ローマ数字
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ローマ数字(ローマすうじ)は、数を表す記号の一種。1はI、2はII、3はIII、4はIV、5はV のように表す。なお、ローマ数字のことをギリシャ数字と呼ぶ例が多く見られるが、これは誤りである。
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[編集] 基本則
I, V, X, L, C, D, Mは、それぞれ1, 5, 10, 50, 100, 500, 1000を表す。5000や10000を示す記号もあるが、現代ではローマ数字は3999以下の数字を表すときのみ使用し、それらの記号はあまり使用されない。小文字で書く場合もある。その場合の表記はi, v, x, l, c, d, mとなる。
これ以外の数字は、文字を組み合わせて書く。この場合、大きな数字を左に書く。23はXXIIIと書き、IIIXXやXIIXIなどと書いてはいけない。原則として、記号の数字をすべて足し合わせると、それが表示している数になる。
[編集] 減算則
4や9は当初IIII、VIIIIと書いたが、のちに減算則が作られ、IVやIXと書くようになった。右の数から左の数を減じたものが、示している数字である。この減算則は、右の数が左の数のちょうど5倍または10倍のときしか使用されない。99は、XCIXと書き、ICと書くのは許されない。93はXCIIIと書く。
例: MCMXLV: 1945
ただしこの減算則は厳密なものではなく、14世紀の著名な英語の料理解説書The Forme of Curyでは、4をIIII、9をIXと書かれている。同じこの本の中で、書かれた年代が10年ほど古いだけで4をIVと書いてある箇所もある。
8は普通VIIIと書くが、IIXと書いた例も多少残っている。ローマ数字の表記法はもともとそう厳密なものではなかったらしく、1606年をMCCCCCCVIや、1495年をMCCCCLXXXXVなどと書いた例も残っている。
[編集] ローマ数字の使用
現在、ローマ数字はエリザベスII世などのように、順序や番号などを表すのに使うことが多い。イギリスBBCは、番組の製作年を表すのにローマ数字を使っている。文書の脚注の番号にも使われる。英語圏では、章内の節の番号を小文字を使って表す。iiiは3節を示す。イギリスの大学では、学年を表すのにもローマ数字を使用する。1980年代頃までは映画の著作権表示©にローマ数字が使われることが多かった。たとえば、1983年に発売されたタイトーの業務用ゲーム ELEVATOR ACTION-エレベーターアクション- の著作権表記は、"© TAITO CORP. MCMLXXXIII"と記載している。
音楽理論では、ローマ数字を、音階の中での音の位置を表すのに用いる。もっともよく用いられるのは、和音の調の中での位置を表すときである。大文字と小文字は意図的に使い分けられることがほとんどであるが、時と場合によって使い分け方は様々である。大文字の場合、横線(セリフ)で縦線をつなげる。また、Vは上部を横線でつなげる。ちょうど▽のようである。小文字の場合、横線は用いない。またiの点を打たないのが普通である。
[編集] 時計の文字盤
時計の文字盤では、伝統的に4時をIIII、9時をIXで示す。これには下記の通り、さまざまな説が唱えられているが、定説にはなっておらず、真相は不明である。
4時をIV、9をVIIIIと表示している物も存在しているため、これは絶対的な物ではない。
- ローマ神話の最高神ユピテルの綴りIVPITERの最初の2文字と重なるのを避けるため。
- ぱっと見たとき、4か6か見分けにくい
- IIIIならば、Iという刻印を4回押せば文字盤の文字が作れるが、IVだと、専用に型を1つ作る必要がある。
- 専用の文字を使うのは、ちょうど間が4時間おきになるVとXだけのほうがいい。
- IIIIにすれば、左側のVIIIと文字数がつりあい、見栄えがよい。
- 特定の有力なローマの時計製造者がIIIIと書いた時計を作ったため、他の製造者はその製造者が怒らないよう、それにならった。
- ルイ14世が、文字盤にIVで4を表すことを禁じた。
[編集] 現代の表記法
ヴィクトリア朝以降の "モダン" ローマ数字の表記は下記のとおり。
ローマ数字 | アラビア数字 | 補足 |
---|---|---|
なし | 0 | 0は使用されなかった |
I | 1 | |
II | 2 | |
III | 3 | |
IV | 4 | 時計の文字盤ではIIIIも使われる |
V | 5 | |
VI | 6 | |
VII | 7 | |
VIII | 8 | |
IX | 9 | |
X | 10 | |
XI | 11 | |
XII | 12 | |
XIII | 13 | |
XIV | 14 | |
XV | 15 | |
XIX | 19 | |
XX | 20 | |
XXX | 30 | |
XL | 40 | |
L | 50 | |
LX | 60 | |
LXX | 70 | |
LXXX | 80 | |
XC | 90 | |
C | 100 | 100ドル札を "C-bill" や "C-note" と呼ぶのはこれに由来する |
CC | 200 | |
CD | 400 | |
D | 500 | |
CM | 900 | |
M | 1000 | |
ↀ | 1000 | CとDをくっつけて書く (CIƆ)。Mのかわりに使われる。 |
MCMXLV | 1945 | |
MCMXCIX | 1999 | これ以上は省略できないことに注意。 |
MM | 2000 | |
MMM | 3000 | |
ↁ | 5000 | I、逆C、逆Cを並べて書く (IƆƆ)。 |
ↂ | 10000 | CCI、逆C、逆C (CCIƆƆ)。 |
Ↄ | 逆100 | 逆C (Ɔ)。Iと組み合わせて、巨大な数を表記するのに使用する。 |
[編集] 日本語環境のための概説
上記の表に出てくるいくつかの文字は、日本語文字セットでは環境により表示することのできない文字が含まれるので解説する。 1000は通常Mと書くが、Φとも書く。ただし、縦棒の上下は突き抜けない。英語での説明は「CとDをくっつけて書く」となる。「⊂┃⊃」を全部くっつけて書いたものと思えばよい。離して書くときもある。
5000は、「┃⊃⊃」と書き、10000は「⊂⊂┃⊃⊃」と書く。50000、100000も同様である。
[編集] 文字コード
Unicodeはローマ数字用にU+2160からU+2183までコードを割り当てている。しかし、これらを表示できるフォントは限られているため、実際にはあまり使われない。JIS X 0208 にはローマ数字は定義されていないが、これを拡張したMicrosoft漢字コードなどの文字コードにおいていわゆる機種依存文字として独自に定義されており、JIS X 0213に取り入れられた。
[編集] ローマ数字の歴史
古代ローマ人は元々農耕民族であった。羊の数を数えるのに、木の棒に刻み目を入れた。柵から1匹ずつヤギが出て行くたびに刻み目を1つずつ増やしていった。3匹目のヤギが出て行くと「III」と表し、4匹目のヤギが出て行くと、3本の刻み目の横にもう1本刻み目を増やしてIIIIとした。5匹目のヤギが出て行くと、4本目の刻み目の右に、このときだけVと刻んだ(∧と刻んだ羊飼いもいた)。このときの棒についた刻み目は「IIIIV」となる。6匹目のヤギが出て行くと、刻み目の模様は「IIIIVI」、7匹目が出て行くと「IIIIVII」となる。9匹目の次のヤギが出て行くと、IIIIVIIIIの右にXという印を刻んだ。棒の模様はIIIIVIIIIXとなる。31匹のヤギは、IIIIVIIIIXIIIIVIIIIXIIIIVIIIIXIと表す。このように刻んだのは、夕方にヤギが1匹ずつ戻ってきたときに、記号の1つ1つがヤギ1匹ずつに対応していたほうが便利だったためである。ヤギが戻ると、記号を指で端から1個1個たどっていった。最後のヤギが戻るときに、指先が最後の記号にふれていれば、ヤギは全部無事に戻ったことになる。50匹目のヤギは、N、+または⊥で表した。100匹目は*で表した。これらの記号は、ローマのそばのエトルリア人も使った。エトルリアのほうが文明が栄えていたので、そちらからローマに伝わった可能性もある。1000は、○の中に十を入れた記号で表した。
よく言われるXはVを2つ重ねて書いたもの、という説は、誤りとは言い切れないが、あまり正しくもないようである。
やがて時代が下り、羊以外のものも数えるようになると、31は単にXXXIと書かれるようになった。5はしばらくVと∧が混在して使われた。50は当初N、И、K、Ψ、などと書かれ、しばらく⊥かそれに似た模様が使われたが、アルファベットが伝わると混同してLとなった。100は*だけでなくЖ、 Hなどと書かれたが、*がしだいに離れて「>I<」や「⊃┃⊂」になり、よく使う数なので簡略化され、Cや⊃と書かれ、そのまま残った。500は、最初、1000を表す「⊂┃⊃」から左の⊂を外し、「┃⊃」と書かれた。やがて2つの記号がくっつき、Dとなった。Dの真ん中に横棒のついてDやÐとも書かれた。1000は、○に十の記号が省略されて「⊂┃⊃」となった。「∞」と書いた例もある。これが全部くっついたのが、Φに似た記号である。これが別の変形をし、上だけがくっついてmに似た形になり、アルファベットが伝わると自然とMと書かれるようにもなった。そのため、1000は未だに2つの表記法が混在している。
5000以上の数は、100と1000の字体の差から自然に決まった。ただし、「凶」を上下逆に書いた形 (X) で1000000を表したこともある。
古代ローマ共和国時代の算盤では、記号の上に横棒を引いて1000倍を表したものもある。この方法では、10000はXの上に横棒を1本引いたもので表される。100000や1000000はCやMの上に横棒を1本を引いて表した。たとえば10000は、 X となる。
例:CCX = 210000
上線をつけたものの右左に「┃」をつけて10万倍を表すこともあった。この左右の縦線は、上線とくっつけることも多い。「凶」を逆さにしたもので1000000を意味するのは、X、つまり10の10万倍という意味である。
例: ┃MDCLI┃ LXXVIII CCCXVI = 165178316
その後、他の文明との接触により、変わった表記法が現れた。1世紀、プリニウスは、著書『博物誌』で、83000をLXXXIII.Mと表記した。83、1000という書き方である。同じ文書中に、XCII.M (92000)、VM (5000) という表記もある。この乗算則はしばらく使われたらしい。1299年に作成された『王フィリップ4世の財宝帳簿』では、5316を「VmIIIcXVI」と表した。漢数字の書き方によく似ている。ただしこれらの乗算則は、現在は使われない。
ドイツ語版Wikipediaには、9054を |IX|LIV のように書いた例が載っている。
1000を超える数の表記法に混乱があるのは、一般人は巨大な数を扱う機会がなかったためと考えられる。
[編集] その他
- =ROMAN()
というものがあり、()のなかに数を入れて実行するとローマ数字に変換される。ただし()に入れる数は0~3999までに限られ、その範囲外の数ではエラー値#VALUE!が表示される。