コウモリ
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コウモリ(飛鼠、蝙蝠)
- 哺乳動物の一種。→このページで述べる。
- 洋傘。「蝙蝠傘(こうもりがさ)」の略。動物のコウモリに似ることから言う。
- どっちつかずな者や、情勢を見て優勢な側につこうとする者を揶揄する語。イソップ寓話から。
- ヨハン・シュトラウス2世の喜歌劇。ひらがなで「こうもり」と書くのが通常。→こうもり (オペレッタ)。
コウモリ目 Chiroptera |
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コウモリ(飛鼠、蝙蝠)は、脊椎動物亜門 哺乳綱 コウモリ目に属する動物の総称である。コウモリ目は翼手目(よくしゅもく)ともいう。約980種が報告されているが、その種数は哺乳類全体の4分の1近くを占め、ネズミ目(齧歯類)に次いで大きなグループとなっている。極地やツンドラ、高山、一部の大洋上の島々を除く世界中の地域に生息している。
目次 |
[編集] 分類と特徴
コウモリ目の特徴は、翼をもち、飛行できることである。多くの鳥類と同様、はばたくことにより飛行するが、鳥類の翼と異なり、コウモリの翼は飛膜と呼ばれる伸縮性のある膜でできている。 コウモリの前足は、親指が普通の指の形で鉤爪あることをのぞけば、すべて細長く伸びている。飛膜はその人差し指以降の指の間から、後ろ足の足首までを結んでいる。腕と指を伸ばせば翼となって広がり、腕と指を曲げればこれを折りたたむことができる。さらに後ろ足と尾の間にも飛膜を持つものも多い。
また、鳥と異なり、後ろ足は弱く、立つことができない。休息時は後ろ足でぶら下がる。前足の親指は爪があって、排泄時など、この指でぶら下がることもできる。また、場合によってはこの指と後ろ足で這い回ることができる。
一般にコウモリといえば吸血鬼につながるイメージがあるが、実際には他の動物の血を吸う種はごくわずかであり、たいていは植物や虫を食べる。
コウモリ目は、オオコウモリ亜目(大翼手亜目)とコウモリ亜目(小翼手亜目)の2亜目に分類される。
オオコウモリ亜目はその名のとおり大型のコウモリの仲間で、オオコウモリ科の1科のみが属する。中には翼を広げた幅が2mに達する種もある。よく発達した視覚によって、植物性の食物を探す。果実を好み、農業従事者からは害獣として扱われる場合がある。
コウモリ亜目は小型のコウモリの仲間で、17科が属し、多くの種に分かれている。多くが食虫性であるが、植物食、肉食、血液食など、さまざまな食性の種がいる。コウモリ亜目の特徴は、エコーロケーション(エコロケーション、反響定位)をすることである。超音波を発し、その反響を検知することで、飛行中に障害物を避けたり、獲物である昆虫等を見つけたりすることができる。
熱帯においては、花の蜜や花粉を食べる種があるため、それに対する適応として、花粉の媒介をコウモリに期待する、コウモリ媒の花がある。
オオコウモリ亜目とコウモリ亜目には、翼をもつという共通点があるが、それを除けばあまりにも多くの違いがあるため、別々の祖先から進化し、独立に飛行能力を獲得したのではないかという説もあった。しかし、最近のミトコンドリアDNA配列の解析により、大翼手亜目と小翼手亜目は系統的にも近縁であることが明らかになっており、どちらも飛行能力を初めて獲得した共通の祖先から進化したものと考えられている。
- オオコウモリ亜目(大翼手亜目) Megachiroptera
- オオコウモリ科 Pteropodidae
- グアムオオコウモリ(絶滅)
- オオコウモリ科 Pteropodidae
- コウモリ亜目(小翼手亜目) Microchiroptera
- オナガコウモリ科
- サシオコウモリ科
- ブタバナコウモリ科
- ミゾコウモリ科
- アラコウモリ科
- キクガシラコウモリ科
- カグラコウモリ科
- ウオクイコウモリ科
- クチビルコウモリ科
- チスイコウモリ科
- ヘラコウモリ科
- アシナガコウモリ科
- ツメナシコウモリ科
- スイツキコウモリ科
- サラモチコウモリ科
- ヒナコウモリ科
- ツギホコウモリ科
- オヒキコウモリ科
[編集] 日本のコウモリ事情
日本では、移入種を除く約100種の哺乳類のうち、約3分の1に当たる35種(種数は分類説により若干変動する)をコウモリ類が占めており、約4分の1に当たるネズミ目(齧歯類)24種を抑えて、最多の種数を擁している。また、近年は琉球列島の島々に固有種が発見されている。
このうち、オオコウモリ類は熱帯性で、日本では小笠原諸島と琉球列島にのみ分布する。
ただし、個々の種についてみれば、個体数が少ないと判定されているものもあり、多くの種がレッドデータブック(環境省版)入りとなっている。これには、日本ではコウモリの研究者が少なく、生息調査も散発的であるという事情もあるが、実際に絶滅の危険がある状態にあると考えられているものも多い。特に、森林性のコウモリについては、その生活の場である自然の広葉樹林と、それ以上に、住みかとなる樹洞ができるような巨木が極めて減少しており、棲息環境そのものが破壊されていることが、大きな問題となっている。コウモリ用の巣箱などが工夫されているが、普及していない。
洞穴に生活するものは、集団越冬の場所などが天然記念物となっている場所もある。いずれにせよ、彼らの生活そのものも、未だに謎が多い。ユビナガコウモリなど、集団繁殖する種もある。これらのものでは、季節的に大きな移動を行っている可能性が高いが、具体的な習性については、現在研究が進められつつある段階である。
- オオコウモリ亜目(大翼手亜目) |Megachiroptera
- オオコウモリ科 Pteropodidae
- オオコウモリ属 Pteropus
- クビワオオコウモリ P. dasymallus
- オキナワオオコウモリ P. loochoensis 【絶滅(環境省レッドリスト)(EX)/固有種】 19世紀に3~4頭の採取記録。
- オガサワラオオコウモリ P. pselaphon
- オオコウモリ属 Pteropus
- オオコウモリ科 Pteropodidae
- コウモリ亜目(小翼手亜目) Microchiroptera
- キクガシラコウモリ科 Rhinolophidae
- キクガシラコウモリ属 Rhinolophus
- キクガシラコウモリ R. ferrumequinum 日本に分布するものをニホンキクガシラコウモリ R. f. nippon という亜種とする場合もある。
- コキクガシラコウモリ R. cornutus
- ニホンコキクガシラコウモリ R. c. cornutus
- オリイコキクガシラコウモリ R. c. orii 【絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)(VU)】
- オキナワコキクガシラコウモリ R. pumilus or R. p. pumilus 【固有種】
- ヤエヤマコキクガシラコウモリ R. perditus 【固有種】 石垣島・西表島。
- キクガシラコウモリ属 Rhinolophus
- キクガシラコウモリ科 Rhinolophidae
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- ヒナコウモリ科 Vespertilionidae
- ホオヒゲコウモリ属 Myotis
- クロアカコウモリ M. formosus
- ツシマクロアカコウモリ M. f. tsuensis 【情報不足(DD)(環境省レッドリスト) (DD)/固有種】
- モモジロコウモリ M. macrodactylus
- ドーベントンコウモリ M. daubentonii
- ウスリドーベントンコウモリ(ウスリードーベントンホオヒゲコウモリ) M. d. ussuriensis 【絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)(VU)】
- ホオヒゲコウモリ M.mystacinus or M. gracilis
- ウスリホオヒゲコウモリ(ウスリーホオヒゲコウモリ) M. m. gracilis or M. gracilis 【絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)(VU)】
- クロホオヒゲコウモリ M. pruinosus 【絶滅危惧IB類(EN)(環境省レッドリスト)(EN)/固有種】
- ヒメホオヒゲコウモリ M. ikonnikovi
- カグヤコウモリ M. frater
- カグヤコウモリ M. f. kaguyae 【絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)(VU)/固有種】
- ノレンコウモリ M. nattereri
- ホンドノレンコウモリ(ニホンノレンコウモリ) M. n. bombinus 【絶滅危惧IB類(EN)(環境省レッドリスト)(EN)】
- ヤンバルホオヒゲコウモリ M. yanbarensis 【絶滅危惧IA類(CR)(環境省レッドリスト)(CR)/固有種】 1997年発見、1998年新種認定。
- クロアカコウモリ M. formosus
- アブラコウモリ属 Pipistrellus
- クビワコウモリ属 Eptesicus
- ヤマコウモリ属 Nyctalus
- ヒナコウモリ属 Vespertilio
- チチブコウモリ属 Barbastella
- チチブコウモリ B. leucomelas
- チチブコウモリ B. l. darjilingensis 【絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)(VU)】
- チチブコウモリ B. leucomelas
- ウサギコウモリ属 Plecotus
- ウサギコウモリ P. auritus
- ニホンウサギコウモリ P. a. sacrimontis 【絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)(VU)/固有種】 亜種として分けず、ウサギコウモリに含める場合もある。
- ウサギコウモリ P. auritus
- ユビナガコウモリ属 Miniopterus
- テングコウモリ属 Murina
- テングコウモリ M. leucogaster
- ニホンテングコウモリ M. l. hilgendorti 【絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)(VU)】
- リュウキュウテングコウモリ M. rykyuana 【絶滅危惧IB類(EN)(環境省レッドリスト)(EN)】 1997年発見、1998年新種認定。
- コテングコウモリ M. ussuriensis
- ニホンコテングコウモリ M. u. silvatica 【絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)(VU)】
- クチバテングコウモリ M. tenebrosa 【情報不足(DD)(環境省レッドリスト) (DD)/固有種】 1962年に対馬で発見、1970年新種記載。標本は1点のみ。
- テングコウモリ M. leucogaster
- ホオヒゲコウモリ属 Myotis
- ヒナコウモリ科 Vespertilionidae
[編集] その他
古代ローマの博物学者であるプリニウスは、コウモリのことを「翼をもったネズミ」と呼び、鳥の一種に分類していた。
平安時代の『本草和名』では、コウモリのことを「加波保利(かはほり)」として紹介している。現在の「こうもり」という名は、この「かはほり(かわほり)」から転化したものである。江戸時代、小野蘭山の『本草綱目啓蒙』では、「かはほり」はムササビと共に鳥類に分類されている。
コウモリ(蝙蝠)の「蝠」の字が「福」に通ずることから、縁起物とされる。特に中国では、百年以上生きたネズミがコウモリになるという伝説もあり、長寿のシンボルとされている。
四国を統一した土佐の大名、「土佐の出来人」長宗我部元親は、自ら「第六天魔王」と称した織田信長に、「鳥無き島の蝙蝠」(無鳥島の蝙蝠・ムチョウトウノヘンプク)と言われた。
[編集] コウモリをモチーフとするキャラクター
- 「バットマン」
- 「黄金バット」の黄金のコウモリ
- 「ガメラ」シリーズに登場するギャオス。
- 「ゴールデンバット」のパッケージデザイン
- 「トランスフォーマーシリーズ」のラットバット
- 「仮面ライダーシリーズ」の全てのコウモリ系怪人
- 「仮面ライダー龍騎」の仮面ライダーナイト
- 「読売新聞」のTVCMにも、愛らしく描かれたコウモリの家族が登場している。
- 「ロックマン7」のボスキャラの一人、シェードマン。
- 「ロックマンX5」のボスキャラの一人、ダーク・ネクロバット。
- 「陰陽大戦記」の大火族のムミョウ。
- 「みえるひと」のパラノイドサーカスの一人(一匹?)、コクテン。
- 「ポケットモンスターシリーズ」のズバット、ゴルバット、クロバット
- 航空自衛隊「飛行警戒監視隊」の部隊マーク
- 神羅万象チョコ第1章の漆黒のシェイド
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- コウモリの会 編『コウモリ識別ハンドブック』文一総合出版、2005.8.