共食い
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共食い(ともぐい)とは、動物においてある個体が同種の他個体を食べる事である。この現象に準えて、同業者同士で利益を得ようとして共倒れすることも共食いと呼ばれる。
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[編集] 概論
動物学における共食いは広く見られる現象であり、1500種を超える動物種で記録されている。一般には異常な現象と考えられがちであるが、必ずしもそうではない。逆に、動物なら個体間で殺し合うのが当たり前、と言う見方もあるが、これも当たらない。ただし、一般に喰う喰われるの関係は異種間で成立するものである。同種個体間で無制限に共食いが行なわれる状況があれば、個体群が成立しなくなる可能性があり、そのような行動は避けるように進化が進むと考えるべきである。したがって、それでもみられる共食い行動は、それなりに独特の意味を持っているものと考えられる。
以前まで信じられていたのとは異なり、共食いは単なる極限の食料不足や人工的な状況の結果ではなく、様々な種の中で自然な状況で起こり得る。実際に科学者達はこれが自然界に遍在していることを認めた。水中の生態系では特に共食いは一般的であるとみられる。最大9割もの生物がライフサイクルの何処かで共食いに関与しているとみられる。共食いは肉食動物に限らず、草食やデトリタス食であっても普通にみられる。
共食いには偶発的なものと、ある程度以上、習性として固定されたものがある。
[編集] 偶発的なもの
魚には口を開けて水を飲み込み、鰓でこし取って餌を採る濾過摂食という方法を採るものがある。もしも口の中に、その魚のごく小さな稚魚が入ったとすれば、これは選り分けられることなく飲み込まれるであろう。この場合、同種個体を選んだわけではなく、たまたま入ってしまっただけの、偶発的現象であって、そこに何らかの意味を見いだすことは難しい。
飼育容器内でキンギョを産卵させる場合、産卵の終わった親魚をそのままにしておくと、大抵卵が親に食べられてしまう。運良く孵化できた稚魚も、成長するまでに大部分が親に食べられてしまう。卵や稚魚を親が食べてしまう事は、メダカやグッピーなど多くの種類の魚に見られる。このようなことは、固体の密度の低い自然界ではあまり見られず、とじ込められたことに起因する現象と考えるべきである。ただし、これにも子供を殺してでも親が危険を避けることができれば、新たに子を作る可能性がある、というような適応度に換算できるような利点があり、適応的な行動であると見る向きもある。
同様に、親が子を食べるのはネズミやウサギなどでも知られているが、この場合、飼育下で飼い主が干渉しすぎた場合など、精神的なストレスの存在が想像される。
ただし、一見はこのような現象に見えても、実際には後に述べる例とみなすべき場合もある。たとえばサンショウウオの卵を水槽で孵化させた場合、幼生同士で激しい共食いが見られるが、これはおそらく野外でも見られる現象であろう。
[編集] 習性となっているもの
[編集] 配偶行動に関するもの
セアカゴケグモ、クロゴケグモ、カマキリ、サソリなどでは性的な共食いが見られる。一連の配偶行動の中で、これらの雌は交尾を終えると時々雄を食べる場合がある。特にカマキリのそれは有名であるが、野外では大半の雄が無事に逃げるとも言われる。ただ、実際に喰われる例も確かにあり、その場合、雄のカマキリは頭を喰われても交尾を継続できる。つまり喰われる事を前提にしている節がある。
[編集] 繁殖に関するもの
カバキコマチグモは、幼虫が孵化するまで雌親が側にいるが、幼虫が孵化すると、雌親の体に群がって食べてしまう。また、一部のクモでは、卵のう内に一定数の未受精卵が含まれ、これが孵化した幼虫の餌となる事が知られている。
[編集] 成長段階に見られるもの
それよりもよくあるのがサイズ構造化された共食いである。すなわち大きな個体が小さな同種を食べるのである。この様な場合の共食いは全体の死亡率の8%(ベルディングジリス)から95%(トンボの幼虫)になるため、個体数へ大きな影響を与える要素となる。このサイズ構造化された共食いは野生の状態では様々な分類群でみられる。それにはタコ、コウモリ、カエル、魚類、オオトカゲ、サンショウウオ、ワニ、クモ、甲殻類、鳥類(フクロウ)、哺乳類、そしてトンボ、ゲンゴロウ、マツモムシ、アメンボ、コクヌストモドキ、トビケラといった多数の昆虫が含まれる。
[編集] 似通った行動
他の共食いの形に子殺しがある。お馴染みの例としてチンパンジーでは雄の成獣グループが同種の幼獣を攻撃して食べてしまう。また、ライオンでは雄の成獣が新しくハーレムを支配するときに子供を殺すのが普通である。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- Carl Zimmer. "This Can't Be Love: The Curious Case of Sexual Cannibalism", New York Times, September 5, 2006. Retrieved on 2006-09-05.