リコーダー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
リコーダー(英:recorder)はエアーリード(無簧)の木管楽器。日本語では主に古楽(バロック音楽)の領域で、ドイツ名のブロックフレーテ (Blockflöte) と呼ばれることもある。同じエアーリードである現代のフルートが横笛であるのに対し、縦笛である。
奏者が自らの口形によって吹き込む空気の束を調整をしなければならない横笛に対し、歌口の装置(ブロック)によって空気の束が一定に保たれ、吹奏が比較的に容易であり、また構造もシンプルで安価に量産できるため、教育楽器として多用されるようになった。
なお、リコーダーの名は、"記録するもの(recorder)" の意で、小鳥の声を模して演奏する習慣があったためという。
音孔の開け方にはバロック式とジャーマン式の2種がある。バロック式は古くからある正統の運指で、ジャーマン式は20世紀はじめ、ハ長調の運指が容易になるようにドイツでもっぱら教育用に開発されたもの。このため日本でも公教育に取り入れている。しかし、ジャーマン式は高音域の運指が定まらないため、初心者に使われるだけで他ではほとんど使われない。
様々な長さの楽器があるが、移調楽器としては扱われない。ただし、音域の高い楽器では1オクターブ低く書かれることがある。
リコーダーの音域は、ジャーマン式の場合、楽器の最低音から2オクターブ強、バロック式の場合には、個々の楽器によって異なるが、運指を工夫することによって約3オクターブの音を出すことができる。
目次 |
[編集] リコーダーの歴史
西ヨーロッパでは中世から存在が知られ、ルネサンス音楽頃には盛んに用いられていた。バロック期までは単にフルートと言った場合、フラウト・ドルチェ(伊)、英語ではリコーダー(バロック期では特にアルトリコーダー)のことを指し、現在のフルートの原型である横笛はフラウト・トラヴェルソ(横に持ち替えたフルート)と呼ばれた。
バロック期前半の17世紀には現在用いられるものとほぼ同じ形に完成された。同時代には古典音楽において重要な楽器となり、ソナタや協奏曲の独奏楽器として、また管弦楽群の合奏楽器として、数々の名曲が作られた。テレマンが自ら得意に演奏したことでも知られる。
だが、音量が小さいこと、また音量の強弱がそのままピッチに影響すること、発音が容易であることの裏返しとして音色の表情をつけにくいこともあり、バロック期後半の18世紀頃からは次第にフラウト・トラヴェルソに主流の座を譲り、古典派音楽に至っては全く顧みられなくなった。
20世紀初頭にイギリスのアーノルド・ドルメッチが復元し、ドイツでは教育用としても普及した。現代でもフランス・ブリュッヘンなどの名奏者を輩出している。もっとも、古楽派以外のオーケストラや吹奏楽では一般的に用いられない。なお、古楽器奏者は奏法やレパートリーの近いバロックフルートと持ち替えをすることが多い。
[編集] リコーダーの種類(ドルメッチュ社の呼称に基づく)
現在は主にF管とC管で、音域の高い方から、
- ガークライン(クライネソプラニーノ)・リコーダー(C管)
- ソプラノ・リコーダーより1オクターブ高い
- ソプラニーノ・リコーダー(F管)
- アルト・リコーダーより1オクターブ高い
- ソプラノ・リコーダー(ディスカント)(C管)
- テナー・リコーダーより1オクターブ高い
- アルト(トレブル)・リコーダー(F管)
- 最低音は中央ハの上のヘ音
- テナー(テノール)・リコーダー(C管)
- 最低音は中央ハ
- バス・リコーダー(F管)
- アルト・リコーダーより1オクターブ低い
- グレートバス・リコーダー(C管)
- テナー・リコーダーより1オクターブ低い
- コントラバス・リコーダー(F管)
- バス・リコーダーより1オクターブ低い
- サブ・コントラバス・リコーダー(C管)
- グレートバス・リコーダーより1オクターブ低い
- サブ・サブ・コントラバス・リコーダー(F管)
- コントラバス・リコーダーより1オクターブ低い
がある。このほかに、ヴォイスフルート(D管、最低音は中央ハのすぐ上のニ音、フラウト・トラヴェルソと同音域)がある。また、G管やB(変ロ)管等も存在した。
多くの場合、テナー・リコーダーから下の楽器には音穴を押さえるためのキーが装備される。
ソプラノ、アルト、テナー、バスの4本による4重奏曲は、バロック以前の時代にポピュラーで、数多くの作品が残されている。バロック期では特にアルトリコーダーが代表的であった。
材質としては教育用には大量生産が可能な樹脂製のものが用いられるが、本来は基本的に木製である。主な使用材としてはメープル、洋梨、つげなどの材質の比較的柔らかいものから、紫檀や黒檀のような堅い素材までさまざまなものが用いられる。素材の材質と音質との関連が高く、柔らかな素材のリコーダーは上述のアンサンブル用として、また堅い素材のものは主として独奏用に用いられることが多い。なお、現在よく見られる樹脂製の製品で、黒地に白のアクセントを付けたデザインは、黒檀材の管に象牙の部品を用いたバロック期後半の一形式をモデルにしたものである。
[編集] リコーダーの作品
- J.S.バッハ 『ブランデンブルク協奏曲第2番』『同第4番』
- テレマン
『リコーダーと管弦楽のための組曲イ短調』 『二つのフルートとリコーダーと通奏低音のための四重奏曲』 『リコーダーとフルートと通奏低音のための協奏曲ホ短調』
- クヴァンツ 『リコーダーとフルートと通奏低音のためのトリオソナタ』
- ヴィヴァルディ 『リコーダーとオーケストラのための協奏曲ハ長調』『同ハ短調』
- ヘンデル 『リコーダーと通奏低音のためのソナタハ長調』『同イ短調』
- ヘンリー・パーセル 『三つのリコーダーと通奏低音のためのシャコンヌ』
[編集] 日本の音楽教育での活用
日本の小学校の音楽の時間では、ソプラノ・リコーダーが定番である。1-2年生の音楽に時間では、まだリコーダーは用いられず、ハーモニカか鍵盤ハーモニカが中心であるが、3年生からは、歌唱よりもリコーダーの演奏が中心になる。高学年では、鼓笛が義務付けられる場合もある。
中学校の音楽教育では、手のひらを返したようにリコーダーは使われなくなり、歌唱が中心となる。たまに使われたとしても、アルトリコーダーである。
[編集] 関連文献
- 朝岡聡『笛の楽園 僕のリコーダー人生』東京書籍、2002年3月6日、ISBN 4487797713
- 安達弘潮『リコーダー復興史の秘密 ドイツ式リコーダー誕生の舞台裏』音楽之友社、1996年11月、ISBN 4276124611
- ジョン・トムプソン、高田さゆり訳『リコーダーの世界』全音楽譜出版社、1974年
- ハンス・マルティン・リンデ、矢沢千宜、神谷徹訳『リコーダー・ハンドブック』音楽之友社、1983年11月、ISBN 427612462X
- 藤本祐三『初心者のリコーダー入門 0からはじめる音づくり』オンキョウパブリッシュ、1999年7月、ISBN 4872257014
- エドガー・ハント、西岡信雄訳『リコーダーとその音楽』日本ショット社、1985年1月25日、ISBN 4118301008
- A. ロウランド・ジォーンズ、西岡信雄訳『リコーダーのテクニック』音楽之友社、1967年11月10日、ISBN 4276145554
[編集] 外部リンク