ヴィト・ジェノヴェーゼ

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ヴィト・ジェノヴェーゼ

ヴィト・ジェノヴェーゼ（Vito Genovese, 1897年 11月2日 - 1969年 2月14日）は、アメリカ・ニューヨークのイタリア系犯罪組織マフィア(コーサ・ノストラ)の幹部の一人。

[編集] 生涯

イタリアのナポリ近郊の小さな町ロシグリーノ（Rosiglino）に生まれ、1912年に家族と共にアメリカに渡り、ニューヨークのリトル・イタリー地区に住むようになる。ジェノヴェーゼはすぐにギャングに入り犯罪の世界に足を踏み入れる。長じるとラッキー・ルチアーノらの犯罪組織の仲間となった。

1931年にジェノヴェーゼは最初の妻を結核で失う。翌1932年にアンナ・ペティーロ・ヴェルノティコという女性を好きになる。しかし、ヴェルノティコは結婚していたため、ジェノヴェーゼは結婚するために夫のジェラルド・ヴェルノティコを部下を使い殺害し、未亡人となった彼女と再婚する。彼は自分自身の欲望のためなら、手段を選ばない性格であった。

ルチアーノが五大ファミリーの一つのボスに座に着くとその副ボスとなる。

1934年に起こしたフェルナンド・ボッシォ殺人事件（この事件は1944年に本人不在のまま起訴される）の訴追から逃れるため、1937年8月22日に現金75万ドルを持ってイタリアヘ逃亡。逃亡先のイタリアで最初にムッソリーニの息子に取り入り、25万ドルをファシスト政権に献金し、ベニート・ムッソリーニ本人とも親しい仲になる。その際にファシスト党への貢献が認められて最高の栄誉の「コメンダトーレ」の称号を授与される。これを機に、生まれ故郷のナポリで幅を利かせ、大きな利益を上げる。

その後、アメリカ軍がムッソリーニ政権を倒すとすぐに立場を変え、凱旋した連合国側情報部に取り入り、アメリカ海軍司令部の公式な通訳に任命された。その通訳兼便利屋のような立場を利用してアメリカの軍需品を横流し（軍がマフィアの懐を肥やす後押しをしていた）や、大麦、オリーブオイル等の販売などでイタリア南部のブラックマーケットを支配する。しかし、ジェノヴェーゼが砂糖や小麦粉などを軍から盗み、近隣の町で売りさばいているという情報が軍情報部に入り、通訳を解任される。

その後、1944年8月27日にノーラという町でボッシォ殺人事件の調査をしていた米軍犯罪調査官オレンジ・Ｃ・ディッキーに逮捕され、1945年7月1日にアメリカ本土に連行される。その際、ジェノヴェーゼはディッキーに25万ドルの賄賂を申し出てアメリカへの連行を逃れようとするが、ディッキーに断られる。そして裁判にかけられる事になった。しかし、その頃にはボッシォ殺人事件の重要証人ピーター・ラテンパが組織の人間によって毒殺されており、証拠不十分で訴追を免れ、自由の身となり、組織に復帰することになる。

その頃ニューヨークではルチアーノは国外追放されており、一家でフランク・コステロがボス代行として実質的に仕切っていた。かつて自分がいた地位はコステロに奪われて、ジェノヴェーゼは支部長の身分に戻るのがやっとだった。ジェノヴェーゼはしばらくはコステロの下で幹部の一員となっていたが、これに不服なジェノヴェーゼは、すぐに権力奪取のための行動を開始した。麻薬ビジネスに手をつけて勢力を拡大。麻薬取引に積極的な若者を部下に選びビジネスを続けた。その中にジョゼフ・ヴァラキもいた。このころキーフォーバー委員会によって投獄されたコステロに代わり、トップの座を奪い取り、ファミリーの頂点に立つ。

さらにマフィアの全国委員会で最も有力なメンバーになろうと、すべてのファミリーの頂点に、ボスの中のボスになるのが目標だった。そのために障害だったアルバート・アナスタシアとニュージャージー州のボスでコステロの盟友のウィリー・モレッティを排除しようとしていた。モレッティを梅毒を理由（梅毒によって精神を侵されており、このままではいずれ当局に対して有害な証言をしかねない）に各有力ボスの了解を取り付けることに成功し、1951年 10月4日にモレッティは殺害された。モレッティがいなくなってからはニュージャージーにも勢力を拡大した。

その結果、有力な後ろ盾を失ったコステロは、対策として親しいアルバート・アナスタシアをマンガーノ一家のボスの地位につけた。その後ボスたちを集めて、刑務所から出てきたコステロはもはや委員会の一員ではい引退した、と宣言する。ジェノヴェーゼはルッケーゼ一家のボスのトーマス・ルッケーゼと組んでコステロに対抗し、ついに1957年、部下のヴィンセント・ジガンテを使ってコステロを狙撃させた。コステロは運良く一命を取り留めたが、これを機に引退を宣言した。アナスタシアは報復を誓ったが、その一家の幹部のカルロ・ガンビーノがジェノヴェーゼ、ルッケーゼの支援を受けてアナスタシアの暗殺を手配し成功した。さらにコステロやルチアーノとも近い関係のフランク・スカーリスも暗殺する。こうしてジェノヴェーゼはライバルを組織からはずしていった。

ジェノヴェーゼはいまやニューヨーク最強のボスとなったが、その栄華は長くは続かなかった。1957年 11月14日、自ら主催した全国のマフィアのボスによるアパラチン会議で体制の変化と、そして自らが「ボスの中のボス」であると宣言するための会議を開くが、警察の捜査が入り多くのボスが逮捕されるという大失態を犯し、これによりジェノヴェーゼの権威も損なわれた。1958年7月に開かれた聴聞会に召還された。きわめて重要な証人としてそこでのやり取りで、威信を大きく傷つけられた。

1959年にはジェノヴェーゼ自身もルチアーノ、コステロ、ランスキー、ガンビーノらの共同の陰謀によって麻薬取引の罪で収監されるに至った。15年の禁固刑を受けてアトランタの連邦刑務所に入れられた。だが、刑務所の中からもファミリーを支配し続けた。自分のファミリーのグループ・キャプテンをしているアンソニー・"トニー・ベンダー"・ストロッロが怪しいと疑うベンダーがファミリーに上納するはずの儲けを着服しているという自分の考えを徐々に他のものに知らしめた。ベンダーは1962年に妻に散歩に出かけると言って行方不明になった。

その後、ベンダーとつるんでいたという理由からヴァラキがタレこんだのではないかと疑う。刑務所内で部下のヴァラキが裏切ったと錯覚したジェノヴェーゼはヴァラキの殺害命令を出したが、それに気付いたヴァラキは身の安全のため当局の証人となることを選んだ。その後はヴァラキの告発・証言もあり、1969年に亡くなるまで刑務所を出ることはなかったが、幹部のトーマス・"トミー・ライアン"・エボリらを通じて最後まで塀の中から一家を支配し続けた。このアトランタ刑務所内で脱税で投獄されたコステロと再会する。ここではお互いに服役中の身とあってか争い事はなかったという。1956年にヴァラキが捕まったときに、逮捕されたときから政府に協力していたと主張していた。ちなみにジェノヴェーゼは死ぬまでコステロたちの陰謀で自分が刑務所に入れられたことを知らなかった言われている。

1969年、収監先のミズーリ州スプリングフィールドの刑務所からニューヨークの病院へ移送されたジェノヴェーゼは、末期がんによる心臓発作により死亡し、サルヴァトーレ・マランツァーノとルチアーノが眠るニューヨーク・クイーンズ区のセント・ジョーンズ墓地へ埋葬された。