医療事故
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- 医療事故(いりょうじこ、Medical accident)とは、医療において生じた事故すべての事象。
- 医療過誤(いりょうかご、Medical malpractice)、医療ミスとは、主に医療従事者側等の人的または物的な過失のこと。またはそれら過失によって患者側に生じた人身事故のこと。過失の法的構成要件が揃っている必要がある。
医療事故(いりょうじこ、英 Medical accident)とは、医療において生じた事故すべての事象。これは医療過誤によるもののみでなく、予測不能や回避不可能であったことなど患者、医療従事者すべてを含めた人身事故のこと。予期しない悪い結果の総称である。医療過誤がなくとも近年の患者の権利意識の向上により、医療訴訟に発展することが近年多い。また、結果的に医療事故に至らなかったものを「ヒヤリ・ハット」(英語ではMedical incident)という。
医療事故の報道件数が増加する中で、報道された情報のみでは過誤の有無が判断できない事例までも、マスコミ等で「医療ミス(もしくは医療過誤)」と断定して報道される場合があり、医療従事者から批判されている。
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[編集] 原因
医療事故の原因は大きく以下の二つに分けることが出来る。
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- 医療過誤によるもの
- 医療過誤以外のもの
[編集] 医療過誤(Medical malpractice)
医療の過程において十分な注意を怠った、または必要とされるべき十分な措置を行わなかったことで、死傷などを含め、患者側に身体的または心的損害が生じたこと。
- 例:抗癌剤の投与量の確認を怠って処方したことで、結果患者が死に至った。(埼玉医大事件)
- ※裁判によって医療過誤と認定され確定した事象について記述。
なお、誤診や予期しない容態の変化・死亡などがあっても、その原因が人的エラー以外のものであれば、医療過誤ではない。
- 臨床診断は診察と検査で得られた、身体についての限られた情報を元にくだされる。そのため誤診は医学の限界といった性質を持つものである。ここで、当然なされるべき検査が施行されなかった場合、当然読み取られるべき所見が無視されていた場合などに過誤と言える余地が出てくる。
- 検査や治療に伴って合併症が発生し、患者の容態が急変することがあり得る。侵襲を伴うこれらの医療行為で身体への害をまったく無くすことは事実上困難であり、結果の完全な予測もまた難しい。
[編集] 医療過誤以外
医療過誤以外においての医療事故は以下の通りである。
- 例1:患者が廊下を歩行中に転倒し怪我をした。
- 市中においては当人の自己責任とされる事でも病院内においては医療者が患者の安全を確保しなければならない[1]。それと引き換えに、患者は医療者の指示を厳守する義務を負う。
- 例2:看護婦が自分の手に針刺し事故を生じた。
- B型肝炎などのように、医療者にとって命にかかわる場合も存在する(あるいはHIVを例に出したほうが分かりやすいかも知れない)。また、特に女性看護師はストーカー行為やセクハラ行為、患者による暴力行為の危険にも晒されており、このような事案のどこまでを医療事故とするかの線引きは難しい。
[編集] ヒヤリ・ハット
人的なエラーが発生したものの結果として不利益は生じなかった(医療事故には至らなかった)という状況も考え得る。このような事象はニアミス、とくに看護学においてはヒヤリ・ハットと呼ばれる。ハインリッヒの法則によればひとつの重大事故の陰に30倍の軽度事故と300倍のニアミスが存在するとされるため、このヒヤリ・ハット事例の収集と分析が医療事故の予防において重要視されている。しかし、膨大なレポートをもとに事故原因を解析し、それを現場にフィードバックすることは、単一の医療機関には困難であり、単純な報告制度に形骸化していることが多い。 近年医療事故が社会問題に発展する中、「ヒヤリ・ハット」をマスコミ等で「医療ミス」と表現する場合があるが、これは完全な誤用であり、医療従事者から批判されている。
[編集] 米国における大規模調査
米国においては、これまで医療事故による死亡率が正しく議論されてこなかったという批判を受け、医療事故による死亡が(最も多く見積もれば)米国の死因の一位になってしまうという衝撃的な試算と共に、個人の断罪に終わることなく再発防止を主眼に置いたシステムを構築するよう提言が出されている[2]。
[編集] 日本における大規模調査
こうした米国の動きおよび下記のような事案がマスコミを賑わした事を受け、日本でも2001年度より厚生労働省が全国の病院から医療事故の情報を収集している[3]。しかし事案の提出は病院ごとの任意であり強制ではない。
[編集] 主な医療事故
ローマ法以来、医師が診療中に起こした死亡事故に関しては、医療事故であるとする明確な立証が無い限り、その責任は追及されるべきではないという考えがあったからだと言われている[要出典]。これは人間は医師が出来る限りの治療を施したとしても、いつかは必ず死を迎えるものであり、適切な治療を施してもなお死に至った場合であっても遺族が死亡原因を医師に求めてその責任を追及した場合には、医師が萎縮をしてしまい適切な治療行為が行えなくなる事を危惧したためであるとされている。
日本において社会問題として注目されるようになったきっかけは1999年1月に横浜市立大学付属病院で起こった事故である。
この事故は手術を待っていた患者を取り違え、心臓の手術を受けるべき患者に肺の手術、肺の手術を受けるべき患者に心臓の手術を行ったというものである。誤って手術を受けた患者は2人とも同年内に死亡したが、死因は手術と関係が無いと発表されている。
さらに同年2月、渋谷区の東京都立広尾病院で起こった事故が拍車をかけた。この事故は看護師がヘパリン入り生理食塩水と間違えて消毒薬を点滴したというものであり、患者は点滴後2時間弱で死亡した。事故そのものの重大さもさることながら、病院幹部と東京都の職員が共謀して事故を隠蔽しようとしたため、東京都知事が記者会見で遺族に謝罪するという大事に至った。
以後、重要な医療事故は広く報道されるようになった。各地の病院はこれらの事故を教訓として、事故防止のためのマニュアルを充実させるなどの対策に力を入れた。
[編集] 救済制度
医薬品を適正に使用したにもかかわらず、その副作用により一定の健康被害を受けた場合に医療費等の給付を支給する医薬品副作用被害救済制度がある。
日本医師会は無過失補償制度の創設を提唱している[4]。手始めとして最も医療訴訟の危険が高い分娩の中で、最も医療資源が投入される脳性麻痺への補償が提唱されたが、試算によれば医師の払う保険料は一分娩あたり2万円となり、早くも現場の医師の間では疑問が呈されている[5][6]。
[編集] 註
- ^ Ganz DA, Bao Y, Shekelle PG, Rubenstein LZ. "Will my patient fall?" JAMA. 2007 Jan 3;297(1):77-86. PMID 17200478
- ^ 米国医療の質委員会 『人は誰でも間違える―より安全な医療システムを目指して』ISBN 4-535-98175-2
- ^ 厚生労働省:医療事故情報収集等事業
- ^ 日医が「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化に関するプロジェクト委員会を設置 - 日本医師会
- ^ ある産婦人科医のひとりごと: 「無過失補償制度」の産科医療への導入について
- ^ いなか小児科医: 無過失補償制度
[編集] 関連項目
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