有機金属気相成長法
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有機金属気相成長法(ゆうききんぞくきそうせいちょうほう、MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)は、原料として有機金属やガスを用いた結晶成長装置である。MOVPE (Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy) とも言う。
化合物半導体結晶を作製するのに用いられ、MOCVDでは原子層オーダで膜厚を制御する事ができるため、半導体レーザを初めとするナノテクノロジーといった数nmの設計が必要な分野で用いられる。代表的な半導体結晶成長装置である分子線エピタキシー法 (MBE) と比較し、面内での膜厚の偏差が少なく、高速成長が可能であるほか、超高真空を必要としないために装置の大型化が容易である為、大量生産用の結晶成長装置としてLEDや半導体レーザを初めとした光デバイスの商用製品の作製に多く用いられている。
[編集] 原理
MOCVDは化合物半導体の作製において、III族元素In(インジウム)の原料としてTMIn (tri-methyl-indium) や、Ga(ガリウム)の原料としてTMGa (tri-methyl-gallium)、Al(アルミニウム)の原料としてTMAl (tri-methyl-aluminum) 等の有機金属原料を用いる事から、有機金属気相成長法と呼ばれている。V族の原料ガスにはAs(砒素)の水素化合物であるAsH3(アルシン)や、P(燐)の水素化合物であるPH3(ホスフィン)など、毒性の極めて強い特殊高圧ガスを利用する為、安全設計は重要である。
有機金属原料は、常温では液体・固体であるが飽和蒸気圧が高い為に、H2やN2をキャリアガスとして用いて、結晶成長に十分な量の成長用原料をガスとして、安定した流量で成長基板に供給する事ができる。
原料ガスの混合により多元系の材料を形成する事が容易であり、III-V化合物半導体以外にも、II-VI族化合物半導体や、高温超伝導材料等といった幅広い材料系の作製が可能である。
混合された原料ガスが高温の状態になると分解、化学反応をおこし、基板の上に結晶情報を引き継いで成長する。原料ガスの流量比・温度などを変えることによって様々な物性を持つ半導体を作ることができる。