医師国家試験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
医師国家試験(いしこっかしけん)とは、医師国家資格のための試験。
医師法第9条に基づいて行われ、その規定は同じく医師法第9~16条に定められている。
目次 |
[編集] 沿革
- 昭和21年医師実地修練制度に基づき、第一回医師国家試験が行われる。
- 昭和60年まで春・秋年二回行われていたが春に年一回となる。
- 平成5年より出題科目指定がなくなり、出題科目を全科とした総合問題形式となる。
- 平成13年より出題数が530問9ブロック(うち30問は試行問題)になり、試験日程が3日間となる。
- 平成16年までは毎年3月に行っていたが、平成17年より臨床研修義務化に伴い2月に行われる。
- 平成19年試行問題がなくなり、出題数が500問、8ブロックの出題となる。
また平成13年~17年までの問題、解答は非公表であったが、平成17年11月11日に厚生労働省Web上にて公表となった
[編集] 受験資格
医師法第11、12条の規定に基づく。
- 学校教育法に基づく大学において、医学の正規の課程を修めて卒業した者。
- 防衛医科大学校卒業生(防衛庁設置法第19条)。
- 医師国家試験予備試験に合格した者で、合格した後1年以上の診療及び公衆衛生に関する実地修練を経た者。
- 外国の医学校を卒業し、又は外国で医師免許を得た者であって、厚生労働大臣が上記の二つと同等以上の学力及び技能を有し、かつ、適当と認定した者。
- 沖縄の復帰に伴う厚生省関係法令の適用の特別措置等に関する政令第17条第1項の規定により、沖縄復帰前に琉球政府の医師法(1955年立法第74号)の規定による医師免許を受けたものとみなされる者であって、厚生労働大臣が認定した者。
[編集] 試験内容
厚生労働省より示される試験内容は以下の通り。
[編集] 出題基準
司法試験のように出題科目が限定されているのではなく、基礎医学・臨床医学・社会医学などすべての医学関連科目が出題範囲である。また、科目ごとの試験ではなく、すべての科目を取り混ぜた総合問題形式である。それぞれの専門分野から選出された医師国家試験委員によって、考案され、出題される。
医師として知っておくべき内容を出題するとして、4年に1度「医師国家試験出題基準」が出され、そこに挙がっている項目、疾患、症候等を基本として出題される。しかし、全科に渡って膨大な項目数であり、試験委員の意向によってはかなりの奇問も出題され、専門の医師ですら解答に困難な問題も少なくない。
世間では「医師なら誰でも解ける内容」と誤解されがちだが、医学関連の全分野から出題され、また、それぞれの専門分野における最新の知見に基づいて出題されるため、出題範囲は極めて広く、専門分野以外の問題については、主要領域等を除いて、ベテランの医師ほど解答に苦慮するとさえ言える。
諸外国の医師国家試験は、医学生~専門医まで何段階かの試験段階制度を施行しているものが多く、徐々に専門領域の試験となっていくものが多いが、日本の場合、国家資格としての試験は「医師国家試験」1回であり(国家試験ではないが共用試験が医学生の時の最初の関門になる)、また日本の「医師」という国家資格は名目上、歯科を除くすべての「診療科」を扱うことが出来る資格であるため、1回の「医師国家試験」で問われる領域は限りなく広くなり、個々の問題の難易よりも、出題範囲の広さから、世界的に見ても難度の高い試験となっている。
[編集] 試験構成
現在、試験は3日間、A~Hまでの8セクション、計500題のMCQ問題でとなっている。(第100回まではA~Iまでの9セクション、採点除外となる試行問題を含む)それぞれ一般問題1点、臨床実地問題3点で計算される。また2もしくは3問以上間違うとそれだけで不合格となる禁忌肢問題が含まれている。
- 必修の基本的事項・一般問題
- 必修の基本的事項・臨床実地問題
- 医学総論・一般問題
- 医学各論・一般問題
- 医学総論・臨床実地問題
- 医学総論・臨床実地問題(長文)
- 医学各論・臨床実地問題
- 医学各論・臨床実地問題
- 試行問題(一般問題・臨床実地問題のいずれかが出題されていたが、現在は廃止)
国家試験対策のテキストなどでは、「一般総論」や「必修臨床」などと略して表記することが一般的である。
[編集] 合格基準
以下をすべて満たした者を合格とする。(合格発表後に掲示され、試験前には一切明示されない)
- 必修問題は8割以上の得点。
- 一般問題は概ね7割以上の得点。
- 臨床実地問題は概ね7割以上の得点。
- 禁忌肢問題の選択が1問以下。
※必修問題については、「8割以上の得点」という厳しい基準であるにもかかわらず、近年受験者の多くが間違うような難問、奇問が多く、厳格に採点するとそれだけで合格者が激減してしまうため、得点率の低かった問題に関して「削除問題」という扱いを行い合格者の人数調整を行っているとされている。しかし、わずか1問の差で合否が大きく分かれるセクションである為、削除される問題によって受験者間の不公平が生じているという疑問も強く出ている。
※一般問題および臨床実地問題について「概ね」としているのは毎年受験者の得点状況を考慮して、高い得点状況の場合は合格基準を引き上げるなどして、合格者の人数を調整しているとされ、実質的な「選抜試験」であるためである。なお、合格基準が「6割以下」に引き下げられたことはない。また具体的に「何点以上を合格とする」というのは、合格発表後にしか掲示されない。これは合格基準ラインを調整するためである。
[編集] 合格率
近年、全体の合格率は8割強で移行している。しかしこれは厳格には合格基準を調整していることで合格者数が調整されていると考える見方も多い。また、各大学とも合格率を上げるために、大学間格差はあるが、厳しい進級試験・卒業試験を課している。よって6年間で進級し卒業、合格までストレートに行く確率は6割から7割程度と言われている。
いわゆる「合格率が高い大学」というものには本当に優秀な大学も含まれるが、中には合格率を上げるために卒業試験である程度卒業生を絞る大学も存在する。つまり卒業試験の結果を鑑み、到底国家試験に合格しないであろう学生を卒業させないことで、見かけ上の合格率を上げようとする大学も少なくない。これは国家試験合格率が私立大学助成金の額に影響するから、ともいわれている。