八木・宇田アンテナ
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八木・宇田アンテナ(やぎ・うだアンテナ)は、八木秀次、宇田新太郎によって開発されたアンテナの一種である。一般には八木アンテナという名称で知られている。
主に、テレビ放送、FM放送の受信用やアマチュア無線、業務無線の基地局用などに利用される。
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[編集] 概要
一番後に反射器、その前に輻射器(給電する部品)、その前に導波器を並べた構造になっている。(図を参照)
導波器は棒状で輻射器よりも短く、反射器は同形状で輻射器よりも長い。このアンテナは指向性があり、その方向は反射器から導波器の方向になる。
今日のVHF帯以上の実用的な構成としては、反射器は通常1素子を、導波器は複数を用いて指向性を鋭く、アンテナの利得を高くするようにしている。輻射器としては半波長ダイポールアンテナまたは折返しダイポールアンテナが用いられる。垂直偏波の場合は、スリーブアンテナやブラウンアンテナが用いられることもある。
電波を受信する際、素子数が少ないほど利得が小さく近距離受信に向いており、逆に多いほど利得が大きく遠距離受信に向いている。一般的に放送区域内のUHFテレビ放送受信には中距離受信用(14〜20素子程度が多い、電界強度が非常に強い場合はそれより少ない素子数のものを用いる)のアンテナをアナログ放送は地上4メートル程度の高さ、デジタル放送は地上10メートル程度の高さで受信、放送区域外の場合は遠距離受信用(20~30素子程度、場合によってはパラスタックアンテナ)のアンテナで受信する。
ただし、素子を増やせば増やすほど素子1本追加する毎の利得の伸びは小さくなり、その反面、形状が非常に大きくなり設置が困難となるため、一般に市販されているテレビ放送受信用の場合VHFで12素子、UHFで30素子、FM放送受信用の場合10素子を越えるアンテナは存在しない。
主に放送受信用として利用されている各周波数帯用のアンテナの種類は、FM放送用(76~90MHz)・VHFローチャンネル(1~3ch)用・VHFハイチャンネル用(4~12ch)・VHFマルチチャンネル用(VHF全1~12ch)・UHFローチャンネル用(主に13~28ch)・UHFハイチャンネル用(主に25~62ch)・UHFマルチチャンネル用(UHF全13~62ch)などがある。
送信アンテナから近く、十分に電界強度がある地域でも、素子数の多いアンテナを使う方がよいことがある。ビル街や地形などによりマルチパスが生じている場合である。素子数が多いアンテナは指向性が鋭いので、マルチパスの影響を受けにくくなるからである。指向性を鋭くするには、素子数の多いアンテナを使う以外に、スタックを組む方法もある。水平面の指向性を鋭くするには水平スタック(パラレルとも言う)を組み、垂直面の指向性を鋭くするには垂直スタックを組む。
[編集] 歴史
八木秀次は当時東北帝国大学の教授で、このアンテナの基本となる原理を発見した。しかし、八木自身はその応用にはあまり興味がなかったので、当時八木研究室にいた講師の宇田新太郎に実用化のための研究をさせ、1928年に八木・宇田の連名で論文が出された。しかし、特許が八木の単独名で国内外に出されため、日本国外の人々が“Yagi antenna”と呼ぶようになり、日本でもそれに従って八木アンテナと呼ぶようになった。後年、事情を知る人達が「八木・宇田アンテナ」と呼ぶべきと主張し、最近の学術書などでは八木・宇田アンテナと記述されている。
八木・宇田アンテナは日本の学会や軍部ではほとんど注目されなかった。しかし、欧米の学会、そして軍部がこれに注目し、その技術を応用してレーダーを開発した。1942年、日本軍がイギリスの植民地だったシンガポールを占領したとき、見たこともないアンテナ装置を発見し、捕虜のイギリス兵が持っていた技術書の中に“Yagi”という文字を見つけ、大変驚嘆したと言われている。2006年現在においてもこれほど汎用性が高く、抜群の精度を誇るアンテナは開発されていないといわれる。
なお、この発明はIEEEマイルストーンに電気技術史に残るものとして認定されている。
[編集] 無線のエネルギー伝達
八木秀次は1926年2月に、このアンテナで無線のエネルギー伝達を試みた。八木と宇田は、波のプロジェクター指向性アンテナ(Wave Projector Directional Antenna)に関する最初の報告書を公表した。八木は、何とか概念の証拠を実証したが、技術的問題として従来の技術よりも、より煩わしいことが判明した。
[編集] 関連項目
- 八木アンテナ (企業) - 八木秀次を創業者として1952年に創業されたアンテナメーカー。
- レーダー