リン
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一般特性 | |||||||||||||
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名称, 記号, 番号 | リン, P, 15 | ||||||||||||
分類 | 非金属,半金属(黒リン) | ||||||||||||
族, 周期, ブロック | 15 (VB), 3 , p | ||||||||||||
密度, 硬度 | 1823 kg/m3, no data(白リン) 2340 kg/m3, no data(赤リン) 2670 kg/m3, no data(黒リン) |
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色 | 無色/赤/銀白色 |
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原子特性 | |||||||||||||
原子量 | 30.973762 amu | ||||||||||||
原子半径 (計測値) | 100 (98) pm | ||||||||||||
共有結合半径 | 106 pm | ||||||||||||
VDW半径 | 180 pm | ||||||||||||
電子配置 | [Ne]3s2 3p3 | ||||||||||||
電子殻 | 2, 8, 5 | ||||||||||||
酸化数(酸化物) | ±3, 5, 4(酸性酸化物) | ||||||||||||
結晶構造 | 単斜構造 | ||||||||||||
物理特性 | |||||||||||||
相 | 固体 | ||||||||||||
融点 | 317.3 K (44.1 ℃) | ||||||||||||
沸点 | 550 K (280 ℃) | ||||||||||||
モル体積 | 17.02 ×10-3 m3/mol | ||||||||||||
気化熱 | 12.129 kJ/mol | ||||||||||||
融解熱 | 0.657 kJ/mol | ||||||||||||
蒸気圧 | 20.8 Pa (294 K) | ||||||||||||
音の伝わる速さ | no data | ||||||||||||
その他 | |||||||||||||
クラーク数 | 0.08 % | ||||||||||||
電気陰性度 | 2.19(ポーリング) | ||||||||||||
比熱容量 | 769 J/(kg*K) | ||||||||||||
導電率 | 1.0 10-9/m Ω | ||||||||||||
熱伝導率 | 0.235 W/(m*K) | ||||||||||||
第1イオン化エネルギー | 1011.8 kJ/mol | ||||||||||||
第2イオン化エネルギー | 1907 kJ/mol | ||||||||||||
第3イオン化エネルギー | 2914.1 kJ/mol | ||||||||||||
第4イオン化エネルギー | 4963.6 kJ/mol | ||||||||||||
第5イオン化エネルギー | 6273.9 kJ/mol | ||||||||||||
(比較的)安定同位体 | |||||||||||||
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注記がない限り国際単位系使用及び標準状態下。 |
リン(燐、磷、Phosphorus)は、原子番号 15 の元素。元素記号は P。窒素族元素の1つ。白リン(黄リン)、赤リン、紫リン、黒リンなどの同素体が存在する。+III(例:P4O6、六酸化四リン)、+IV(例:P4O8、八酸化四リン)、+V(例:P4O10、十酸化四リン)などの酸化数をとる。
目次 |
[編集] 同素体
リンは数種類の同素体をもつことが古くから知られている。
白リン(P4)は比重が1.82、融点が44.1℃、沸点が280℃の常温、常圧で白色蝋状の固体である。湿った空気中で酸化され自然発火するため、水中で保存する。二硫化炭素 (CS2) によく溶ける。毒性が強く(猛毒)、にんにく臭がある。白リン以外の同素体は、ほぼ無毒である。リン鉱石から得た段階では、不純物のため黄リンである。
黒リンは比重が2.69の固体である。黄リンを約12000気圧で加圧し、約200℃で加熱すると得られる。安定である。空気中ではなかなか発火しない。
紫リンは比重が2.36の固体である。金属光沢をもち金属リンともよばれる。密閉して、黄リンに鉛を加え加熱することで得られる。
赤リン(Pn)は、紫リンを主成分とする白リンとの混合体で、融点590℃、発火点260℃の赤褐色の粉末である。二硫化炭素に不溶。マッチの材料に使われる。密閉した容器で黄リンを約250℃で加熱すると得られる。
紅リンは比重が1.88の深紅色の粉末である。微細な赤リンと考えられている。
黄リンは白リンの表面が赤リンの膜で覆われたものである。19世紀にマッチの材料として使用されたが、自然発火事故や健康被害により20世紀初頭に使用が禁止された。
[編集] 反応
[編集] 歴史
1669年にブラント(H.Brandt)が錬金術の実験中に発見。ギリシャ語で'光をはこぶもの'という意味の「phosphoros」から命名された。
[編集] 用途
生体内では、DNAやRNAのポリリン酸エステル鎖として存在するほか、ATPなど重要な働きを担う化合物中に存在している。そのため、あらゆる生物にとっての必須元素であり、農業においてはリン酸が、カリウム・窒素などとともに肥料の主要成分である。
用途としては、化学肥料の原料として使われるものが最も大きい。近年では、過リン酸石灰の生産が落ち込んでるために、従来の重過リン酸石灰の生産量は減少し、代わりにリン酸アンモニウム肥料がその重要性を増している。リン酸は金属の表面加工や工業用触媒に用いられるほか、食品添加物としてコーラなどにも少量添加されている。
代表的なリン酸の関連化合物の用途については、農薬や殺虫剤としての利用も多く、化学兵器として研究されるほど強力な毒性を持った製品も開発されたが、その多くは使用が中止されている。現在はリン酸エステル系の殺虫剤が主力になっている。
同じくリン酸化合物であるリン酸三ナトリウム水溶液は、強いアルカリ性を示すため、単独で金属の洗浄剤として使われるほか、次亜塩素酸と混合することで強力な洗剤となる。三リン酸五ナトリウムは洗剤として広く利用されていたが、排水に高濃度のリンが含まれるために微生物の異常な繁殖の原因を引き起こし、赤潮などの公害を引き起こすため、環境への配慮から日本国内での使用はほとんどなくなってきている。リン酸水素カルシウムは研磨剤として歯磨きなどに含まれ、フッ素を含む歯磨きには二リン酸カルシウムなど、口腔衛生にかかわる場面でもリン酸化合物が数多く配合されている。
そのほかにも、コーンフレークやベーキングパウダーや飼料にリン酸化合物が含まれるほか、ハムやチーズなどの製造の際にも使用されている。燃料の不凍液にリン酸化合物が加えられたり繊維製品の難燃加工にも利用されている。製紙工業では消泡剤として、核燃料の再処理では、ウラン・プルトニウム抽出の際の溶剤としてなど、さまざまな種類のリン酸化合物が開発されさまざまな場面で利用がある。 また、リンは生体内でも重要な構成要素であり、体内のエネルギー源であるATPや遺伝情報の要である、DNAやRNAの構成にも大きくかかわる。
[編集] リンの化合物
- 十酸化四リン (P4O10) 組成式P2O5より五酸化二リンとも呼ばれる
- 八酸化四リン (P4O8)
- 六酸化四リン (P4O6)
- リン化水素 (PH3)
- リン化カルシウム (Ca3P2)
- リン酸三ナトリウム (Na3PO4)
- リン酸 (H3PO4) 生体にとっても重要、核酸を構成する。>デオキシリボ核酸:DNA、リボ核酸:RNA
[編集] リンのオキソ酸
リンのオキソ酸は慣用名をもつ。次にそれらを挙げる。
オキソ酸の名称 | 化学式(酸化数) | オキソ酸塩の名称 | 備考 |
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亜リン酸 (Phosphrous acid) |
H3PO3 (+III) |
亜リン酸塩 ( - phosphorite) |
詳しくは亜リン酸、三酸化二リンを参照。 |
リン酸 (Phosphoric acid) |
H3PO4 (+IV) |
リン酸塩 ( - phosphorate) |
詳しくはリン酸、五酸化二リンを参照。 |
過リン酸 (- acid) |
H3PO5(+V) | 過リン酸塩 ( - ) |
※オキソ酸塩名称の'-'にはカチオン種の名称が入る