはphylum、植物についてはdivision)に分けられるようになった。これが二界説である。
単細胞生物は、それが発見されたとき二つの界に割り振られた。運動性のものは動物としてプロトゾア(Protozoa 原生動物門)に分類され、藻類と細菌類は植物とされた。しかし多数の種が双方に属することになった。たとえばミドリムシや変形菌などである。そのため、エルンスト・ヘッケルが第3の界として原生生物界(プロチスタ界 ProtistaまたはProtoctista)の創設を提唱した。しかし、この用語は比較的近年に至るまで一般に広まらなかった。
のちに、細菌の細胞構造が、他の生物と根本的に異なっていることが発見される。つまり細菌は原核生物であるのに対し、他の生物は真核生物である。このためハーバート・コープランドは細菌を分離した界に置いた。当初はMychotaと言われたが、現在はモネラ界(Monera, MychotaもしくはBacteria)と言われる。原核生物と真核生物の分類が根本的なものであることが明らかになってきたので、生物を原核生物界と真核生物界のふたつの上界(superkingdom, もしくはempire)に分けることも一般的になってきた。
ロバート・ホイッタカーはさらに菌界を認め、1959年、5界説を提唱した。その分類は栄養生産の違いに基礎を置いている。多細胞の独立栄養生物(生産者)を植物(界)、多細胞の従属栄養生物(消費者)を動物(界)、多細胞の腐食栄養生物(分解者)を菌(界)とし、単細胞生物と単純な群体性の細胞の生物は、原生生物界・モネラ界に含まれた。5界説は一般的な標準となり、いくらかの修正を経て現在でも多くの論文に採用されている。またそれはより新しい界区分の基礎となった。
1980年代の分岐分類学の発展により、動物界・植物界・菌界の単系統性の再評価がなされた。動物界・植物界・菌界はそれぞれ、近縁な種のまとまりに限られ、そうでないものは原生生物界に移された。rRNAの研究を基礎にして、カール・ウーズは原核生物を真正細菌界と古細菌界に分けた。この6界説が現在の論文のスタンダードになっている。
真核生物界に対し、新しい界区分はさまざまに提唱されてきたが、そのほとんどはすぐに無効とされるか、門・目にランクダウンされている。ただしその中で唯一、Cavalier-Smithによるクロミスタ界はまだ使われている。これは褐藻類・珪藻類・卵菌類などを含む。この場合真核生物は、動物界・菌界・原生動物界の3つの従属栄養生物群と、植物界(紅藻を含む)とクロミスタ界の2つの独立栄養生物群に分けられる。ただし、クロミスタ界には卵菌類やラビリンチュラのような従属栄養の生物群が含まれる。しかし、この分類は一般的に使われるには至っていない。クロミスタ界・原生動物界の単系統性が疑わしいためである。
1990年、ウーズは、真正細菌・古細菌・真核生物を3つの基本的な系統とみなし、これらをドメイン(domain)に格上げしてBacteria, Archaea, Eucaryaと命名した。この3ドメイン説は議論をまき起こしたが、従来の2上界説(原核生物界と真核生物界)にかわって、界以上の分類法の標準となっている。
リンネ (1735年) 2界説 |
ヘッケル (1894年) 3界説 |
ホイタッカー (1959年) 5界説 |
ウーズ (1977年) 6界説 |
ウーズ (1990年) 3ドメイン説 |
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原生生物界 | モネラ界 | 真正細菌界 | 真正細菌 | |
古細菌界 | 古細菌 | |||
原生生物界 | 原生生物界 | 真核生物 | ||
植物界 | 植物界 | 菌界 | 菌界 | |
植物界 | 植物界 | |||
動物界 | 動物界 | 動物界 | 動物界 |